蔵の中……暴かれた黒い歴史?
「隠してたわけじゃないよ(隠してたけど……)でも、ご神体って、これが?」
「そうですよ、これってファンクラブ会員ならだれでも欲しがってるご神体じゃないですか!」
「これは子供の頃に貰った単なるオモチャで……ルキィさん、泣いてるの?」
彼女は鮮やかな紅の瞳を潤ませ、への字型に結んだ唇で泣き出しそうなのをこらえていた。
「泣いてなんかいません!ゴズラ様のご神体を拝謁したからって感動して、泣いたりなんか……」
「拝謁……デスカ」
「でも、もっと早く、教えてほしかった……パートナーなのにぃ」
「いや、だから…………」
何をいっても無駄な気がした。
この状況をどうしたらいいのだろうか、弾太郎は焦っていた。
まだ『最悪の結果』の発掘には幸いにも至ってないが、このままではマズい。
(誰か助けを……父さんは?ダメだ、状況を絶対に悪化させる。ゲン爺を呼んで取り繕ってもらうか?いや、間に合わない)
「お二方、ちょっとお待ちヲ」
「ジン?助けてくれる……のか?」
「とりあえず、王子、失礼……」
まずは王子の着こんだ仮面ファイター特製Tシャツに顔を近づける。
袖口をまくって裏地を確かめ、縫製を調べる。
「ふむ……で、ルキィさんのは……」
しっかり掴んで離そうとしないルキィの手のソフビ人形を、ルーペで隈なく調べる。
ラベルの汚れ、かすれた印刷に目を凝らし。
しばらく考え込んでから言い放つ。
「素晴らしい!丁寧な手縫いと手染めの試作シャツ。製造番号一桁のスポンサー配布用ソフビ。どちらも本物でス」
「って、ジン!お前、いつから『なんでも鑑定人』になったんだよ?」
「おお、やはり私の目に狂いはなかった!」
「これが本物のゴズラ様の輝き……」
ルパルス王子もルキィも喜びに目を輝かせる。
その純真なキラキラした目の輝きは……だんだんと熱を帯び情熱の炎となって、なんだか天をも焦がす勢いに!
「ハハ、ハハハッ!」「ウフ、ウフフフ……」
「状況が悪化してるじゃないか!ジン、どうしてくれるんだ?」
「ハハ八、盛り上がってよかったじゃないカ」
「とにかく、ルパルス王子……」
声をかけようとして、ルパルス王子と顔をあわせて……引いた。
目を合わせただけで、圧倒されて声をかけられない。
「わかります、わかりますとも、弾太郎さん!これほどの宝、余人に触れさせたくはない。秘匿する気持ちは理解しています!」
すごい熱の入れようだ、狂気すら感じるほどだ!
……マジで背筋がゾクリとした。
あどけない子供のはずが何か別の世界からやってきた異質な存在のように弾太郎は感じた。
……確かに別の星からやってきた怪獣で王子様なのだが。
「いや、そんなつもりじゃ……」
「感じる、感じるぞ、闇の波動を。今ここに暗黒の王、復活の時だ!フハ、フハハハハッ!」
「…………やっぱり駄目だ、この王子様」
「どうしました、弾太郎さん?第36話『闇に墜ちた仮面ファイター!』の名セリフですよ!続きをお願いします。ハァーハハハハッ!」
ついに悪の高笑いまで始めたルパルス王子に背中を向けて弾太郎は頭を抱えた。
変わり者王子様が実はオタク王子だったまでは許せる。
それを通り越してここまで重度の厨二病を発症しているとは思ってなかった。
しかもこの場には、もう一人の重病患者がいるのだ。
「あの、ルキィ……」
「ひどいですよ、ダンタロさん!ゴズラ様ファンクラブ地球支部会長のわたしを差し置いて!ご神体を隠し持ってるなんて!」
「いや隠し持ってたわけで……支部会長?」
確かにルキィはゴズラファンクラブの会員だ。
地球製の怪獣映画ファンクラブが宇宙にあるということ自体、弾太郎には理解不可能な世界なのだが。
しかも知らないうちにルキィは会員から支部会長に出世していたらしい。
…………ルキィ以外の会員が地球上に存在しているとは思えないのだが。
「ゴズラ様の足跡を求めて地球に来た日から、この日を夢見ておりました」
「いや、ルキィさん……立派な銀パト隊員にってお父さんの道場を立て直すために地球に来たんだよね?」
「ゴズラ様のお姿を求めて、街を彷徨い、ネットを彷徨い!ついに私は約束の地へと導いてくださったのですね、ゴズラ様!」
「いや、ここ、約束の地じゃなくて!ウチの神社の裏手だから!」
「いまこそ確信しました、聖地はここにあったんです!!!」
「…………だ、ダメだ、こりゃ」
異様なオーラを漂わせ始めた怪獣王子&怪獣娘を止める?
どうやって?
(とにかくこれ以上騒がれるのはマズい!多少の痛手は覚悟の上だ。早くこの倉から立ち去って貰わなくては)
「で……殿下。気に入られたならそのシャツ、さ、さ、さ、差し上げますよ」
「えっ、本当に……」
「ええ、これもヴァングラン星と地球の友情の証ですよ!ルキィさんもよければ……それ、ううう、受け取ってくれないかな?」
「ええっ、ホントにッ!」
「もちろんだよ、僕らはパートナーじゃないか?」
(クッ、まさか大事な思い出コレクションをこんな形で失うとは……だが、これで何とかなるはず)
しかしルキィの顔を見て弾太郎は驚く、というよりビビった。
このソフビ人形を貰った、子供の頃の自分のように目をキラキラさせ喜んでくれる、そう思っていたのだ。
だが目の前にいたのは……目を血走らせ、息を荒げて赤い豊かな髪をクシャクシャに乱して、喜びの笑顔ではなくあまりの驚きに茫然とする、何考えてんだかわかんない少女だった。
「ゴズラ様が私のモノに、ゴズラ様が私のモノに、ゴズラ様が私の…………」
王子の方も狙い通りの反応ではなかった。
いや、狙った以上の反応かもしれなかった。
Tシャツの胸を押さえて、興奮した声が次第にうわずり、呼吸が不規則に乱れていく。
「フフフッ!ついに、ついに手に入れたぞ!全てのマニア、いやオタクの誰もが手に入れられなかった究極のパワーを!この私がッ!」
(怖い……この二人、見ているだけで怖い!)
異様な姿、異様な光景に弾太郎は心底、怯えた。
壊れてしまったのか?それとも狂ってしまったのか?
どちらにせよ真っ当な精神の持ち主とは思えない。
「とにかく、もう用は済んだんだしッ!早く外へ……」
「いや、二人とも待ってくレ」
ジンがいつになく真面目な顔で狂気の略奪者、失礼!狂喜のコレクターたちを止めた。
夢見心地で倉を出ようとしていた二人は呆けた『何か用?』とでもいいたげに振り向いた。
「君たちはその価値が本当にわかっているのですカ?」
ルキィも王子も何も答えない。
どうしてわかりきったことを聞くのか、とでもいいたげだ。
「ゴズラソフビは製造番号がなんと一桁物。発売前にスポンサーに試供されていたものでス」
「買ったらすごく高のは知ってますけど……」
「今、オークションに出せばルキィさんの年収の10倍ですヨ?」
「そ……そんなに?!}
ルキィの紅潮していた顔が真っ青に、、ゴズラ様を持つ手がガクガクと震えている。
「そして殿下の着ているシャツは試作品として作られたその一着のみ。もはや値段など付けられないシロモノ」
「そ、それくらい私だって知っています!」
「では、価値を知りながらタダで貰うと?」
「い、いえ!何らかの形で十分なお礼を、と考えています」
「フッ……十分な謝礼、ですカ?」
王子のありきたりな答えをジンは鼻で笑う。
「二人とも貨幣的価値に目がくらんでお宝の真実が見えておられないようダ」
「ジン、お前まさか気がついているのか?」
弾太郎の問いにジンは答えなかった。
意味ありげにニヤッと笑っただけだ。
その笑みが弾太郎の不安を掻き立てる。
(いや、あのことはジンは知らないはずだ。では一体何を?)
「まず、ゴズラソフビだが。それは弾太郎が手に入れたものではなイ」
「そういえばさっき『貰ったものだ』ってダンタロさんがいってたけど」
ルキィが不思議そうにソフビと弾太郎を交互に見直している。
「流通した物ではないし、そもそも製造された頃は弾太郎どころかご両親も生まれていないのでス」
「あ、そうか?第一作が撮影されたのは私たちが生まれる前で……」
「それにオークションに出回るようになったのは近年だから弾太郎が買ったものでもない。しかもゴズラ以外にもソフビがここにはありますガ」
ゴズラソフビが入っていた長櫃の中には他にもたくさんの怪獣ソフビが入っていた。
空の大怪獣ラデン、守護怪蝶モフラ、三つ首宇宙龍カイザドラゴ、……。
十数体の怪獣ソフビが整然と収められている。
しかしゴズラとは違いがあった。
もうひとつの長櫃の中にはヒーローキャラクターのシャツやパジャマが丁寧に折りたたまれて入っていた。
仮面ファイターシリーズだけではない、銀河刑事、アルティメットマン等々、様々なヒーローがひしめいていた。
「他はすべて保存状態は良好だが開封されている。これらは弾太郎自身が買い求め大切にしていた、と本人に聞いたことがありまス」
「じゃあ、このゴズラ様だけは……」
「弾太郎より前、おそらく祖父または曽祖父の代に入手し、弾太郎に受け継がれた物。だから……開封しないままで遊んでいたのだろウ」
ルキィがマジマジと弾太郎を見ている。
つられて弾太郎もつい、答えてしまった。
「……確かに母さんから貰ったんだ。母さんは早世したお祖父ちゃんから貰ったって……」
「じゃあ、これって……亡くなられたお母さんや、お祖父さんの形見……」
ルキィの(異常な)興奮がゆっくりと収まっていった。
母親の形見、というのが効いたらしい。
今はなんとも申し訳なさそうな上目遣いで弾太郎をみている。
「そう、そして受け取った弾太郎は『ゴズラ君一人じゃ寂しいよね』と他の怪獣ソフビを集めはじめた」
「ジン、そこまでわかっていて……」
「島には子供は自分ひとり、大人たちは忙しく遊び相手をしている余裕はなかった。幼い弾太郎は薄暗い蔵の中で集めたソフビでひとり遊びを続けた。『ラデンくん、どうしたの』『あ、モフラちゃん。カイザドラゴくんがいじわるするんだ』『まあ、ゴズラパパ、なんとかしてあげてよ』『うう、すまねェ!あみもとのむすこにゃさからえねェ』……」
「って、ジン!ちょっと脚色しすぎだろ!……いや、多少はそんな感じだった……トコも」
弾太郎の抗議、とりあえず無視。
「そう、友達のいない自分と!一人ぼっちのゴズラソフビを重ねていたのダ!」
「ボッチな幼児体験を誇張するなぁ!……誇張じゃないトコもあるけど」
弾太郎の抗議、やっぱり無視。
「そして孤独な幼児期を耐え抜き!たくましく成長した弾太郎は!新たなヒーロー・仮面ファイターと出会ったのだ!5年遅れの衛星放送デ……」
「なんですって、5年遅れ?私の星ではリアルタイムで放映してますよ!」
「悪かったね、ド田舎の離れ小島で!」
弾太郎の抗議、三度目の無視!
「そして変身ヒーローと出会いは孤独でシャイな少年を成長させた。弾太郎は孤独なヒーローに憧れヒーローを目指したのでス!」
「私と同じだ!私も世間と隔絶された孤独な王宮生活の中でヒーローに出会い、憧れたのだ!」
「……一緒にされたくない」
弾太郎の抗議、誰も聞くことなく無視。
「そしてヒーローTシャツを手に入れた彼はついに!ヒーローをまねるのではなく、自らヒーローになると決意しタ!」
「おおっ?弾太郎さん、ついに決心を……」
「やめろ、ジン!その先は……」
弾太郎の抗議、頭を押さえられて無視。
「一夜干し作業の手が足りず困っているおばちゃんたちの前にTシャツヒーロー『俺は新月の王子!仮面ファイターダークネス!DX!!』があらわれ、つらい作業に苦しむおばちゃんたちを助けタ!」
「いや、ジン。そんな恥ず……」
弾太郎の抗議、だんだん気弱になって無視。
「雨に打たれながら地引網漁に踏ん張る漁師たちのところに、雨合羽ヒーロー『ご唱和ください、我の名を!アルティメットマン・オメガァツ!』があらわれ小さな体をものともせず網引きを手伝っタ」
「い、いや、あれはたまたま雨の日だったから」
弾太郎の抗議、もはや誰にも顧みられず無視。
「さらに漁船の水揚げには!忍者パジャマの戦士『5人そろってないけど、ゴニンジャー!!』が一生懸命に人々を手伝い、もとい助けていたのでス!」
「あ、あれは、朝早くだったからパジャマ着替える暇が」
弾太郎の抗議、全員背中を向けて無視。
「その地道な活躍は、義務教育が終わるまで続きましタ」
「なッ、なんと?中学生まで!我が惑星でも、そこまでは……」
「ダンタロさん、そんな年齢まで続けるなんて……なんて寂しい」
「やめてくれーェッ、恥ずかしいィィィッ!」
弾太郎の抗議、というか悲鳴だが無視。
さらに、王子とルキィの悲しそうな視線が弾太郎の羞恥心に強烈な衝撃を与える!
弾太郎の自尊心回路?がギリギリの抵抗を試みる!
だが、所詮は無駄な抵抗!
「そんな彼の幸福な時間にも終わりが来タ……」
「え、ダンタロさんの身に?」
「一体、何が!」
「それ以上は、それだけは、いうなぁ―――ッ!」
ジンは一呼吸、おいて結末を告げた。
「その頃、小学生になったばかりの大地君にいわれたのだ。『弾太郎ってホントお子様だよなー』」
「そんな……」
「ひどい、ヒドイよ。大地君……」
「そして弾太郎はすべての思い出をここに封印し、防衛警官への道を踏み出したのダ……」
非情な結末にその場にいた者は皆、首をうなだれ涙した。
ただひとり、床に横たわる弾太郎だけは別の理由で涙を流していた。
「ジン…………君がどーしてそこまで知ってるの?」
「あー?弾太郎が気絶してる間にオバちゃんや大地君と世間話しててネ」
いま弾太郎の中で、ひとつの歴史が幕を閉じた。
そう厨二病という名の秘匿された、黒い歴史が。
(いいんだ、これでいいんだ。これで)
疲れ切った顔でようやく安らぎを得た弾太郎、だが。
パチパチパチ……
沈黙の中でひとりだけ皮肉っぽい薄笑いを浮かべて、拍手している者がいた。
弾太郎の父、真榊 海人その人であった。




