お願い、第七の男様
「父さん、本当に何もしてないんだね?本当に?」
「弾太郎、なにもそこまで疑わなくても……」
ガオッ、ガォゥッ!『けど海人おじさま、この間だって。格納庫の隅にあんな物を』
「シッ!シィーッ、ルキィちゃん!あれはちょっとした手違い……」
警官だらけの境内で、思い切り挙動不審な海人を砂川長官はギっと睨む。
「何かいったか、海人」
「いや、なんでもない」
ごまかそうとする海人だが、砂川長官は翻訳機付きヘッドセットをトントンと指先で叩いて見せる。
「便利だな、コレ。怪獣語に不勉強なワシでも何を喋ってるか、よーくわかる……それで、格納庫の隅に、どんな物があったんだ?」
「いやいや、それはもう片付け……あー、ルパルス王子、何か?」
『あのぅ、海人様……?』
ルパルスが大きな嘴を近づけてきた。
人間たちの会話(というか漫才だが)が面白いらしく、海人から目を離さない。
もっとも今は海人よりも、その後ろにいる弾太郎とルキィに興味は移りつつあるようだ。
『そろそろ紹介していただけないでしょうか?お忙しいのはわかるのですが』
「おお、そうでした!紹介が遅れましたが、私の愚息で……」
「おいコラ!ごまかすな、海人!」
「真榊 弾太郎巡査です。初めまして、殿下」
「それでこちらのお嬢さんが私の知り合いの娘さんで……」
ヴワォゥッ!『ルキィ・マーキシマス巡査です!よろしくーッ!』
『初めまして、ダンタロ……ウさん、ルキィさん』
地球式の敬礼で弾太郎は挨拶し、ルキィもそれにならう。
ルパルスは片膝をつき、両翼を体の前で交差させて答える。
それが彼らのお辞儀や敬礼にあたる動作なのだろう。
怪獣とは思えない、優雅で軽やかな美しさ。
島のおばちゃんたちがホゥッと、ため息ついて見惚れる。
まるで、青い翼の天使が降臨したかのようだ。
『ヴァングラン星系ルントゥス王の第17王子、ルパルスです。お見知りおきを』
★☆★☆★☆★☆★
普段は『うずしお丸』一隻だけだが、於母鹿毛神社地下の格納庫には宇宙船数隻を格納できる広さと高さがある。
発進ゲートを通るのは一隻ずつがせいぜいだが、入ってしまえばルキィとルパルス、怪獣二人が入ってもまだまだ余裕がある。
一行は今、砂川長官と一緒に地下へ移動していた。
どこからでも丸見えの場所に賓客であるルパルスをいつまでも、晒しておくわけにいかなかったからだ。
岩肌がむき出しの殺風景な格納庫の天井をルパルスは感慨深げに見上げている。
『ここが、古代銀河系間戦争時代の基地ですか。すごいや、基幹システムもまだ生きてるんだ』
「ワシも入るのは初めてだが。それで……ここの隅っこに何があったんだ、海人?」
「あ―――それで、これからどうなさるおつもりですか?ルパルス王子」
とりあえず『隅っこのあんなモノ』の件はシラを切り通すつもりらしい。
古代のロマンに魅入られていたのか、ぼんやりしていたルパルスだったが海人の言葉で我に返ったようだ。
『そうですね。海人様へのご挨拶が目的でしたから、役目は果たしたのですが。このまま帰るというのも……』
「では、地球観光……失礼。地球の文化など視察されてはいかがでしょうか?」
『いいですね!ぜひお願いします!!』
海人が何気なく口にした一言だが、周りにいた者たちにしてみれば超大型爆弾に等しい効果があった。
「おい、海人!何考えてる?意味わかってのか?」
「父さん?どういうこと?聞いてないよ」
「海人の旦那、それってウルトラヤバイ話じゃねぇですか!」
『観光?どこ行きますか?私、スペースダブルタワー見に行きたいです!』
『スペースダブルタワー?僕も見たいです、ぜひ行きましょう!』
状況がわかってない奴もいた。
大きな赤い怪獣が軽くウキウキスキップして、細い尻尾もぴょんぴょんと跳ねまくっている。
スキップのたびに格納庫全体が大地震さながらに揺れて、ルパルス王子以外は全員がひっくり返りそうになってるのも気づいてない。
ルパルス王子までウキウキスキップにシンクロして揺れ被害を上乗せしてる。
「あのね、ルキィさん。王子様が観光、じゃなくて視察するってそんな簡単じゃないだよ」
「そうだとも!護衛の手配に警備の配置、事前の調査、関係部署への根回しもだけでも頭が痛いんだぞ」
「あっしもやめといた方がいいと思いやす。暗殺されちまったらどーすんですか」
以上、観光……視察反対派は弾太郎、砂川長官、ゲン爺の3名。
『えーっ、やめちゃうんですか?せっかく地球まで来てくれたのに』
『不服を申し立てます!王族といえど本人の自由意志を尊重すべきです!』
対するもっと遊びたい派、もとい視察賛成派、ルキィ&ルパルスの2名。
多数決の結果、観光旅行……ではなく視察計画は白紙に戻った。
「まあまあ、王子の国も今は安定しているし、暗殺の心配はなかろう?」
『ええ、海人様のいう通りです!我が国は今は大きな政争もありません!王子ったって17番目ですから狙う価値なんか全然ですし』
海人が余計な一言を入れると砂川長官の顔が『苦虫を嚙み潰したような顔』というやつに変わる。
海人が加わったせいで賛成派は3名に。
しかし3対3の引き分けでは結論は保留扱いだ。
遊興、いやいや『友好的異文化視察計画』は実行には至らなかった。
『そうですね、では貴方の意見も伺いたい。どう思いますか?』
「えっ、僕ですカ?」
なぜかこの場に主要6名以外の人物がいた!
ヘルメットにゴーグル姿の第7の人物、ヘリコプターのパイロット君だ。
今まで暇そうーに、木箱に腰かけてスマホいじってたのだが、いきなり話を振られてあたふたしている。
一般警官なので怪獣語はほとんど理解できないはずだが、地球人側のやり取りだけでもおおよその内容は理解できているようだ。
「おい、なんでお前がこんなとこにいるんだ?」
「そんなこといったって、カバン持ち代わりにって引っ張ってきたの長官じゃないですカ!」
「あー、そうだっだな。うむ」
小声で咎める長官にちょっとビビリ気味のパイロット君がいいかえす。
他の面々の反応は様々で、弾太郎は何か言いかけたのだが、なぜか急に黙ってしまった。
海人は焦るパイロット君を面白そうに見ているだけだ。
ゲン爺はまるで、パイロット君を睨んでいるようだ。
ルキィは……なんか、すがるような眼で『スペースダブルタワー行きたい!』と訴えかけてる。
ルパルス王子は当然だが、期待の熱いまなざしをパイロット君に送ってる。
「あ、いえ……特に意見といいましても……まぁ、異文化に触れる機会は大切にした方がいいかなーと」
ついに4対3で逆転!
この瞬間、地球-ヴァングラン初の恒星間異文化交流視察が始まった。
両手で頭を抱える砂川長官、仏頂面に見せかけて実は口元が笑ってる海人、深刻な顔で悩むゲン爺!
早くもルンルン気分のルキィ、何やら考え込んでる弾太郎、訳が分からないままヘラヘラしてるパイロット君。
カオス状態の中でひとり、ルパルス王子だけが無邪気に喜んでいる、と見せて嘴の先から少しだけペロッと舌を出している。
『よかった……これで、なんとかなりそうだ』




