僕は前向きに生きる!弾太郎ヘタレ伝説
「さあ、弾太郎!ルキィちゃん!今がチャンスだ、一気に奴を叩くんだ」
「あのね、父さん……これのどこがチャンスなの?」
「了解!直ちに被疑者を確保します!」
「……うん、ルキィさんなら、そう言うだろうと思ったけどね」
断っておくが、犯人は確かに目の前にいる。
しかし包囲されているわけでもないし、逃げ道を塞がれたわけでもない。
いつでも逃げ出せる状況にありながら、大蛇怪獣ゴゾはなぜか逃げようとないのだ。
「とにかく逃げられる前に確保しなきゃ。ルキィさん、準備は」
「はいっ!直ちに擬態解除します」
慣れた手つきで服を脱ぎ始めたルキィに、弾太郎はいつものように大慌て……していない?
いつもなら噴き出す鼻血で貧血失神の弾太郎の身に何が起きたのか?
平静を保つ弾太郎の姿に、次のネタを考えていた海人と、ティッシュの箱を渡そうとしたゲン爺は驚いていた。
「弾太郎、お前……」
「坊ちゃん、そこまでして……」
「フフフ。防衛警官として、いつまでも鼻血なんかで倒れているワケにいかないからね!」
余裕すら感じさせる弾太郎の態度、その自信はどこからくるのだろう?
自信の源、それは彼の体勢にあった。
「そうさ、最初からこうすればよかったんだ。見ないようにすれば!」
差し出されるルキィの衣服を弾太郎は背中を向けて受け取っていた。
そう、露出度急上昇中のルキィの姿を見ないように後ろを向いていたのだ。
「おい、弾太郎。それってちょっと情けなくないか?」
「坊ちゃん、そいつぁ……ないんじゃぁ……ねぇですかい」
「あーっ、もう!とにかくこれで一歩前進だからいいじゃないか!」
前向きな対応と言い張りながら、後ろ向きな格好で遂行する姿を見て、あまりの情けなさに海人とゲン爺は悲しそうな顔をした。
無自覚とはいえ男性向けの大サービスしているルキィに対しても失礼極まりない態度といえるだろう。
当然ながら岬家の悪ガキどもにも大不評だ。
まず、ソラちゃん、ウミちゃんの二人は弾太郎を指さしてはしゃぎまくりだ。
「弾太郎、マジでヘタレだー」
「ヘタレだ、ヘタレだ、ヘタレ!ヘタレ!ヘ・タ・レ・だ・ん・た・ろー!!」
「うっ……ヘタレじゃないぞ!これは、そう、『創意工夫』というんだ!」
弾太郎、必死の弁明である。
ただし見苦しい言い訳としか言い様がない。
「そーいくふー?ソラねーちゃん、なにそれ?」
「よーするにね、ヘタレなのがバレない方法をね、努力して考えるって意味だよ」
純真なウミちゃんの問いに辛辣なソラちゃんが答える。
その真実を貫く言葉が、弾太郎のハートを情け容赦なく抉った。
「やっぱ、ヘタレなの?ねー、弾太郎?」
「ウググッ!そ、そんなことは、ない……これは仕方なく」
「なぁーにぃ『仕方なく』?それじゃあ、やっぱりィ、弾太郎ってヘ・タ・レじゃん!」
「ウッ、ウッ、ウッ……」
ソラちゃんのうれしそーなツッコミが弾太郎をさらに追い詰める!
答えに窮する弾太郎に冷たい視線が集中する。
そして今まで黙って腕組みしていたダイくんがついに決定打を言い放った。
「オイ、弾太郎!同じ男として、俺は情けないぜ!」
「うるさいなぁ、もう!とにかく、これで、ミッション・コンプリートだ!」
最後の一枚、桜色に白い花模様の、小さな三角形の布をがついに弾太郎の手に!
受け取った手をできるだけ見ないようにして素早く手提げ袋の中へ、完了!
「やったぞ、これで僕はやっと、一歩進んだんだ」
「やりましたね!ダンタロさん。とうとう鼻血を克服したんですね!」
ついに鼻血を克服した弾太郎、ルキィも相棒の予想外の成長に大喜びだ。
それ以外の面々は呆れた顔、情けなさそうな顔、軽蔑した顔が並んでいるが。
「私、ずっと思ってたんです。いつも原因不明の出血で倒れるダンタロさんを見て」
「あ、原因はルキィさんが、いや、その……」
「このままじゃいつか出血多量でダンタロさんが死んじゃうかもって」
「いやぁ、そこまでは……」
「でも違ってた!ダンタロさんは乗り越えたんですね!何がどうなったのかわかんないけど」
「そ、そうだ、僕は乗り越えたんだよ!これで一歩前へ……」
「すごいです、やっぱりダンタロさんは頼りになる人です!」
「うん、そう……ヒッ?」
弾太郎の背中に丸くて柔らかくてほわほわ暖かな感触ふたつ。
制服越しでもはっきり伝わってくる。
振り返りかけた弾太郎のすぐそばに瞳キラキラ紅潮したルキィの顔。
石鹸の香りだろうか、甘い香りが鼻腔の奥を軽く、優しく刺激する。
「あの、あの、ルキィさん……ななななな何を?」
「最初はちょっと頼りないかなーって、思ってたのが」
ちょっと高めの彼女の体温を感じながら。
背中から全裸の美少女にギューッと抱きしめられる感覚。
「るるるるるルキィさん?は、離れ……」
「やっぱりダンタロさんは頼れる相棒です!」
さらにギュギューッと強く。
ソフトボールサイズの丸みふたつから綿菓子が圧縮されたような柔らかさと温かさを感じて。
そして淡い、甘い香りに包まれる。
男として、否!全ての生物の♂を代表して至福の感覚といえるだろう。
「ダンタロさんの努力!私、絶対に無駄にしませんから!」
「うん……がんばってね、ルキィさ……」
駆け出したルキィを背中で見送った後、弾太郎は膝から崩れ落ちた。
鼻から鮮血を滝のように流しながら、彼は倒れた。
確かに『視覚』を封じることで弾太郎は限界を突破した。
しかし視覚を封じることで、過去に幾度も目撃し脳裏に焼き付けられていたルキィの裸身は、より鮮烈により鮮明に脳内で形を成していった。
視覚を封じた結果、皮肉にも弾太郎の内宇宙は爆発寸前に高まっていったのだ。
そして無警戒だった『触覚』『嗅覚』のふたつの感覚は『視覚』を封じたことで、研ぎ澄まされ鋭い刃となって脳内妄想に突き刺さった。
そして、弾けた。
「おお、我が息子よ」
「坊ちゃん、お気を確かに」
無様に地に倒れた弾太郎を父・海人は助け起こし、涙を流しつつゲン爺が支えた。
「お前の、お前の心意気だけは!父は誇りに思うぞ」
「いつか、きっと、花が咲いて、実を結ぶ日が、うううっ、坊ちゃん」
力なく横たわる弾太郎を抱きしめ、天を仰いで慟哭する男二人。
弾太郎の魂は彼らの手を離れてふわりと空中に浮かび(これはイメージです!)
SDルキィちゃん天使たちに支えられて、そのまま天へ……(あくまでイメージです!)
なお岬家悪ガキチームは無論、そんな感情移入はしてくれない。
ダイくん、いわく。
「弾太郎、島を出る前より一回り小さくなって帰ってきたんだなー」
ソラちゃん、いわく。
「まあ、3歩進んで2歩下がる、っていうやつじゃない」
ウミちゃん、いわく。
「というより、1歩進んで3歩下がってるよ?」
こうして弾太郎の前向きな後ろ向き作戦は失敗に終わった。
「擬態、解除!いきまーす!」
上機嫌なルキィの擬態解除の光に照らされ、揺れる大地の弾太郎は起こされた。
少し目を開けると赤い巨獣・ルキィと、長さだけならその10倍を超える大蛇ゴゾの対峙する姿が見えた戦いの場へ立ったルキィの姿を見て、弾太郎は少し安心した。
「とにかく出動完了。ルキィさん、頑張って……僕の分まで」
まじヘタレすぎだな、弾太郎君。




