(蛇足)竜神様の憂鬱
「お疲れ様でごぜぇやす、乙姫様」
「あ、ゲンさん。サンキュー」
於茂鹿毛島の防衛警察駐在所(兼 公民館)で、乙音は今日も厄除けお札の山を前にしていた。
段ボール2箱分終わったところで、気を利かせたゲン爺が冷たい麦茶を持ってきてくれた。
冷たい麦茶を一気飲みし、氷も行儀悪いがガリガリかみ砕いて呑みこむ。
「おーっ、生き返るぅーっ」
「そいつぁよかった。ところでゴゾさんは一緒じゃないんで?」
「ん、兄島でルキィちゃんとスパーリングしてる」
「はぁー、随分と稽古熱心なこって」
窓から兄島の方を見ると、確かに赤い怪獣VS大蛇怪獣が打撃戦を繰り広げている。
はた目には激戦だが本人たちにとっては軽い運動程度らしいから恐れ入る。
「まあ、私の目の届く範囲にいなきゃダメなんだけど」
「常に契約主の管理下に置くものとする、てぇわけですな」
現在、ゴゾは乙音を雇用主として竜宮海底測候所のガードマンとして契約している。
生活すべてが彼女の管理下にあることで地球で働ける許可が出ているのだ。
「でもね。ゴゾ君、真面目で頑張り屋さんだから、きっと……立派な金魚屋さんになれると思う」
「そいつぁようごぜましたねぇ」
「うん……ところでね」
乙音は空になったコップを机に置いた。
今まで笑顔だったのが、急に暗い顔になっていた。
「この件で弾太郎ちゃん、何か気づいた……いえ、何か思い出したりしてない?」
「…………いえ、何も」
「そっか、思い出さなかったか」
「契約主の資格云々の話が出た時ゃ、ヒヤッとしましたがね」
「どうして弾太郎ちゃんにルキィちゃんと契約する資格があったのか。つまりどうして私と同じ銀河市民権を持っているのか、だね」
「坊ちゃんは海人様が『法律スレスレのコネを使ったんだろ』って信じてますが」
ゲン爺が空になったコップに氷と麦茶を注ぐと、乙音は『待ってました!』とばかりにまた一気飲み。
「で、ボケ神主もゲンさんも思い出して欲しいの?それとも欲しくないの?」
「そいつがつれェトコでしてね」
もう一つ持ってきていたコップに麦茶を注ぎ、ゲン爺も一気飲みした。
「プハァーッ……母上のことを思い出せば、余計な事まで思い出しちまう。どうして自分が怪獣を大好きなのか。どうして怪獣を」
足元に落とした視線と声が悲しくつらそうだった。
「……怪獣を、殺したいほど憎んでいるのか」
「あの優しい弾太郎ちゃんが防衛警察に入ろうとした原因なんだね。あんな事件さえなければなぁ」
「まったくで。あの時、あっしが……」
カチャカチャとコップを片付け、ゲン爺は席を立った。
「ごめん、余計な話しちゃったね」
「いえ、気にするこたぁありやせんよ」
「あ、ちょっと!」
神社へ戻ろうとするゲン爺を乙音は引き止めた。
「あのさ……手伝ってくんない?ちょっとだけ」
背後には空の段ボールが3個と白紙のお札の束。
ゲン爺はにこやかに答えた。
「ネットオークションで競り落としたコンサートチケット分、でごぜぇやすな?お断りしやす」
「そこを何とか……」
その時、一瞬だけゲン爺の気配が変わった。
気配だけじゃない、表情も、そして口調も。
「それにねェ……俺が書いたりしたら厄除けどころか不幸を招くぞ?」
「あ……私、そんなつもりじゃ」
「はっはっは。まあ、頑張ってくだせぇよ」
再び陽気な笑顔でゲン爺は帰っていった。
とりあえず『海の守り人』はここまで。
次の話のネタ、まだ思いつかない……




