華麗なる変身?裸の王子様&怪獣娘!
「さて、そう決まったところで……その姿は問題だな」
ルパルスの姿を見上げて、海人はちょっと考えた。
体長35メートル、翼を広げると50メートルを超える怪鳥が街中を見物するなど許されるはずがない。
そもそも、この大きさではスペースダブルタワーの入場ゲートだってくぐれない。
『心配ありません。人間態への変身はみっちり練習してきました!』
自信があるのかルパルスは自分の胸をパンパンと翼で叩く。
こころなしか、エッヘンっていう感じでドヤ顔してるようにも見える。
「そうか、では何か擬態補助アイテムを用意しよう。倉庫にルキィちゃん用のスペアがあったはず」
『いえ、海人様!アイテムは必要ありません』
『えっ、王子様もアイテムなしで?スゴイですよ!私なんかまだアイテム頼りなのに』
胸を張ってきっぱりと断るルパルス王子。
アイテムなしで擬態すると普通は一時間はかかるのだが、堂々と胸を張るあたり自信は大いにあるらしい。
そんな誇らしげな王子の様子を弾太郎は微笑ましく見ていた。
(なんだか子供みたいな王子様だなぁ……それより今、問題なのは、こっちか)
弾太郎が視線を向けたのはルパルスではなく、ヘリコプターのパイロット君の方だった。
いまだに状況が把握できないらしく、うろたえ気味にキョロキョロしている。
パイロット君に近づいた弾太郎はいきなり肩をつかんだ。
「な、ななな、なんですカ?」
「あのね、そろそろ……」
『ご覧ください、海人様!そして皆様!この日に備えた特訓の成果を!』
何やらパイロット君に話かけようとしていた弾太郎だったが、賓客を無視するわけにもいかない。
パイロット君と並んでルパルス王子の方に向き直り、特訓の成果を拝見することにした。
キュゥゥゥッ……『……フゥゥゥッ!』
全員の視線を浴びてルパルス王子はがぜん張り切っていた。
なんだか異様なオーラが出ていそうなくらいの熱の入り方で気合を溜めている。
キュリリリリィッ!!!『ハァァァッ!!!』
翼を広げ、気合を込めて、右の翼を一振り旋風を巻き起こし!
左の翼を斜め上へ振り上げ、カラテの手刀のように構える。
「あの奇妙な動作が人間に擬態するための……」
「あ、あれね。別に動作には何の意味もないから」
「……エッ、そうなノ?」
「特に動作や呪文はいらない、って僕の幼馴染が……いや、どこかでそう聞いた覚えがあるよ」
弾太郎の素っ気ない解説でパイロット君、拍子抜け。
ルパルス王子、続いて頭上に振り上げた翼を震わせ、目を閉じる。
キュィン、キュィン……
今度は低い、なにかが回転するような音がどこからか聞こえてくる。
「この音は一体?擬態の変化に伴って音が発生して……」
「……たぶんこれはルパルス王子の……口三味線だと思う」
「くちじゃみせん、って……なんでわざわザ?」
多分、変身ポーズの気分出したいんだろーな、と弾太郎は思ったが、黙っとくことにした。
一連の動作もよく考えてみれば、とある特撮変身ヒーロー番組のパクリだった。
(まさか、この王子様……地球の特撮番組オタクとかじゃあ?)
ちなみにルキィは怪獣映画の帝王『大怪獣ゴズラ』シリーズの熱狂的ファンだ。
彼女の部屋はゴズラ様のDVD、ビデオ(VHS&ベータ)、ポスター、クッションから消しゴムひとつに至るまで、すべてがゴズラ様グッズだけで構成されている。
ゴズラ様以外は不純物として排除された異常空間だったりする。
(まさか、この王子もまさかアレ……考えすぎか。変身ポーズだって偶然の一致に決まって)
ヒュゥォッ!『変ッ身ッッッ!』
(思い切り、アレだった!)
勢いよく翼を振り下ろし、腰を落とし両翼を低く広げた決めポーズ!
宙を舞う青い羽毛に怪鳥の姿が覆いつくされ視界から消える。
……偶然の一致ではない。
この王子様、超有名特撮変身ヒーローを意識し、模倣し、リスペクトしている!
……渦を巻く青い羽根が消えた後、薄暗い格納庫の中からはルパルス王子の姿が消えていた。
「ふむ、年齢の割には見事だな」
「海人様のお褒めに預かるなんて、光栄です!」
海人の視線の先、ルパルスが消えたあたりに少年が立っていた。
年齢は小学生、いや中学生なりたてといったところか。
あどけない顔立ちだが彫の深い日本人からすれば異国人っぽい。
深い青い大きな目は好奇心に溢れて王族らしからぬ人懐っこさと悪戯っぽさを秘めている。
唯一地球人と違っているのは、瞳と同じく深い青さを持つ髪くらいだ。
怪鳥は異邦の美少年に姿を変えても、なお生まれついての品格を失うことはなかった。
海人は人間態となったルパルスに近づいて膝をつき、親しげに語りかけた。
「地球の言葉も完全にマスターしておられる。随分と勉強なさったようだ」
「アハハハ、言葉は睡眠学習頼みでしたけどね」
「おっと、まずは服を何とかしなけりゃ。素っ裸のままじゃあ外、出歩けねぇですよ」
「あ、そうだった。実は秘蔵の服を用意していたのですが……宇宙船に置いてきてしまって」
裸を気にしたわけではないだろうが、少し恥ずかし気にペロッと舌を出すあたり、年齢相応の子供らしい笑顔になっていた。
「驚いたな、本当に人間に変わってしまっタ……」
「あれ?お前、怪獣の擬態シーケンスを見るの初めてだったっけ?」
「ああ、防衛警察学校の教材で見たことがあるだけダ」
呆然とするパイロット君と親しげに話す弾太郎を見て、ルキィがいぶかしむ。
『あの、ダンタロさん』
「ん?なにか……」
『そのパイロットさんと親しいみたいですが、お友達さんですか?』
「え、前に会ったことあるだろ……ああ、そうか。ジン、顔見せてあげて」
「ん?これで、いいカ?」
ゴーグルとヘルメットを外すと現れたのは金髪のイケメンな知り合いだった。
「僕の悪友、ジン・カイザウェルだよ。ほらドンエルさんの事件で……」
「おいおい、悪友はないだろ、弾太郎?それに確かにこの『赤い怪獣』さんは見たけど、俺を知ってるわけが、ワァッ!?」
思わずパイロット君改めジンは飛びのいた。
目の前ほんの10センチのところに赤い怪獣の巨大な顔があったのだ。
鋭い牙が並ぶ口の熱い吐息と、サッカーボールより巨大な真っ赤な瞳を前に怯えない地球人などいない。
『あー、思い出した!あの時の運転手さんだ!』
「え、なに?ナニ?何?俺、この怪獣さんに何かしたカ?」
少し前の事件で短い時間ではあるがルキィはジンの運転する特殊車両に同乗している。
その後、怪獣となって戦うルキィの姿も目撃はしている。
だから面識はある、といえばあるのだが。
その後に有名となる『赤い怪獣』の正体が赤髪の元気な少女とまでは知らない。
ガァッ……ガァッ?『あの後、ダンタロさんをどこかへ連れて行ったんですよね?』
「あーそういえば、思い出した。ジン……あれって誤認逮捕、だ・よ・ね!」
「そーいえば、そんなことも……グェッッッ!」
ジンの首にゲン爺の両腕が背後から巻きつき締めあげていた!
柔道でいう『裸締め』が完全な状態、自力脱出が不可能なレベルで極められている。
あっという間にジンの顔色が赤から青に変わり、白目を剥いて口からは泡がブクブクと。
「ゲン爺、ダメ!早く離して!死んじゃう」
「でも、こいつぁ坊ちゃんを留置所へぶち込んだ奴!けしからん、息の根止めて……」
「誤解だから!僕の親友だから!殺しちゃダメ!」
「まぁまぁゲンさん。あの時はワシの手落ちもあったし……」
砂川長官のとりなしもあり、とりあえず解放してもらえたが……
「ジン、大丈夫?!意識の混濁はない?」
「ううっ、ママンが川の向こうで手を振ってるのが見えたヨ」
恐怖の抜けきらないジン、三途の川ギリギリのところで引き返せたらしい。
『ジンさん、さっきからどうしたんです?私のこと覚えてないんでしょうーか?』
「弾太郎、この怪獣さん何ていってるんダ?」
「そうだね、後でルキィさんの人間態での姿を見てもらえば」
「え、ルキィさんって、え?ええっ!ルキィさんなのカ?」
『そっか、わかりました!擬態……開始!』
「わっ、ルキィさん?ちょっと待って!」
巨大怪獣にしてみれば針か爪楊枝ほどの、カワイイ『魔法のステッキ』を構えた時点でジンは目が点になった。
それを空間に光の軌跡を残して振ること2度、3度。
オルゴールのようなBGMが響く、七色の花吹雪の中で怪獣の姿は光の玉の中へ消えた。
「おお、ルキィちゃん。特殊効果を新バージョンに変えたのか」
「こいつぁ華やかで賑やかで、春向きでごぜぇやすねぇ」
「うーむ、擬態補助アイテムなど初心者用だと思っていましたが……これは、なかなか」
のどかにのたまう海人とゲン爺の横ではルパルス王子が何かに納得しているようだが、弾太郎だけは慌てふためいている。
「まままま、まずい!ルキィさんの着替えを持ってきてない!取りに行かなくちゃ」
「待ってくれ、弾太郎!説明してくれヨ!」
「ジン?は、離して、急がないと……」
「手遅れだな、終わったようだ」
砂川長官がいう通りでルキィを包む光の繭が弾けた。
光の粉雪の中で魔法のステッキを抱いて微笑む、赤髪の美少女。
そう、いつものように、だ。
「これなら、わかりますよね?ジンさん」
「あ、うん、わかる。…………よく、わかるヨ」
「ジンさんわかってくれました!ダンタロさんの言う通り隠し事ってよくなかったんですねー!」
確かに一切の隠し事のない姿、というかルキィは完全脱衣状態でどこも隠していない。
これぞ裸の付き合い……といっていいものなのか?
ちなみに弾太郎は鼻血をまき散らして仰向けに倒れ、意識を失っていた。
本日2度目の大出血なので貧血でも起こしたのだろう。
とにかくジンは状況を理解できた。
ポリポリと頭を掻きながら、自分のジャケットを脱ぎルキィに羽織らせ、弾太郎を肩に担いだ。
「まず、服を着なきゃネ、殿下もルキィさんも。さもないと今度は弾太郎が三途の川行きになりそうダ」




