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赴任先(輸送ヘリ-操縦席)

深く、青い海が眼下にどこまでも広がる。

頭上には青空に輝く太陽。大空と大海原のふたつの青色が水平線上の白い雲を境界線にして世界を構築している。

空の青と海の青のあいだを飛ぶ機影がひとつ。

くすんだ緑色の地味な機体の軍用ヘリコプターが一機、パラパラと軽快な音を撒き散らしながら南へ向かっている。

機体には『防衛警察極東第三部隊所属』の白い文字。

大型の輸送ヘリだが積荷はなし、乗員はたったの二名だ。

うち一名はパイロットなので乗客が実質一名ということになる。

基地を飛び立ってからすでに三時間、水平線上にようやく小さな島影が見えてきた。


「見えてきた、ダンタロー。あれがおもかげ於母鹿毛島だネ」


後ろでふて寝していた乗客に楽しそうに声をかける。

パイロットは、金色の髪に青い瞳の笑顔爽やかな青年だった。

口にした日本語は意外に流暢だ。


「……」


弾太郎、と呼ばれた相手は後部座席で身を起こした。

こちらは女の子に間違えられそうなくらい華奢で小柄な体つきの日本人だ。

顔立ちも女の子みたいに可愛いし、おまけにサラサラのロングヘアときている。

間違えられそう、どころか弾太郎という男名前でなければ美少女で通用しそうだ。

しかし、機嫌はかなり悪そうだ。


「あそこがキミの配属先なんだネ」

「………黙っててくれよ、ジン」


「地球防衛警察、真榊 弾太郎巡査、於母鹿毛島駐在署勤務を命ず、だったっケ」

「だから何度も言わないでくれ、気分がよけいに滅入る」


外宇宙からの犯罪者流入に対し自衛のために組織された組織。

それが防衛警察だ。

太陽系内での海賊行為の取り締まりに始まり非合法商品の密輸や窃盗、麻薬密売、人身売買に至るまでの、地球外生命体による犯罪の対処・抑制が目的である。

この組織は地球が銀河連盟へ正式加盟すれば銀河パトロールの惑星支部へと自動的に組みこまれる。

そうなれば権限も装備も段違いに改善されるが、現時点ではまだ臨時の治安維持軍という位置付けになる。

おかげで激増する星間犯罪に対応しきれないのが現状だ。

足りないのは機材や武器だけではなかった、弾太郎のような未成年が所属しているというだけでも人員不足がわかる。

防衛警察設立も二年前のこと、弾太郎たちは養成所の第一期生だった。


「やっぱり卒業式の真っ最中に練習機で講堂に突っ込んだのがマズかったカ?」

「あれはジン、君が卒業記念のラストフライトに夢中になって遅刻寸前になったせいだろ」


「でも入学式の時に校長の銅像を爆破したのはキミだロ、弾太郎」

「花火の火薬の量を少し間違っただけじゃないか!そっちこそ訓練中に教官を実弾で撃墜しただろ」


「誤解だ。女生徒に手を出すような奴は教官ではなイ。あれはただの標的だっタ」


二人の間に沈黙の時が流れた。やがて無表情を装ったジンが静かに口を開いた。


「……退学処分にならなかっただけでも奇跡的なのかもネ」

「ホントに僕もそう思う」


退学以前に逮捕されそうな悪行の数々を懐かしそうに思い出しながら、弾太郎は窓の外を見た。

既にヘリは島の上空に到着し旋回に入っていた。


「しかし本当に防衛警察の施設がこんな島にあるのカ?」

「あるわけないだろ!総面積十二平方キロ、本土まで船だと一日かかる。住民三十四名、いや去年一人生まれたから三十五名か。主要産業は漁業で特産物はイカの一夜干し。こんな島に防衛警察の施設があるわけないだろ」


「嫌がってたわりにはずいぶん詳しいネ」

「……故郷なんだよ、この島は。僕の……」


それっきりそっぽを向いてしまった友人を、ジンは少しうらやましそうに見た。

視線を前方に戻すと島はもうすぐそこだ。家々の屋根瓦さえ識別できる距離だ。


「さて、防衛軍施設がないとくれば、どこへ着陸すればいいのかな」

「山の中腹あたりに神社があるだろ。あの境内が島で一番広い場所だ」


「神社の境内?バチがあたったりしないカ」

「心配ないよ、バチをあててまわるほど働き者の神様じゃないから」


「いいのカ、そんな言い方しテ?」

「構うもんか、その神社が僕の家……実家なんだから」


それから弾太郎は吐き捨てるように言い切った。


「卒業生全員が実戦部隊に配属されたってのに……畜生!なんで僕だけ?」

「いずれ転属の機会もあるよ。なんたってキミは『宇宙一のアンラッキースター』なんだしネ」


ジンはヘリをオートパイロットに切り替えた。

神社上空で静止状態になったのを確認してから、操縦席を離れて弾太郎の側にやってきた。


「さあ、いよいよお別れの時ダ。しっかり任務に励んでくれたまえ、我が戦友」

「それでも親友かい?」


「ん、親友―――?正確さを期するなら『悪友』っていうんだっケ?」


堂々と悪友宣言しながらジンは搭乗口を引き開けた。

強烈な風が機内に吹き込み、自動制御の機体が軽く揺れた。


「あっ、ホラホラ。あんなに出迎えの人が来てるヨ」


眼下の境内には三十人ばかりの人影が小さく見えた。

小さな島の住民のほとんどが集まっていることになる。

『だんたろうちゃんおかえりなさい』という垂れ幕を広げたおばちゃん軍団を始めとして、旗を両手で振る子供たち、本来なら漁に出て留守のはずの男たちまで手を振っている。


「みんな手を振ってるよ。ダンタローは大歓迎されてるみたいだネ」

「見たくない……全員顔見知りばっかなんだ」


「ふーん……お?若い神主さんがいるヨ。キミのお兄さんかい?」

「え……」


ふてくされていた弾太郎の表情が少しだけ変わった。

不機嫌から戸惑いに、そしてまたすぐ不機嫌に戻る。

地上で手や旗を振る人々の中に一人、神主姿の青年がヘリを見上げていた。

年齢は二十台前半というところか。

腰まで伸ばした長い髪を束ねた長身の青年だが、遠目にもかなりの美男子らしい。


「キミにあんな兄貴がいるとは知らなかったナ」

「兄貴なんかじゃないよ、あれは」


「……?じゃあ、誰なんだイ」

「その1=親父、その2=父上、その3=お父様、その4=パパ、その5=父ちゃん。どれかが正解だよ」


ジンは神主と弾太郎を交互に見比べ、ちょっとだけ考え込んだ。

そして疑わしそうに言った。


「ひょっとして義理の父親ってパターン?あんまり似てないし、年齢が合わないと思うケド」

「実の父親ってパターンさ。異常なくらい若作りなだけで」


またしばらくの間、ジンは何事か考え込んでいた。そしておもむろに言った。


「じゃ、親父さんの側にいるのは妹さんカ?小学生くらいのカワイイ巫女さんだケド」

「それもハズレ」


「ま、まさか?あれも異常に童顔のお母さんというオチなのカ?」

「あれは近所のガキ。頼まれてもいないのに昔から巫女の真似事してるんだ」


「キミのお母さんは来ていないのカ?」

「死んだ……交通事故だったって聞いてる。小さかった頃だったからほとんど覚えてないけど」


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