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倉の中……進化するブラック・ヒストリー!

「いやいや、恐れ入った。砂川のクソオヤジは若造呼ばわりしていたが、なかなかの見識と観察眼。感服しましたぞ」

「これはこれは……弾太郎の御父上殿、何かいいたいことでモ?」


年を重ねた壮年の悠然たる余裕と、若さ溢れる美青年の爽やかさ。

世代の違うイケメン二人が見えない火花を散らす。


「ですが、まだまだお若い……隠された謎のベールをたった一枚はがしただけでお終いとは、ククク」

「?まだ解かれていない謎があるとでモ!」


終わった、と思ったらまだ話が続いていた!

この事態に一番驚き、かつ焦ったのは当然弾太郎だ。


「ちょっと待ってよ。父さん、何を言ってるんだよ!」

「ふふふ、ジン君はお前のことをわかってくれる良い友人だ。ついつい嬉しくなってな」

「とにかく、早く出よう。ジン、早……」


弾太郎の言葉を遮るように、海人がパチンと指を鳴らす。

そして、その指でジンをピシッと指さす。


「だが、弾太郎のことを理解している、ということにかけてはジン、君は……宇宙じゃ2番目だ!」

「ほう……では宇宙で一番は誰だというのですカ?」


倉の外へ出そうとする弾太郎を押しのけて、ジンは海人の前へ進み出た。

二人ともやる気だ、やる気満々だ。

互いの目に燃える闘志の炎を見て、弾太郎は悟った。


(ダメだ、こりゃ……)


青い顔してうろたえる息子を楽しそうに眺めながら、海人はニヤリと笑ってうつむき、人差し指を立てて見せた。

その指をメトロノームのように左右に振りながら……


「チッ、チッ、チッ……」


軽い連続舌打ち音でカッコつけてから、指をとめて親指で自分のドヤ顔を指す。

その仕草はジンとルキィにはあまり意味がなかったのだが……

王子様はハッと何かに気づき、弾太郎は何とも嫌そーな顔になった。

身を乗り出したルパルス王子が海人に問う。


「海人様、今のはもしや!スカッと登場、スカッと解決!人呼んで『怪傑スカット』のヒーロー・宇宙探偵ハヤカワの決め台詞では?」

「フフフ、子供の頃の弾太郎はコレが一番のお気に入りでね。私がコレをやると大喜びで何度もアンコールをせがんだものですよ」

「父さん、それは子供の頃の……」


不自然に焦った様子の弾太郎の耳元に、ルパルス王子がそっと囁く。


「弾太郎さん、『2月2日……』」

「『アスヤという男を殺したのは貴様かッ?』……ハッ?しまった!い、いや、今のは、その」


ルパルス王子の陽動に見事にひっかかった弾太郎の慌てぶりを、父・海人は楽しそうに、ルパルス王子は同志を見つけた喜びに、ルキィとジンは『何がどうしたのかわからない』という顔で見ていた。


「では説明しよう……ジン君、ルキィちゃん、そして殿下。君たちは『宝は隠されているもの』という先入観のあまり、目の前にある最高の宝を見落としているのだ」

「な、なんだってェ―ッ?!」×3


フッとカッコつけて笑う海人はスゥッと手をあげ天を指さす。

その動きにつられて皆が上を見た。

小さな窓から差し込む日の光だけが唯一の灯りの薄暗い蔵の中、天井を見上げながらルキィが首をかしげる。


「別に何もない、ですよね?」

「う……あーッ?あんなトコに!」


だが、弾太郎だけは心臓が止まるほど驚くシロモノがそこにあった。


(そんな、見つからないように倉の床下に隠しておいたのに?さては父さんだな!)


倉の内側、左右に渡された梁に、それらは一つ一つが質素な額縁に収められて掲げられていた。

古い写真のようだ、数は4枚。

左端の白黒写真から右端のカラー写真まで年代はバラバラのようだ。

しかし背景が昔のこの神社らしいこと、十数名の集合写真であること、中央に神主と幼い子供がいることだけは共通していた。

それだけなら観光客の団体記念写真にしか見えないだろう。


「この古い写真が……宝ですカ?」


ジンが期待外れ、という声で聴いた。

歴史的に価値ある写真というわけでもなさそうだ。

しかしルキィの目は最も古い写真に写る姿に覚えがあった。


「あ、あの男の子の肩に手を置いてる人……粒礼屋谷 映二(つぶれや えーじ)大先生では?ゴズラ様映画の監督兼プロデューサーの……」

「それに……こっちの右端の写真に写っているのは仮面ファイター・ダークネス主演俳優の……蔵田

……」

「ようやくわかりましたか、王子?しかし、それでもまだまだ序の口……」

「父さん、お願いだ。もうやめて……」

「ふふふ、そう遠慮するな。弾太郎よ……」


写真の中の意外な人物に弾太郎以外が息をのむ中で、海人は更なる過剰演出を用意していた。

海人がサっと手をあげると天井からカラカラカラーと白い大きなスクリーンが下がってきた。

同時に白壁に打ちつけられていた棚に置かれていたプロジェクターに電源が入る。

そしてスクリーンに映し出されたのは大きなタイトルロゴ『計画Z』続いて『第一章 怪獣を作った男』!

しかもBGMも某国営放送の有名番組そのまんま、あの中島〇ゆきの歌声だ!

そして始まった白黒の、あちこちに傷の走る無音声映像の中で、一人の男が鳥居をくぐる姿から物語は始まった。


神前で祈る先々代神主(配役・真榊海人)その後ろで正座する粒礼屋谷監督(配役・ゲン爺)。

字幕のセリフにあわせてドラマは進行する、かなり大根な演技力で。


―お帰りください―

―そこをなんとか!他はすべて断られてしまったのです―


土下座する監督(ゲン爺)、振り返ろうともしない神主(海人)。


―映画といってもええと、かいじゅう、でしたか?訳の分からぬゲテモノ映画に使われたとあっては―

―決してゲテモノなどではありません。私がこれまでの人生全てを捧げた作品です―

―とにかくお引き取りを!―


怒りを込めて言い放つ神主(海人)、頭を床板に擦りつける監督(ゲン爺)。

交渉は暗礁に乗り上げたかに見えた。

その時、背後から小さな人影が飛び込んできた。


―父ちゃん、映画に協力してあげてよ―

―な、何をいう?跡継ぎたるお前がこの神社の歴史を汚すつもりか?―

―だけど、おいら『かいじゅう映画』っての見てみてぇんだ―


子供(配役・岬大地くん)、後の先代神主である。

そしてもちろん、演技力は大根、それもただの大根ではなく桜島大根レベルだ。


―いま、にっぽんはボロボロでみんなげんきがねえ!だからおいら、かいじゅうでにっぽんをげんきにしてぇんだ―

―むむっ!わかった。撮影に協力しようー


演技力ゼロでも元気いっぱいの大地君に負けるように、大袈裟なリアクションで先々代神主(海人)は折れた、らしい。

そして撮影が始まった、岬家のオバちゃんを筆頭にゴズラ出現に驚き逃げ惑う島民。

漁船からわざとらしく大声上げて海に落ちる男たち。

画面全体に大根(役者)の花が満開に咲き誇った。


「父さん、なに、コレ……」

「うむ、地域振興のため観光用のプロモーション・ビデオを制作したのだ。すごいだろう」


ご満悦の海人の前で、ルキィとルパルス王子は食い入るように見入り、ジンはただただ茫然とし、弾太郎は頭を抱えて悶えた。

まさか国の補助金でこんなロクでもないPV制作していたとは……

悩んでいる間にもドラマは進行していく。

ついにロケが終了し撮影班が去る日が来たのだ。

監督(ゲン爺)と少年(大地君)は船を前に別れの挨拶を交わしていた。


―君には世話になったな―

―いいってことよ!かいじゅう映画、がんばれよ!―

―お礼を、と思ったのだが。予算がなくてね、こんなものしか―


監督が差し出した包みを受け取る少年。

去り行く漁船に向かって手を振る少年、その手にはゴズラソフビが握られていた。

この大根役者ぞろいの再現ドラマに一同の反応は?


「この島にそんな歴史があったのか、知らなかった、まだまだ修行が足りなかった」


素直に感嘆するルパルス王子だが、修行ってなんだろう?


「こここ、このご神体は!創造主様ご自身から賜ったモノ?あわわわ、どうしよ、どうしよ?」


ルキィはルキィでパニックしまくっていた。

ゴズラ様ソフビを慌てて長櫃の上に置いて拝みまくっている。


「すごいじゃないか、弾太郎。どうしてもっと早く教えてくれなかったんだイ?」


ジンは親友がこんな(面白い)秘密を黙っていたことが不満らしい。

ちょっと不機嫌顔だ。


「……父さん、この動画、どうするつもりなの?」

「まあまあ、それは続きを見てから」

「って?続きあるのッ!」


画面に堂々と『第二章 ゴズラ復活』!

今度の映像はアナログっぽい総天然色(音声付)!

鳥居を前に先代神主(配役・海人)と粒礼屋谷監督(ゲン爺続投)の再会から始まる。


「お久しぶりです、粒礼屋谷監督!」

「ご無沙汰しております、真榊くん。いや失礼、真榊さん」


画面に色と音声がついた分、大根度が大幅に跳ね上がっていた。

最早、観光向けPVとしてもネタでしかなかった。


「監督、ゴズラが復活するそうですね!ではまたここで撮影を?」

「ええ、ただ……」

「ただ?何か問題が?」

「前と全く同じでは通用しません。何かもっとテーマに迫る映像が必要なのですが」


わざとらしく腕組みして考え込む演技をしている二人。

小学校の演劇発表よりもヒドイ、しかも二人とも大真面目でやっているのが悲しい。

見るのがつらいこの状況を誰かなんとかしてくれ、そう叫びたい気持ちが天に届いたのか。

巫女姿の幼女がチョコチョコと社務所の方から走ってきた。


「おと-さん、おと-さん」


演じているのは岬 美空ちゃん、兄・大地君に劣らない棒読みぶりだ。

しかし嫌そうな顔していた弾太郎の表情がこの時だけ変わった。

少し悲しそうな表情に。


「父さん、あれって、美空ちゃんが演じてるのって」

「ああ、そうだ。お前の母さん、翔子の……子供の頃の役だよ」


海人もまた、神妙な顔で応じた。

聞いていたルキィたちも弾太郎に気遣う視線を向けた。

ただ弾太郎は、れ以上は何もいわなかった。


「おとーさん、わたしもえいが、でたーい」

「おいおい、お前みたいな子供が……」

「お嬢ちゃん、私の映画に……出演していただけるかな?」


瞬間、再現ドラマを見ていた一同が顔を見合わせた。

ルパルス王子が静かに口を開いた。


「ルキィさん、確かリメイク版第一作の冒頭は……」

「ゴズラ様を鎮める小さな巫女さんの子供舞のシーンから……あれってダンタロさんのお母さんだったの?!」


弾太郎は口を開かず、海人は静かにうなずくだけ。

そして撮影は開始され、羽海ちゃん演ずる可愛らしい子供舞、ゴズラ登場と進む。

……演技力大根度数を増しながら。

やがて撮影は終わり、小さな巫女が手を振って去り行く船を見送る。

小さな胸にゴズラソフビ(未開封)を抱いて。

弾太郎は無言で、海人もうつむいたままだ。

声をかけようとしたルパルス王子だが、言葉が見つからない。


「あの、ええっと、ジンさん?こういう時はどう声をかければ」

「王子、こういう時は黙っているものだと思いまス」


ルキィはさんざん迷った末にゴズラソフビを弾太郎に、黙ってそぉっと差し出した。

弾太郎は差し出されたソフビを見て少しだけ笑って、首を横に振っり受け取ろうとしなかった。

そしてルキィは申し訳なさそうに手を引っ込めた。


以前、弾太郎は母のことを『ほとんど覚えていない』とルキィにいった。

それは事実だが、この再現ドラマを父・海人がどんな思いで撮影したかは、痛いほど理解していた。

誰もが言葉を見つけられない中で、動画を停止させてうつむく海人の背中に弾太郎は手を置いた。

だが実は、この時が倉を立ち去る最後のチャンスだったのだ。


「父さ……」


その一瞬、そして一点の隙を海人は見逃さなかった!

ニヤリと笑って隠し持ったリモコンで停止を解除!


「第三章『次代への継承』……」

「しまった?次は僕の子供の頃の……ッ!」


弾太郎は自分の父親が親バカを越えるスーパーウルトラデラックス親バカであることを思い知らされた!


シーンは社務所で向き合う男二人。

今度は海人が本人役で出演、新しい映画監督はゲン爺が白髪を金髪に染めて外国人に扮して続投だ。


「ソレデハ巫女舞ハモウデキナイ、ト……」

「はい、妻は『次の機会には子供舞ではなく巫女舞を』と張り切っていたのですが。昨年、事故で……」


気落ちする神主(本人)と言葉を失う新監督(ゲン爺)。

長く気まずい沈黙が画面を支配した。

その沈黙を破ったのは、ガラッと元気よく扉を開ける音。

神主(海人)と新監督(ゲン爺)がわざとらしくタイミングを合わせて振り返る。

小さな巫女姿の少女(岬 羽海ちゃん)が大人二人を見上げる。

腰まである髪はカツラらしいが、愛らしさは本物だ。

見ている一同は(弾太郎を除き)羽海ちゃんの姿にほっこりと癒されていた。

その時、ルキィがある疑問を口にした。


「あれ?海人おじさま、これってハリウッド版GOZURA様のお話ですよね?」

「その通りだ」

「その頃ってこの島にはダンタロさん以外の子供はいなかったハズじゃあ?」

「うむ、それもその通り!」

「それじゃ、あの巫女さんは一体誰……」


全員の視線が集中する、弾太郎一人に!


「ち、違うよ!子供の頃は巫女装束を普段着にしてた、な・ん・て……」

「あの頃の弾太郎はな。『ボクがお母さんの代わりだ』といって自分から巫女さんの恰好をして、神社の仕事を手伝い、家事もこなしてくれていたのだ。嗚呼、なんと健気な最愛の息子よ……」


バレたというより自分からバラした上に、父親が暴露フォローまでしてくれた。

もう隠しようがなくなった。

ジンが『なるほど』といわんばかりにうなずいている。


「ふーん、あの映画の巫女役の女の子、地上波で見た時に見覚えがあると思ってたけど、やっぱり弾太郎だったのカ」


ルパルス王子の反応は珍しく素直に驚くばかりだった。


「スゴイ、特撮の神と称されたあの方がこの島に、そして弾太郎さんの一族が深く関わっていたなんて」


混乱の極致にいるのがルキィだ。


「あわわわ、あの映画!あの映画にダンタロさんが出演?それも冒頭の一番大事なシーンに?」

「あ、あの時は!巫女舞も中止になって、子供舞だけでも絶やしちゃいけないって思っただけで……あ」


また自分からバラした。

そんな息子を父・海人は優しくフォローする。


「母が伝えた伝統を守ろうとする弾太郎に皆が協力してくれた。パンツまで女の子用にするほど……」

「父さん、それいっちゃダメ……ああ?」


弾太郎は更なる熱い視線を集めていた。

幸いにも『子供の頃から女装していた変態』を見る目ではない。

暖かくいたわるような慈愛に満ちた目であった。

本人にしてみれば激イタい視線であることに変わりなかったが。

泣き出しそうな弾太郎の前で無情にも再現ドラマは続く。


「ゴズラさま、ゴズラさま、おいかりをしずめたまえ……」


棒読み、演技力ゼロ、大根役者、そんな言葉など何の意味もない!

羽海ちゃん演じる幼い巫女と現在の弾太郎のイメージが完全に重なった。

そして三度、ゴジラソフビを胸に撮影隊を乗せた船を見送る幼巫女の弾太郎(羽海ちゃん)!

それはまるで海へ去り行くゴズラを見送るように……


「ジン!違うからね僕に女装趣味なんてないから!ああ、ルキィさん、拝まないで、僕を拝まないで!」

「あー、心配ないよ弾太郎。こんなことで君を見る目は変わらないからネ」

「ダンタロ様がゴズラ様ゆかりの方とは知らず数々の無礼、お許しを―――!」


カオスな状況にどっぷりハマりこんだ弾太郎を見つめながら、ルパルス王子だけは考え込んでいた。


「今のでゴズラ関連のレアアイテムは説明がつきましたが……」


自分が着ている仮面ファイター・ダークネス激レアTシャツを不思議そうに触ってみる。


「このTシャツは?それにあの写真、弾太郎さん(巫女)の背後にいるのは」

「左様、ダークネスの主演・蔵田 哲夫さんだ」

「では、この島で撮影を?……そういえば撮影地不明とされた第35話はもしや」

「そう『姫巫女島の巫女姫!』の回はここで撮影されたのだ、見よ!」


最終章『受け継がれる魂』開始ッッッ!

精魂尽き果てた弾太郎にもはや抵抗する術なし!


「はあ、いきなりそういわれましても……弾太郎もまもなく中学生ですから、もう子供舞は」


おなじみ社務所で電話で話す海人、誰と話しているのかわからないが困惑しているようだ。

そこへ入ってきたのは成長した中学生姿の……少女(配役・浦島乙音ちゃん)

岬家兄妹に劣らず、彼女も超大根だ!


「って、おとねーちゃんまで出てるの?」

「ん?ああ、PVを撮影してるっていったら『私も出る』ってきかなくてね」

「わー、タタタ姫ちゃんだ。男装してもやっぱりかわいいー!」


ルキィは相変わらず名前をちゃんと覚えてないらしい。


「どうかしたの?父さん」

「ああ、前に来た映画会社の人だが、テレビ番組で子供舞の撮影をしたいというのだが」

「うーん、僕も子供じゃないし、さすがに巫女さんの恰好はちょっと……」


一応、弾太郎にも男としての自覚はでてきていたようだ。

この流れだと撮影はお流れに……


「で、どんな番組なの?」

「おう、お前も見とるだろ。仮面ナントカのダークナントカ……」

「仮面ファイター・ダークネス?やっとリアルタイム放映で見られるようになった、あの!」

「それだ、ゴズラ撮影スタッフから紹介されたそうだが、まだ美空ちゃんに子供舞は無理だし」

「僕やるよ!ダークネスのためなら!」

「しかし子供舞は……もうお前には」

「子供舞じゃない。巫女舞をやる!」

「なんと、母さんが舞うはずだった巫女舞を?お前が継いでくれるのか……」


感涙する父とヒーロー志願の厨二病息子が抱き合う、感動的なシーン……なのだろうか?

そして始まる舞の特訓、撮影、悩み苦しむ役者たち。

画面には大根(役者)の花が咲き誇った!

そして最後、帰りの船の前で主演俳優の代役らしきシルエットの男。

Tシャツをを巫女(弾太郎)に渡す。


―君にこれを託す―

「ありがとうございます、コウタロウさん」

―君もヒーローの心を……決して忘れないでくれ―

「はい!僕もいつか、貴方のようなヒーローに!」


握手し船に乗り込む後姿の青年。

そしてTシャツを抱いて手を振って船を見送る巫女・弾太郎(乙音ちゃん)……

性別さえ知らなければ感動的なシーンだった。

もっともルパルス王子は感動の頂点をも突き抜けてしまったらしいが。


「このTシャツにそれほど重い物語が……」

「あの、王子?重いってほどでは……」

「そんなことも知らずに私は、私は目先の喜びばかり気を取られて……」

「いや、そこは単純に喜んでいいんじゃないかなーって」

「恥ずかしい!一国の王子ともあろうものがッ!」

「あ、あの……」


そして親バカ親父は高らかに誇らしく宣言する。


「ご理解いただけたかな?真の宝とはレア・アイテムでも、古い記念写真でもない!ゴズラを甦らせ、ヒーローを更なる高みへ導いた偉大なる存在!そうだ、我が息子・弾太郎こそが!この島の!いや!この宇宙の真の宝なのだ!」


弾太郎は知った。

事態は解決に向かったのではない、さらなる泥沼へとハマったのだ、と。

重症厨二病患者とゴズラ狂信者が常識なし父の手で、さらにさらに病状をコジらせたのだ。

まず背後のルキィが、そして王子が……


「ああ、ダンタロ様!愚かなわたくしめにお許しを」

「土下座しないで、ルキィさん!!」

「ダークネスの巫女姫様とも気づかずの数々のご無礼、お許しください!」

「王子まで土下座?や、やめてください!!」

「なるほど、土下座くらいではダメなのですね!ならば」

「だから、そうじゃなくて!」


しかもコジらせているのはこの二人だけでは済まなかった。

海人とジンの間にも不穏な空気が……


「ふむ、これだけの事実を知ってなお、息子への態度を変えないとは……本当に良き友人に恵まれたようだ」

「いえ、それほどでも……巫女さんの恰好くらい気にするほどでは」

「ほう?どうして」

「実はですね、防衛警察養成学校で毎年、地域振興の一環として『交流祭』を開催してるんですガ」

「ジン?あれをバラす気か……」


弾太郎は忘れていた、島を出た後にも己の黒歴史が続いていたことを!

それが親友の手に残っていたことを。


「こ、これはぁっ!?」


大袈裟すぎるリアクションで驚く海人が見たのはスマホの壁紙。

そこに映っていたのは……メイド服姿で微笑む弾太郎の艶姿!


「毎年『男女逆転メイドVS執事喫茶』というのをやってるんです。その年は弾太郎扮する『はずみちゃん』が実に大好評デ」

「き、キミ!ジン君!私のスマホにコピーをぜひ!必要なら金はいくらでも」

「もちろん差し上げますとも!謝礼は不要です。この時の売り上げだけで寮生全員の部屋にエアコンがついたんですかラ」

「ジン、やめてくれーッ!」


愛想よくスマホ送信に取り掛かる親友と、自分のスマホを食い入るように凝視する父と。

受信が進むにつれ海人の表情が喜びへ、そして狂喜へ、狂気へと上がっていく。


「誰か、誰か、こいつらをとめてくれ!」


弾太郎の悲痛な叫びが薄暗い蔵の中にこだました。


★☆★☆★☆★☆★


「いつまで待たせるんだ、あいつら」


待ちくたびれた砂川長官が倉の前の石段から腰を上げた。

顔をあげるとゲン爺が小走りにこっちへくるのが見えた。


「ハァーハァー、あっしも歳かな……砂川の旦那ぁ、皆さんは?」

「おう、ゲンさんか。まだ倉から出てこんのだ」

「ったく、着替えくれぇで何手間取って、まさか……海人様も中に?」

「ああ、そう……アイツ、また何かやらかしたか!」


急いで倉の思い扉を開けると……異様な光景がそこにあった。


まずルキィと王子だが、うつ伏せで床に寝そべりブツブツ小声でなにやら唱えている。

土下寝、いや仏教でいう五体投地というやつだろうか?

二人の前に怪獣ソフビが安置されているのも理解不可能だ。


その横では、神主姿の海人がひざまずき、スマホを高く掲げて、歓喜の涙を流している。

まるで神の啓示を受けた預言者のようだ。


その三人の前に弾太郎がいた。

木箱に腰かけ、少し首を傾げ、穏やかな表情で物思いにふけるように。

背後の窓から差し込む陽光が後光のように照らす様は、まるで仏像を思わせる神々しさだ。


ただひとり、ジンだけが暇そうにスマホをいじっている。


「…………おい、若造」

「あ、長官。何ですカ?」

「何がどうなっとるのか、わかるように説明しろ」

「難しいですね……強いていえバ」

「強いていえば?」

「弾太郎は…………神話になりましタ」

「…………そうか」


多分、いくら待っても解決の見込みはないだろう。

多分、どんな説明されても理解できないのだろう。

それを悟った砂川長官は……そして、待つことと、考えることをやめた。

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