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怪獣娘の休日(ショッピングモールで昼食を)

「ダンタロさん、だいじょーぶですか?」

「だ、大丈夫です」


よたよたよたしながらエスカレーターから降りる弾太郎。

その右手にはでっかい紙袋を三つばかりさげ、同じく左手には紙箱を二つ抱えて、背中にも登山家を思わせるほど荷物を背負っていた。


「あのぅ、私も少し持ちましょうか?」

「へ…平気です!これくらいの荷物、野外訓練で何度も……のわっ?」


「キャハー!キャハハハッ!」

「のぉおぉ?」


運悪く死角から二、三歳くらいの子供がおおはしゃぎしながら飛び出してきた。

ギリギリなんとかかわしたのはよかったが、崩れたバランスは戻らなかった。


「どわわっ?」

「ダンタロさん!?」


前のめりに倒れた頭の上に抱えていた紙袋と箱が落ちてきた。


「あのぉ、大丈夫ですかぁ?本当に」

「……大丈夫です。一応」


本当に心配してくれるルキィの言葉がとっても痛々しかった。

頭の上に乗っかった薄青のブラと横縞のパンティが恥ずかしく、情けなかった。


すこし離れた子供服売り場では。


「坊ちゃん、こんな時にお助けできねェあっしをお許しくだせェ」


ゲン爺は涙をこらえた。

今彼は涙を流すことはおろか、身動きすらできない立場にあった。

傍らを行く子供がそんな彼を不思議そうに見上げている。


「ねーねー、お母さん。変なマネキンがあるよー」

「ダメダメ、それ女の子の服でしょ?ターちゃんに買っても着られないわよ」


「そーじゃなくてぇ、おじーちゃんのマネキンさんなの」

「なに馬鹿なこと……?」


問題のマネキンを見たおかーさんが硬直した。

可愛らしい赤と黄色のワンピ着ているマネキンは……深い皺を刻んだ老人の顔をしていた。


「なぜ、こんな不気味なマネキンが?ヒィッ?!」


驚きは戦慄に変わった。

マネキンの目玉がギョロリと動いて、いきなり親子を睨んだのだ。

子供の手を引っ張って逃げ出す母親を見てマネキンは小さくつぶやいた。


「うーん、ちと変装が下手だったかの。むむ?」


この時、ゲン爺の目がギラリと光った。

『靴下特売』と札を下げたワゴンの影に怪しげな男を発見したのだ。

平凡な買い物客を装ってはいるが、隠し切れない緊張感がにじみ出ている。


「確か地下鉄の構内でも見かけた奴じゃったな。たんなる偶然じゃろうか?むむむむっ!よく見ると一人だけではないな」


階段の影に喫煙コーナーの隅にさりげなさを装いつつ誰かを、もしくは何かを監視する男女が十名以上。


「坊ちゃんを監視しているワケじゃなさそうじゃが。一応、海人様に報告を……」

「こいつですか!不審人物というのは」


いきなり背後から怒鳴り声がした。

思わず振り向くとさっきの親子連れが警備員を連れてこっちを指差していた。


「そうです、変質者です!早く捕まえて」

「ち、違う!わしゃ変質者でも不審人物でも……」


弁解しようとして我に返った。

今の自分は赤と黄色のワンピース着てマネキンのフリしてる老人だ。

変質者としても不審人物としても資格十分だ。


「うぬぬぬ、ここで捕まるワケにゃいかんわい!」


台から飛び降りたゲン爺は通行人をよけて、押しのけて、たまに突き飛ばしたりして遁走した。

それが女装ジジイと筋肉ムキムキ警備員部隊の壮烈な追跡劇の幕開けだった。


…………暗い部屋の中で海人は考え込んでいた。


「そろそろ次のステージだな、手筈を確認しておくか」


デパートの中の追跡では偵察衛星は使えない。

不正アクセス中の防犯カメラとゲン爺の報告だけが頼りだ。

しかし防犯カメラ映像は自由に操作できない上に死角も多く、しかも白黒画像だ。


「偵察ドローンも出しておくべきだったか?いや、あれは市街地では目立ちすぎるな」


デバガメ親父はもう一度スケジュール表を見た。

次の予定はホテルのレストランで食事、その後は映画鑑賞となっている。


「このフレンチレストランは私の知り合いが経営しているからな。隠しカメラの設置も万全だ」


スケジュール表をめくりながら考えを巡らせる。


「問題は映画館の方だな、暗視カメラを設置できたのは十二館中十一館か。残り一館は上映内容未定で手配できなかったな」


法治国家ではあってはならない呟きを口にしながら罪悪感が浮かぶことはない。

これが真の親バカとういものか。


「ま、いざとなればゲンさんに潜入してもらうから心配ないか、ゲンさんや、その後変化はないか?」


通信機からの返答はない。

海人は少し苛立った。


「おい、ゲンさん。何をしておるんだ」

『も、もうしわけありません。ちょっと立てこんでおりましたもので』


「まさか、弾太郎に気づかれたのではあるまいな」

『ご心配なく、弾太郎坊ちゃんは荷物を配送受付に出し終わりました』


「ふむ、大荷物を抱えていてはデートも楽しめんからな」

『予定通りレストランへ……あ、ああッ?』


「どうした、レストランへ入ったのではないのか?」

『い、いやそれが。入ったことは入ったんでごぜえますが』


「なら予定通りではないか」

『それが、予定したレストランの隣の店へ……入りまして』


「な!なぁにぃぃぃっ?」


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