怪獣娘の休日(公開処刑?)
(疲れた、マジで疲れた。もう限界だよ)
映画館から出たところで気力が尽きる寸前だった。
デート、ではないが本物のデートもこんなに疲れるイベントなのだろうか。
毎週のように相手を変えてデートしていた親友のタフさがうらやましくなる。
(ジンもこんな苦労を毎週してたのかなー?だとしたらスゴイ奴だったんだな)
「次はどこ見よーかな?面白そうな物が多すぎて、ほんと困っちゃいますよねー」
当のルキィはとえいば故郷の惑星では見なれない物が山ほどあるらしい。
あちらを見ては何やら驚き、こちらを見ては不思議そうに首を傾げている。
「ねぇ、あれはなんですか?」
「郵便局だよ」
「ゆうびんきょく?それって何をするところでしょうか?」
「手紙や届け物をしてくれるところだよ」
「てがみ?とどけもの?ふーん……あ、あれは何ですか?」
「あ、あそこは交番。地球の警察官が待機している場所だ」
「じゃあ、私たち銀パトの仲間さんなんですね!それならご挨拶を……」
「いや、挨拶はしなくていいから」
「でも……あ、あそこにも何か?」
「あれは病院……」
限界超えて疲れてきた。
しかし相手は疲れ知らずのタフネス少女、というか『怪獣のスタミナを持つ少女』なのだ。
体力では弾太郎など足元にもおよばない。
「そろそろチェックインしようか」
「え?宿泊所いくんですか。まだ早いんじゃないでしょか」
「……いや、慣れない地球人の街で疲れを残してもよくないし」
「私、全然疲れてませんけど」
僕が死にそうなほど疲れているんだよ、とはさすがに言えなかった。
過酷な特別訓練でもこんなに疲れたことはないような気がする。
「ルキィさん!銀パト隊員たるもの、常に万全の体調を整えておかなければいけないんだよ」
「ハッ?そうでした、私の自覚が足りませんでしたッ!」
ルキィはピシッと背筋を伸ばし地球式敬礼をして答えた。
そしてすぐさま弾太郎の腕をとり彼を引きずって歩き始めた。
「ではただちにえっと、ホテル?に向かい、一緒に休憩したいと思います。案内してください!」
「ちょ、ちょっと?そんな大声で……」
遅かった。
遅すぎた。
大声を出してるルキィ本人は他意はないのだろう、ないのだろうが。
まわりにいた通行人はそうとは思わなかった。
まず『ホテル』という名詞で全員が足を止めた。
次に『一緒に』という言葉で視線がルキィに集中した。
そして『休憩』という単語で、その全てが白い目に変わって弾太郎に降り注いだ。
「まあ、、昼間から……」
「高校生くらいじゃないの?あの……」
「えっ、あたし二人とも女の子と思ってた」
「いや、女同士のそーゆー関係かも」
「休憩、ってやっぱり」
「ご休憩だよな、絶対」
不純異性交遊疑惑どころか不純『同性』交遊疑惑にまで発展していく。
突然の風評被害拡大に弾太郎は狼狽した。
「さあ、急ぎましょう。これも私の仕事のうちです!」
「いや、あのね、それは、違うって」
突き刺さる視線は耐えがたいほどに痛い。
耳に飛び込んでくるヒソヒソ話もだんだんと辛辣になってくる。
「それも仕事ですって?進んでるのねぇ……」
「けしからん!親は何を……」
耐えかねた弾太郎はルキィを引っ張って逃げ出した。
「ルキィさん、こっちへ!」
とにかく人のいない方へ、目立たないところへ。
ビルとビルの間の狭い路地裏へ飛びこんだ。
「はい、どこまでもついていきます!」
さらに誤解を受けそうな返事に弾太郎は身を震わせた。
背後からは「まあ、やっぱり」だの「やるねぇ、兄ちゃん」「いや、姉ちゃんだろ」だの「最近の若い者は」だの、耳を塞ぎたくなるような言葉が聞こえてきた。
(ううっ、これが公開処刑というやつか?モテ期じゃ全然ないのに!)
だから耳を塞ぎながら走った。
ふとルキィを見ると彼女も同じく耳を押さえて真剣な顔で走っている。
「変な格好で走るんですね。地球の習慣なんですか?」
ちょっぴり楽しそうなルキィの言葉に、もう何も言い返す気になれなかった。




