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怪獣娘の緊急出動(違法業者の仕入れミス)

ドンエルはブルブルと全身を震わせていた。

もともと青黒かった顔色はだんだんと赤みを増し、目が釣りあがっていった。

拳には血管が浮かび上がり、握り締めた杖がギチッと砕けそうな音がした。


「おい、ちゃんと指示したよな」

「えっとなんて言ってたんだけ?」


「センサー反応によれば髪の長い方は雄だから、赤髪の方を連れてこい、っていったよな」

「あれー?そうだったけ?」


「馬鹿息子よ。これはどーいうことだ……」

「あ、あのちょっと間違えたかなー、なんちゃって。ハハハハハ……ハハ」


ハルバドは笑った、笑って誤魔化そうとした。

誤魔化し切れなかった。

杖で頭を思いっきり殴られて冷たいコンクリートの床にキスする結果になった。

アミネズミの中から出てきたのは雄雌識別機の反応では間違いなく男だった。

ちょっと頼りなそうで、長い髪も艶やかで、顔つきは女顔ではあるが。


「あのー、ここはどこですか?」


弾太郎は何度も頭を振ってから、マヌケな言葉を発した。

ドンエルはチラッと弾太郎を見て、それから不機嫌そうに言い放った。


「ああ、悪いがちょっと待っててくれ。うちのアホ息子を教育中なんだ」

ドガッ、バキャッ、ゴズッ…………


それから二十回ばかりハルバドに蹴りを入れて、ようやく一息ついた。

額の汗を拭きながらドンエルはまず弾太郎に頭を下げた。


「すまねぇな。この馬鹿でマヌケで役立たずの愚息が間違ってアンタを誘拐、じゃなくて仕入れちまった。悪気はなかったんだが」

「ああ、そうですか。悪気はなかった……って誘拐?」


「アンタじゃなくて連れの娘を仕入れる予定だったんだが。我が息子ながらマジで使えねェ」

「まあまあ、そんなに息子さんを責めなくても……連れの娘って、ルキィのこと?」


「ほう、ルキィちゃんていうのか、あの可愛い娘は、アンタのコレかい?」

「い、いえ、僕とルキィさんとは仕事仲間といいますか、そーゆー関係ではありませんので」


「そう照れることはないだろ。俺はずっと見てたが、いい雰囲気でデートしてたじゃないか」

「か、からかわないでください!」


いつのまにか復活してきたハルバドにからかわれて、弾太郎は顔を真っ赤にして黙りこんでしまった。

それでも結構嬉しいのかちょっとにやけてる。


「あ、あれは、そのただの買い物で、デートなんかじゃ、その……」


ダンダン、とガラスを叩く音がした。

音のした方を見ると、防衛警察の制服を着た女性がガラスケースの内側を叩いて必死になにか訴えかけている。


「何をしてるんですか、あの人は?」


不思議そうに尋ねる弾太郎にハルバドは答える。


「ああ、あれね。あちらさんはうちの商品なんだ」

「へーっ、『商品』ですか」


「地球人の女を七人ばかり揃えてくれって客がいてね。これから出荷するはずだったんだが」

「えっ、七人も?」


「それを、馬鹿息子が間違えやがって。困っとるんだ。もう期日ギリギリだっちゅーのに」


ドンエルはまたハルバドの頭を平手で叩き、ハルバドはシュンとなって首をうなだれた。


「いろいろと大変なお仕事なんですねー」

「ああ、まったくだ」


「あ、いけない!ルキィさんをほったらかしにしたままだ。すぐ戻らなきゃ!」

「む、そいつはいかんな。エスコート中の女性をほったらかしにするなんぞ、どこの惑星でも失礼なことだ」


「すいません、じゃ僕はこのへんで失礼します」

「お、デートの続き、頑張れよ。色男」


「だからからかわないでくださいよ……」


照れながら逃げるように弾太郎は資材搬入用出入り口に近づいていった。

降りていたシャッターを押し上げ、廃工場から外へ……


「なんて逃がすわきゃねぇだろ!こ、この、ゼー、ハー、ゼー、ハー……」

「……逃がしかけたくせに」

「やかましい!」


余計な口を叩くハルバドの尻を蹴飛ばし、ロープでグルグル巻きに縛り上げた弾太郎を放り投げる。

そこでようやく一息ついて、ドンエルは床に腰を下ろして一息ついた。

外へ出たとたんに全力疾走で逃げ出した弾太郎を、慌てて追いかけたせいで息も苦しげだ。


「逃げられるかと思ったんだけど。やっぱり甘かったですか」


冷たいコンクリート床に転がされたまま弾太郎は苦笑していた。

本来なら人身売買という犯罪を企る凶悪犯相手なのだから新人警官の弾太郎には笑ってる余裕などない。

しかし思いきりマヌケな親子犯罪者なのが妙に可笑しくてつい顔が緩むのだ。


「当たり前だ!と、とにかくだ。秘密を知った以上は帰すわけにはいかんのだ」

「お、おい親父?じゃどーすんだよコイツを」


ハルバドの一言でドンエルも言葉につまる。

弾太郎から目をそらせて声をひそめてぼそぼそと言った言葉は。


「どうするって……始末するしか」

「始末ぅ?言っとくが俺は嫌だぜ!俺はペットショップの営業マンだ。殺し屋じゃない」


「ワシだって嫌だよ、生きたまま出荷すんのが我が社の仕事だ。裏の仕事とはいえ誇りってもんがある」


一時は『始末』という単語に震えあがった弾太郎だが、消される心配はなさそうだ。

しかしこのまま無事に済むわけはない。

しかも背後の女の子たち六人は今にも出荷される寸前らしい。


(なんとか、なんとかしなきゃ……)


幸いにもドンエルたちはまだ弾太郎が防衛警察の人間だとは気づいていない。

しかし身体検査されて身分証を発見されたらお終いだ。


(気づかれる前に。なんとか連絡を……)


ズボンのポケットの中に警官専用の特殊仕様携帯がある。

隠しボタンを押せば、緊急シグナルモードに入って通話はできなくても緊急事態と現在位置を示す信号が発信される。

地球上ならどこでも五分以内に警察か軍が到着する……はずだったのだが。


「け、携帯がない!」


ポケットにあるはずの携帯はなくなっていた。

落としたのか、それとも奪われたのか。


「携帯?あー、これのことか」


ハルバドが懐から取り出して見せたのがまさにそれだった。

アンテナは折れて液晶は砕け、本体はつぶれてパーツがはみ出している。

用心のために破壊したということか。


「すまん、悪かった、運んでくる途中に落として踏んづけちまったんだ。後で弁償するから今は勘弁してくれ」


本当にすまなさそうにハルバドは何度も謝罪を繰り返した。

わざと破壊したというわけではなさそうだが、弾太郎にしてみれば絶望的状況には変わりなかった。


「で、お前の処理だが………」


ドンエルはそこで言葉をとめた。

続くべき言葉はよくて『どこかの星に売り飛ばす』、悪くすれば『解体して移植用臓器市場でバーゲンセール』あたりだろう。

弾太郎の顔から血の気がサーッと引いていき、ガタガタと震え始める。


(ど、どうなっちゃうんだ?僕は……。ああ、なんで買い物しに来ただけでこんな目に?)


脳裏にかわいい赤髪赤眼娘の朗らかな笑顔が浮かぶ。

嗚呼、あれが十八年間の短い人生最初にして最後、かつ唯一の女の子との楽しい思い出になってしまうのだろうか。


「ぼ、僕をどうする気だ!殺すか、それとも解体して臓器密売か!」

「殺す……?」


いきなり強気の態度にドンエルはちょっとたじろいだ。


「だからいっとるだろ、ウチは殺人業は手を出していないし、医療関係のコネもないし」


少し弱気なドンエルに弾太郎はさらにくってかかる。


「それじゃあどこかの惑星に奴隷として売る気か?」

「奴隷密売?馬鹿にするなよ、小僧。うちは創業以来愛玩動物しか扱ったことはないんだ!」


「なら、どうするつもりなんだ」


怒って言い返してくる相手にもひるまず、さらに声をはりあげる。


「どうするって……どうしたものか。困って……」


その時、ビーッというブザーが鳴り響き、壁の一点に緑色の光が明滅した。

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