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怪獣娘の休日(増殖する心労)

レストランの日当たりのよい窓際、観葉植物の鉢植えがいくつか並んでいた。

その鉢植えの一つがカタカタと動き、土の中から白髪の爺さんの顔が半分ヒョコッとのぞいた。


「……海人様、バイキングレストラン『ムーサイ』壊滅しやした」


ゲン爺は今度は鉢植えに潜む怪人として見張りを続けていた。

想像以上に芸達者な爺さんだった。


『そうか、レストランの人たちには気の毒をした。で、弾太郎たちはどうしている?』

「坊ちゃんたちは外へ出ました。予定通り映画館へ向かっておりやす」


『そうかそうか、フッフッフッ。食事ではロマンチックなムードづくりに失敗したが。今度は仕損じることはあるまい』


妙に自信ありげな言葉にかえってゲン爺は不安にかられた。


「ほんとーに大丈夫なんでごぜぇやすか?」


『心配はない、上映スケジュールは完全に把握している。上映中の全てがラブロマンスばかりだ。恋人気分を盛り上げてくれるぞ、フフフフフ』


ゲン爺は映画館のパンフレットを見た。

確かに有名な恋愛小説原作だったり、話題のラブシーンがあるアクション物ばかりだ。


「それならいいでやすが。それより気になるのは」


ゲン爺はチラリとレストランの出入り口を見た。

支払いを済ませてあたふたと出ていくスーツ姿の若い男が一人。

そして彼に続くようにサラリーマンや清掃員、観光客風の男女が出ていく。

さらに数名の人影が外で合流するのが見えた。


『さっきのデパートでも見かけた連中か?』

「ヘイ、どーにもキナ臭ぇ手合いらしいです。坊ちゃんたちを尾行してるよーな」


『弾太郎を尾行する理由はないはずだがな。よし、そいつらの身元はこちらで調べてみよう。顔写真は送れるな?』

「今、メールしておきやした」


『背後関係が判明すればこちらで手を回す。もし弾太郎の邪魔をするようなら、その時はお前に任せる』

「了解しやした」


通信を切って、ふと気がつくとゲン爺のまわりに黒山の人だかりができていた。

気味悪そうにちょっと遠巻きにしている。

当然だろう、植木鉢の中になにやら物騒な会話をしている怪しげな老人がいるのだから。


「ううむ?目立たねぇ格好をしたつもりでやしたが、思ったよりは目立っちまったようで」


冷静に呟くゲン爺だが、その姿は怪しさ爆発の変人だ。

見つめる客の目も半分はオドロキ、残り半分は怯えている。

当然、警備員も駆けつけて来た。


「おっとっと、こんなところで捕まるわけにゃいかんわい。ふん!」


植木鉢の側面を破って毛深い両腕が、底を破ってスネ毛だらけの両足が突き出してきた。


「おおっ?」


驚く客を尻目に怪人・植木鉢ジジイはオリンピックレベルのジャンプで客の頭上を飛び越え、ゴールドメダリスト真っ青の猛ダッシュで逃げていった。

追う警備員をたちまち引き離し、都会の雑踏へと消える逃走は鮮やかの一語に尽きた。


レストランを出たところで弾太郎は困った。予定では適当な映画を鑑賞、となっているのだが。


「鑑賞たってなぁ。どんな映画を見せたものやら」

「これが地球の『えいがかん』ですね。ダンタロさん」


「…………うん、そう」

「幻燈機の一種で映像を壁に映すだけの娯楽なんですよね」


「よく知ってるね」

「母星でも少しだけ見たことあるんですよ!原始的な手法なのに衝撃的で斬新ですごく驚きました」


「えっ?見たことあるの?」

「ハイ!実物はパトの異文化研究室で二回だけですけど!見た後しばらく震えが止まりませんでしたッ!」


少し興奮気味の声でルキィはまくしたてる。

あちこちのポスターに目をやってる様子からするとかなり興味を引かれているらしい。


「ふーん、でも宇宙にはもっと進んだ娯楽があるんだろ?ホログラムとか」

「技術と感動は別なんです!映画は地球が全宇宙に誇れる芸術です」


あまりの情熱に弾太郎はちょっと引いた。

辺境星のたかが娯楽にどうしてここまでいれこむのかわからないが、悪いことではないだろう。


「で、どれを見るんですか?」

「うーん、それなんだよな」


タイトルを列挙すれば『ローマの十三日の金曜日』『愛への脱出』『八十日間世界ハネムーン』『星間大戦 ヒスのジェラシー』他あざやかなラインナップが並んでいる。

そのどれもがよくいえばロマンチック、いいかえればデートでもなければ観るのをためらわれるようなシナリオばかりだ。


「仕方ないな、無難なところでこいつにするか」


それは現代を舞台に女優を目指す少女とオンボロ宇宙船パイロットの恋を描く典型的なラブストーリーというやつだった。


(ちょっと気恥ずかしいけど。地球人の日常生活を見るってことでなら)


ほんの少し顔を赤くした弾太郎をルキィは不思議そうに見つめる。

弾太郎にしてみれば女の子と映画を見るなんて初めての体験なのだ。

たとえ相手が怪獣娘といえど。


(なんか虚しい青春だなぁ)

「じゃあ、これでも観に行こう」


ちょっぴり悲しくなりながら男女が口付けをかわすポスターを指差しかけた。

しかしその手を何故かルキィが止めた。


「待ってください」

「えっ、どうかしたの?」


「これです、こっちにしましょう」


半ば強引にルキィは隣に貼られたポスターを食い入るように見ている。

そのポスターを見たとたんに弾太郎はポカンと口を開けたままになってしまった。


「あ、あのさ、これって」

「これ見たいです!絶対見たいです!ダメですか?」


「いや、ダメじゃないけど」

「じゃ、見ましょう。すぐ見ましょう。さあ、早く」


「あ、ああ、わかった。分かったから、そんなに引っ張らないで?」


興奮するルキィにひきずられて弾太郎は映画館へと連れ込まれた。


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