サヨナラ千海千山鉄道九番線-大波小波終着駅―
「邪魔をする気か、小娘……」
「そっちが公務執行妨害じゃないですか!」
にらみ合う怪獣2体。
かたや身を低く構えたずんぐりむっくりの赤い巨獣(ルキィ巡査)。
かたや12両編成列車に擬した異形の怪獣(仮称ニセテツライナー)。
列車怪獣ニセテツライナーは光線砲やミサイルでヤマアラシかハリネズミ並み?というぐらいにフル装備し、ルキィを狙っている。
否、ルキィの背後の大波小波駅を狙っている。
それを察したのか、ルキィが間に割り込んで駅と人々を守っている形だ。
線路を外れて回りこもうとしてもルキィもそれにあわせてくる。
(チッ……この小娘、王子に近づけないつもりか)
「そこをどけ。お前には用はない。用があるのは後ろの」
「そんなに…………そんなに記念写真を撮りたいんですか!」
「……おい、なんの話だ?」
ニセテツライナーは首を傾げたのだが、姿が特撮ヒーローもの列車なもので意外とかわいい動作になってしまう。
こんな具合に意味な会話をしながら、気づかれぬように少しずつ間合いを詰めようとしているのだが。
……なんだか会話が噛み合っていない。
(とにかく、あと少し近づければ)
愚かにも王子の一団はまだホームから動いていない。
だが現地警察がやってくば暗殺は難しい。
チャンスはこのわずかな時間しかない。
この時、王子一行がグズグズしていたのには事情があった。
王子とジンは弾太郎を担いで線路から、なんとかホームへ上がったところだった。
「まずい、早く我々も避難しなきゃ」
「待って、まず弾太郎さんを安全なところに!」
鼻血を噴いて貧血起こして倒れた弾太郎を回収するのに手間取っていたのだ。
対峙する怪獣2体までの距離はかなりあるが、敵が直線コースに入れば数秒のうちに駅舎ごと破壊される。
自分たちも避難を急がねば、駅を庇っているルキィも自由に戦えない。
「だ、ダメだ……」
「お、弾太郎さん?気がつきましたか?」
ジンの背中で弾太郎が薄目を開けていた。
意識は混濁しているようだが、心配はなさそうだ。
「弾太郎少し我慢してくレ。今……」
「ジン、避難する……な。マズイことに……なる」
その言葉にジンは足を止めた。
ルパルス王子も何故か反論せず、その場で止まり弾太郎を下ろしてベンチに座らせた。
「避難してはいけない、と?弾太郎さん」
「僕たちを……見失えば、奴は広範囲の攻撃で僕たちを……いぶりだそうとするだろう……」
「そうなれば数千人の死者が出る、ということカ……」
この大波小波駅に王子が留まれば、攻撃されるのはこの駅舎だけですむ。
この時点で王子はすでにチェックメイトの状態に追い込まれていたのだ。
他の手段としては王子が擬態を解き怪獣態となって空を飛んで逃げる、くらいだが。
「……飛び立つ瞬間を……狙い撃ちされる……」
「打つ手なし……ですか」
後は救援が間に合うのを祈るだけだが、それまで敵が待ってくれるはずがない。
「心配……ない。ルキィさんが……勝つから」
「ワォ……」「オオッ……」
混濁した意識の中で相棒の勝利を確信する言葉に、ジンとルパルス王子は同時にため息をついた。
ただし、信頼されている相棒の方は?
「わかっているのですよ。あなたの目的は」
相変わらず頓珍漢なやり取りを続けている。
話が通じていないワケなのでニセテツライナーは困っているのだが、ルキィの方は大真面目なので始末が悪い。
「わかっているなら、そこをどけ……」
「そーはいきません!無理矢理割り込んで他の列車さんたちと記念写真を自撮りする気ですね」
「……?????だから、さっきから一体何の話を……」
「善良な鉄道愛好家さんたちのために!アナタのような自分勝手な迷惑行為は許しませんよ!」
ニセテツライナーは話せば話すほど、わけがわからなくなった。
先ほどのミサイル攻撃を躱した体術は只者ではなかった。
警官にしてはかなりの手練れと思った。
それゆえ無暗に突っ込むのを避け、会話を続けて隙を伺っているのだが。
(ひょっとしたらコイツ、少し……いや、かなりのアホ娘なのか?)
(これ以上はアホ娘に時間をかけておれん)
(現地警察が殺到するまで3分といったところか)
(逃走する時間を考えれば2分で王子を片付けなくては)
キュイキュイキュイイイイッ!!
いきなり車輪から火花が散った。
急発進&急加速でニセテツライナーはルキィの足元に突っ込んだ。
だが虚を突いたはずが、ルキィの動きがそれ以上に速い!
「甘いですッ!」
シュバッ!
振り下ろされた右腕が地面ごと先頭車両をすくいとる!
……と思ったのに、空振り?
ルキィの鋭い爪が触れる寸前、ニセテツライナーは急停止!
タイミングを外され、体勢を崩したルキィの右わきを弧を描いて通過した。
「ターゲット、ロック・オ……」
駅舎の中の王子一行に照準を合わせた、その時だった。
不意に日が陰った。
太陽に雲がかかった、というのではない。
「なんだ?」
考えるより先にハンドルを切っていた。
それが正解だった、一瞬遅れで何か硬く重い物が降ってきた。
ギャリッ!ドドン!
耳障りな音がしてニセテツライナーの外装の側面が削り取られた。
続けざまに地面が爆発したように弾ける。
辛くも逃れて距離を取ることができたニセテツライナーが見たのは。
「……外しましたか、やりますねー」
仰向けに横たわったままこちらを見据えるルキィの赤い瞳。
そして地面に撃ち込まれた左の裏拳と陥没した大地。
体勢を崩して転倒した、のではなかった。
崩れた姿勢を立て直すのではなく、自分から捻りを加えての半回転で加速。
そのまま、左腕を振り下ろして攻撃してきたのだ。
ニセテツライナーの背中が冷や汗で濡れた。
(危なかったせ、仕掛ける前にこっちが殺られるトコだ)
「……やっぱり素人じゃないな、お嬢ちゃん」
「はい、プロの警察官なのです!」
「いや、そうゆう意味じゃなくて……」
ここまででニセテツライナーはお喋りをやめた。
残り時間は2分を切っている。
まずルキィを倒さねば王子を暗殺することはできない。
「まさかこの技を使うとはな。行くぞ、列車殺法『環状戦』ッ!」
パォォォッ!
警笛を響かせて走りだしたニセテツライナー!
ルキィに向かっていく、と見せて進路変更!
グルグルとルキィを中心に円を描いて走り始めた。
「何のつもり・・・・・痛っ!」
バン!
先頭車両を追い続けているうちにルキィの背中で小さな爆発が起きた。
後続車両の一つの車窓から何かが投げ出されルキィの背中に命中したのだ。
おそらく手榴弾のような小型爆発物だろう。
「ちょちょっと!危な……熱っ!」
バシッ!
今度は右肩に熱線を受けた。
ダメージは大したことがないが、長い車両で円上を走りルキィの全方位を封じている。
「このぉッ、いい加減にいてください!」
腕を振り回して反撃しようとしているのだが、わずかに届かない距離にニセテツライナーは身を置いている。
空振りした瞬間を突いて爆弾が、熱線がルキィにヒットする。
「とにかく円陣の外側に出なきゃ……」
「そうはいかんな!」
ルキィは身をかがめた。
ありったけのジャンプ力で攻撃円陣を飛び越えて外へ。
だが、着地より速くニセテツライナーも軌道を変えて再び円陣に閉じ込める。
「ならば、これならどうですか?」
ルキィは近くにあったビルの傍まで再びジャンプ、ビルを背に背後を固めた。
だがニセテツライナーはなんとビルの壁面を走行、円陣を崩すことなく攻撃を続行してくる。
「甘いぞ、小娘!俺様が崖を登って追跡してきたのを忘れたか?」
「……その割には崖から落ちたり山にぶつかってましたよね?」
「あ、あれは!ちょっとよそ見してて……うるさい、これで終わりだ!」
全ての車窓の窓が開いて、爆弾と銃口がルキィに向けられた。
「弾太郎、マズイ!あれは避けきれないいゾ!」
「弾太郎さん、何とかしなきゃ!」
ルキィの窮地に焦るジンとルパルスだが、弾太郎にだって何とかできる算段はなかった。
なかったたけれど、焦ってもいなかった。
ようやく意識がはっきりしてきたのか、頭を振りながらルキィの様子をみている。
「ああ、ルキィさんなら大丈夫……だと思うよ」
あきれ顔の王子たちは気にも留めず、弾太郎はルキィとニセテツライナーを交互に見ていた。
この時、追いつめられていたのはルキィではなく、むしろニセテツライナーの方だった。
使えるのは小型の爆弾と小口径のレーザーだけ。
しかも弾薬もバッテリーも残り少ないのだ。
他の装備は海に転落、山に激突した時に大半が使用不能になってしまった。
(くそ、もう時間がない!あと1分、いや30秒?)
(最後の一撃だ、これで仕留めなければ)
(この頑丈な小娘でも全砲門射撃なら!)
そんな敵の焦りを察知したのか、ルキィは落ち着き払っていた。
スゥ―ッと深呼吸し、思い切り跳躍!
しかし遠くへ、ではなくこれまでより高くだ。
「馬鹿がッ!何度やっても同じ……?」
ルキィの着地に合わせ攻撃しようとしたニセテツライナーは戸惑った。
相手は頭を下に逆さまの姿勢で落下してきたのだ。
(着地じゃない?何をする気だ?)
しかしもう攻撃を止めるわけにいかない。
落下予想地点に照準を合わせ、爆弾が投擲され、銃口にエネルギーが送られる。
まさに着弾の瞬間、ルキィの両手に巨大な黒い鉤爪が形成された。
本来は硬い地盤を掘り進むための高周波振動爪なのだが。
「発射!」
「爪技・土津波!」
数十個の爆弾が発射され、数十の熱線が円陣の中心に向けて放たれた。
同時に、大地に接触寸前のルキィの両腕が踊り荒れ狂った。
「な、なんだぁ?」
シュバ!シュバシュバシュバッ!
巨大な爪が大地を引き裂き、強烈な振動が大して固くもない土壌を粉砕し巻き上げた。
瞬時に形成された土砂の大波が爆弾群に接触、次々と誘爆させた。
ドドドドドン!
「こ、こんな大技を!」
生じた爆炎と土砂が熱線を遮り無効化させただけでなく、恐ろしい勢いでニセテツライナーに迫った。
この高温土砂嵐に巻き込まれれば危険、ニセテツライナーは円陣を解き退くしかなかった。
しかし逃げ切れなかった。
正確には、高熱土砂嵐はギリギリ避けられたものの、爆炎の中から突き出された剛腕からは逃げられなかった。
最後尾車両、正確には尻尾を掴まれて、もの凄い腕力で引き戻された。
「く、くそ、放せ、はなせぇ!」
「……ふっふっふ、捕まえましたよ?」
薄れゆく土煙の中から巨大な影が立ち上がる。
土埃にまみれたルキィがニヤーッと気味悪い……いいや、恐い笑みを浮かべる。
あまりの怖さにプロ暗殺者を自認するニセテツライナーも言葉を失うほどだ。
「…………あぅ」
「公務執行妨害、危険物所持、あとなんだっけ?とにかく略して『罪状たくさんあります』の罪で……」
「……いや、略すなよ」
「プラス『余計なツッコミするな』の罪で地球強制退去してもらいます。フンッ!」
ブゥン!
尻尾を掴んで、ハンマー投げの要領でブンブン振り回す。
「フン!フン!フン!!!」
ブン、ブン、ブゥン!
「ウォ、ウォォ、ウォォォォォッ?」
凄まじい回転、凄まじいスピード、凄まじい遠心力!
巻き起こる旋風はまるで台風のようだ!
「ダンタロさん、軌道ステーションってどっちでしたっけ?」
「あっちだよー、ルキィさん……」
強風に飛ばされそうになりながら応える弾太郎の言葉に、ルキィは頷いて手を離した。
するとニセテツライナーは南の空に向かって真っすぐに飛んでいった。
後に長く続く悲鳴と警笛の音を残して。
それをジンとルパルス王子はポカーンと見送っていた。
「弾太郎、あれって……」
「ん?ああ、衛星軌道ステーションの入星管理へ引き渡す時は投げ飛ばすのが一番早いんだ」
「……弾太郎さん、衛星軌道まで物体を投げる、なんて物理的に無理が……」
「コツがあるんだ、ってルキィさんいってたよ」
科学的に納得できないのだが、納得するしかなかった。
ジンとルパルス王子は顔を見合わせ、それでこの件は不問となった。
「ねーねーねー、おねーちゃん」
戦いが終わったのを見て、男の子が戻ってきた。
「坊や、怪我はなかったかい?それから何度もいくけどね、僕はおにーちゃ……」
「しゃしん、とろー」
ママのスマホを片手に頬を染める幼子を拒む正当な理由は弾太郎にはなかった。
……今一度 万感の思いを込めて 警笛が鳴る。
今一度 万感の思いを込めて列車が逝く。
さらばニセテツライナー。
さらば千海千山鉄道。
……そして暗殺怪獣は惑星外退去処分になる。
後日、弾太郎のもとに一枚の写真が届いた。
写っていたのは幼い男の子笑顔。
富士を背景に立つ赤い怪獣の後姿。
遠くに飛んでいくニセテツライナー。
金髪青年と痛シャツ少年に支えられて鼻血流すパジャマ姿の……
そして拙い文字で『おねちゃん、ありがとう』と書き添えられて。
その後の数日間、弾太郎が落ち込んでいたことはいうまでもない。




