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驚愕のお色直し!

その店の前で弾太郎はあんぐりと口を開けっぱなしになった。

荘厳な大門をくぐった左右に色ガラスのライオンのオブジェ。

巨大な木製ドアに彫られたコウノトリの紋章はあまりに有名。

左右に目を向ければ右の交差点から左の信号機までの一区画まるごとが店の敷地になっている。


「……ねぇ、ジン」

「ん?弾太郎、どうしたんだイ」

「お前さ、『着替え買うから、てきとーな洋服店に寄る』っていってなかったか?」

「ああ、ここは知り合いのばーちゃんが昔からやってるブティックなんだヨ」

「ここってあの有名ブランドじゃないのか」

「まあ、それなりに名が売れてるみたいだけどネ」


そもそもブティックという言葉自体が間違っている。

大看板『CO-FUKU』は地球上では知らぬ者なき世界的な超有名服飾ブランドだ。

弾太郎はウィンドウの中のマネキンが着るセーターやスーツをチラリと見た。

値札はついていない、というか値札がついた服が一着もない。

もちろん無料で服をくれるわけではない。

値札の金額を気にするような客は最初からこの店に来ないのだ。


「さ、早く入ろうゼ。弾太郎」

「そんなこといったって……」


普段は島の雑貨屋のおばちゃんに『適当にズボン発注しといて』で済ませてきた弾太郎にとって、取説なしで異世界にいきなり召喚されたような気分だった。

後ろについてきているルキィとルパルス王子も、かなり面食らっているようだ。


「なんかモノすっごく高そうなお店ですけど……?」

「ええと、目立たない服を買んでしたよね……ここじゃ無理な気がしますけど」


一般常識の怪しい二人でさえ、疑問を抱くような立派過ぎる店構えだ。

それなのに連れてきた当の本人は気にもかけていない。


「さあさあ、こんなトコで突っ立ってると商売の邪魔になるからネ」

「ああ、ちょっと、ちょっとぉ?」


ためらう弾太郎の背中を押して、ジンは強引に店の中へと押し込んだ。

置いてきぼりになりそうになったルキィとルパルスも慌てて入店した。

扉をくぐった瞬間に眩しさに目がくらんだ。


「うわっ…………」

「ひゃっ、眩し…………」


弾太郎とルキィは思わず目を覆った。

明るすぎる、というより日頃の生活レベルとの乖離のせいで、目が拒否反応を起こしたようだ。

足の下には真っ赤なカーペット。

床と壁は磨き上げられた本物の大理石。

頭上のシャンデリアは輝く銀河の星々の如く。

そしてカーペットの両脇に整然と並ぶ従業員たち!

まるで国賓の出迎えのようだ……一応ひとりだけ確かに国賓もいるのだが。


「うん、なかなかいい感じのお店ですね」

「でしょう?女の子を連れてくると喜んでくれるんですヨ」


場違いな世界に目を回している弾太郎と違って、ジンとルパルス王子は実に自然に受け入れている。

そんな他愛ない会話をしている間に、最奥にいた女性が微笑みながら近づいてきた。


「お久しぶりでございます、ジン様」

「やあ、久しぶり。店長」

「久しぶり?2日前に女性同伴でお会いしたばかりでは?」

「ハハハ、個人情報漏洩は勘弁してよ。それより電話で頼んだとおり」

「目立たない服を適当に見繕って、でございましたね。承知、といいたいところなのですが」


ここで店長は言い淀んだ。

少し困っているような感じだ。


「どうかしたのかい?何か問題でも」

「いえ、お電話を受けた後すぐに……オーナーが」

「え、オーナーって……櫂緒(かいお)ばーちゃんがどうかしたのかい」

「はあ、『ジン様の注文はすべて(ワシ)が受ける!』と言い出しまして」

「って、ばーちゃん、日本に来てるの?」

「ええ、昨晩ニューヨークから。あ……降りてこれらるようです」


店の一番奥、巨大な円柱を模したエレベーターが動いていた、最上階から一階へ。

リィン……到着を告げるベルの音色も涼やかに、扉が左右に開く。

中から現れたのは老婆、車椅子に腰かけたかなり高齢と思われる女性だった。

小柄な体格に小さな丸眼鏡をかけた顔、その顔を覆いつくす皺はまるで数千年を生き抜いた老木の木肌のよう。


カタカタカタ、と誰も押していない車椅子の車輪が回ってジンの前まで進んできた。

旧式の車椅子に見えて実際は最新型のAI&動力搭載だったらしい。

車椅子が停まると老婆はヒョコッと降りて、ジンの正面に立って顔を見上げた。

店長以下全員が畏怖の目で老婆を見つめる中、ジンは嬉しそうに挨拶をしようとした。


「久しぶりだネ、櫂緒ばーちゃ……」

ペシッ。

「ア痛ァッ?」


額を抑えてジンはしゃがみこんだ。

お辞儀した瞬間に額にデコピンをくらったのだ。


「なぁにが『久しぶり』じゃ、この放蕩軽薄小僧がッ!」

「ばー、ばちゃん!」

「ったく儂の店をナンパの小道具がわりにしおって!」

「ちょ、ちょっと!!は、恥ずかしいよヨ、皆が見てル!」


そう簡単には勘弁してもらえず、デコピン連打を食らい続ける!

色男の涙声の訴えが聞き届けられたのは、30連デコピンコンボを食らった後だった。


「……しょ、紹介が遅れたネ、子供のころから世話になってる洋服屋さんで、ファッションデザイナーの福 櫂緒ばーちゃん……」

「こ、このお婆さんが?謎の超有名デザイナーの『FUKU』さんなの?」


さすがに地球外生物のルパルスとルキィはチンプンカンプンらしいが、弾太郎だけは面白いくらい大袈裟に反応している。

その反応が気に入ったらしく老婆、いやデザイナー・FUKUは口元に笑みを浮かべている。


「いや、そんな大層なものじゃないサ。福 櫂緒(ふく かいお)、御年146歳のただのおばーちゃん……」

パシッ。

「このアホウが、ドサクサに女性の年齢をバラすでないわ!」


再度のデコピンでジンを沈黙させる。


「ひゃくよんじゅう……???ギネス超えてるよ!!!」

「あーでも、私んちの近所にいましたよ。推定2万歳の銀色の銀パト刑事さんが」

「そうですよ、146歳ならまだまだ若いじゃないですか……地球外では」


地球人と想定?して驚いている弾太郎と、最初から人間扱いしないで受け入れちゃってるルキィ&ルパルス。

どちらが失礼なのかは判定しがたい。

とにかく老デザイナーを怒らせたようで、顔色が変わり額に血管をピクッと浮かばせている。

そばで見ている店長もどうしたらいいかわからず、おろおろしているなかで:。


「と、とにかくね。ファッション界の歴史そのものっていう……イデッ?そんなに怒んないデ」

「一番怒らせとるのは貴様じゃ!」


またまたデコピンでジンを黙らせて、襟をつかんで引き起こす。


「まったく、なんという格好じゃ?」

「あ、これ?パイロットスーツ……イダダダッ?」

「こんな不細工な格好で街中を歩いてきたじゃと?センスの欠片もないのか、お前は!」

パシパシパシパシパシッ。


デコピン絨毯爆撃に、ついに額を押さえて動かなくなったジン。

見ている店長以下従業員全員、蒼白となってブルブルと震えている。

しかし福 櫂緒はまったく気にもかけず今度はルパルス王子に向き合う。


「ふむ……貴様の着ておるシャツは相当なレアものじゃな」

「ほう、わかりますか?これは全宇宙に一着しかない……」

「馬鹿者!」


一喝された!

硬直したルパルスにさらに福 櫂緒はたたみかける!


「レアものシャツに頼るばかりの形ばかりの中身のないファッションじゃ!」

「な、中身がない?!私が……」

「うわべばかり飾り立てるようなコーディネイトは問題外じゃ!」

「そ、そんな……」


膝をつくルパルスに背を向ける福 櫂緒、そして今度はルキィと向き合う。


「次はお前さんじゃが……」

「ふっ、私の完璧なるゴズラ様コーディに弱点は……」

「弱点だらけじゃ、この大ボケ娘!」

「ヒ、ヒェッ?」


自信満々のファッションをあっさり否定され、ひるんだところに容赦ない追撃!


「ゴズラの強烈インパクト頼みに数頼みじゃと?そのような幼稚な芸をよくもこの儂の前に出せたものじゃ!」

「で、でも、ゴズラ様の威光をもってすれば……」

「素材を台無しにされて背中のゴズラ様が泣いておるわい。まったく……おぬしも頭の中が空っぽか?」

「か、空っぽ???私の頭の中が……そんなことないですよね……」


すがるような目でジンを、ルパルスを、そして弾太郎を見るルキィ。

だが、みんなの反応は?

何も答えず顔を背けるジン。

どうしていいかわからなくてオロオロするルパルス。

そして弾太郎は?悲しそうな目で黙ってルキィを見つめていた。

そしてルキィはその場にへたり込んだ。


「最後に……一番問題なのはお前さんじゃ」

「え、僕ですか?い、いえ、それはわかってるんですが……」


最後の処刑は弾太郎だ。

なにしろパジャマにサンダルというラフすぎるいでたち。

しかもパジャマの胸には鼻血でできた大量の血痕が花を咲かせている。


「このような、はしたない姿で街中を歩き回るとは大した勇者じゃな、お前は?」

「これはですね、ジンたちに寝ているところを無理矢理」

「しかも胸に血の跡じゃと?猟奇推理小説の第一被害者のつもりかの?」

「こ、これも不可抗力というか、なんというか」


幸いにもそれ以上の追い打ちはなかった。

たぶん呆れすぎて、さすがの福 櫂緒も言葉がなかったのだろう。

弾太郎にも背を向けて今度は店長に向かって歩き出す。


「店長、副店長、フロアマネージャ、ちょっと」

「は、はい」「なんでしょう?」「私たちにもなにか……」

「利き腕をお出し……ほほほ、女子(おなご)のようなキレイな手じゃの」

「そりゃ、私たち女ですから……?」

「そう、重ねて……」

三人の右手を重ねた瞬間、福 櫂緒が手刀を振り上げた!

ビュッ!とその手が振り下ろされ……!


「……ッッッ!」「――ッッッ!」「~~ッッッ!」


声を上げることもできず三人は自分の手を押さえて床の上をのたうち回った!

あ、手首を切り落とされたとかの残酷描写はありませんから、ご安心を。

三人とも手の甲を思い切りつねられたのだ。


罰則(ペナルティ)じゃ、ジン坊やのファッションセンスがワヤワヤになったのは本店幹部の貴様らにある!」


そういって福 櫂緒はパチンと指を鳴らした。

すると背後の扉が開き、剣呑な空気を纏う二人の女が現れた!

一人は白い作業着姿の中年女性、手をズボンのポケットに突っこんだままだ。

不機嫌な表情で視線を合わそうともしない。

もう一人は2メートル近い大柄な体格、褐色の肌と広い肩幅。

袖を引きちぎったワイルドなジャケット姿だ。

……念のためもう一度いっとくが、二人とも女性ですから。

福 櫂緒は不機嫌そうな中年女性を指して言葉を続ける。


「友人の龍書 文子(たつがき ふみこ)さんと」


続いて褐色の筋肉女を紹介する。


「儂が120歳の時の娘、福 春麗じゃ……」

「120歳で子供生んだんですか?!」

「…………一夜、限りの恋じゃったわい、ふっふっふ」


弾太郎の驚愕ツッコミに福 櫂緒はポッと頬を赤らめ小さな声でポソッと答えた。

146歳の恥じらい、というのも超ギネス級だ!

しかし、このふざけた展開にもめげずにジンは弾太郎に容赦ないツッコミを要求してきた。

まずは不気味な不機嫌おばさん、龍書 文子さんのそばに立ち……


「『強靭』龍書 文子と『今日中』福 春麗、ですカ」

「凶人?狂獣!なんなの、その異名?ホントにここ服飾関係のお店なの?!」

「『強靭』龍書 文子。その裁縫の腕を暗黒街の強者たちに見込まれ、裏社会の仕立て屋として活躍すること30年……」

「あの……この人、仕立て屋さんなんだよね?」

「銃弾飛び交う激しい抗争の中でも仕立てた服が破れた事は一度もなく、つまり30年間不破!」

「それって服なの?鎧かパワードスーツじゃないの?」

「その自由な発想を縛り付けることは不可能、人呼んで『不可拘束(アンチェイン)』!」

「それってもう……ファッションデザイナーの異名じゃないよね?!」


悲鳴のような弾太郎のツッコミに満足したのか、ジンはもう一人、褐色肌のワイルド姉ちゃんこと、福 春麗の紹介にうつる!


「そして『今日中』福 春麗……圧倒的なパワーと疾風のごとき速さで縫い上げる!」

「え?ええと……どう聞いても格闘技の大会の解説にしか」

「あまりの仕立ての速さに、どんなオーダーも今日のうちに納品する!名付けて『今日中』春麗……」

「あれ、あの人、褒められてるのに浮かない顔だね?」

「ああ、彼ね。最近縫製勝負で若手に負けちゃったみたいでね。なんでも17歳の新人と侮って2秒で負けたって」

「2秒で服を縫い上げたって?もう裁縫じゃないだろ!どんな魔法だよ……」


快調にツッコミ漫才を続けるジン&弾太郎だったが、ルキィとルパルスはもうついていけなかった。


「なななな、なにがどうなってるんだか私、わかんないです?」

「うう、地球人の感性は難しすぎる……」


安心しろ、ルキィ!ルパルス!地球人にもこのネタは難しすぎるんだ。

だがしかし!地球人外?の福 櫂緒はこの状況を楽しんでいるかのようだ。


「フォッフォッフォッ、流石はジン様のご学友……キレのあるツッコミじゃ」

「あの、オーナーそろそろ……仕事に」

「おお、そうじゃった。用意はできておるから全員こっちへ」


老婆の手招きで隣室へ向かう一同、なんだか冥府へ導かれるように見えなくもない……

おや、弾太郎だけがついていくのを躊躇っているぞ?


「弾太郎とやら、何をしとる?いつまでもそんな恰好でいるわけにいくまい」

「あの、着替える前にいっておきたいんですけど……僕はこう見えても、その」

「あー、わかっとる!おとこのこらしい着替えをちゃんと用意しておる」

「え、男の子らしい?わかるんですか!よかった、よく女の子に間違えられ……」

「うむ、まかせておけィ…………やれ!」


ガシッと両腕を掴まれた。

左右を見ると、龍書 文子さんと福 春麗さんが弾太郎の腕をしっかりと捕まえていた。

反射的に振り払おうとしたが、二人ともものすごい握力で指一本外せない。

危険を感じて逃れようともがく弾太郎だったが、二人とも無関心に前だけを見つめている。


「あ、あの、僕自分で行けます……から」

「絶対に逃がすでないぞ」

パチン。

「うわ?うわわっ!」


指を弾く音を合図に弾太郎は開いた扉の奥へと運び込まれていった。

扉がバタンと閉じられた。

直後にかすかに悲鳴が聞こえたような気がしたが、もうツッコミをする者は誰もいなかった。


「ところでジン様よ」

「なに?ばーちゃん」

「外に残られた御仁は着替えはいらんのかの?」

「ああ、彼?……彼なら自分のファッション流儀にこだわりがあるようで」


★☆★☆★☆★☆★


「はぁ、はぁ、はぁ……な、なにが……」


息を乱しながら走る男がいた。

背広にネクタイ、メガネをかけたサラリーマンらしき男だが、追い詰められた恐怖と焦りで凶暴な本性を露呈した顔はまともな一般市民なはずはない。


「い、一体全体どうなってやがる?」


彼はあるマフィアの一員でちょっとした依頼を受けていた。

10名ばかりの仲間と、ある店に爆弾を仕掛ける、簡単な割に報酬のいい仕事だった。

警察に見つかることなく配置につき、仲間と連絡を取ろうとした。

返答を返した者は一人もおらず、危険を感じて持ち場を離れた瞬間、耳元を音もなく何かがかすめた。

慌てて逃げ出したが見えない気配が追ってくる。

必死に逃げても確実に気配は追いかけてきた。


「誰が?どこから……」

ガツン。


後ろばかり気を取られているうちに男は電柱にぶつかってしまった。


「いててて……なんで歩道の真ん中に電柱が?」


男はギョッとした。ぶつかった電柱に人の顔が浮かび上がっていた。

皺だらけの小柄な老人の顔だ。

よく見れば木槌を握る腕とすね毛だらけの両足も突き出している。


「なん、てめぇは……」

スッコォーン。


小気味の良い音がこめかみから頭蓋の中を突き抜けた。

男は白目をむいて路上に崩れた。


「いっちょあがり、っと……最近の荒事師ってのは質が落ちやしたねぇ」


木槌片手の電信柱怪人、ゲン爺は煙管を取り出し一服しようとして……歩き煙草禁止なのを思い出して舌打ちした。


「最近は一服もできやしねぇ。おまけに一人は取り逃がしちまうし……」


そして飄々と歩き去る電信柱怪人を、道行く人々は妖怪でも見るような目で見送るのだった。


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