最強神の降臨!
「ところで海賊王さん、どーしてこの場から逃げなかったんですか?」
「……それは」
身構えつつ話しかけながらルキィはすり足で間合いを詰める。
対峙するゴゾの表情は変化に乏しく人間には感情が読めない。
目玉をキョロキョロ細かく動かし、長い舌をせわしなくチロチロさせている様子から興奮気味なのはわかるのだが。
合わせるようにジリジリと下がってルキィの間合いには入ってこない。
「最初会った時に『銀パトは仇だ』とおっしゃってましたね?」
「それは・そう・だけど」
なんとか相手の気を逸らして隙をつくろうとルキィはさらに話しかける。
できれば組み合える距離まで近づきたいのだが……
攻撃の関しては体長がはるかに長いゴゾの方が射程距離では有利だ。
しかも足元の埠頭や干してある漁業網が邪魔なうえ砂浜のせいで足元が不安定。
砂地は『足で歩く』生物であるルキィには不利なフィールドなのだ。
「つまり、銀パトの一員である私を倒すために敢えて踏みとどまったんですね!」
「いや、そうじゃ・なくて…………その」
ゴゾの視線は対戦相手であるはずのルキィではなく、別のところに向けられていた。
積み上げられた業務用ツナ缶(200キロ)に!
「もう・一個・もらえ・ないかな・って・思って」
「……うーん?ダメだと、思いますよ」
「そう・ですか……」
ゴゾは悲しそうに首をうなだれスゴスゴと引き下がった。
どうやらツナ缶(200キログラム)に手に入れるのは諦めたようだ。
蛇だけに、手はないけど。
緊張感が完全消滅したが、同時にゴゾがこの場に留まる理由も消えたことになる。
このままでは逃げられるかもしれない。
ルキィの心に焦りが生まれた。
「と、っとっと?」
強引に距離を詰めようとした足を砂にとられて、わずかにバランスを崩した。
待ち構えていたゴゾはバネのように体を縮めてジャンプ寸前、海に飛び込んで逃げる気だ。
その人物が現れたのは、まさにその瞬間だった。
「ちょっと、アンタら!こんなトコでなぁーに暴れてんだい!」
怪獣の雄叫びにも負けない大声が一括した。
ルキィもゴゾも、その場にいた全員がビクッとして動きを止めた。
一瞬の間をおいて皆が一斉に声のした方を振り向く。
埠頭へと続く坂道に立つ人影、女性だ。
小さな男の子の手を引いて、赤ん坊を抱えた、かなり『貫禄のある』体格の壮年女性。
「お、こりゃ岬さん家のお母さん。お騒がせしとります」
「あー、もう。海人の旦那!アンタがついててなんてぇバカ騒ぎやってんだい!」
反射的にお辞儀した海人の頭をコツンと小突いて、岬さん家のお母さんがズンズンと進み出た。
「い、いえ、これはバカ騒ぎとかではなく……海賊退治、いえね、れっきとした公務でして」
「公務だかカイゾク退治だか知らないけどね!こんなトコでドタバタされちゃ洗濯物が砂塗まみれじゃないか!」
小突かれた頭を押さえてたじろぐ海人を更に押す、押す、押す。
頭を押さえながら海人がしどろもどろで弁解を始める。
「あ、いや、その、周辺住民にはもちろん配慮……」
「もーいいから、海人の旦那は邪魔だからすっこんでてよ!」
グイグイとくるオバさんに弾き飛ばされて、海人は尻もちをついた。
完全に気圧されて、もはや抵抗する気力もなし。
「は、はあ……すんません」
「たっく、いい年齢してヤンチャしてた頃の癖がぬけないんだから」
そしてまだひっくり返っていた弾太郎に気が付くと。
「ん。、弾太郎ちゃん、またひっくり返ってんの?頼りないねぇ、全く。ほらよっと」
「あ、岬のおばちゃ……わわわ?」
邪魔なゲン爺を威圧感だけで退け、倒れた弾太郎の襟首つかんでヒョイと片手で持ち上げ立ち上がらせる。
それも次男の大河君5歳、三女の宙子0歳の面倒を見る片手間で、だ。
これが岬家の真の支配者、岬 恵子の圧倒的オバンパワーなのだ。
「こら、そこのヘビ!」
「?・?・?・?・オレ?」
「アンタだよ、アンタ!」
「は・はい?」
突然、名指しされ慌てるゴゾをギンッと睨みつける迫力は凄いとしかいいようがない。
この島へ嫁入りした頃は、活魚一匹捌けない、都会育ちの頼りないお嬢さんだったのだが。
「いいかい、ヘビ。カイゾクだろーがボーソ-ゾクだろーが!他人様に迷惑かけてちゃダメだろ!」
「え?いや・海賊は・それが・仕事……」
「いちいち口答えしてんじゃないよ!まったくロクな大人にならないわよ」
「は・はあ?すいま・せん」
「それからルキィちゃん」
「は、はい?なんでしょーか」
「見ての通り、男どもは役に立たないんだから。アンタがもっとしっかりしなきゃ」
「は、はあ?すいません……」
古来より一家を守る奥様は『山の神』などと呼ばれたりするが。
まさに混迷した戦局を一掃するウルトラパワー!
反抗を許さぬ超的圧迫感は神と呼ぶにふさわしいものだった。
「とにかくね、ドタバタしたいんならあっちでやんな、あっちで」
岬のおばちゃんが指さすのは沖合の小島の一つ、兄島。
弾太郎たちが捕らえた犯人怪獣を取り調べるのに使っている島でもある。
「そろそろ父ちゃんたちも帰ってくる時間だしねぇ。ちゃっちゃと済ましちゃいな」




