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怪獣娘の緊急出動(不幸の星、本領発揮)

「どうしたんですか?顔色悪いですよ」

「いや、別に。何でもないよ……」


生気もなく弱々しくつぶやく弾太郎を、ルキィは心配そうに見下ろしている。

彼女のいたわるような視線すら恐かった。

しかもルキィ自身は自分の行為の残虐だとは思っていない。

それよりも様子のおかしい弾太郎が心配らしく、身をかがめ顔を近づけてきた。

巨大な顔の牙が並んだ口から暖かい、というより熱い吐息が弾太郎に吹きつけてきた。


「ひょっとして怪我とかしてたんですか?それなら早く手当て……」

「近寄らないで!」


叫び、いや悲鳴に近い声を上げた弾太郎に、ルキィは驚いて身を固くした。

声を上げた本人である弾太郎も自分の声に驚いていた。


「あ……ごめん、ちょっと、驚いたもんだから」


慌てて謝るがルキィは目を丸くして硬直したままだ。

どうしたらいいのかわからない、瞳も心なしか悲しそうに見えた。


(何を言ってるんだ僕は?そんなつもりじゃなかったのに?)


冷静に考えれば彼女の行為は正しかった。

逮捕した怪獣はできるだけ無力化しておかなければならない。

現時点の地球の戦力では怪獣を拘留さえ難しいのだ。

現に重機動部隊のやり方はもっと手荒で、都市部で暴れる怪獣をその場で射殺した例も多々ある。


「ほんとに……どうかしてるな、僕は」

「え?え?やっぱりどこか怪我を?」


「いや、怪我は大丈夫。それよりもう一匹……じゃなくて一人の方だけど」


何事もなかったようにぎこちない笑顔をつくって、弾太郎は顔をあげた。

そしてハルバドを指さした。


「あ、アイツの方もすぐに片付け……」

「いや、そこにワイヤーがあるだろう?」


うずたかく積まれた廃材の中に金属製のワイヤーが放置されていた。

吊り橋などに使われる建築資材だが、処分に困って不法廃棄したらしい。


「あれで縛り上げるんだ」

「ええ?でも、ここはやっぱり徹底的に抵抗力を奪うべきかと」


「ルキィさん」

「あ、はい……」


今度は叫んだわけではない。

むしろ普段以上に優しく穏やかな声だ。

それなのに、さっきの叫び声よりもルキィには重く聞こえた。


「この場はこれで十分だよ。それ以上は必要ない、そうだろ?」

「了解しました!直ちに被疑者を拘束します」


直立不動の姿勢をとり、地球式敬礼をするとルキィはワイヤーを手にハルバドを縛り始めた。


「急ごう、防衛警察の増援も来たみたいだ」

「ハイ!」


遠くから重いキャタピラの音が幾重にも重なって聞こえてきた。

道路の幅一杯を占領してやってくる巨大な戦車の影が次々現れる。


「早く人間体になって。君の正体は一応極秘扱いなんだから」

「あー、そうでしたっけ?」


ポリポリと頭をかく動作が妙に人間的で愛らしいのが可笑しくて、弾太郎は思わずプッと吹き出した。


「そうでしたっけ、じゃないだろ?表向きは君は於母影島駐在署の婦警さんなんだからね」

「はい、じゃあすぐに擬態しまーす」


耳の後ろあたりをモソモソ探っていたが、すぐに小さな杖を取り出した。

人間からすれば結構な大きさの杖だが、今のルキィからすれば爪楊枝ほどの大きさもない。

その杖を鼻先に掲げてルキィは一連のパスワードを唱えると、先端に光が灯る。


「よかったぁ、壊れてないみたい。擬態開始!」

『コマンドを開始します、擬態誘導シーケンス起動』


機械音声がそれに答え、七色の光が怪獣姿のルキィを包みこむ。

やたらと派手な光の演出の中で巨大な影は急速に縮小し、光が消え去ると同時に怪獣の姿も消えた。

そして……弾太郎は本日二回目の鼻腔からの大量出血にみまわれた。


「あれー、ダンタロさんまた鼻から血が出てますね?」

「わ、忘れてた……擬態後は、ハ、ハ、ハダカだった」


貧血気味になるほどの鼻血を押さえ、弾太郎は後ろを向いて目を閉じた。

それでも脳裏に焼き付いたイメージは消え去らず、新たな出血がドクドクと。


(い、いけない、このままでは出血多量で死んでしまう?)

「は、早く!服、着て!服!」


「……服はダンタロさんが持ってますけど」

「あ?ああ、そうか。そうだった!」


ルキィが着ていたセーラー服は弾太郎が小脇に抱えたままだった。

擬態解除の際に服が破れるのは困るので預かっていたのを忘れていた。


「と、と、とにかく早く」

「わかりましたから、早く返してください」


急がなくてはならない、今の弾太郎は極めて異常な状況にある。

目の前には全裸の少女、自分はセーラー服着ている。

そして警官の団体がこの場に急行中だ。


(なにもかもヤバい?誰かに見られる前に!)


下を向いたままの弾太郎は必死に服と下着を差し出し、ルキィはそれを受け取ろうと手を伸ばした。


「こんなとこをもし知り合いにでも見られたりしたら……」

「……知り合いが見たらどうなるというのだイ?弾太郎」


冷酷な声がまるで死刑宣告のように聞こえてきた。

その声に弾太郎は凍りついた、それこそまさに知り合いの声だった。

硬直した首の筋肉をギギッと無理矢理動かすと、銃を構えた旧友と対面した。

友の銃口は弾太郎に向けられていた。


「やあ……ジン。久しぶり……」

「久しぶりだネ、弾太郎。今日は一体何をしているのかナ?」


カチリと安全装置を外す音。

トレードマークのナンパスマイルは崩さず、ジンは正確に心臓に狙いをつけていた。


「あの、なにか、誤解を……」

「確かに君を誤解していた、そんな人間だとは思わなかっタ。混乱に乗じてルキィさんにこんな破廉恥な……」


「違う、違う!そうじゃないんだ!」

「男としてうらやましい、いいや、許せない……」


ジンの顔からナンパスマイルが消え、かわって暴悪大笑面が浮かび上がった。


「る、ルキィさん、君からも、なんとか、いってくれ……」


助けを求められてルキィは困った。

そもそもどこが問題なのかよくわからない。


「あの、ダンタロさんはただ服を預かってくれただけなんですけど」

「どうして預けたノ?」


「はい、服を破くのは困るから」


怒りと嫉妬でカタカタと震えていた銃口がその返事でピタリと止まった。

殺気も消え、悪鬼の笑顔は再び爽やかな好青年のそれへと変わる。

冷静になってくれたようだ。


「そうか……弾太郎、君は」

「そう、そうだよ、全ては誤解……」


「ルキィさんの誤解につけこんで彼女を支配していたのだネ」

「え…………」


親友の、親友だった男の銃が額に突きつけられた。

殺意が消えたのではなかった。

冷酷非情な殺人機械モードに切り替わっていただけだった。


「レディに対する恥ずべき行い……」

「ち、違う!そうじゃない、聞いてくれ」


「あまっさえ奪い取ったセーラー服を着てしまう変態行為……」

「これは、これは僕の意志じゃない!」


「わかっているとも、離島の駐在署にトバされたあの日、君の心に悪魔が囁いたんだネ……」

「だからそうじゃ・な・く・て……」


「婦女暴行の現行犯で君を確保する!これが僕が、僕が……僕が君に送る最後の友情ダ」


必死に涙目で訴える弾太郎を到着した警官隊が取り押さえ、担ぎ去っていったのは五秒後だった。

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