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再会は鮮血の浜辺で

島の外から戻るとき、ルキィは必ず敬礼して島全体に聞こえる元気な声で挨拶する。


「ルキィ巡査、ただいま戻りましたぁ!」


元気な声は全ての家のガラス窓をビリビリと振動させ、島の反対側まで突き抜けて海面にさざ波を起こして広がっていく。


「タタタ姫ちゃん、着いたよ。もー大丈夫だからね」

「グシュン……そんな名前じゃないもん」


小さな龍神様を抱きかかえたルキィは於茂鹿毛島の砂浜に上陸した。

漁港から上陸しないのは埠頭を支える地盤がルキィの体重に耐えきれないからだ。


ドズン!

「ととと、転ばないように気をつけてっと」

ドズン!ドズン!ドッズゥン!


一歩二歩と、砂浜に足を置くたびに膝近くまで沈み込む。

同時に体から流れ落ちる海水は洪水のように砂を押し流し、巨大な足跡に流れ込む。

濁った海水を湛えた足跡の池が波打ち際から点々と続く。

これまでに足をとられて転んだ跡は大きなクレーターとなって、砂浜のあちらこちらに残っている。


「あ、ダンタロさんだ。迎えに来てくれたんだ」


その先に弾太郎が手提げバッグを手にして待っていた。

一足先に島へ戻った弾太郎は『うずしお丸』を格納庫へ戻して、急いで迎えに戻ったのだ。


「ただいまー、ダンタロさん」

「お帰り、ルキィさん。竜神様ぁーっ、大丈夫ですかーっ?」


ルキィにしがみついている竜神様、プルプル震えながら首をすくめてジーッと弾太郎を見つめていた。

そのうちハッと我に返ったようで、いきなりキョロキョロと周囲を確認。

陸上に上がったので安心したのだろう、ルキィの胸から飛び降りて砂浜に着地。

蛇のようにとぐろを巻いて咳ばらいをひとつ。


「コホン。わ、我こそは天の美那多津田姫(あめのみなたつたひめ)……」

「それはもうわかりましたから」


「……では我が神域を脅かす海賊どもを」

「それも、こっちでなんとかしますから」


竜神様は言葉に詰まった。

機嫌を損ねたらしくプィと横を向いて拗ねている。

ルキィも見かねたのか竜神様を抱き寄せて弾太郎をキッと睨んだ。


「ダメですよ、弾太郎さん。小さな子にそんな怖い顔しちゃ」

「いや、恐い顔って」


どうみてもルキィと竜神様のほうが怖い顔してるのだが。

そうこうしているうちに、ルキィの姿を遠くから見つけた子供たちが集まってきた。


「ほらー、やっぱルキィちゃんだ」

「今日はおっきい方でおしごとぉー?」

「ねーねーねー、あそぼー」


ルキィは島の子供たちには人気者だ。

本人も子供好きなので、人間態でも怪獣態でも子供たちとよく遊んでいる。


「こらこら、お前らまだ学校の授業中だろ?分校に戻りなさい」

「弾太郎、うるさい」

「休憩時間だもん」

「ルキィねーちゃん、高い高いしてよー」


ちなみにルキィ怪獣態での『高い高い』は地面につけた手の平に搭乗。

手を頭上に上げて一気に背伸びして地上から高度100メートルまで5秒ジャスト。

つまり超高速エレベータごっこである。

ちなみに弾太郎も一回だけ乗せられたが『二度と乗らないぞ』と密かに誓っていた。


「ごめーん。今、仕事中だから」

「えーっ、つまんなーい」×3名


「また後でね。今はこの子とお話しなきゃいけないから」


ルキィが指さしたのは竜神様、子供たちの視線が集まる。


「あ、変なのいる!」

「この変なのが犯人?」

「変なのー、変なのー!」

「だ、だ、誰が『変なの』じゃ!我こそは」


笑顔?のルキィが龍神様を子供たちに紹介した。


「えっとね、この子が『雨降りみんなタタタ姫』ちゃんだよ!」

「違うッ!いいか、ガキども!我こそは……って、お前らは?」


龍神様がグっと顔を子供たちに近づけてきた。

子供たちが怖がる、どころか興味をそそられたのか逆に近寄っていく。


「あまり近づいちゃ……いや、なんでもない」


危険だよ、そう言いかけけて弾太郎は苦笑した。

ルキィと出会う前ならそう言っていただろう。

怪獣というものは危険な生物だ、その頃はそう思っていたから。


龍神様VS子供たちの『にらめっこ』がしばらく続き、やがて龍神様が口を開いた。


「お前たちは、ダイちゃんにミソラちゃんウミちゃんか、岬さん家の?」

「えっ、何で僕らの名前を?」


「ほらぁ、私よ、私!覚えてない?あ、この姿じゃ無理か。エイッ!」

ボフゥン!


軽い音がして竜神様の足元?から白煙が上がった。

一瞬、煙で全身が隠れ、煙が晴れた時には竜神様の姿はない。

そしてガキどもと同じくらいの背丈の女の子がひとり。

丸顔にクリッとしたドングリまなこの、とても可愛らしい女の子だが、腰まで伸びた長く豊かな髪は古代の神らしさを意識したものだろうか。


「えっ、竜神様が、人間態に?」

「すっごーい!あの子、アイテムなしで人間に擬態できるんだ」


弾太郎とルキィが驚いてるのを見て竜神様はえっへん!と(小さな)胸を張った。


「我のようなベテランになるとアイテムなしで変身など朝飯前じゃ」

「いーから服着ろよ、お前」

「パンツもだよ」

「ハダカじゃ通報されるよ」


子供たちからすっごく冷めたダメ出しが入った。

竜神様は一糸まとわぬ姿だった。

児童ポルノで通報されること間違いなしの恰好だ。

受けの悪さにちょっとムスッとした竜神様だが、一応着替えるつもりになった。

……らしかったのだが。


「……着替え、家に忘れてきた」


再び泣き出しそうになる。

弾太郎は急いで自分の制服を羽織らせた。


「あ、アリガトね。弾太郎ちゃん」

「どういたしまして、オトねーちゃん…………ってオトねーちゃんなのか!」


自然と口をついて出た名前に、弾太郎自身が驚いていた。

子供たちもびっくりしながら龍神様ことオトネちゃんのまわりに集まった。


「ふふん、よーやく思い出したか。忘れんぼの弾太郎ちゃん?」


「え、オトネちゃん?」

「さよう、ダイくん。乙音お姉ちゃんじゃ」


「浦島さんちの?」

「そうそう、ミソラちゃん。浦島 乙音。みんなとは6年ぶりだったかなー」


「そうだ、カナヅチオトネちゃんだ!」

「じゃかましい、ウミ!いらんことまで思い出すな!」


呆然としていた弾太郎の顔が喜びの笑顔に変わっていく。


「本当に、ほんとにオトねーちゃん?懐かしいなぁ!全然、変わって……」


弾太郎、ちょっとトーンダウン。

6年ぶりに再会した幼馴染は変わっていないというか、変わらなさ過ぎた。


(オトねーちゃんって僕より年上、のはず?)


幼き日、祭りの頃だけ母親と二人でやってくる、弾太郎より少しだけ年長の女の子、浦島 乙音。

同世代の子供のいない島で、兄弟のいない弾太郎にとっては唯一の幼馴染というより姉のような存在だった。

彼女の方も必死に後をついてくる弾太郎を随分気に入っていたようだった。


(そのせいか、やたらと……おねーさんぶってたなぁ。でもその頃と同じ姿って神様だからかな?)

「どしたんですか、ダンタロさん?」

「いや、ちょっと昔のことを……」


苦笑する弾太郎を下からのぞき込むルキィと視線があう。

話している間にルキィも人間態に変身を終えていた。

そして、そのルキィの姿に弾太郎は焦った。


「あ、あ、る、ルキィさ……」

「さ、早く署に戻りましょう!」


「ちょ、ちょっと……」

「オトネちゃんに事情聴取しなきゃですね」


いつものように弾太郎の腕をとって全裸のルキィが歩きだそうとした瞬間。

いつものように鼻血を噴き出して弾太郎は倒れた。

そもそも弾太郎がここまで迎えに来たのも、ルキィに服を渡すためだった。

裸というものに羞恥心を持たないルキィは平気で村の真ん中を歩いて帰ってきてしまうのだ。

まあ、男どもは結構喜んでいたりするのだが、直後に島の女たちに鉄拳制裁で根性を叩きなおされている。


「もー、ダンタロさん!いつもそんなんじゃ、仕事にならないじゃないですか!」

「た、頼むから早く服、着て!」


鼻血をハンカチで押さえつつ、ルキィに服を渡そうとする弾太郎。

そんな弾太郎を生暖かい目で見守るのは竜神様あらため乙音ちゃんだ。

からかうように楽しむように、そしてなんだかうれしそうに乙音はニタニタ笑っている。


「ほっほう?お子ちゃまだった弾太郎ちゃんも、色を知る年頃か……」

「ちょ、ちょっとオトねーちゃん?からかわないでくれよ」


「まーまー、私にお尻にくっついてきた泣き虫弾太郎ちゃんが立派に育って。おねーさん、うれしいよ」


機嫌よく弾太郎をいじっていた乙音だったが、後ろにいたガキどもの声が状況を一変させた。


「ルキィおねーちゃんの時は弾太郎、鼻血出すけど。オトネちゃんの時はなんで出ないの?」


ウミこと岬 羽海ちゃんの何気ない言葉に乙音のこめかみにピクッと血管が浮かんだ。


「そりゃさー、ルキィちゃんとオトネじゃ大っきさが違うじゃん?」


何が?と聞くまでもなかった。

ダイくんこと岬 大地君の魂をえぐる言葉に、乙音のこめかみに浮かぶ血管がピクピクッと増えた。


「そっかー、弾太郎もやっぱりおっきい方がいいんだ」


納得するミソラちゃんこと岬 美空ちゃんの言葉に乙音は自分の胸に手を当てた。

起伏を確かめるように手を上下に滑らせるうちに頭から白い水蒸気が立ち昇った。

不機嫌そのものの表情で弾太郎の襟首を掴む。


「ルキィさん、早く服を……な、何?オトねーちゃん?」

「弾太郎ちゃん……鼻血は?」


「あ、もう大丈夫。ほら、もう止まった……ムプッ」


乙音は弾太郎の首をガッチリつかみ、自分の胸に押し付けた。


「そうか、そうか。我が裸身を見てそんなに鼻血が?」

「ちょ、違、別に何も……」


「何も感じない、などとはいうまいな……さあ欲情しろ、鼻血をドバッと!心置きなく!」

「いや、オトねーちゃんに欲情なんて……グギャッ?」


顔面を小さな平原に押しつけられて、というより叩き付けられて弾太郎は流血した。

ただし興奮してではなく、打撃力によって。

見かけは幼くとも怪獣娘恐るべし、肋骨の強度は超合金レベル。

そして戦車に匹敵するパワーで鷲掴みにして、クッション性ゼロの鉄板胸板で圧殺。

人間の弾太郎には少々危険なじゃれあい、ということになる。


「やめて、痛い、痛ッ、しッ、死ぬッ?」

「さあ、我に熱き血潮を捧げるのじゃァァァッ!」


最早、目的不明の生贄の儀式になってきた。

最初は面白がって見ていたガキどもも顔色がだんだんと青ざめてきた。


「ねぇ、弾太郎なんかぐったりしてるけど」

「止めてほうがいいかな?」

「オトネちゃん、コワいよぅ」


ルキィも楽しそうに、しかしどこか寂しそうに呟いた。


「ホントの姉弟みたい。いーなぁー……」


そばに立っていたガキどもの最年長、ダイくんも呟いた。


「いーから、ルキィねーちゃんもパンツはけよ」

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