怪獣娘の緊急出動(宴の後、の後始末)
☆火星、銀河パトロール支部、怪獣専用留置所の一角で。
バリアで構成された檻の中でジッとうずくまる怪獣二匹。
一匹は下半身をギプスと包帯で固められ、床に伏してうめいていた。
「うー、うー、痛ぇよ。すごく痛ぇーよぉ、親父ぃ。なんとかしてくれよぉ」
「うるさい。貴様はだまっとれ」
もう一匹は更に悲惨だった。
全身ギプスと包帯のミイラ状態、包帯の下は華やかな赤アザ青アザに生々しい傷が数え切れないくらいだ。
「くそう、ここまで築き上げてきた『ドンエルペット商会』もこれまでか……地球なんかくるんじゃなかった」
喋るだけでも割られた顎がズキズキ痛んだ。
口を開くと折れた奥歯がコロリと落ちた。
ぼやいてるうちに悲しくなって、涙があふれてきた。
キュォォォ、キュウォォォォォッ………
親子怪獣二人で泣いた。
『鳴いた』のではなく『泣いた』。
温度管理されているはずの檻の中まで冷たい風が吹いてるような気がした。
「おぼえておれよ、あの狂暴婦警!この借りは絶対、絶対に返すからなぁ!」
「親父ぃ、いてーよぉー。ウルトラいてぇーよぉー」
負け犬、いや負け怪獣の遠吠え二重唱がバリアの檻の中に悲しくこだました。
☆地球、弾太郎たちが予約していたホテルの一室で。
「はい、海人おじさん。今、ホテルの部屋からです」
風呂上りのルキィは洗ったばかりの髪を乾かしながら、電話をかけていた。
本来なら定時連絡は弾太郎の役目なのだが、あれからずっと別行動になっていた。
「はい、すぐにチェックインできました。地球のホテルの人って親切なんですね」
地球の宿泊施設は初めてとあって、見なれない物があちこちにあった。
於母影島の彼女の部屋は和室であったため、洋室のこのホテルとはいろいろと勝手が違う。
もの珍しさもあってチラチラと部屋の中を見ながら電話していたのだが、そのうち奇妙な物に気がついた。
「あれ……?どうしてなのかな」
それは地球では特に珍しいものではなかったし、ルキィも何度も使った物だった。
問題はその使用方法だ。
確か一人で一つだけ使う道具のはずなのだが。
「海人おじさん、どうしてベッドの上の枕が二つもあるんでしょうか?」
『……気にすることはない。それより今日は疲れただろう。ゆっくり休みなさい』
☆神社社務所 兼 真榊家自宅で。
受話器を置いた海人は疲れた顔でうつむいた。
こめかみに手をあてて苦い顔で愚痴りはじめる。
「塩川のクソオヤジめ、『今日中にはどーにもならん。明日まで待て』だと?うちの息子をなんだと思っとるんだ」
更に深いため息をつき愚痴る。
「これで『弾太郎くん初体験の一日』計画は失敗か。初孫への道がまた遠くなったよ、母さん」
亡き妻のことを思い出し、少し涙ぐんだ。
かたわらのコンソールにチカチカと赤いランプが明滅した。
恒星間通話の着信だ。
相手の名を見てまた悩み深いため息をつくことになった。
「ルキィちゃんの親父さんから……まずいな、『来年の帰省の折には孫を一人お土産にしてやる』って約束してしまったからな」
作戦失敗の言い訳を考えつつ海人は通信機に向かった。
☆地球、防衛警察極東支部の留置所で。
小さな窓から見上げる月は少し青みがかって、とてもきれいだった。
他にすることもないので弾太郎はずっと中空の月を見ていた。
何時間そうしていたのだろう。
ふと、我に返って、ふうっと大きなため息をつく。
(僕、どうしてこんな所にいるんだろう)
返答する者なき疑問を何十回、心の内で繰り返しただろうか。
「へっへっへ、お嬢ちゃん……じゃなくて兄ちゃん。なにやらかしたんだい?」
お隣さんが下品な声で話しかけてきた。
言い返す気もおこらないので、弾太郎は膝を抱えてうずくまった。
コンクリートの床の感触がとても冷たかった。
「なぁなぁ、教えてくれたっていいだろ?」
「そのあんちゃんのことなら俺ぁ知ってるぜ。婦女暴行未遂だって、さっきポリ公が言ってた」
お向かいさんが加わってきた。
こちらも好色丸出しの下卑た声だ。
「怪獣が出たドサクサまぎれに未成年の娘っ子を脱がせて、イタズラしてたんだとよ」
「へぇ、どんなイタズラを?」
「セーラー服脱がせて、それを自分で着てたんだとさ。しかも下着まで。ケケケケケ」
「ヒヒヒ、そりゃまたいいねぇ。俺は電車の中でいいモノ見せてやっててよ」
「おお、あんたもかい?俺なんぞ公園で大サービス中にとっつかまってよ」
変態たちの会話が盛り上がる中で弾太郎は窓を見上げた。
小さな窓の鉄格子越しに見える月がなんだか、とてもきれいに見えた。
自然と涙がこぼれるくらい美しかった。
☆同じ留置所の廊下で。
「坊ちゃん、すまねぇ、すまねェ……」
暗い廊下の片隅、不自然にでかいゴミ箱の中からすすり泣く声が聞こえた。
ゴミ箱に変装、というより仮装しているのはもちろんゲン爺だ。
如何なる場所、如何なる時であっても弾太郎を見守るという大役を彼はおろそかにはしない。
たとえ留置所のなかであっても。
「あっしがドジなばっかりに。こんな情ねェオチになっちまった……」
月がそろそろ西に傾きかけた頃、毛布に身を包んでいた弾太郎はうつら、うつらし始めた。
慣れないベッドで寝返りばかり打っていたルキィも静かな寝息をたてていた。
傷の痛みにのたうっていたドンエル親子もいびきをかいていた。
世界が眠りに落ちる中で、なお眠ることなく月を見上げる者もいた。
「愛する弾太郎よ、今回はここまでとしよう。だが私は絶対にあきらめん、初孫をこの手に抱くまでは、私は絶対に諦めんからな」
おまけ☆そして銀河系のどこかの殺風景な一室で。
「これほどの権力、財力、暴力を手にしながら」
逆光シルエットの老人は窓の外の3つの月を見上げ、膝に抱いた猫型生物の頭を撫でつつ嘆息した。
「若き日、貧しかった頃からのささやかな夢ひとつ叶えられぬ、とは情けないのう」
少しうつむき、力なくため息をつく姿は黒幕とは思えないほど哀愁を漂わせる。
「しかしワシは諦めぬぞ、さくら子よ!諦めたらそこで戦闘終了じゃからのぅ!」
不屈の闘志!それこそが彼を社会の最下層から裏社会のトップへ導いた原動力だった。
「さくら子、必ずやお前を我がもとへ……痛っ、イタタッ!」
プギャッ!
猫型生物が機嫌を損ねたのか、手に噛みついてきた。
「ニューちゃん!痛い、痛いってば?は、離して」
プギュルルルル。
猫型生物ニューちゃんの機嫌はますます悪くなっているようだ。
「さくら子ちゃんの件は浮気じゃない、浮気じゃないから!ニューちゃんは別格だから!」
一昔前の新人賞応募時に書き溜めていた分はここまでです。
この後の怪獣たちの賑やかな物語をもう少しだけ続けようか?とか、
でも読んでくれる方がいるのだろうか?とか、
などとしょうもないことを考えてしまいます。
また別の作品を投稿していきますので、そちらもあわせて楽しんでいただければ幸いです。




