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暴かれた神の秘密!

「これはこれは、乙姫様。よくいらっしゃいました」

「か、海人殿?ヒ、久しぶり……」


わざとらしいくらいに、にこやかな笑顔の海人を見たとたんに乙音の態度がおかしくなった。

声は上ずり、何やらそわそわと、海人とは視線を合わせないように、まるで逃げ道をさがしているようにキョロキョロと。


「神社へ来てくれるかと待っておりましたが。なかなかおいでにならないので心配になりましてな」

「あー……その、まあ-、そのぉ、先に弾太郎ちゃんの働きぶりをみたいなーと思って」


ニヤリと笑う海人の笑みは息子の弾太郎にはハッキリわかる裏が大ありの神主様営業中スマイル。


「それは感心ですな、ではひとつ……乙姫様にお手本を示していただきましょうか」


いいながら段ボール箱を開ける。

中には……絵馬だのお札だのお守りだのがぎっしりと。

それを見た乙音の顔が恐怖に歪む。


「それは、まさか?」

「昨年からの祈願の絵馬が溜まっております。祭神として全て目を通していただきます」


海人のさわやかな微笑み、ただし目には激怒の炎が灯っていた。

続けてお札を一束、取り出し乙音に突きつける。


「厄除けのお札ですが、去年まで全部を私が代筆しておりましたが。2代目乙姫様を襲名された以上は是非、ご本人に」

「ええと、神主殿の代筆でもいいんじゃ……」


海人のひと睨みで乙音の言い訳は霧散した。

最後は縫いかけのお守り袋が山盛りの籠を畳の上に置いて、たじろぐ乙音に向かってズイッと突き出した。


「思い出します。先代様は心を込めてひとつひとつ手縫いされておりましたなぁ」

「わ、私、我はその針仕事はちょっと……」


狼狽する乙音は弾太郎の方をチラチラ見ている。

そのウルウル瞳は(助けて、弾太郎ちゃん!)と語りかけてくる。

弾太郎は苦笑しながら助け船を出すことにした。


「ま-ま-、父さん。2代目たって襲名したばかりなんだから、あまり無理を」

「ならば弾太郎よ。この金額、神様ご自身にお支払いいただくことになるが?」


「えっ、何?なんなのこの金額!」


差し出された請求書の束を見て弾太郎は目を丸くした。

書籍、ゲーム、グルメ、有料動画配信、すべて合わせると100万円を超す金額だ。

それも支払っている口座が問題だった。


「これ、全部、うちの神社の口座から出てるよ!どういうこと、父さん?」

「どうこうも……この乙姫様がネット通販の類のツケを全部こっちへ回してきたのだ」


一応、海人のスマイルは崩れてはいない。

ただし、こめかみには青筋が浮かび、釣りあがった唇からは歯ぎしりの音が漏れている。

そして逃げようとしていた乙音の背後に、何時の間にか回り込んでいた。


「逃がしませんよ、乙姫様。神様といえど『働かざる者食うべからず』わかりますよね?」

「あ、ああ、あああ?」


背後から両肩を掴まれた乙音に脱出手段はなかった。


「さあ、襲名以来1年間、溜まりに溜まった宿題、いやお勤めを果たしていただきますぞ!」

「いやぁぁぁっ!助けてぇぇぇ!」


その時、弾太郎の脳裏に懐かしい記憶が鮮やかに蘇った。


(ああ、どこかで見た気がすると思ったら。夏休み最後の1日の……)


そう小学生の頃、楽しい夏休みが終わる日、目の前には手つかずの山のような宿題。

泣きながら残り僅かな猶予の時間を登校ギリギリまで。

マジ泣きしながら、無駄な抵抗と知りながら、最後まで泣きながら。


「神様も怠けちゃダメなんですねー」

「うん、そうだねぇ……」


考え深げにうなずくルキィと、相槌を打つ弾太郎。

二人とも身に覚えのある光景に感慨深いものがあった。


そして日が暮れる頃、ついに宿題、もとい、お勤めの山はついに片付いた。

精魂尽き果て畳の上に突っ伏した乙音を残して。


「父さん、これって児童虐待とかになるんじゃないの?」

「はっはっは、心配ないぞ。2代目乙姫様は我々よりずっと年上なのだからな」

「ううう、こんな時だけ大人扱いしおって……」


苦し気な声での恨み事が畳の上から延々と聞こえてくるが、海人は完全無視した。

しかし多少は罪の意識があるのか、乙音の頭を優しく撫でた。


「まぁ確かに神様とはいえまだまだ子供。少しは考えを改めるべきでしょうか」

「ほんと?本当に待遇改善してくれんの?」


乙音は跳ね起き、目をキラキラさせている。

地獄に仏、絶望のどん底で希望を見出した者の目の輝きだ。


「そうですね、手始めに今年の七五三の千歳飴、乙姫様のは特別に2本用意しましょう」

「えっ、私だけ2本も?ヤッターッ!」


甘いお菓子が好きなのはやはり子供なのか、素直に喜んでいる乙音だった。

しかし『七五三』と聞いてルキィは怪訝な顔をした。

彼女の故郷星では聞いたことのない風習なので、当然といえば当然なのだろう。


「ねえ、ダンタロさん。『しちごさん』ってなんですか?」

「ああ、7歳と5歳と3歳の時にお祝いを……えっ、オトねーちゃんって7歳なの?計算があわな……」


弾太郎が物心つく頃、10年以上も前の乙音は今と変わらぬ姿だった。

神様、正確には太陽系外知的生命体ということだが、それでも今年7歳では年齢計算が合わない。

それを察した海人が笑いながら教えてくれた。


「おいおい、弾太郎。そんなわけなかろう」

「それじゃ、どうして七五三の」


「ハハハ。乙音ちゃんはね、今年でちょうど七百五十三歳なんだよ」

「ミギャー!アホ海人ォー!私の年齢バラすなァーッ!」


乙音の抗議も虚しく、こうして神様の秘密はまたひとつ解明されて(バラされて)いった。

機嫌よくハハハと豪快に笑う海人と、悔しそうに見上げながら海人を睨む乙音。

心行くまで散々笑った後で、海人は真面目な顔に戻った。


「ふむ、冗談はこれくらいにして」

「冗談のために神様おちょくったんかい?」


「近海に出没しておる海賊もどきの蛇怪獣だが」

「おのれ、我を、神様を無視するとは!」


「塩川のハゲ親父のとこじゃ余裕がないらしくてな。こっちで何とかしろ、だそうだ」

「バチあてるぞ!天罰くらわすぞ!」


「私によい考えがあるのだ」

「ムギュッ!?」


怒りの2代目乙姫様を更なる大型段ボール箱(来年分厄除けお札&お守り)3個で潰して海人は話を続けた。

そして弾太郎は(ロクなアイデアじゃないんだろうなあとは思いつつ)一応、訊いてみた。


「それで、どうするの?父さん」

「うむ、まずは敵をおびき出さねばならないわけだが……ちょうどいい物が届いておってな」

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