(蛇足)遅れてきた神!
夕闇迫る茜色の空、その一角に黒い雲が生まれ渦を巻き始めた。
埠頭に出してた椅子やちゃぶ台を片付けていた島民たちは手を止めて空を見上げた。
黒雲の中に不穏な光を放つ二つの目が輝いていた。
-ククク、よくも我を封じ込めてくれたな。ボケ神主め-
怒りと怨念に満ちた声が聞こえてくる。
その声を聴いた島民たちの間に緊張が走る。
「あの声、あれは」
「ああ、間違いねぇ」
「あれは……カナヅチ2代目乙姫さんだな」
―カナヅチゆーなーぁぁぁっ!―
「シッ!めったなこというんじゃないよ!」
「もし乙姫様のお怒りに触れたら」
「…………厄除けのお札とお守り製造、手伝わされちまうぞ」
―な、何を?手伝ってもらおうなんぞ、……ちょっとくらい手伝ってくれても―
「なんでも溜めまくった宿題を神主にやらされとるらしいぞ」
「絵馬の確認作業だけで6000枚らしい」
「通販用の御祈祷札もあと30000枚残ってるとよ」
―そんなに溜めてないわよ!せいぜい……500枚?―
「手伝わされたら徹夜になるぞ」
「くわばらくわばら……」
「触らぬ神に祟りなし、じゃ」
―あんたらねぇ、神様をなんだと思って……いや、それより。コホン―
黒雲の中から姿をあらわす乙音。
その姿はとっても威厳ある(と本人だけ思ってる)ミニ竜神様の姿だ。
―ついにあらわれたな。我が神域を荒らす海賊め―
2本の角から雷を放出し、暮れかけた薄闇を青白く照らす。
わずかに遅れてくる雷鳴は天の軍勢の打ち鳴らす太鼓のようだ。
―ククククク、不埒な賊を我が怒りの雷で焼き尽くして……?―
「あ、海賊王さんはこっちだよー、こっち、こっち」
眼下の兄島で赤い怪獣が乙音を見上げて手を振っている。
戦い終えたばかりのルキィだ。
―あ、ルキィちゃん!助太刀にきたよ―
「来てくれたんだ。えっと雨降りみんなタタタ姫ちゃん」
―って天の美那多津田姫!いい加減名前覚えてよ!―
「あははは、ゴメン。で、スケダチって?何しにきたの?」
―知れたことよ。不埒な海賊に天誅を―
「それ、もー終わったよ」
―…………えっ?―
「うん、私の勝ち」
肩に担いだ、ぐったりしたゴゾを得意げに見せるルキィ。
悪気はないんだろうが、情けない姿を晒し者にされているゴゾがなんとも哀れだ。
―じゃあ、もう、やること……なにもなし?―
「そーでもないよ。これからまだ、取り調べして、報告書書いて」
―せっかく宿題の山片付けて、派手な登場して、派手なバトル意識して飛んできたのに?―
「え、宿題片付いたの?じゃあ皆で一休みしよ……どしたの、タタタ姫ちゃん?」
―見せ場なし?あたし、神様なのに?―
集中力の糸が切れたのか、乙音の竜身はゆっくりと黒雲の中から落ちて……海の中へ。
ドボン!
バシャバシャバシャッ!!
「ミギャギャギャー?落ちる沈む溺れる息止まる死にゅぅぅぅっ!」
ブクブクブクブクブク……
「ああっ、タタタ姫ちゃん!今助けるからねッ!」
こうして。
またしても溺れた竜神様は、またしても無事救助された。
めでたし、めでたし?
文字通り蛇足なお話でした。




