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怪獣娘の緊急出動(自分の土俵に立て!)

「動けば撃つといったハズだよ!」

「その銃で……か?」


叫ぶ弾太郎をチラリと見ただけで背を向けて、ドンエルは苦笑いした。

なぜなら弾太郎が構えていた銃は、本当は銃でさえなかったからだ。


「信号弾で怪獣倒すってか?ミサイル食らっても平気なワシらをか?クククッ」

「見かけだけじゃなく考えることもカワイイよなー、親父」


「ああ、まったくだ……」


もう弾太郎を警戒する必要もなかった。

後はとどめの一撃を怪獣娘にくれてやって、高飛びするだけだ。

納品予定の他の娘たちには逃げられたが、弾太郎一人だけでも連れかえれば元は取れるはずだ。

今度こそドンエルの最後の一撃を止める者はいない。


(ルキィ、ルキィさん!聞こえる?)

(あ、ダンタロさん?)


ナノマシン経由の通話機能で弾太郎は話しかけた。

これなら他に聞かれる心配はない。


(ダンタロさん、逃げてください。私なら自分でなんとかできますから)


ルキィの力でどうにかなるはずないのは誰の目にも明らかだった。

それでも弾太郎には弱みを見せたくはなかった。

地球でただ一人の怪獣警官として、肉体的には小さくて貧弱な地球人に泣き言を聞かせるなど許されなかった。


(相棒を見捨てて逃げろっていうのか?)

(えっ?)


ルキィは驚いた、弾太郎の言葉には明らかに怒りが混じっていた。

音声による会話と違い、感情がダイレクトに伝わってきた。


(でも、このままじゃダンタロさんの方が危険……)

(僕じゃ何の役にも立たないからかい?)


(そ、そんな意味じゃありません、そりゃあダンタロさんは地球人だから……)

(地球人はとっても小さな生き物だから?何の武器もないから?戦力にならないから?)


ルキィは何も言い返せなかった。

別に地球人を見下しているわけではなかったが、戦力として計算に入れてなかったのは事実だ。


(そうです……ダンタロさんではこいつらに傷ひとつつけられません)

(確かにそうだね)


(だから早く逃げてください)


ドンエルの拳が唸りをあげた!

解き放たれた破壊力がルキィを襲う。

その瞬間を狙って弾太郎は信号弾を発射した。


(ここからが賭けだよ、ルキィさん!)

(ええっ、賭けって何を?)


信号弾の発射音はドンエルの耳にも届いていたが、気にする必要もなかった。

発射口の向きからして目か耳を狙っていたようだが所詮は信号弾、射程距離は十分でも照準は正確なはずはない。

運良く当たったとしても目潰しになるほどの威力もない。

だから……視界の半分が真っ暗になった瞬間は、何が起きたかもわからなかった。


「なんだッ?目が見えん!」


鼻先に信号弾が当たったのは感じた。

本物の銃でないことを考えればよく当てたといえるだろう。

もちろん何のダメージもなかった。

しかし着弾と同時に小さな黒い布みたいな物が目の前に漂ってきた。

それが何か知る前に黒布は風に逆らって急接近し、ドンエルの右目に貼りついた。


「な、し、しまっ……」


いきなり視界の半分を奪われ、混乱したドンエルの拳は完全に的を見失った。

中途半端に浮いたパンチは心臓ではなくルキィの顔面へ……。


「グギャッ!」


間一髪、身を沈めたルキィの頭をかすめて、打ちそこないの一撃はハルバドの顔面に命中した。

鼻血だか吐血だかわからない流血をまき散らしてハルバドがグラリと真後ろに倒れていく。


「あ!ああ?す、すまん、外しちまっ……グブッ!」


ドンエルも顔面を押さえて五、六歩後ろに下がった。

解き放たれたルキィが倒れこむように懐に入り込み、鼻っ柱への頭突きをを敢行してきたのだ。

さすがに倒れるまではゆかず、鼻血を拭き払いながらドンエルは見えなくなった目をかきむしった。

眼球に黒い薄い膜のような物が貼りついており、顔の皮膚と一体化したように取れる様子がない。


「く、くそ、とれねぇ?こりゃ、アミネズミ?アミネズミを信号弾の代わりにしやがったな」


アミネズミは普段は真っ黒なピンポン玉みたいな生き物だが、獲物が接近すると数メートル四方の膜状に広がり獲物を捕獲する。

ドンエルたちは娘たちを拉致するのに使っていた。

弾太郎は工場から逃げる時、床に転がっていたそれを信号弾に詰め込んだのだ。


「でも、運よく当たってよかった。外れたら、もう打つ手なしだったよ」


弾太郎は冷や汗をぬぐった。

しかし必死に顔をかきむしる敵を尻目に、ルキィは数歩離れて倒れこみ荒い息をしていた。

本来ならルキィは反撃に移ったのだろうが、フラフラしながら少し距離を取るのがやっとだった。


「ルキィさん、この場は一旦退くんだ」


弾太郎は工場の屋根から降りつつ今度は大声で叫ぶ。


「……ここで後退したら逃げられちゃいます……」

「このまま戦えば同じことの繰り返しだ!」


「……やっぱりダメです。警官として犯人を見逃すわけにはいきません」

「無理だよ、相手は接近格闘戦のベテランなんだろ!敵の得意分野でしかも二対一、自分の土俵にでも持ち込まない限り勝つのは無理だ」


「自分の、土俵……ドヒョウ?」


悲観的なアドバイスだが、耳にしたとたんにルキィの目が輝いた。

自信を失くしかけていた顔になぜか闘志が戻ってきた。


「それって自分の得意技とか特技のことですよね!」

「?ああ、そういう感じの意味だけど……」


「わかりました。私、やってみます!」


ルキィは右手の手刀を差し出した。

何事かと驚いて見ているドンエルたちに指先を突きつけ気合を込める。


「オオッ!」

その場の全員が息を呑んだ。

指先に瞬時に巨大な黒い爪が出現した。

まるでナイフのような鋭く長く太い爪は獰猛な怪獣たちさえたじろぐ迫力だ。


「その爪が切り札だったか。つまり今度こそ殺し合いってわけかい」


ルキィはただ黙って大きな動作でゆっくりと爪を振り上げ、ドンエルも全身を緊張させて迎え撃つ体勢に入った。


(あの爪で切り裂かれちゃあ、ワシだって命にかかわるだろう。だがその程度で気圧されると思うなよ、武器を持った奴と殺り合ったことは数え切れねえくらいあるんだぜ)


そしてその対戦相手の全てに勝利して生き延びてきた。

片目を封じられたとはいえ、今度の相手は未熟な娘っ子で、しかも弱っている。

油断さえしなければ問題はない。


「さぁ、どっからでもかかってこ……」


ビュッと爪が空気を切り裂いた。

思わず身を強張らせ、両腕でガードするドンエルだが、すぐにあきれてガードを解いた。


「おい、小娘。どーゆーつもりだ?」


答えずルキィは再び剛腕一閃、巻き起こす突風が地上の廃材や板切れを吹き飛ばした。

だが鋭く長い爪は離れた位置にいるドンエルにはとどいていない。

とどいてないどころか地面をえぐりとっているだけだ。

ルキィは今や敵の姿さえ見ていない。

腕を振るうスピードを更に上げ、ひたすら地面をえぐるばかりだ。


「何のつもりだ?穴でも掘って隠れようとでも……ブベッ?」


えぐりとられた土砂がドンエルの顔を直撃した。

つい、二歩三歩と後ずさりするのを追うように大量の土砂が飛来した。


「ゲホッ、ゲホッ!こ、こいつ?目潰しと足止めが狙いか!ゲホッ」


集中豪雨並みの土砂の雨は息継ぎの暇もないくらいに降り注ぎ、ドンエルの動きを封じていた。

肌を傷つけるほどの攻撃力もないが、ただでさえ右目を封じられており、残る左目にも細かい砂が入って開けていられない。

砂は呼吸にも紛れこみ激しく咳き込み息もできなくなった。


「な…………舐めんじゃねぇ!」


土砂の雨の合間をぬって肺に残ったわずかな空気で生み出した小さなシャボン爆弾数発、やっとの思いで吐き出した。


ドォ―――ン。


シャボン玉群はルキィとのほぼ中間の空中で土砂と接触、大爆発を起こした。


「ヒェェェ……」


近くに居たハルバドが爆風をうけてひっくり返り、砂にまみれて転がった。

地面をえぐっていた音も止まり、土砂の集中豪雨もなくなった。


「舐めやがって、土ぶっつけて時間稼ぎしたぐれぇで、このワシをなんとかできるとでも」


ドンエルの悪態はそこでとまった。

ルキィの姿がどこにも見えない。

たった今まで地面を掘り返していたはずなのに。

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