兄島の決闘!大切なものを賭けて……
兄島は於茂鹿毛島周辺の小島の中では比較的大きな部類に入る。
起伏は少なく、火山灰からなる平地と岩場だけで水源がなく、人が住むには適さない島だ。
今では捕まえてきた怪獣を取り調べるたり、引き渡しまでの間だけ留置するのに使っている。
そんな何もない島にやってきたのはルキィとゴゾ、そして弾太郎と海人、ゲン爺だけだ。
そして留置所(兼取調室)代わりの島が今夜は2大怪獣の対決の場に使われようとしている。
海から上がったルキィが一歩、ドスンと足を踏み入れると島全体が揺れて海にはさざ波が立った。
続けてゴゾが体をくねらせながら上陸、蛇体が這い進んだ後が長く深い溝となって残る。
漁船で送ってもらった弾太郎たちは膝まである海水をの中を歩いて砂浜から上陸した。
「でも、兄島に移動できてよかったよ。あのままじゃ『洗濯物が砂まみれ』くらいの被害じゃすまなかったしね」
防水のタブレットを手提げかばんから取り出して、起動しながら弾太郎は本島の方を振り返る。
埠頭の先端で手を振っているのは岬家の兄妹3人だ。
そして背後には兄妹残り2人と、腰に手をあててふんぞり返る岬家お母ちゃん。
「ふっ、流石は岬家の重鎮といわれた恵子さんだ。見事な弁舌で戦場を民家から遠ざけよったわ」
「いや、海人様。煙たがられて追い出されただけじゃねえですか?」
無駄にカッコつけてる海人に一応ツッコミをいれるゲン爺だった。
もちろん海人がそんなものを気に掛けるはずがない。
「もー、黙っててよ。ふたりとも」
とりあえず年長者2名の漫才を無視して弾太郎は手にしたタブレットで情報を確認する。
請求していた敵の情報が届いたばかりなのだ。
「えーと、ゴゾさんのプロフィールは。スネーク星出身、オロチ族、年齢29歳(地球人換算)。戦士登録はないけどオロチ種の特徴として……」
意外とテキパキした手つきでタブレット操作している弾太郎だが……
鼻に詰めた鼻血止めティッシュがここでも緊迫感をぶち壊しにしている。
すでに鼻ティッシュは弾太郎の顔の一部になりつつあると、もっぱらのウワサだ。
「一度見せた『胴絡み』のパワーは超合金装甲も破裂させる。牙には神経毒があって、相手を麻痺させる。それと脱皮によって……これは油断できない相手だな。聞こえたかい、ルキィさん?」
「はい、パワーもすごかったけど毒はもっと厄介ですねー」
目の前で戦闘態勢に入ったゴゾはとぐろを巻いて、隙あらばいつでもルキィに飛びかかれる状態だ。
対してルキィはレスリングように両手を前に前傾姿勢、まずは守りに徹するようだ。
ビュッ!
鋭い風切り音はルキィの耳元をかすめた。
反射的に首を振ってかわした直後にカチッと牙が噛み合う小さな音。
一瞬で引き戻されていくゴゾの頭部と目が合う、速い、捕まえられない。
そして再び両者ともに同じ体勢へ戻る。
人間態でならルキィは冷や汗を流していたことだろう。
「間合いを十分とったつもりでもダメですか。キツいですねー」
速さでも射程距離でもやはり、ゴゾの方が一枚上手だ。
しかも積極的には攻め込んできてくれないので、カウンターも狙えない。
弾太郎のパターン解析でも手詰まりが示されるばかりだ。
「挑発にも乗ってこないし、やる気ないんですよねー、海賊王さんって」
「そりゃそうだよ、ルキィさん。向こうが勝っても何の得もないし。負けたら即、強制送還だし」
戦い始めたものの、ダラダラ長引いていく上に、敵はますますヤル気を失くしていく。
さらに戦闘意欲を下げさせているのが……
「おーし、ルキィちゃん!ガンガンいけよーっ!」
「おいおい、蛇公!なーんだ、なんだ、そのショボイ攻撃は!」
「かーちゃん。ビール、ビール!ビール持ってきて」
「ツナサラダ、もうないの?ツナフライもお願い」
漁から帰ってきた男どもが、ルキィたちが隣の島で対決すると聞いて観戦していたのだ。
それもお茶の間野球観戦よろしく、ビール片手に埠頭にテーブルとイス持ち出してだ。
しかもツナ缶を勝手に開けて勝手に食いはじめ、女房達に携帯コンロで料理までさせている始末だ。
「そりゃ、あの蛇怪獣もやる気なくすわなァ……」
「一応、とっ捕まるかどうかの瀬戸際なんですがねぇ」
こんな具合で常識なしの海人でさえ、あきれているような状態なのだ。
「……やっぱ・オレ・帰ろ・かな?」
ついにゴゾのやる気が完全に失われた!
最初から逃げ腰だったゴゾはジリジリと下がり、海まではあと一歩だ。
蛇だけに、歩かないけど!
このまま2大怪獣大決戦はお流れになってしまうのだろうか?
「あー、もう!いつまでもチンタラやってんじゃないわよ!」
沈滞した空気をまたしても岬家お母さんの一声が破った!
ツナハンバーグを焼く手を止めて、ブーイングしようとした奴全員をひと睨みで全員沈黙させた。
「コラ、そこでダラダラしてるヘビ!」
「?・?・?・やっぱり・オレ?」
「ヘビったらアンタしかいないだろ、ったく。男ならビシッとやんな、ビシッと」
「・・・でも・オレ・勝っても・いいこと・なんも・ないし」
「あー、わかった、わかった!じゃあ勝った方にね、このツナ缶1個、賞品につけたげるから」
「・・・・・ツナ缶?」
ゴゾの尻尾がピクッと動いた。
「ちょっと岬のおばちゃん?そんな勝手に……」
「弾太郎ちゃん、男がケチなこと気にすんじゃないわよ。おし、もう一個おまけだ!」
「ツナ缶・2個?……」
「海賊王さん、どーしました?」
ゴゾの動きが止まった。
この隙を見逃すルキィではない、摺足で間合いを詰め必殺の一撃をねらう。
……のだが、ロックオンされている当人のゴゾの眼中にルキィは完全にない。
「2個・2個?」
「海賊王さん、よそ見していていると……?」
上半身を捻り背中が見えるほどの溜めをつくり、最大級の破壊力を生み出す掌打を放つ。
父直伝の打技『竜巻』が決まればそこで決着がつく。
しかし撃ち込まない、いや撃ち込めない。
殺気とも当帰ともつかない異様な気配がゴゾの蛇体を取り巻いているのだ。
「あ、あの、海賊王さん?」
「ツナ・缶……」
「ちょっと、こっちを、見て……」
「・・・・・2個ォォォッ!」
「キャッ?」
その瞬間、ゴゾから信じられないほどの闘志があふれだした!
せっかく詰めた間合いをルキィが思わず後ずさりして無駄にしてしまうほどの圧だ。
「いきなり、ここまでの闘気!?一体……これは!」
巻き上げられた砂煙がゴゾのオーラの形を浮かび上がらせる!
その形は巨大な、巨大な……ツナ缶!
それまで(呆れつつ)静観していた海人とゲン爺に衝撃が走る。
「ぬう、あの蛇め。素人と侮っていたぞ」
「闘気を実体化させるたぁ驚きやした!」
「いや、それ以前にツナ缶はないだろ……」
弾太郎だけは冷静に、というか諦めの境地でボソボソとつぶやいているが。
しかしかえって盛り上がる奴らもいる。
「ええぞー、蛇公!」「いや、海賊王の大将!」「ヘビの執念深さ見せてやれー!」
ビール片手に、いや両手に観戦する馬鹿ヤロウども、
盛り上がる亭主どもも問題だが、もっと盛り上がる手合いがいるのが大問題だった。
「ようやくヤル気になりましたね、海賊王さん!」
ルキィだ、一番盛り上がっている。
理由なんぞどうでもいいから、こういう場面では彼女は一番、熱血してしまうのだ。
しかも、相手に合わせて付き合いがいい、というかよすぎる。
「戦う以上は……ツナ缶は渡しません!」
「いや、ルキィさん?それ、目的が違……」
弾太郎は言葉を失った。
ルキィの背後に湧き上がるオーラもくっきりと形を成したのだ。
もちろん、巨大ツナ缶、それも2個だ!
そして、ツナ缶2個+犯人確保を賭けた2大怪獣の決闘が始まる!




