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怪獣娘の緊急出動(追跡開始!)

一台のワゴン車が郊外へ続く道路を疾走していた。

見た目は特に変わった点のないグリーンの自家用車だが、その実態は普通乗用車からかなり逸脱していた。

外装は防弾どころか爆弾にも耐え一千度の高熱にもビクともしない装甲板。

ミサイル四発とレーザー砲装備となれば自家用車の皮をかぶった戦車というしかない。

ハンドルを握る金髪の青年はいがいとリラックスしていて、助手席の赤髪の少女に話しかけた。


「こっちの方角で間違いないネ、ルキィさン」

「間違いありません、ダンタロさんはこの方向にいます!」


助手席のルキィは興奮気味に前方を指差す。

三十分ほど前から車は都市部を抜け出して、家もまばらな市外地へと入っていた。

弾太郎が誘拐されてから既に一時間以上が経過していた。


「ダンタロさん、無事でいてください」


ルキィは両手をギュッと握り締めた。

ナノマシンネットワークは弾太郎の生存とおおよその現在位置を伝えてきている。

しかし通信データが増えれば気づかれる恐れがあるため、通話はできない。

すぐに殺されたりはしないだろうが、身元がばれたりすればその場で始末されるだろう。

悲痛な顔の少女を落ちつかせるためだろう、運転している青年は明るく声をかけた。


「そんなに心配しなくても大丈夫だヨ。あいつ訓練生時代から運だけはいいからネ」

「知ってるんですか?ダンタロさんのことを、ええと……」


「申し遅れたネ、僕はジン、ジン・ガイザウエル。弾太郎とは同期なんだヨ」


青年、ジンは屈託のない笑顔を見せた。

モデル並みの容姿に明るく気さくな性格で落とせなかった女はいない……が今回は少し荷が重かった。

ルキィは相変わらず暗く沈んだままだった。

それでも焦らずニコリと笑うところは経験を積み上げたモテ男の器というべきか。


「ま、仕方ないか。大事な恋人が大ピンチじゃあネ」

「恋人?」


「おやまあ、とぼけちゃって。弾太郎も隅におけないヨ。離島に島流しだなーんてボヤいてるフリして、こんなカワイイ娘とデートしてるんだから」

「デート?お買い物のことをそういうんですか?」


「そうそう、二人きりでお買い物=デートなのサ」

「そうなんですか、知りませんでした。地球の言葉って複雑な意味があるんですね」


「で、弾太郎とはいつ知り合ったの?」

「あ、はい。十日くらい前に知り合って。でも『恋人』というのは違うと」


ルキィは『恋人』の意味を考えてみた。

確か『つがい』に近い関係のオスとメスの意味だったはずだ。

弾太郎との間柄を説明するには適切な単語とは思えない。


「ふぅん、恋人じゃないのかイ?」

「ええ、仕事上の関係というか雇用関係というか」


「でも……お互いの居場所がわかるっていうのは、普通の関係とは思えないんだけどナ」

「あー、それはナノマ……」


ナノマシンを使ってリンクされているから、といいかけて口を押さえた。

生体間リンク用ナノマシンはまだ地球には流通していない。

使っていることがばれれば本来入星許可の出ない怪獣である自分の身元まで知られてしまう。

知っているのは防衛警察でも上層部だけなのだ。


「んー?どうしたのかナ?」

「いえ、別に……」


「じゃあやっぱり恋人なんダ」

ゴキッ!


突然の頭上からのゲンコツで、ハンドルをきりそこねて反対車線に飛びこみそうになった。


「な、何するんですカ、長官。いきなり」

「やかましい、無駄口叩いとらんと運転だけしとれ。この半人前!」


砂川長官の追加の一撃でまた車体が揺れた。

助手席ではルキィがシートベルトに必死でしがみついている。


「トホホホ、可憐なレディと同伴できると喜んでたのに。なんでむさっくるしいのがついてくるんダ?」

「あのぉ、大丈夫ですか」


頭をさすりながら嘆くジンに、心配したルキィが声をかけた。

とたんにジンは爽やかスマイルで復活する。


「ご心配には及びません。ルキィさん。貴方の傍らに座することを許されるなら、これしきの苦難はむしろ喜び」

「地球でいうマゾ系さんなんでしょうか?」


「いえ、そうではなくテ。貴方と行動をともにできることが光栄という意味でなんですガ」

「あー、なるほど!よかったです、ジンさんのようなしっかりした方と組めて。私まだ実戦経験がほとんどなくて」


「そうですカ。では出来うる限りの協力を約束いたしましょウ。どうでしょう、今夜にでも早速、わたくしめと寝技の実戦などいかがです?」

バキッ!


「仕事中に女を口説こうなんぞ、十年早いわ。この半人前がッ」


後頭部への長官の怒りのチョップで懲りたのか、ジンは静かにハンドルを握っていた。

ちょっと涙ぐんでるのが哀れを誘う。


「地球の寝技にも興味あるんですが」

「やめとけ、こいつの『寝技』なんて大したモンじゃない」


格闘技の寝技と思い込んでるルキィの姿に塩川長官は小さくため息をついた。


「おい、ゲンさん。ほんとにこの娘が例の……あの怪獣なのか?」


ルキィたちには気づかれないように小声でささやく。

ただし後部座席には自分以外は誰もいない。


「へい、左様で。海人様の親友の娘さんでらっしゃいやす」


誰もいない空間から聞き取れるギリギリの小さな声が返る、ゲン爺の声だ。

彼は一応、民間人なので現場に連れていくことはできない。

ということで本部に置いてきたはずなのだが、意味はなかったようだ。

だが狭い車中には人の隠れるほどの隙間はない。

どうやって身を隠しているのか塩川にもわからなかった。


「今、この近辺の重機動部隊は帰還直後で整備中、他の部隊は距離がありすぎる。すぐに出動は無理だ」

「はぁ、どこもかしこも人手不足たぁ世も末でございやすねぇ」


「敵にも怪獣がいたらこの娘に頼るしかないんだが」

「それなら心配無用。このお嬢ちゃん腕っぷしは確かなもんです」


「しかしだ。いざという時はゲンさん、あんたにも一仕事頼めるか?」

「そりゃ、ご勘弁を。あっしが出しゃばっちまったら、いろいろとヤベェですから」


「そうだったな……」

「それに下手すりゃ坊ちゃんにバレちまいやす。そんなことになっちまったら……」


「わかった、わかった。我々だけでなんとかしてみる」


それきりゲン爺は沈黙し、塩川は眉間に皺をよせて考え込んだ。

彼としても地球はあくまで地球人自身の手で守るべきだと思ってはいるのだ。


(だが、ここ一番って時には外宇宙の手を借りなきゃならんとは。これも時代の流れか)


「長官、見えてきましタ!」


ジンの声にも塩川は気づかず、ひたすら考え込んでいた。


「長官?長官!」

「ん?なんだ?」


「容疑者の潜伏場所と思われる工場跡に着きましたヨ」

「あ?そ、そうか。で、ルキィ君どうかね、弾太郎君はいるのか」


窓を開けてルキィはクンクンと鼻を鳴らした。

仕草が子犬のようでなかなか可愛い。


「間違いないです!ダンタロさんの匂いがします。あそこ、あの建物にいます!」


ルキィが指差すのは廃工場の一角、一番大きな棟だ。

その言葉を裏付けるようにシャッターの前には車が一台。

やたらと派手に装飾とペイントが施された自動車で、持ち主の美的感覚を疑う代物だ。


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