神様降臨!信仰が試される時
「なんですかね、あの雲?」
「うーん?雨が降るような気象条件じゃないけどな」
雨雲だけでなく、その下の海面も波が荒れている。
ゆっくりと近づいてきた雨雲はルキィたちの真上までやってきた。
ザァッ……ァァァ。ビュゥッ。
降り出した雨は激しくなり、強い風も吹いてきた。
「海の天気は変わりやすい、っていうことでしょうか?」
「いや、変だよ。直径600メートルの円内だけ雨が降っている」
「どーゆーことですか?」
「この雨は自然現象じゃない。誰かが天気を操っているんだ」
ピカッ!ゴロロロロ。
雲間に雷が鳴っている。
嵐となった海に、低く不気味な声が響いた。
-我が神域を荒らす不届き者は誰ぞ?-
「この声は……女?女の人の声だ」
「あなたは誰なんですか?」
-我こそは、この海を束ねる神-
「ダンタロさん、この辺には神様なんていたんですか?」
「いたんですか、って。うちの神社で祀ってるでしょ」
弾太郎の実家は島の神社、それも古代の歴史書に載っているくらい由緒正しい神社である。
もっとも発祥がムー大陸時代まで遡るというあたりがかなり胡散臭い。
「神社……?ああ、確か『雨降りみんなタタタ姫』とか」
-天の美那多津田姫じゃ、バカ者!-
「あー、それそれ!長い名前なんでなかなか覚えらんなくて」
-ったく!祀ってる神様の名前ぐらいちゃんと覚えてよ、まったく-
「すいません、ルキィさんはまだこっち来てから日が浅くて」
-もう、弾太郎ちゃんがしっかりしなきゃだめでしょ?-
「あははは、ごめんなさ……何で僕の名前知ってるの、神様?」
-えっ?あっ!そ、それは……そりゃワタシ祭神なんだし。氏子の名前くらい-
あからさまに動揺している。
その態度に弾太郎は何か引っかかるものを感じた。
(本当に神様なのか?それに今の声、なんだか子供みたいな感じが)
「ところで先ほど『神域を荒らす不届き者』と仰っておられましたが」
-それはお前たちではないようじゃな。船を襲っては荷を奪う不届き者が棲みついたらしい-
「あ、それ!ゴゾとかいいう蛇怪獣さん!捕まえようとしたんだけど」
-左様、そこでじゃ。我に代わって、この不届き者を懲らしめよ-
厳かに命じる神の声、しかし返事はない。
というか、弾太郎もルキィもなんか不信の目で黒雲を見上げているだけだ。
神様の声に動揺が生じた。
-な、なぜ、我が命に応じぬ?神の直々の命じゃぞ?-
「そんなこといったって、私は他星出身でここの氏子じゃないし」
「僕も、声だけじゃ本当に美那多津田姫かどうかわからないし」
思わぬ命令拒否に神様は焦ったらしい。
-に、偽物だっていうの?わ、わたしは、いえ、我は本物の-
「えーと、じゃあ……せめて、お顔を見せてください!」
太陽系外から来た怪獣娘には現地の土地神に対する遠慮はない。
-姿を見せる、わたしの?そ、そそそそんなことしたら、えっと、そう、祟りが!-
「僕の父は『ウチの神様はバチあてるのも面倒くさがる怠け者だ』って怒ってました」
自分を祀る神社の神主とその息子からの信仰心も薄いらしい。
ゴ、ゴゥッ!ビョォォォッ!ドドドドドッ!ガッガーン!
無礼な振る舞いが神を怒らせたのか?
黒雲が厚みを増し、雨はより激しく、風が渦巻き、高波が荒れ狂い、稲妻が閃いた。
弾太郎とルキィが黙って黒雲を見上げること10秒。
強風は止んで波は鎮まり雨は小雨に、稲妻も遠くなった。
-ハァーッ、ハァーッ、ゼーッ、ゼーッ。我が怒り、お、恐れ入ったか-
「そんなことより早くお顔、見せてくださいよー」
ルキィは何かされた、とさえ感じていないらしい。
当然、ルキィのような大怪獣には大嵐もそよ風と変わらない。
弾太郎も乗っているのはポンコツ宇宙船とはいえ、この程度の雨風なら影響を受けることはない。
神様渾身のデモンストレーションは疲労感だけ残して、不発&空振り&無駄撃ちに終わった。
-うぅぅぅ、どうしても姿を見せなきゃ、ダメ?-
「あ、いや、そんなことはありません!無理はなさらずとも、一応は神様らしいし」
-キィーッ、そこまでいうなら!我が姿、見せてくれよう!恐れおののくがよい-
弾太郎としては気をつかったつもりなのだが「一応は神様」というのが気に障ったらしい。
黒雲の中に巨大な緑色の八角形模様が現れた。
「わー!すっごく、きれい!えっと何かの紋章?」
「うーん、中国系の神様なのかな?」
八卦と呼ばれる、中国古来の占いではおなじみの文様だ。
それが黒雲を離れスゥ―ッと海面まで降りてきた。
文様が海面に触れると波は凪のように穏やかになり、上空の黒雲も霧散した。
そして文様の中心からゆっくりと姿をあらわし、鎌首をもたげる神の姿は?
異形の神の出現にルキィは目を見開き、弾太郎は息を呑む。
「これが……」
「竜神様……だよ、ルキィさん」




