いざ、出陣!艶姿4人衆!!
その日、スペース・ダブル・タワー前で、ささやかな騒ぎが起こった。
始まりは入場ゲート前に停車した一台のリムジンだ。
観光客と家族連れが楽しむ場所に、思い切り場違いな車がまず人目を引いた。
最初にリムジンから降りたのは助手席に乗っていた白いスーツにサングラスの青年。
金色の髪をかき上げるさりげない仕草に女性の視線が集中し、同時に男性の嫉妬も集中する。
「それじゃ終わったら連絡するからネ」
「かしこまりました、ジン様」
運転する初老の男に礼を言ってから、ジンは後部座席のドアを開ける。
「さ、みんな。降りていいヨ」
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そんなありふれた風景の入場ゲート前から距離にして5千メートル。
ある高層ビルの屋上、数十本突き出した排気口の筒に隠れるように男が潜んでいた。
吹きさらしの場でビル風から避けるため、ではない。
2メートル近い銃身持つ巨大なライフル、いや小口径の大砲というべきか?
対戦車ライフルその名もギガンティックハートTTK-06という。
そんなごっつい大型重火器を人目から隠すためだ。
「チッ……モテそうなヤローだ。問答無用で顔面吹き飛ばしてやりたくなったぜ」
モテそうにない悪人面の男だった。
凶暴な人格を表現しているような顔つきで、手にしたアンパンを食いちぎる。
これは今朝受けたばかりの駆け込みの仕事で報酬も10倍だ。
注文は『提供した銃で4人殺せ』だけ。
依頼とともに届いた銃にも驚いたが、そんな代物で人間を撃てというのに耳を疑った、
なにしろ一発で戦車の装甲を紙のように貫き、機関部を完全破壊し、衝撃で乗員を全員殺傷するための銃なのだ。
「それにしてもこんなモンで撃たれりゃまわりの人間まであの世行きだぜ?それを『巻き添えがいくら出ても構わない』だと?イカレた依頼人だぜ」
そんな依頼を受けて実行しようとしている自分は、まともな神経のつもりなのだろうか。
ともかくライフル、いや破壊兵器をビル掃除の道具と偽って搬入するところまでは成功した。
どんな標的がくるのかとこの屋上で待っているうちに、ターゲットの到着を告げられた。
スコープで確認できた最初の一人が金髪の優男だったわけだが、ここで二人目が出でてきた。
「なんだぁ?今度はお子様じゃねぇか!」
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「ほほぅ、これがスペース・ダブル・タワーとやらか?なかなかの立派ではないか」
などという偉そうなセリフとともにリムジンから降り立ったのは少年、しかしその出で立ちは……不気味な紋章を胸に浮かべたシャツに『滅』の一文字を背負う黒い革ジャン。
悪魔を思わせるハードロックなメイクで邪悪に笑い、銀色の鎖を鳴らしながら入場ゲートへ向かう。
「ククク、我が覇業の第一歩としては攻略し甲斐があるというもの……」
厨二病発症中のセリフに、周りの大人共が思わず一歩引く……だが女性受けはいいらしい。
「ねえねえ、あのコ意外とイケてない?」
「カワイイっていうか悪カワイイ?」
「うんあと五年したら……」
「何言ってんの。今よ、今が食べ頃よ!」
一部、リアルタイムで毒牙にかけようってのもいるらしいのが心配だが。
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「なんかアブなそうなガキだぜ。将来が心配だ……おっと三人目、が……?!」
3番目に降りった人物を見た見物人たちの目が、子供たちを除いて点になった。
その人物は服を着ていなかった……といえば誤解されるだろう。
彼女が着ている物が服ではなく着ぐるみだった。
「あ、ゴズラだ!」「あのおねーちゃん、ゴズラだよ!」「かっこいー!!」
「うふふふ、やっぱりわかる人にはわかるんですね、ゴズラ様の良さが……」
日本特撮の伝統、ゴズラ様着ぐるみ姿で上機嫌のルキィはゲート前に立った。
喉のあたりにルキィの顔が出ている以外は、リメイク版第一作完全再現のゴズラ様だった。
彼女が一歩踏み出すと、取り囲む群衆は一歩退いて道を開けた。
喜んだ子供たちが競って近づこうとするのだが、お父さんお母さんが必死に押しとどめる。
それでも何人かは親の手をかいくぐってルキィのまわりに群がってきた。
「皆さん、安心してください。今回はタワーを真っ二つにしたりしない予定ですから」
リメイク版第一作ではゴズラの超プラズマ光線でこのタワーはへし折られ粉砕された……
それを意識してかルキィゴズラの背びれが光り、尻尾から、作り物の頭に向かって稲妻が走る。
迫力の再現率に子供たちはもう夢中だ。
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「?!俺のターゲットどもは一体何者……つーか何なんだ?」
狙撃手が頭を抱えているうちに最後の一人が降り立った。
その姿を見て狙撃手はもう言葉も出なかった。
「おおーっ?」
最後の一人は観衆のどよめきで迎えられた。
別に派手な衣装や奇異な姿をしていたわけではない。
ここまでのメンバーに比べれば地味でまともな格好だった。
白いヘッドドレスも艶やかな、ごく普通の長い黒髪をたなびかせるメイドさんだ。
……メイドさんという時点で十分派手で奇異かもしれないが。
「……」(ううっ、恥ずかしいよぉ)
弾太郎はうつむいたまま顔を上げることもできず、ただ黙って歩き続けた。
男の子らしい装いを用意した、その言葉に騙された。
伝説のデザイナー福 櫂緒はいった。
『儂はいっておいたぞ。男の娘らしい装いを用意した、とな』
(信じた僕が馬鹿だった。腐ってたんだ。ジンの知り合いがまともなはずなかったんだ)
……いや、それは顔を見た時からわかってたでしょ?弾太郎君。
とにかく周囲の視線が痛い。
食い入るような男たちの視線、称賛するような女性たちの視線、憧れ慕う子供たちの視線。
敵意悪意を向ける者は一人もいない、なのだが。
「あの……そんなに見ないで。恥ずかしいから……」
彼女?の言葉に全員がハッとして赤面し、慌てて顔をあらぬ方向へ向ける。
その中を恥じらい、うつむきながらメイド姿の弾太郎が静かに歩む。
先ほどまでは次々と現れる奇想天外な来訪者に驚き、ざわめいて群衆の目は、今やたった一人が独占していた。
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「最後の最後でサイコーの目の保養じゃねぇか、フヒヒヒ」
保養の相手が男だと知ったら、このスナイパーはどんな顔をするのだろう。
しかし彼が残酷な真実を知ることは永遠になかった。
背後から接近する人影に気づかなかったのは、スコープに集中しすぎたからではない。
気配は全くなかったからだ、足音も呼吸音もなく、敵意もなく殺意もなく。
気がついたのは頭の中を『コーン』という木槌でこめかみを叩く音が突き抜けたからだ。
「誰……いつ……どうやって……」
「坊ちゃんをイヤらしい目で見る奴にゃあ、教える義理はごぜぇやせん」
「坊ちゃ……?」
無敵のスナイパーはそこで気を失った。
それをゲン爺の目は暗い怒りと憎悪を帯びて蔑むように見下ろしている。
その横で触れてもいない超大型対戦車ライフルの銃身がガランと音を立てて外れて落ちた。
続いて部品すべてが分解し、恐らくは二度と使えることもないほどの無残な姿になった。
ゲン爺は使用不能になった対戦車ライフルをしばらく見つめ……
「こんなデッケェだけの屑鉄頼みじゃてぇしたコトぁ……ああ、しまったぁ!」
ゲン爺の顔色がサッと青くなった。
慌ててバラバラになったライフルのパーツをかき集めた。
「金目の物は防衛警察兵器部に売り飛ばして経費の足しにする予定じゃったつーのに!これじゃ売りモンには……」
防衛警察於茂鹿毛島派出所の予算は少ない。
多少の『アルバイト』でもしなければ、やりくりはとっても苦しいのだ。
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「狙撃もダメ、群衆に紛れ込ませた別動隊も全滅。いったい何者だ。あのジジイ?」
入場ゲートに入っていく弾太郎たちを人ごみの後ろから見つめる女が一人。
華やかな振袖にロンドンブーツ、マントを羽織り魔女のような大きな帽子。
何をどう勘違いしたのかわからないようなファッションセンスだが……
幸か不幸か弾太郎たちのインパクトが大きすぎて、誰にも気づいてもらえなかった。
「まあ、いいわ。私一人で十分。最強の宇宙くのいち、パルタ様がいればね。ククククク」




