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幕間劇 それぞれの事情

『ゲン爺&海人』

大波小波駅のそばにある某有名ファーストフード前にちょっとした異変があった。

いつもは『ふとっちょおじさん』の愛称で親しまれているチキンボックスを抱えた創業者の人形が、お客様を暖かく出迎えてくれるのだが。

それが2体に増えているのだ。

しかもその増えた方が問題で、なぜか小柄な爺さんのあまり似てない仮装だったりする。

道行く人がジロジロ見ていくと思いきや、関わりたくないのか視線を逸らせて足早に通り過ぎていく。

そんな怪人物がスマホ片手に喋り出しても、もはや驚く奴はいない。


「えー、本部どーぞ。海人様、聞こえやすか?」

『おお、ゲンさん!連絡が途絶えとったが……大丈夫だったのか?』


於茂鹿毛島の海人からの心配そうな声。

というのもテレビのニュースで怪獣騒ぎを知ったからなのだが。


「はい、追手もなんとか振り切りやした」

『追手?ルキィちゃんにボコられた奴以外も別口がいたのか?』


ゲン爺は答えるのをちょっとためらった。

駅の警備員に追い回されていました、というのは情けない。


「いや、それは……あ、さっきの怪獣ですが、ジャンゴとかいう2流の殺し屋で」

『知り合いか?』

「ええ、アイツの師匠と昔……っと、それどころじゃねぇや」


……店先でこんな物騒な通話している時点で、それどころじゃないのだが。


『どうしたのだ?』

「あの二級品以外にも闇組織の連中が大勢いらっしゃるようで」

『ふむ、入星を手引きした奴がいるようだな……尾行を続けろ』

「合点承知!」

『くれぐれも弾太郎に気づかれんようにな……』

「そこはお任せ……」

『ん、どうした?ゲンさん』


「ちょっとすみませんが……署まで来ていただけませんか」


ゲン爺の前に警官が立っていた、それも5人も。

そして背後の店から店員の声。


「そいつです!お巡りさん、店の周りをウロウロしている不審者です!」

「なっ?違う、わしゃ不審者じゃ……」


看板人形の仮装をして、スマホでどこかと物騒な会話している老人。

これで不審者でなければ変質者か、禁止用語で表現される人物だろう。

そこに駅の警備員までやってきて……


「あ、あんなとこに!」「見つけたぞ、不審者め!」「逃がさんぞ!」

『ゲンさん?おい、どうなってる?』

「うぬぬぬ!坊ちゃんをお守りするためにも、捕まるわけにゃあいかん!」


そして高速疾走する『ふとっちょおじさん』VS警官5名+警備員3名の壮絶な追跡劇が始まった。


☆★☆★☆★☆★☆

『ジン&砂川長官』


ピョロロローン♪


メールの着信音が大波小波駅の男子トイレの個室に響いた。


「もしもしー?長官ですか?」

『長官室だぞ、電話に出るのはワシに決まっとるだろうが。それより若造、なんでまだ駅にいる?』


トイレの個室にて金髪の美青年はすっとぼけた声でスマホで電話をかけていた。

電話の先は防衛警察極東支部の長官室、防衛警察幹部も知らない極秘直通回線だ。


ポロロン、ポロロン♪

「ええ、実は電車一本乗り遅れちゃいまして」

『ほー?いつ暗殺者が襲ってくるかもわからんのに余裕だな』


長官の厳しい皮肉、と思いきやどこか面白がっている口調だ。

思惑通りに展開が進んでいることを楽しんでいるようにも見える。


チャリラリラーン♪

「尾行してきた連中なら一本速い電車に乗って行ってしまいましたよ」

『……原因は弾太郎か?』


これは質問ではなく、事実の確認だ。


パッパラパーン♪

「電車には乗ったんですが。たまたま野菜売りのおばちゃんが転んでいるのが見えてね。弾太郎が助けに行ったもんで我々もつられて降りたら、途端に発車しちゃって」

『ほうほう?そいつぁ追跡者ども、慌てたろうな……』


リィン、リィーン♪

「ええ。びっくりして全員が閉まったドアに貼りついてましたね。あ、全員分の顔写真送っときました」

『次の駅に着くまでにこっちで始末しておく。他には?』


カァーン、カァーン♪

「駅に残ってた連中はゲンさんが逃げ回りながら当身くわらわせ気絶させてました」

『ふっふっふっ、流石はゲンさんだな。では予定通り観光、じゃなくて視察を続けさせろ』


ピィーピピピ♪

「了解しました」

『ところでさっきから着信音が聞こえるがお前のスマホか?』


ゴォーン、ゴォォォン♪

「あ、すいません。勤務時間中はメールしないよう、彼女たちにはいっておきますので」

『ほどほどにしとけよ』


通話は切られた。

だからこの後の長官の独り言はジンの耳には届いていない。


「全部、違う着信音だったな。くそ、俺も一度くらいは……」


☆★☆★☆★☆★☆

『海人&国王陛下』


「大丈夫かな、ゲンさん……ま、気にしても仕方ないか」


社務所のパソコンを前に海人はため息をついた。

キーボードにパスワードを打ち込むと、社務所の壁が白く光りはじめる。


「10年ぶりだが繋がったようだな。おい!聞いてるんだろ、ルントゥス?」

『おー、カイトゥスかよ?久しぶりじゃねぇか!』


声と同時に壁に映る白い怪鳥の姿。

食事中だったのか、マンガに出てきそうな骨付き肉にかぶりついている。


「なぁにが『久しぶり』だ、また俺んトコに騒動を持ち込んできやがって!」

『ははは、すまん、すまん。他に頼れるとこがなくてなぁ』

「嘘つけ!王様やってんだから軍隊でも警察でも好きなだけ動員できるだろうが!」

『ナハハハ、んなカタいこというなって!』


大口開けて笑う怪鳥の額には金の宝冠、首にはたすきに似た宝石の帯を掛けている。

ルパルス王子の父、国王ルントゥス……なのだが、海人と会話する様は近所のオヤジという感じで、微塵の威厳も感じられない。


「それでだ、やらかしてる相手は誰だ?」

『お前も知っとるだろ?マイデス王家のお姫様のことは』


ここで海人は少し考えた。

マイデスという名に記憶はある。

辺境惑星国家のひとつだが、ここ数年で勢力を伸ばしてきている。

確かそこに適齢期を迎え……少し過ぎた姫君が二人いたはずだ。


「あー、あの売れ残り姫姉妹のことか。それがなんでお前の息子の命を狙う?」

『いや、向うの王家とは話ついとるんだがな。姫の取り巻き連と揉めちまって』

「だから、なんでそんなことに……」

『それがなー、売れ残り姫の姉の方とこっちの第5王子との縁談進めとったのだが』

「ふむふむ?」


政略結婚は銀河文明内でも常套手段だ。

現にルントゥス王自身も10人以上の妃がいるが全員が政略結婚だ。

それがこじれたということだろうか。


『なぜか売れ残り姫の姉とこっちの第17皇子、つまりルパルスの方とまとまっちまってな』

「おい……売れ残り姫姉って30歳過ぎてるよな?」

『そいつは違うぞ、今年で29歳だ』

「でルパルス坊やは?」

『ああ、12歳だが……なにか変だったか?』


まあ、年の差婚も王族の結婚では珍しくない。

親子、どころか孫と祖父くらいの年の差で嫁いだ実例など腐るほどある。

そもそもこのルントゥス王だって最初に結婚したのは13歳だったはずだ。

王位継承権を得るための形式だけの結婚ではあったが。


「…………まあいい。それでどうしてこっちに、とばっちりが来るんだ?」

『それがなー、この縁組が気に食わないって連中がなぁ。ブーたれてるだけなら大目に見たんだが』


そこでルントゥス王は言葉を濁した。

その先はいうまでもないことだった。


「その不満分子の中に裏の組織とつながってる奴がいた、か?」

『そうそう、そーなんだ!とにかく落ち着くまでルパルスをどこかに避難させようと……』


瞬間、海人のこめかみ青筋が浮かんだ。

その程度のことで音を上げて、泣きついてくるような王様でないことを海人は知っていた。


「アホ、騙されるか!将来、邪魔になる連中をこっちに片付けさせるつもりだろうが!」

『あ、バレてた?でもな、主要な目標はこちらで潰す予定だから勘弁してくれよー』


海人の怒りは治まらなかったが、まだ幼いルパルス王子を見捨てる気にもなれないのか、感情的な語気を改めた。


「まあ、いいだろう。送り込まれた刺客は二級品もいいとこだしな。ただし、だ」

『ただし?』

「もし弾太郎に万が一のことがあれば……お前も含めて全員、宇宙から消滅させる」


落ち着いた、笑みすら浮かべての言葉だった。

それだけに本気度は一国の王にも伝わったようだ。


『…………よくわかってるよ、肝に銘じておく』


そして通信は終了した。


☆★☆★☆★☆★☆

『弾太郎君の悪戦苦闘』


「あ、ようやく電車がきたよ。ゴメン、みんな。僕のせいで乗り遅れ……」


振り返ると、誰もいなくなってた。

慌ててあたりを見回すと……いた。

売店の前にルパルス王子が。


「あっ、ルパルス君!売店のお菓子とジュース、全部買い占めるのやめてください!」


そしてルパルスの隣にいたルキィに。


「ルキィさん、駅弁全種類制覇はこの次にして!電車にまた乗り遅れるから!」


さらに売店の向うのジンに。


「ジンんんんっ!!修学旅行生をナンパするのはやめろ!いろいろ叩かれるから!」


そして目の端でチラッと……清掃員の恰好で様子を伺いながら、電車に乗るタイミングを計っているゲン爺の姿を確認する。


「はぁ、もう疲れたよ……」


全てのしわ寄せを一身に受け、懸命に運命に抗う弾太郎君の健気な姿が、今日もそこにあった。

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