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飛来した王子様

『珍しく、その日は平和に過ぎていった』と、防衛警察極東支部業務日誌に記録される予定だった。

事実、前日22:27の真珠強奪怪獣の確保を最後に24時間、何も起きていなかった。

レーダー要員交代の直前、成層圏スレスレに光点があらわれた。


「未確認物体、降下中!落下予測地点、K市の北東市街地区です」

「正体は何だ、人工物か?生物か?」

「それはまだ……少なくとも隕石や自然物ではありません」

「遅い!たるんでるぞ!」


仮眠室で寝ていた砂川長官が交代要員を一括する。


「1秒の遅れが致命傷になる!気を引き締めろ」

「は、はい……生物です、体長約35メートル。細部の特徴は高温プラズマの影響で……」

「ん、どうした?気を引き締めろ、といったばかりだぞ」

「長官、その……」

「なんだ?早くいえ」

「制服、後ろ前が逆であります!」


砂川長官は自分の胸元を見た。

威厳ある司令官専用制服の背中が見えた。

前ボタンとネクタイは全部、自分の背後にあった。


「あー、諸君。これは悪い見本だ。防衛警察官たる者、常に冷静沈着を」


そばで見ている秘書の冷めた視線に負けて、砂川長官は言葉を続けるのをやめた。


★☆★☆★☆★☆★

K市北東の市街地区に、まずヘリ2機が到着、続いて戦車2台がやってきた。

後続部隊はまだ基地を出ていない。

戦闘態勢に入った戦車の中で砲手が操縦席に向かって不安そうにぼやいた。


「おい、こんな兵力でなんとかできんのかよ」

「仕方ないだろ。近くに配備されてんのは俺達だけなんだから」


彼らも防衛警官なのだが不安になるのも当然だ。

戦車だ武装ヘリだといっても旧式装備、相手が怪獣ならまず通用しない。


「とにかく手は出すな、正体を確認するだけだ、ってさ。」

『こっちもそうしろと命令されている。人家に近づかない限り発砲するなよ』


武装ヘリの隊長からの言葉で戦車の2名は少し落ち着いた。

はっきりいって怪獣相手にこの戦力では全滅するだけだろう。

とはいっても人的被害が出そうになれば逃げるわけにはいかない。

再び緊張する防衛警官たちの頭上にオレンジ色に光る小さな点があらわれた。


「あーあ、せめて噂の『赤い怪獣』が助けにきてくんないかなー?」

「最近じゃ海上防衛警察内でオサカナマンとかいうのも噂になってるらしい」

「なんだよ、そのふざけたネーミングは」

「さあ?聞いた話じゃ、蛇……お、近づいてきたぞ」


光は急速に大きくなってきた。

まっすぐに、ここに向かって落ちてくる。


「意識的に減速しています」


この大きさの隕石なら甚大な被害が出ること必至だが、この落下物は気を使って減速してくれたらしい。

プラズマの炎に包まれた内側に、大きく広げられた翼の影と青いく輝く鋭い大きな目が視認できた。

宇宙からやってきたそいつは、猛禽類のような頭をせわしなく左右に動かしている。

どうやら着陸場所を探しているらしい。


バッ……。

「……星?」


広げた翼の羽ばたきひとつでプラズマ炎を振り払うと、全身の形があらわになる。

青い羽毛に覆われた翼を、巨大な鉤爪を持つ両足を広げて、首を伸ばした姿は美しい星型だ。

重量感に似合わぬ軽やかさで舞い降り、両足が大地をつかむ。

音一つ、埃一つたてない優雅な着地だ。

大きな青い瞳には旺盛な好奇心と穏やかな知性を宿し、怪獣を知らぬ者にも『微笑だ』と理解できる表情を浮かべる。


「なんだ、こいつ?ほんとに怪獣なのか?」

ほぉーん、ほぉぉぉー、ほん、ほぉん。


砲手の個人的感想を裏付けるように、怪獣はゆっくりと意識的な抑揚をつけた音楽のような鳴き声を発した。


「鳴き声じゃない。これは……言葉だ」


現場からの中継を見ていた極東支部でも声は伝わり、自動翻訳機で同時翻訳されていた。

その内容を聞いた指令室は騒然となった。


『初めまして、地球の方々。私はヴァングラン星系第四惑星から参りましたルパルスと申す者。ヴァングラン王家の第17王子です』


ここまででも十分騒ぎになる内容だったのだが。


『カイトゥ……コホン、あ、えーと真榊 海人殿に『ルントゥスの息子が挨拶に参った』とお伝えしてほしい』

「あのアホ神主、今度は何をやらかしやがった!」


指令室の面々が驚愕した瞬間に、砂川長官の怒声で驚きはかき消された。

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