怪獣娘の緊急出動(怪獣対戦勃発!)
「あっ!てめえらどこへ行く気だ?」
頭上から雷のような咆哮が降ってきた。
普通の人間なら怪獣の鳴き声にしか聞こえないだろう。
だがルキィとリンクされている弾太郎には明瞭な意味をともなって聞こえる。
「やっぱり見つかっちゃったか……」
「どーします、ダンタロさん」
「仕方ない、みんな、走れ!」
この一言で全員が走り出す、もちろんハルバドも黙って見ているわけがない。
「こら、待て!今、逃げられた納期に間に合わんだろ!」
「納品されちゃたまんないよ!」
言い返しながら弾太郎たちは走った。
ズシン、ズシンと地面を陥没させながらハルバドが追っかけてくる。
動きは鈍重そうだが何と言っても歩幅が巨大だ。
たちまち追いつかれそうになった。
必死に走る弾太郎だったが息は切れ、足はどんどん重くなってくる。
「だ、だめか?」
「ダンタロさん、これ持っててください」
「え?何……」
傍らを走っているルキィが何かを手渡してきた。
セーラー服のスカーフだ。
キョトンとしてる弾太郎に更に。
「これも」
「え?」
「それからこれも、これも」
「え?え?ええっ?」
スカートを渡された時に顔を真っ赤にした弾太郎だったが、無論それで終わりのはずがなかった。
「これも、これも、これも!」
「ちょ、ちょっと、待って……ウグッ」
ブラジャーを渡された瞬間に噴出した鼻血が空中に散った。
既に最後の一枚のみを身につけて全力疾走するルキィの姿がそこにあった。
器用にも彼女は走りながら着ている物を全て脱ぎ捨てていたのだ。
「な、なにを?どうして?」
「私も擬態を解除します!このセーラー服とか破るわけにはいかないでしょ」
鼻を押さえながら怪訝な顔をする弾太郎にルキィはニコッと笑って見せた。
「これもダンタロさんのお母さんの形見なんですから」
「あ………そうだっけ」
「じゃ、これも預かってください」
「ひぇっ?」
最後の一枚を渡されたとたんにこれまで最大の大出血にみまわれた。
うすれゆく意識の中でルキィがステッキを掲げるの見た。
呪文を叫ぶのを聞いた。
七色の光が渦を巻きルキィを包みこむのを見た。
光の中でルキィのシルエットが変形し膨れ上がる様を見た……。
「なにぃッ?」
ハルバドの歩みはそこで止まった。
赤髪の方がいきなり脱ぎ始めたのに驚いて、つい足運びが緩んでしまったのだ。
(何してるんだ、コイツ?)
捕まえるのも忘れて見ているうちに、全て脱ぎ去った赤髪が立ち止まり、振り向いた。
(おーおー、なかなかいいプロポーションしてるじゃねぇか。どうせならコイツも捕まえて俺専用の……)
専用の、何にするつもりだったのか。
ハルバドはその先を考えることができなかった。
輝きに包まれた赤髪娘のシルエットは変形し、巨大化してきたのだ。
ゴキッ!
顎のあたりで異音がしてハルバドはのけぞりそのまま後ろに倒れた。
「グガガガッ?ふふぁ、ふぁんふぁあ?」(いてててっ!なんだ、なんだぁッ?)
したたかぶっつけた顎と後頭部を押さえて立ち上がると、赤い硬い岩のような装甲皮膚に被われた巨大な怪獣がハルバドを見下ろしていた。
ちょっと痛そうな顔で額をさすっている。
どうやら怪獣形態への変化の時に頭突きをかましてきたらしい。
「て、てめぇも俺らと同じで怪獣だったのか……」
「銀河パトロール地球駐在署のルキィ・マークスマ巡査(見習)です!誘拐、人身売買、公務執行妨害で貴方を……」
ここまで言ってルキィはまた頭を押さえた。
「痛ぁい………おもいっきしぶつけちゃった」
「オイオイ、大丈夫かよ、婦警さん」
「あ、すいません。慌てて解除したもんですから。わざとぶつかったんじゃないんですよ?」
「あーわかる、わかる。擬態初心者はついやっちゃうんだよな。狭い道で解除して両側の建物壊したり。駐車してるの見落としてうっかり踏み潰してたりとか」
「そうですよね、小さい生命体の住んでる街って大変なんですよね」
「そうそう、今度からは注意しろや」
「いろいろ教えていただきましてありがとうございます」
「ま、いいってことよ……」
丁寧に頭を下げるルキィの肩をポンと叩いた。
その瞬間を狙いすましたようにルキィの頭突きが、ハルバドの顔面にめり込んだ。
ズシャッ、と押し潰すような音がしてハルバドはヨロヨロと後退した。
「い、今のもわざとじゃない……んだろ?」
「あ、いえ。今のはちゃんと狙いました!なんかタイミングもよかったし」
「そ、そうか、そうかい。今のはわざとだったのかい?フハハハハ……」
しばらく乾いた笑い声をたたていたが、眉間に血管を浮かび上がらせて襲いかかってきた。
「このアマ!ちょっとカワイイからって!お仕置きしてや……」
バズンッ!
噛みつこうとした口に平手打ちを叩きこまれて、品のない罵詈雑言は停止させられた。
砕けた歯が空中に撒かれ、緑色の血が欠けた牙の間から流れ落ちた。
「こ、このぉ」
それでも反撃しようと腕を振り上げたが、それが上半身の防御をガラ空きにすることになった。
ドン、ドン、ドンと重い音が続けて三回響いた。顎。喉。みぞおち。
くっきり手形が残るほどの強烈な三連撃が撃ちこまれ、ハルバドは白目をむいて、片ひざを折った。
「とどめです」
実に冷静にルキィは手刀を振り下ろした。
地球でいう空手チョップにあたる技だろうか。
正確に首筋の急所を打たれてハルバドは前のめりに倒れた。
泡を吹きピクピクと痙攣する様は、さっきまでの無敵振りとは雲泥の差だ。
「片付いたようだな……」
「片付きましたネ……」
横転した装甲車から這い出してきた砂川長官は、スーツについた砂を払い落としながら不機嫌そうにつぶやいた。
続けて車外に脱出したジンは呆然と見上げるだけだった。
自分たちが苦戦、いや相手にすらなれなかった無敵の巨大怪獣が、いとも容易く叩きのめされ地に這わされている。
人類が所有する最強の兵器にもビクともしない怪獣が、だ。
「……何なんですカ、あの赤い怪獣は?」
「我々の……まあ、仲間ということになるか」
ジンの目が見開かれた。
「我々の仲間、ですカ。怪獣なのに?」
「正確には銀河パトロールから派遣されてきた助っ人だ」
この言葉はさらにジンを混乱させた。
現在、銀パトは銀河連邦正式加入前の文明圏には直接介入はできない。
最低限の技術提供に関しては黙認されているが、人材派遣は認められてない。
ましては原則として入星禁止されている怪獣などもってのほかだ。
「それがどうして地球にいるのですカ?」
「それがなー、今回のみ特例ということになっててな」
「特例、といいますと」
「うむ、俺の知り合いの頼みでなー。一匹、じゃなくて一人だけ地球での就業を認めてやって欲しい、と頼まれてなぁ」
「就業って、じゃあの怪獣は出稼ぎにでも来てるんですカ」
「おお、そういうこと、出稼ぎにきとるんだ、あの怪獣は」
なんだか放心気味のジンをほったらかして砂川は一人喋り続けた。
「昔、俺が警部だった頃に世話になった奴の頼みでなー。断りづらくて。ま、総理大臣の椅子をちょっと揺するだけでなんとかなりそうだったし……」
「あの、総理の椅子って?そもそも、なんで怪獣の知り合いがいるような人物と……」
「おおっと、これ以上は喋れんな。一応最高機密ってことになっておる」
それっきり長官は口を閉ざした。
何が何だかわからないまま、ジンも黙ってみているしかなかった。




