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ちびっこ防衛線!

島には漁船が出入りするだけの小さな埠頭がある。

今は漁船は出払っている時間帯なのだが、今日に限っては10個ほどのドラム缶が積み上げられていた。

人の背丈よりも大きなドラム缶には『商品名 ツナ(200キログラム)』とラベルが貼られている。

そんなドラム缶の山を挟んでにらみ合っている者たちがいた。


一方は岬さん家の3兄妹!

長男、ダイくんこと大地12歳。

長女、ソラちゃんこと美空11歳。

次女、ウミちゃんこと羽海9歳。


対するは自称海賊王怪獣!

大蛇怪獣ゴゾ 年齢不詳。


全長数百メートルの大蛇怪獣と人間の子供では圧倒的な差がありすぎる、勝負にさえならない。

普通ならば!

しかし、この戦いはそんな単純なものではなかった。


「ダイ兄ぃ、このでっかいツナ缶って弾太郎が貰ったやつだよね」

「そうだよ、ソラ。貨物船助けたお礼に貰ったんだって、海人おじさん言ってたぞ」


「じゃあ、アイツつまみ食いしてるんだー」

「つまみ食い?いーけないんだ♪いけないんだ♪」


面白そうにウミちゃんがはやしたて、指さされた蛇怪獣ゴゾがオドオドしている。

ゴゾの足元には空になったドラム缶が二つ、蛇だけに足はないけど。


「な、なんで?こんな・とこに・怪獣語(銀河標準語)・喋る・子供・いるんだ?」


……狼狽しながら言うようなことなのだろうか?


「へっへっへっ、ちきゅーの小学校教育、舐めんなよ」

「去年からねー、銀河標準語会話のねー、授業がねー、始まったのー」


ダイくんとウミちゃんがふんぞり返って自慢する。

そしてソラちゃんが攻める!


「そこのアナタ!他人様の物を勝手に食べるのはドロボウよ!」

「グ・グウッ……ち・違う!ドロボウ・じゃない。オレ・海賊王」


「海賊って、ここ海じゃなくて陸地じゃん。海じゃなきゃ海賊じゃないじゃん」


ソラちゃんのツッコミが痛いところに決まった。

なんとか反撃しようとゴゾは突破口をさがした。


「か・海賊も・たまに・陸へ・出張・する・ことも・あるの!」

「へー、そうなのぉ?」


意外と素直に信じてくれるのはウミゃんだけだった。

ほかの二人は『大人は嘘つきだ!』と言いたげなジト目で黙ってゴゾを見ている。

その視線だけでも痛いのだが、ウミちゃんの無邪気な一言が突き刺さる。


「でもぉ海賊の仕事って『略奪』だよねー」

「いかにも・海賊王たる・オレは・すべての・お宝を・いただく」


「でもぉ、おじさんのやってるのって『無銭飲食』だよねー?」

「ぐ・グゥ?で・でも・いただく・ことには・か・変わりない・から」


「でもぉ、それなら食べる前に『いただきます』言わなきゃならないんだよ!」

「グ・グググ。わかり・ました。いただき・ます!」


食事の前には『いただきます』、食べ終わったら『ご馳走様』。

自然の恵みに感謝、生産者の方々の苦労に敬意、料理した人の愛情にお礼を忘れずに。

今度はちゃんと『いただきます』してからゴゾはツナ缶にかぶりついた。

ツナ缶を口にくわえてまず丸呑み、膨らんだ喉のあたりを猫のようにゴロゴロ鳴らしているうちに。


パンッ。


弾けるような音がして膨らんだ喉がペコンとへこんだ。

ゴゾは空になったドラム缶をペッと吐き出し中身のツナをゴクリと飲み下した。

それを見ていたダイくんが静かに言い放った。


「で、結局、『無銭飲食』でキマリだよね」

「むぐっ?」


「テイクアウトしないですぐに食べちゃったら『略奪』じゃないよね」

「あ・う・しまった!」


「それともお金払うの?」

「お・お金?も・も・も・持ってない……」


「無銭飲食、きまりーっ!」×3

「う・う・う・言い返せ・ない……」


こうして地球の小学校教育の前にゴゾはついに膝を屈した、蛇だけに膝はないけど。


形勢は圧倒的なゴゾ不利に傾いていた。

大怪獣といえど小学生の口車の前には無力なのか?

しかし、ここで状況を混乱させる勢力が登場した。


「だから父さん。『貰ったツナ缶で怪獣おびき寄せる』なんて安直すぎるよ」

「そうかなぁ?いい考えだと思ったのだが」

「海人様、ツナ缶の中身を撒き餌にしちゃあ、環境汚染で怒られちまいますよ。ねぇ、ルキィ嬢ちゃん」

「うーん、でも海賊王さんもお腹空いてるだろうから、案外うまく行くかも」


喋りながら浜へやってきた弾太郎、海人、ゲン爺、ルキィ(乙音ちゃんは居残り宿題中)。

一行は、大蛇VS小学生の口ゲンカという異様な光景を見て足を止めた。

っていうか、ルキィ以外は全員その場で固まった。


「あ、海賊王さん、もうきてたんですね」

「……あのぉ・すいま・せん・が」


「ん、何ですか、ええっと海賊王さん?」

「お腹・すいちゃった・ので・先に・頂いて・ます」


「えーっ、それ弾太郎さんが貰ったツナ缶なんですよ!」

「……ゴメン・十日・ぶりの・まともな・ご飯・なんです」


とても気まずい空気だった。


「あの・すいま・せん・もう一個・いただい・ても?」


『食うな!』とは言いにくい。

弾太郎は黙ってうなずき、ゴゾは遠慮がちにもうひと缶、口にくわえた。

食べてる間、誰も何も言わない、いや、言えない。


誰か、誰かいないのか?どう話を進めていいのかわからない、この空気を何とかする勇者は!

この時、意を決して一歩踏み出した者がいた!


「貴様がこの美しい海を荒らす海賊か!」


勇者の名は真榊 海人、年長者だけあって頼りに……


「フハハハ!見事、私の策にはまったな!山積みツナ缶におびき出されて、ノコノコやってくるとはな」


勇者ではなく愚者だった。

馬鹿者といったほうがもっといいかもしれない。


「フフフ、海賊王ゴゾとやら。お前は『これも計算のうちか、真榊 海人様!』と言う………」


一同あきれて、何も言えない中で敵であるゴゾだけが真剣に応えてくれた。


「そ・それ・では?これも・計算・のうち……」

「そうとも、この真榊 海人様は何から何まで計算ずくだぜ!」


その様子を黙って見ていたゲン爺、疲労感たっぷりのため息をついて一言。


「ハァ……、結局そのセリフが言いたかっただけでごぜぇやすか」

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