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封印された(黒)歴史?

どこだろう、ここは?

見上げても薄暗いと感じだけで何も見えない、何も聞こえない。

壁や床に触れている感覚もない、かといって空中に浮いているのとも違う。

深い水の中にどこまでも沈んでいくような感覚があるだけだ。

何もない、誰もいない、奇妙な孤独感が恐ろしくなって叫びだそうとした。


(なんだ?誰だ?何かいる?下の方に…………)


何かの気配があった、生き物なのかどうかも定かではなかったが。

体をひっくり返して下を向いた、そしてそいつは視界いっぱいに、そこにいた。

巨大な黒い翼を広げる巨大な鳥、いや怪鳥がそこにいた。

両足の鈎爪で何かをしっかりと掴み、漆黒に輝く双眸で虚空を睨む。

鋭い嘴を開いて何かを叫んでいる。


(あれはルパルス王子か?いや、違う、あれは……)


姿はルパルス王子そっくりだが、違う。

二回りも三回りも大きく、凶暴で荒々しい。

姿は同種の怪鳥だが、まき散らす敵意のレベルがまるで違う。


「なんなんだ?この怪獣……化け物は?」


もはや怪獣などとはいえない、強烈というより禍々しいエネルギーを放つ化け物だった。

早く逃げなければ、こいつから離れなければならない。


「そうだ、コイツには僕は、近づいちゃ……いけないんだった」


とたんに弾太郎の体は強い力で上に向かって引き上げられた。

引き上げられる途中、どこからか声が聞こえてきた。


「まさか、このような代物がここに」

(なんだ、この声?)


声は遠くから聞こえてくるようでもあり、耳元で囁かれているようにも思える。


「驚きました、実物を見るのは初めてです」

(ルパルス王子の声だ。いったい何を?それにどこから?)


周囲を見回しても姿は見えない。

灰色の濃淡がマーブル模様となって回転しているだけだ。


「フッフッフッ、さぞや驚かれたでしょう?しかし、こんなものは序の口……」

(父さんの声も聞こえるぞ。でも何をしてるんだ?)


嫌な予感がする。

もともと胡散臭いところがある父親だが、最近は特によからぬことを企んでいる気がする。


「ジンさん、こっちもすっごいのありますよ、ホラ!」

「うーん、聞いてはいたけど……ここまでとハ」

(ルキィさんにジンもいるのか?みんなで集まって何をして、ウワッ?)


瞬間、ものすごいスピードで一気に上へと引き上げられた。

弾太郎を囲んでいた灰色は一瞬で消し飛び、目を眩ませる光量が一気に流れ込んできた。


★☆★☆★☆★


「坊ちゃん、具合はよくなりやしたか?」

「……ああ、ゲン爺。まだちょっとクラクラするよ」


社務所の来客用ソファで弾太郎は目を覚ました。

半身を起こしてみたものの、めまいがしてそれ以上は起き上がれない。

なにか悪い夢を見ていたような気がするが、思い出せない。


「みんなは?」

「ルパルス様のお召し物を探すとかで……」

「そうか、でもこの島には子供服なんて売ってないから。同じ年頃の大地君の服を借りるくらいしか」

「いや、それがですねェ。サイズが全然ブカブカで」

「ああ、そうかぁ。大地君、大き目サイズだからなぁ」

「それで坊ちゃんのお古でなんとかしようってことになって、今みんなで倉の方へ」

「まあ仕方ないよね、僕のお古に……僕の、お古?倉の中の?」


自分のお古と聞いて弾太郎の顔色が変わった。


「お古って……まさか、アレを?」


少しずつ戻ってきていた血色がサーッと引いて、元の青い、いや通り越して真っ青な顔色になった。

ソファから飛び降り、というか転がり落ちてそのまま走り出したかった、けど貧血でへたり込む。


「坊ちゃん?まだ寝てなきゃダメでごぜぇやすよ!」

「それどころじゃ……ない!」


フラフラとよたつきながら弾太郎は神社裏手の物置倉に向かう。

ゲン爺が心配して引き留めようとするが、振り払って進もうとする。

目指す倉は江戸時代後期に建てられた、神社の祭具を補完するための倉だ。

その中に一体何が眠っているのか?


★☆★☆★☆★


物置倉は社務所の裏手にひっそり立っている。

江戸時代の建築とあって重要文化財指定の話も出ているのだが、本殿の調査もまだのため宙に浮いたままだ。

その倉のごっつい扉の前には砂川長官が座っていた。

手持ち無沙汰のようで煙草をくわえている。

息を切らせてやってきた弾太郎に気がついて煙草に火をつけようとした手を止めた。


「長官……」

「お、弾太……真榊巡査。具合はもういいのか?」

「長官、そこ禁煙です!」

「あ?す、すまん。忘れとった」


長官は慌てて、火を消し煙草をしまった。

由緒ある木造建築の近くで火は厳禁だ。


「他のみんなは?」

「中に入ったぞ。中は狭いからって、わしだけ追い出された。ったく長官をなんだと思っとるんだ?」


弾太郎は不機嫌そうな長官を押しのけて扉の前にきた。

扉に耳を押し当てて、物音に聞き耳を立てる。


「まさか、このような代物がここに」

(えっ、ルパルス王子の声!)

「驚きました、実物を見るのは初めてです」

「フッフッフッ、さぞや驚かれたでしょう?しかし、こんなものは序の口……」

(どこかで聞いたような会話……なんていってる場合じゃない!)


しかも既に彼らは最終地点に到達している!

弾太郎が隠してきたアレを手にしているに違いない。


「ジンさん、こっちもすっごいのありますよ、ホラ!」

(ルキィさんまで?何を見つけたんだ?)

「うーん、聞いてはいたけど……ここまでとハ」

(ジンッッッ!お前まで何してるんだよ)


もう聞き耳をたてている場合ではなかった。

分厚い扉を必死に開いて、ご馳走に群がるハイエナたちを押しのけて涙ながらに訴えた。


「みんな、もうやめて!」

「おや、弾太郎さん?具合はもういいのですか?」

「殿下、それは……」

「ええ、勝手にお借りしてもうしわけありません。ですが気に入りました」


裸だったルパルス王子だが、今はTシャツと短パンを着ていた。

弾太郎が中学生になる前まで着ていたお気に入りのシャツだ。

にこやかに、ルパルス王子は両手を広げて見せた。

シャツの胸の中央に浮かび上がる黒い異形の顔。

次に後ろ向きになると不気味な黒い紋章が背中一面に広がっている。


「王子、それは……」

「仮面ファイター・ダークネス衛星放送記念Tシャツ、限定闇堕ちバージョン……」


流れるように出てくるレアアイテム蘊蓄は闇の呪文のように薄暗い蔵の中に静かに響く。

ルパルス王子が笑う、先ほどまでの爽やかな少年の笑顔ではない。

ニィッと唇の両端を吊り上げる邪悪な笑み。

チラリとのぞくカワイイ八重歯が、吸血鬼の牙のように見えた。


「それを見つけたんですか……」

「視聴者プレゼントが中止となり試作品も処分された、と聞いていましたが。まさか実在していたとは……」


宝を見つけたトレジャーハンター、いや禁断の地を侵す略奪者であろうか。

秘蔵のTシャツばかりか復刻版完全再現変身ベルト(実売価格3万円税別)まで王子は手にしていた。

危険さを増す王子のオーラに押されて後ずさる弾太郎の背が誰かにぶつかった。

振り返るとルキィが背後に幽鬼のようにユラリ、と立っていた。

ビニール包装された古い、何かおもちゃの人形のような物を手にして。


「……ダンタロさん、これ」

「ルキィさん、何を……」


手にした人形は未開封のビニールに入ったままだ。

袋の口を閉じたボロボロのボール紙には人形の名前が入っていた。

数十年の時間の中で茶色く変色した文字はこう読めた。


『総天然色映画 大怪獣ゴズラ』


大怪獣映画シリーズの古いソフビ人形だった。

そうだ、ルキィがこの上なく愛する特撮怪獣映画の主人公・ゴズラ様の。


「なんで、これ……隠してたんですか!」

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