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怪獣娘の休日(名優、永遠なり)

投稿順序を間違ってしまいました。

こちらが正しい第22部分となります。

大変失礼しました。

「海人様、聞こえますか?坊ちゃんは映画館へ入りましたが」

『ほほう、それでどの映画を選んだのだ?まあ、どれを選んでもムードが盛り上がること間違いなしだが』


「そりゃぁ……あの映画でろまんちっくてぇのはちょっと難しいでねぇかと」

『どうしてだ?一体どの映画を選んだというのだ』


「それがですねェ」


映画のタイトルを口にした瞬間、海人は無言だった。しかし無言の中に激しい動揺が伝わってきた。


『馬鹿な、なぜそんなタイトルが今時上映されているのだ?しかもなんでそんなのを選ぶというのだ』

「選んだのはルキィお嬢ちゃんのほうでごぜぇますよ」


『あの娘がか?どうしてこんな映画を選んだというのだ!』


しばしゲン爺は黙考し、やがて少し投げやりに言い放った。


「やっぱり、本能ってことなんでしょうねぇ。それよりも」


ゲン爺の口調が微妙に変化した。

人懐っこい陽気な爺さんのお気楽な声が何かが欠落し、淡々とした口調ながらどこか冷酷さを漂わせていた。


「それよりも、さっきの連中も中へ入ぇりやした。もう偶然なんかじゃねぇ、坊ちゃんを尾行してやがる」

『そうか、正体はまだつかめんが一人だけ身元がわかった』

 

チラリと映画館の入り口を見る老人の目には危険な感情がこめられていた。

キナ臭い世界に所属する者だけができる目つきであった。


『若いサラリーマン風の男がいたろう』

「あー、あのナンパ師モドキのあんちゃんですかい」


「うむ、最近オライオン星系から来たペット輸入業者となっているが、あまりよくない噂の会社だ』


「キナ臭ぇ会社ってことでやんすね」

『銀パト本部から不法取引の嫌疑もかけられている。おそらく他の連中も同類だろう』


「それでは?」

『地球で何をする気なのかはわからんが。もし弾太郎の初デートを邪魔をするようならば』

「そん時ゃ、心得ておりやす」


ゲン爺は唇を大きく歪めてニィッと笑った。

弾太郎の前では決して披露することのない凶相の笑み、死神の笑顔であった。

彼の側を通りすぎようとした母子連れがビビって足を止めるほどに恐ろしい笑みだ。


「ねぇ、ママァ……」

「シッ!目を合わせちゃいけません」


有名大衆食堂店の前で白髭生やして大きな太鼓を背負った看板人形の前から親子は足早に逃げていった。

他の通行人も看板人形を遠巻きにして何事かささやきあっている。


「むむっ?またしても気づかれちまったか。目立たねぇ変装をしたってぇのに」


事態に気づいた看板人形すなわちゲン爺は苦々しい表情になった。

本土にあまり来たことがないので、用心して偵察資料も十分に集めたし、街中でも珍しくなさそうな変装をした、はずなのだが。

こうもことごとく通行人に見破られてしまうとは、予想外であった。


「やはり大都会恐るべし!油断のならぬところじゃ。っとと?こりゃやばいぞ!」

「すいません、皆さん」「さがってください」


 人ごみをかきわけてあらわれたのは警官二名、謎の看板人形おじさんを異常なほど警戒して警棒を握り締めている。

いかつい制服姿にはさまれてゲン爺の額をツゥーッと一筋の冷たい汗が流れる。


「失礼ですが、ちょっと伺いたいことが……」「署まで同行して……」


警官に両腕を捕まえられる寸前にゲン爺は短距離走者さながらのロケットスタートを切った。

驚いて道を明けてしまう群集の間を抜けて必死の逃走が始まった。


「こ、こら、待て!」「逃げるな!」

「ええい、近頃の警察は何をしておるんじゃ?ワシのような善良な市民を追い掛け回すたぁ」


後を追ってくる警官を忌々しげに見ながらゲン爺はぼやいた。

どうみても『善良な市民』とは思えない格好で全力疾走しながら。


(さっき、外で何かあったのかな。急に騒がしくなったけど)


考えながら弾太郎は視線をスクリーンに戻した。

弾太郎が生まれる遥か以前に製作された古い映画だ。

街中で異星人をたまに見かけるご時世に、白黒時代のタイトルを上映しているのもこの映画館くらいだろう。

古びてはいても最新技術のおかげでクリアな映像だ。

その中で、有名な主演俳優が暗雲たちこめる暗い空に向かって悲しげな叫びを上げている。


「ひどい、こんなことになるなんて」


横の席でつぶやくルキィを見ると、彼女は両手をギュッと握り締め悲しそうな瞳をうるませて映画の世界に没入していた。

今、主演俳優に向かって警官隊の銃が向けられ警告なしに発砲がはじまった。

恐怖心のために警官たちの弾丸のほとんどは外れてしまったが、それでも数発が命中して主演俳優は悲鳴をあげた。

寡黙で無表情な彼の顔が苦痛で歪み、滴る赤い血が路上に点々と続く。


「かわいそうです、かわいそすぎます!」


ルキィの頬を涙が伝う。

なんて純真で心優しい娘なんだろう、怪獣だけれど。

映画は更に深刻な展開になっていた。

主演俳優は軍隊に取り囲まれ、逃げられなくなってしまった。

絶望の叫びが大都会の闇にこだまする。


「あきらめないで、がんばって、がんばって!」


ルキィの祈りが通じたのか。

彼の瞳に不屈の闘志が燃え上がった。

彼は長い尻尾を振りまわして戦車をなぎ払い、背中から稲妻を発しながら青い怪光線を吐いて自衛隊を焼き払った。


「そうです、その調子です!頑張って、頑張って!ゴズラ様!」


怪獣娘の声援に応えるべく、怪獣キングの名を冠せられた往年の名優・大怪獣ゴズラ様は帝都壊滅に向けて大活躍していった。


(怪獣娘が、怪獣映画見て、感動して、泣いてるなんて、どう思えばいいんだろう)


何ともいえない疲労感が弾太郎の両肩にのしかかってきた。

頭痛がしてきたような気もする。

銀幕の上で華々しく大暴れ、もとい熱演するゴズラ様をもう一度見て、弾太郎はそっとこめかみを押さえた。


「やっぱりゴズラ様、カッコ良かったですね!最高です」

「あ?ああ、そうだね」


映画館の売店の前で疲れた顔でジュースを飲んでいると、両手の手提げ袋をゴズラグッズで一杯にしたルキィが戻ってきた。


(怪獣が怪獣映画見て怪獣グッズ買って喜んでるよ……)

「あのキリリとしたマスク。悲しみを内に秘めた無表情。地球最高の、いいえ銀河系最高の二枚目俳優という二つ名にふさわしいのは彼だけです」


「そ、そうなのか?」

(二枚目、だったんだ。ゴズラって)


「シナリオでは宇宙最高と呼ばれる製作会社ツブレ屋プロもさすがです。言葉が通じないばかりに、誤解されて射殺命令が出るなんてありきたりのシナリオをここまで悲劇的に撮影できるプロダクションは他にありません!」

「ああ、うん。確かに悲しいお話だったね」

(そーゆーシナリオだったのか?)


本当に頭痛がしてきた。

それなりに怪獣映画、というより怪獣と戦うヒーロー映画が主だが、見てきたつもりだった。

しかし宇宙的視点からすると根本的に見方を改めるべきらしい。

いままで『怪獣キング・ゴズラ』は都市を襲う巨大怪獣に人類が立ち向かうモンスターパニック物だと思っていた。

だが宇宙的視点からすれば逆境に立ち向かう勇気ある一匹の怪獣のドラマだったのだ……と納得できるわけがない。


「しかも復刻板ポスターもゲットできました!コレ、銀河通販にも在庫ないです。感激です!」


特撮オタクの列に並んで大人買いしてきた戦利品、ゴズラ様グッズの数々を彼女は大切そうに抱えている。

ポスター全種類、吼えるゴズラ君ぬいぐるみ、復刻板怪獣カード二十六枚セット……。

弾太郎はこめかみを押さえてあえて言いたくない言葉を口にした。


「あのさ、あれはね。あくまで作り物の怪獣であって」

「わかってますよぉ。私、子供じゃないんですから」


一応はあのハリボテ着ぐるみの怪獣を実在と信じているわけではないらしい。

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