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ランクC-2契約難航(於母鹿毛島海岸)

「戦闘を生業とする巨大生命体は戦闘技術と実戦経験、人格、血統にいたるまでの公式審査を経て地球流に表現すればAからEまでの五ランクに大別される。さらにランク内でも1から9までの細分ランクに分けられるのだ」

「Aランクってのが一番強いの?」


「そうだ。Aの1が最強とされている。宇宙戦艦一個艦隊に匹敵する評価を与えられてるがAの1だが、銀河全体でも十匹といない」

「宇宙戦艦って一隻でも惑星ひとつ消滅できる火力を備えてるんじゃ……」


「それより遥かに強いのがAクラスだ。報酬も破格だし、数々の特権も与えられている」

「そんなのがいるのか……」


「ま、Aクラスなど滅多にお目にかかれない。銀河パトロールの主力もあくまでB・C級だな。B級トップだと大型陸戦兵器十台分に匹敵、C級だとせいぜい1台分か」


陸戦兵器……現代の兵器は戦車だけではない。

百種類を越す火器を搭載した移動要塞や、都庁ビルを楽々牽引できる装甲車両。

湖の水を十秒で蒸発させる電磁砲など破壊力を備えた超兵器のオンパレードだ。

それらと渡り合えるとなれば恐るべき生物といえるだろう。


「地球で暴れとる怪獣なんぞ大概はC級かD級の下位ばっかりで大したことはないな」


海人の言葉でいう大したことはないヤツを取り押さえるだけで、重機械化部隊が総動員されて大立ち回りをやってるわけだが、それも取り逃がすことが少なくない。


「お嬢さん、君のランクは?」

『はい、Cの2です』


「おお、その年齢でCの2か。思った以上の拾い物かもしれんな」

「強いのか?」


「かなりの実力だな。実戦経験を積めばすぐにBランク入りだろう。お前もこのプロフィールを読んでみるがいい」


懐から取り出した書類を見ながら海人は何度もうなずいた。

弾太郎もその書類をのぞきこんだが……。


(よ、読めない……銀河標準語は苦手だったしな)

しかし読めませんとはいえない。島を飛び出すとき散々大見得切って家出した手前、そんな格好の悪い真似はできない。


「ま、それなりってトコロかな。少しはできるらしいね」

『任せてください!養成所の組み手では武術教官にも負けたことないんですから』


地球流のガッツポーズして吼えるルキィ。

島民たちから拍手と歓声が巻き起こった。


「どうかな?彼女と契約すれば地球防衛の問題も彼女の就職も一挙に解決だ」


「弾坊ちゃん、女の子には優しくしろって教えたでしょ」

「意地を張はってないで、さっさと契約しちゃいなさい」


おばちゃん連合に囲まれての絶対圧力に対しての弾太郎の答えは……


「とにかく!僕は断る。契約したきゃ他の誰かをあたってくれよ」


かたくなな息子の態度に海人は困り顔になった。


「誰でもよいというわけにはいかんのだ。契約者にも資格審査があるし、常に行動をともにしなければならない。条件を満たせるのはお前くらいしか……」

「なんといわれようと僕は怪獣とつるむ気はないからね」


その一言を最後に弾太郎は後ろを向いて立ち去ろうとした。

海人はあきらめたのか深いため息をついた。

そしてそばにいたゲン爺さんに声をかけた。


「しかたないな、頼むよ。ゲンさん」

「しょうがねぇですよ、旦那。坊ちゃんは子供の頃から頑固ですからねぇ」


ゲン爺は苦笑いしながら、そばに干してあった底引き網を外した。


「坊ちゃん!」

「なんだよ、ゲンじい……どわっ?」


振り向いた弾太郎の視界一杯に投げられた網が広がっていた。

かわす暇もなく網は全身にからみつき、弾太郎は砂浜に倒れた。

その上からゲン爺さんが飛び乗り弾太郎をしっかりと押さえつけた。


「ささ、海人様。今のうちにナノプローブ注射をどうぞ」

「わかってる……」

海人の手には銀色に光るの金属製の円筒が握られていた。

注射といっても針はない。

皮膚から直接薬品を吸収させるタイプの注射だ。


「やめろ、親父!ゲンじい放せ!何をする気……」


ひんやりと冷たい金属の肌触りを弾太郎は首筋に感じた。プシュッっと音がして軽いめまいがした。


「何をしたんだ、父さん……」

「契約の手続き手順その1だよ。お前の血液中に……」


息子の怒りの視線に動じることなく海人はもう一本の金属筒を取り出した。

「血液中にナノマシンで構成されたバイオネットコンピュータ群を注入した」


「な?なんだってぇ!」

「生命活動には別状ない注射だ、そう怯えるな。ルキィ君もだ、腕を出して」


海人は手招きしてルキィを呼んだ。

さっきまで大騒ぎしていた彼女は少し落ちついたようで、黙って腕を差し出した。


「うッ……」


間近に差し出された腕に弾太郎は圧倒された。

五本の指を備えている点は人間に近いが、近くで見た表皮はまさに赤熱する溶岩を思わせる。

鋭い爪は戦艦の装甲でも引き裂きそうだし、なによりその巨大さだ。

指一本でさえ弾太郎には抱え切れない太さなのだ。


(こ、こんな間近で怪獣を見るなんて……)


授業では毎日のように怪獣のビデオ映像を見た。

実際に出現した宇宙怪獣が都市を破壊する姿を偵察機から幾度も見た。

しかし触れることができるほど近づいたことはこれが初めてだ。

視野の大半を占拠する巨大さと途方もない質量が生み出す圧迫感がのしかかってくる。

押さえ切れない恐怖が体を縛る。

畏怖か恐怖か、無意識に上げた視線が怪獣ルキィの視線とぶつかり、硬直した。

そして沈黙の数秒。


グルルル……

『だ、だから、そんなに見つめないでください。恥ずかしいですっ!』


左右に激しく頭を振った後にルキィは唸り声を上げた。

これが恐らく『はにかんでいる』に相当する動作なのだろう。

恐ろしげな外見とスピーカーから流れてくる可愛い声のギャップに弾太郎は頭痛を感じた。


「よし、視覚情報シンクロナイズ完了。次は聴覚情報だ」


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