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走れ!みんなのニセテツライナー!!

千海千山鉄道と並んで超未来的な列車が走っている。

流線形の先頭車両から続く白と朱色の列車は全部で12両編成。

わずか2両編成の千海千山鉄道とは比べ物にならない大きさだ。

怪しい列車の先頭車両の赤い風貌ガラスの中には運転手らしき黒い影も座っている。


「まさか本物のテツライナー?いや、そうじゃない……よなぁ、コレ」


弾太郎の言葉がだんだんとトーンダウンしていく。

冷めていく弾太郎に対して相手の方は熱い視線を注いでいた。


(ふっふっふっ、追いつきましたよ。ルパルス王子……)


弾太郎が視線を逸らせた一瞬だけ、運転手らしき影が高速で左右に動く。

まるで巨大な瞳が周囲を見回したかのようだ。


(人間態での素顔を秘密にしていれば安心、とでも思ったのでしょうが……)


客車の車窓のひとつで細い光のラインが輝く。

そこから投射された光が千海千山鉄道の列車に照射された。

その光の線は上から下にゆっくりと下がっていき、乗客たちに気づかれないまま消えた。

それきり何も起きないところからすれば攻撃ではなさそうだ。


(要するに地球人でない奴だけ洗い出せば……それがルパルス王子というわけです)


車内の人物をスキャンした結果が反対側の車窓に表示される。

表示されたパラメータは全部で9組、社内の人物の数と同じだ。


(あとは私の暗殺レーザーであなたの心臓を……って、あれ?地球人以外の反応がひとつじゃないぞ?)


ついさっきまで冷酷さを意識していた声が、いきなり取り乱した声になった。

王子がこの列車に乗ったことは依頼主からの情報で知らされていた。

情報の出どころは不明だが、急がなければ他の暗殺者に先を越される。

そうなれば、ここまでの苦労がタダ働きになってしまう。

王子を捕捉すれば、後は極細レーザーで心臓を撃ち抜けば急病に見せかけて暗殺できる。

なのに……


(なんで……なんで怪獣反応が4つも5つも出るんだよ?おかしいだろ!)


動揺が運転にもあらわれたのか、テツライナーもどきの走行は左右に乱れ、遅れ始めた。

運転手らしき黒い影も混乱して、右往左往しているように見える。


(いや、待て。落ち着け、俺!深呼吸だ、深呼吸……フフフ、そうか。あらかじめ偽装工作をしていたのか。特撮馬鹿のアホ王子と思っていたが……用心深い奴め)


なんとか落ち着きを取り戻した声だが、蛇行運転しているところをみると動揺を隠しきれないらしい。


(だが王子は馬鹿がつくほどの特撮オタクだ。この俺様の完璧なテツライナーの擬態にそそられないハズがない!そうだ、好奇心につられて寄ってくる奴が……来た、きた、キタ、きたぁっ!)


千海千山鉄道側ではなんともイヤーなムードが漂っていた。

特撮世界の架空の乗り物が目の前に……と、くれば王子あたりが大はしゃぎしそうなものだが。

その王子ですら不機嫌な顔でシートに座って反対側の風景を見ている。

それも無理はないかもしれない。

なんというか作りが安っぽくて、ちゃちな玩具感が半端ないのだ。


「なんていうか、ホントに安物のオモチャって感じですよねー」

「ボク、あれキラーイ……」


弾太郎の横に並んで立っていたルキィたちと幼い男の子も、ガッカリした顔だ。


「造形もいい加減です。塗りも甘い。鑑賞に堪える出来ではありません」

「この出来では査定価格は…………あー、いわない方がいいかナ?」


そんなわけで、ルパルス王子は興味をなくし、ジンはスマホいじりに戻った。

最初は驚いていた中年サラリーマンは再び新聞に目を向け、新鮮野菜おばちゃんは居眠りを再開、子連れママさんは退屈してしまった幼い男の子の相手を……と思いきやジンをしきりに気にしている。

こうして車内の人々でニセテツライナーに好奇心を向ける者は一人もいなくなっていた……


「弾太郎さんもほっといた方がいいですよ、あんなパチモンライナーは」

「でもルパルス君、正体のわからない列車だし……」

「ダンタロさん、私も知ってますよ。あーゆーの」


ルキィが口をはさんできた。


「あれね、きっと『走り鉄』ですよ、きっと!」

「なにそれ?走り……鉄なんて聞いたことがないけど」

「列車に乗ることを目的とする『乗り鉄』、写真撮影専門の『撮り鉄』……それと同じようなものですが」


解説を引き継ぐルパルス王子だが、何とも面白くなさそうだ。


「怪獣の間でも流行ってるんですよ、1分の1スケールの鉄道模型を作って本物と列車と走らせる趣味が」

「い、1分の1スケールの模型?!」


流石は巨大怪獣の趣味、人類とはスケールが違うらしい。


「ディテールも凝っていてね、本物と同じ材質、塗料を使うのは当然。マイナーバージョンすべてを再現するツワモノもいらっしゃいます」

「そ、それって……もう模型じゃなくて実物なんじゃ?」

「いえ、あくまで玩具メーカーが発売している模型です。といってもお値段は客車1両で銀パト隊員の給料1月分くらいはしますが」

「そ、そんなに?いや、それでも安いくらいか……」


ちょっと頭を抱えるような趣味だが、まあ宇宙は広いということなのだろう。

でもルキィもルパルス王子も不機嫌顔だ。


「でも、あれってマナー違反ですよね?勝手に自分の模型を本物の列車と並走させたりして」

「確かに許可なしの並走は重大なマナー違反です。しかも地球はまだ銀河連邦加入前ですから……無許可の入星ということですね」

「あの、ルパルス……君。あなたも無許可入星ですよね?」


弾太郎の言葉にルパルス王子はちょっと考えるような仕草を見せてから、何事もなかったかのように続けた。


「とにかく、すぐに通報しましょう。いや、それはこっちの車掌さんがやっているようですね」


そういわれて弾太郎は運転席の方を見た。

運転手兼車掌さんが電話片手に何やら話している。

よく聞き取れないが「違法並走」「通報」などという言葉が聞こえてくる。

たぶん鉄道会社を通じて銀パト火星基地に通報しているのだろう。


「それじゃあ、もうやることはないかな。後は終点で乗り換えるだけ……いや!」

「どうしたんですか、弾太郎さん?」

「まずい、まずいよ!このままじゃ……」

「ちょっと?弾太郎さん、何を!」


弾太郎は座りかけていた席を立ち、反対側の車窓へ急いだ。

木枠の窓をガチャガチャいわせながら押し上げ、顔を社外へ出した。


「危ない!……そんなに乗り出しては、危険ですよ!」

「そんなこと言ってる場合じゃない!おーい、テツライナーの運転手さん!」


ニセライナーの中の暗殺者の声はニヤリとほくそ笑んだ、らしい。


(見抜いたぞ、貴様がルパルス王子だな……?ありゃ、思ったより大人だな?それになんか女みたいな……)


すぐにでも標的を始末して離脱すべきなのだが、思っていたのと王子の容姿が違いすぎる。

戸惑っているうちに、なんかもう一人近づいてきた。


(ひょっとしてこっちが本命?でもやっぱり何か違うような……)


弾太郎の突然の行動にルパルス王子は慌てていた。

自分も席を立ちかけるが、思いとどまって座席に座りなおす。

代わりに隣に座っていたルキィに声をかける。


「ルキィさん、弾太郎さんを連れ戻してください。危ないですし」

「そうですよね、窓から顔出すなんて子供みたい」

「いや、そういう意味じゃな……とにかく急いで連れ戻した方が」

「はーい」


窓から身を乗り出してテツライナーの運転手らしき影に向かって怒鳴る弾太郎。

ルキィもその横に並んだ。


「ダメじゃないですか!そこの張り紙にも『窓から顔や手を出さないでください』って」

「それどころじゃないんだよ!ほら、前!」

「前?前に何が…………ああ―――ッ!?」


(何をやってるんだ、こいつら……)


ニセテツライナーの中の声は首をかしげる、という感じだった。

暗殺目標らしき相手が窓から身を乗り出してくれたのはありがたいのだが。

何やら大声でわめき始めた、しかも人数も二人に増えた。


(もしや俺の正体が殺し屋とバレた?いや、そんなはずがない!俺の完璧な擬態が見破れるはずが?)


戸惑っているうちに他の乗客たちまで騒ぎ始めた。

中年サラリーマンおじさんも、新鮮野菜おばちゃんも、ママさん&男の子も!

全員が進行方向を指さし『前、前!』と叫んでいる。

唯一、変わりなく見えるのは運転手兼車掌だけだが、その彼もさっきから警笛を鳴らし続けている。


(くそ、前がなんだっていうんだ……)


とにかく、ちらっとだけ前方を確認する。

飛び出してきそうなものも障害物になりそうなものも、危険な物は別に何もない。


(見ろ、何もねぇじゃねぇか、ったく……って、地面もない?!)


障害物どころか地面がなかった……

千海千山鉄道は始発駅の千山ダム前から終着駅の大波小波駅まで、山あり海ありの絶景ローカル線として知られている。

特に海岸線に出てから終着駅までの間には断崖絶壁を掘りぬいた区間が数十キロに渡って続き、最高の夕日を見られると評判だ。

断崖を掘りぬいただけあって線路の片側は固い岩肌、反対側は海面まで100メートルの断崖絶壁である。

その列車に並走しているニセテツライナーは……高さ100メートルの空中を走らなければならないことになる。


(どどど、どうしようて!俺、空なんぞ飛べねぇぞ!!)

「あっ!…………落ちた」


弾太郎の視線が真横から下へ。

本家のテツライナーなら空中どころか空でも海でも四次元空間でも問題なく走っていけるのだが。

ニセテツライナーの再現度はそこまで高くなかったらしい。

急傾斜、どころか直角の絶壁を走って下へ、はっきりいえば荒れ狂う波間に向かって落下していった。


バッシャ―――ン……


水しぶきの上がる音がはるか下から聞こえてきた。

弾太郎は覗き込もうとしてみたが、ルキィに片手でつまみ上げられて引き戻された。


「大丈夫かな……」

「まあ、だいじょーぶじゃないですか?壊れても一応、オモチャなんだし」

「でも誰か乗ってたんじゃないかな」

「まあ、だいじょーぶでしょー。一応、乗ってたの一応、怪獣さんだろうし」


あまり大丈夫なはずのない高さなのだが、波を蹴立てる音と警笛が追いかけてくるところを見るとニセテツライナーはなんとか動いているらしい。

やがて断崖区間が終わりに近づき、波を蹴立てる音が消え、警笛と車輪の音が上がってくる。

どうゆう理屈かわからないが垂直の壁を走る性能程度ならあるらしい。


「あ、戻ってきた」

「無事だったんですねー、よかったぁ」


弾太郎の目の前に崖を上ってきたニセテツライナーが躍り出た。

しかしルキィのいうように無事とはいかないようで……車体はずぶ濡れ、昆布だかワカメだかのカラフルな海藻に彩られ、塗装も剥げまくっている。

開け放った車窓からは海水があふれ出し、お魚まで吐き出している。


(ぬぅぅっ、まさかこのような卑劣な罠を!王子め、今までいろいろ我慢してきたがもう許せん)

ガチャっ、ガチャガチャガチャガチャっ!


開いた車窓から銃身と思しき細い筒が次々と突き出された。

狙いは千海千山鉄道の列車の乗客乗員全員!


(こうなれば、暗殺レーザーで皆殺しに……)

「前、前、前!見て!」

(ふ、この期に及んで同じ手が通用……って今度はァッ???)


目の前は海ではなかった。

今度は山だ、岩山だ。

硬く冷たい岩肌が、もう目の前すぐに迫ってる!


「危ないです、ダンタロさん!頭引っ込めて!」

「危ない、停まって!テツライナーもどきさぁん!」

(うわぁぁぁっ!!!!!)


岩肌にくりぬかれたトンネルに、弾太郎たちの列車が吸い込まれた。

わずかに遅れていたニセテツライナーが懸命に進路変更したのまでは見えた。

そこから先はトンネルに入った弾太郎たちからは見えなくなった。


「だ、大丈夫かな?あのニセテツライナーさん……」

「た、たぶん……怪獣さんだったら、あのくらいなら」


心配そうに、遠くなっていくトンネルの入り口を弾太郎とルキィは見つめていた。

その心配を裏付けるように、ドンと突き上げるような衝撃。

トンネル入り口の向こうが一瞬赤い炎の色に染まり、煙が流れる様が見えた。

何かの破片がいくつも降ってくるのも見えた。


「大丈夫、じゃなさそうだね」

「……どうしましょう、ダンタロさん」

「よい策がありますよ。地球の文献で見かけたのですが……」


困っていると、後ろからルパルス王子が声をかけてきた。

不安だったが一応、聞いてみることにした。


「確かこうです!『……知らんふりしときゃいいんだよ。ほっときな』です!」


どんな文献だったのだろう。

不安的中だったが、何事もなかったように乗客全員席に戻った。

そして何事もなく終着駅に着いた。

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