異種格闘戦?学んだ成果をみせろ!
「ツナ・缶・オレの・もの……2本・とも!」
「ツナ缶はアナタには絶対に渡しません!」
戦いの目的は忘れても、戦うことは忘れない!
闘志を燃え上がらせるぞ、地底怪獣ルキィVS大蛇怪獣ゴゾ!
先に仕掛けるのはどっちだ?
おーっと、仕掛けたのはゴゾだぁっ!
斜めにもたげていた鎌首を全身のバネで打ち出して、一瞬でルキィの眼前に迫ったぁっ!
ビュッ!
「クッ!」
首筋をかすめる牙の感触、そして猛毒のねっとり感に恐怖心が沸く。
ビュッ、ビュッ、ビュビュビュッ!
「ぬ?う?ううlっ?」
長い蛇体を鞭のようにしならせて動体視力を越えるスピードをつくりだす。
連続で繰り出される猛毒ヘビ怪獣ゴゾの『毒牙突き』の連射、速い、速い!
ギリギリでかわす、どころかルキィはバックステップで逃げるのが精一杯だ。
攻撃可能な距離まで近づかねばならないのに、間合いはどんどん広げられていく。
「これって」
ヒュン!
「まずい」
ヒュヒュン!
「ですねー」
ビュッ!
「全然」
ビュゥゥゥッ!
「近づけないです!」
「あの蛇怪獣、戦闘は素人だと聞くが意外だったな」
「ええ、戦士登録されている怪獣にも引けをとらねェ」
「うむ、鞭のように体をしならせて毒牙の突きを連射とは。ボクシングでいうフリッカージャブによく似た攻撃だ」
「思わぬ強敵ってことですかい」
おそらくゴゾ自身はボクシング、どころか戦闘訓練も受けていないはずだ。
生まれついての戦闘能力の高さということらしいが、ここまでとは想定外だった。
後退する一方のルキィは、あっという間に岩場を踏み超えて、波打ち際まで追い詰められた。
「ルキィさん、絶対に海に追い込まれるな!」
「わかってます!けど……」
双方とも陸戦タイプの怪獣同士だが、前回の戦いでみたように水中ではゴゾに分がある。
弾太郎が焦ったのは『陸上で決着をつけなければルキィの勝利はない』からだ。
「ダンタロさん、任せてください。手はありますから」
この局面での自信にあふれたルキィの精神力に、一同感嘆した。
そして自信を後押ししてくれるのは何といっても子供たちの声援だ。
「がんばれー、ルキィおねーちゃん!」×3
「うん、私がんばるからねー!」
「海賊王さんもがんばってー」×3
「……お?おう!……オレも・がんばる」
敵味方両方とも分け隔てなく応援する!
岬家の教育方針は『相手が怪獣でも差別しない』だった。
「あ、ついでに弾太郎もガンバレ」×ウミちゃんひとり
「僕は『ついで』なんだ……、って?どうして君たち、兄島に来てるの!」
「だってぇ、本島からじゃよく見えないんだもん」×3
「だからって危ないでしょ!」
「もー、弾太郎ウ・ル・サ・イ!」×3
まだ何かいいたげな弾太郎を、海人がにこやかに押しとどめた。
「ま、ま、弾太郎よ。子供のすることだし、大目にみてやっては?」
「そういうわけにいかないでしょ、父さ……なんでビールなんか持ってるの?」
海人の手にはビールジョッキ、足元には中瓶1ケース。
「ま、ま、坊ちゃん。海人様のやることだし大目にみてあげなきゃ」
「でもね、ゲン爺……なんでお猪口と徳利がここに?」
ゲン爺の手にはお猪口と徳利、もちろん上機嫌だったりする。
「いえね、ダイくんたちがね、あっしはポン酒党だからって気をきかせてくれちゃって」
「ほれ、弾太郎。ツナロールキャベツもあるぞ」
「そんなものまで……ダイくん!ソラちゃん!ウミちゃん!」
弾太郎がダイくんたちを睨むと、3人とも明後日の方角向いて口笛吹いていた。
気遣いのできる子供たちというか、完全に賄賂である。
その賄賂を受け取ってい喜んでる大人もダメ大人の見本みたいなもんだが。
「ああ、もう。仕方ない、ルキィさん。こっちには近づけないようにして」
「お任せです!」
ルキィの構えが変わった。
彼女本来の構えである、低い前かがみのタックル狙いを捨てて。
背筋を伸ばして、かかとを浮かせ、軽く握った拳で防御を固める。
リズミカルな軽いジャンプとサイドステップは地球人にはお馴染みのボクシングスタイルだ。
それを見た海人の表情が変わった(でも左手のビールは離さない)。
「むっ?こちらもボクシングで対抗か。しかも本格的だぞ。いつの間に身につけたのだ」
「そういやぁ昨日の夜、世界タイトルマッチの中継がありやしたよ」
「ふむ、テレビで見ただけでこれほどとは。父上に似て、血は争えんということか」
「あの、そうじゃなくてね……」
感慨深げな二人の会話を聞いていた、弾太郎だが言いにくそうに口をはさんだ。
「えっ、坊ちゃん。テレビ中継で覚えたんと違うんで?」
「うん、中継じゃなくて、その、ネットの電子書籍で……」
「ふむ、ボクシング入門書を読んだだけなのか。それでも立派な」
「読んだのは『あしたの〇ョー』『初めの〇歩』『がんばれ〇気』……」
年長者二人の顔から感慨深さが消えていった。
とりあえず二人は揃って酒を一口呑み、ツナロールキャベツを一口かじって、黙って観戦することにしたようだ。
「いきますよ、海賊王さん」
ルキィはゴゾの前を揺れるように流れるように、見事なフットワークで回りはじめた。
ゴゾは敵の見慣れない構えに警戒していたが、探りを入れようと仕掛けてきた。
例のボクシングのジャブにも似た速く軽く、鋭い攻撃。
シュッ。
「?・外れ・た?」
正面にいたはずのルキィがゴゾの前から消えた。
それどころかゴゾの頭は狙った位置を大きく外れていた。
「な・なぜ?・ど・どこ・に?」
驚いたことにルキィはゴゾの頭の真横にいた。
慌てて頭を引き戻するゴゾの鼻先を、ルキィの左鍵打ち、いわゆる左フックがかすめる。
高速攻撃をルキィは軽やかなフットワークと右フックに似た掌打で弾いていたのだ。
シュッ、シュッ、シュッ!
連続で仕掛けるもいずれもが掌打で弾かれ、そのたびにカウンターを食らいそうになる。
「ほほう、パーリングか。いや、見事なものだ。ボクサーとしてもやっていけそうだな」
パーリングとは相手のパンチを自分のグラブで払いのける、ボクシングの基本的な防御技術だ。
だが、高速連続攻撃を見事にさばいたのはルキィ自身の天性の素質と言ってよいだろう。
「けど、坊ちゃん。ボクシングじゃあ怪獣は倒せませんぜ」
「心配ないと思うよ。覚えたのはボクシングだけじゃ……」
再び迫る攻撃をパーリングしようとしたルキィの右が空振った。
ゴゾが射程ギリギリで牙を急停止、代わって尻尾を地面スレスレに這わせてきた。
「まずいぞ、弾太郎。ボクシング技術は下からの攻撃は防げん!」
「うん、ボクシングではね」
海人の言う通りボクシングには上半身以外の攻防はない。
足元から狙われれば、防ぐ手立てがないのだ。
だが、ルキィがやっているのは怪獣同士の戦い、ボクシングではない。
バチィッ!
「い・痛い!・な・何が?」
防御の死角を突いたはずの尻尾は強烈な蹴りに迎撃された。
慌てて尻尾を引き戻すも、ルキィは完全に間合いに入り込むことに成功した。
「そうは問屋が卸さない、って地球の言葉でいうんですよ。海賊王さん」
バシッ!バシッ!バシッ!
うねる胴体に掌打を次々と打ち込み、一撃ごとにゴゾの全身に衝撃が伝播する。
「坊ちゃん、さっきのって柔道の足払い、いや……空手かなにかの『ろーきっく』とかいう蹴りじゃぁ?」
「うん、そうみたいだよ。ボクシング以外の漫画も読んでいたし。『刃〇道』とか」
「結局、漫画でごぜぇやすか……」
攻守交替してルキィが攻めに転じ、逆にゴゾは確実に追い詰められている。
今やゴゾは距離を取ろうとしても取れず、小さいとはいえ掌打でのダメージを蓄積している。
「このまま持久戦にもちこめれば、と思ったんですけど」
優勢に立ったはずのルキィの表情が何故か固い。
ゴゾも打たれっぱなしではいなかった。
長い体をくねらせ、ゆっくりとゆっくりと地面に大きな輪を描くように。
ルキィを中心に囲むように蛇体のリングが回転し始めた。
「これは……嵌められたか」
海人は手にしたビールジョッキを下した。
もう目は笑っていない。
巨大なリングとなって回転するゴゾと、リングの中心に閉じ込められたルキィが睨みあう。
「ツナ・缶・オレの・もの……!」
「いいえ、ツナ缶は、絶対に、渡しません!」




