身の程を知る神主様
その日、午前中の務めを終えて神社のホームページを更新していた海人はふと、顔を上げた。
「ん?何やら外が騒がしいな」
キィ―――ン。頭上からは超音速機の空気を切り裂く甲高い音。
ブォォォッ。ブォッ。ブォォォッ。遠くから船の汽笛がいくつも重なって。
バリバリバリバリ。すぐ近くではヘリコプターの下降する音まで。
「これは防衛警察軍か?もしかしてルキィちゃんが何かやらかしたか?」
最近は地球に慣れてきたルキィだが……。
まだまだ常識が足りない上にかなり天然娘とあって、常に新たなトラブルを開発している。
この時間なら弾太郎と周辺空域のパトロールに出ているはずだ。
海人は何とも言えない胸騒ぎがして心配になった。
「何か厄介なものに遭遇したのか、とにかく弾太郎に連絡を」
ビィーッ!
弾太郎からの緊急呼び出し音!
ハッ、とした海人は急いで通信回線を開く。
「弾太郎!何があっ……」
『父さん、何やらかしたの!?』
「えっ……?」
『島を防衛警察が包囲してるよ!』
「ちょ、ちょっと待て?」
『鳥みたいな小型の怪獣もいる!境内に着陸しようとしてる』
つぎつぎ飛び出す息子の言葉に海人は何が何だかわからなくなった。
防衛警察軍が島を包囲?
一緒に怪獣が来襲?
境内に着陸?
「と、とにかく急いで戻ってくれ」
『了解!!』
「海人様ぁーッ、大変ですぅー」
弾太郎からの通信が切れると、今度は表からゲン爺の声だ。
「おお、ゲンさん?ちょうどよかった。今、」
「海人様、今度は一体何やらかしたんでごぜえますか?」
「私じゃないぞ!」
普段の行動がその人の評価を決定する。
これからそれを思い知ることになるとは……まだ想像もしていない海人だった。
★☆★☆★☆★☆★
何もわかっていないままゲン爺に引きずられて、海人は境内に出た。
そこにいる鳥形怪獣を見て海人は止まった、というより凍りついた。
「な、なんでスターバード種の怪獣が、この島に来たんだ?」
『あ、貴方が海人様ですね?初めまして』
優雅な一礼とにこやかな挨拶をしてくれた怪鳥。
対する人間側は最高に緊張する警察軍と面白そうに見物する野次馬。
一番、取り乱しているのが驚きのあまり思考停止、身体硬直している海人だ。
これでも普段は息子に『男は冷静沈着に』だの『明鏡止水の境地』だのえらそーに説教しているのだが。
挨拶を返すのも忘れている海人とゲン爺に、岬家のおばちゃんが近づいてきた。
「ねぇ、真榊さん。アンタ今度は何やらかしたんだい?」
「だから何もしてないって!」
「ホントですかい、旦那?心当たり、何かあるんじゃねぇですかい?」
「だから、ないって!」
ヘリから降りてきた砂川長官がツカツカと歩いてきた。
海人の前にたち咳ばらいをひとつ。
「コホン、元気そうでなによりだ。で、何をしたんだ?」
「アンタまでそれかい!」
その時、怪鳥が砂川との間に割り込むように頭を突っ込んできた。
『あ、あの、すいません。私が何か誤解させてしまったようで……』
「ああ、これは失礼しました。こいつがお探しの海人……」
「貴方は確かルパルス様でしたな?ヴァングラン星系ルントゥス王の第17王子の」
なんとか落ち着きを取り戻した海人は怪鳥、いやルパルス王子を見据えた。
ただ、語調は丁寧なのに相手への敬意や貴人への畏怖がまるでない。
むしろ不機嫌さと警戒心と何かを疑っている気配すらあった。
「おい、海人。相手は有力国家の王室関係者だぞ、もう少し」
「……これは失礼いたしました、殿下。なにぶん高貴なお方とは縁がないものでして」
やはり不機嫌さも警戒心も変わらない、丁寧なだけの言葉遣いだ。
長官と違って海人は翻訳機なしでも相手の言葉がわかる
その分、不快感まで伝わっているようで相手の方が申し訳なさそうな顔をした。
『非礼を重ねているのはこちらの方ですから。心からお詫びいたします』
「……父上はお元気ですか?」
『はい!この間も宇宙海賊怪獣相手に大立ち回りして本拠地ごと壊滅させてました!』
「ふふ、ルントゥスめ。相変わらずだな」
ようやく海人の顔から不快感が消えて、どこか昔を懐かしむような、優しい笑顔に変わる。
ハラハラしながら見ていた警察軍と長官が安堵し、面白そうに見ていた野次馬おばちゃん軍団が好奇心を倍加させた。
「おい、海人。何がどうなって、うわっ?」
「えーっ、この大きな鳥さんって王子様なの?真榊さん家とどーゆー関係なの、ねぇねぇ?」
長官、岬家おばちゃんパワーに吹っ飛ばされて尻もちついて、痛そうにしかめっ面してる。
黙って見ていたゲン爺も首を傾げつつ、とにかく成り行きを見守るつもりらしい。
「昔、仕事で付き合いがあった方のご子息。それだけですよ」
それだけいうと海人はあらためて怪鳥王子ルパルスに片膝をつき、ダランと下げた両腕を体の前で交差させた。
さっきまでの無礼さはもうどこにもない。
地球式の作法ではなさそうだが、それでいて温かい感情を込めた挨拶だ。
まるで家族を迎えるような。
「ようこそ、おいでくださいました。歓迎いたします、殿下」
『こちらこそ、お目にかかれて光栄です。カイ……真榊 海人様』
「丁度、私の倅たちも戻ったようです。紹介いたしましょう」
パトロールに出ていた宇宙船『うずしお丸』が戻ってきた。
本来なら境内の偽装発射ゲートに着艦するのだが、今はルパルス王子がゲートの上にいるため沖合に着水したようだ。
見ているとそこから赤い大きな影が海上を接近してくる。
謎の怪鳥まで出現する異常事態発生に、ルキィが怪獣態に戻って臨戦態勢で外へ出たのだろう。
ザバッ、ドドドドド……
ものすごい水音をたてながら海を断ち割って、ルキィの赤い巨体が間近に出現した。
ルキィの頭の上にチョコンと座らされているのは弾太郎だ。
いつものように鼻の穴にティッシュを詰めてるところを見ると、やっぱりいつも通りのドタバタがあったのだろう。
ルキィが牙の並んだ大きな口を開けて咆哮する。
グガァァァッ!
『海人おじさん、何やったんですか?』
「ルキィちゃんまで私を疑ってんの?!」
海人は己の人望のなさを知り、泣き出したくなった。




