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怪獣娘の休日(上陸)

「じゃあ坊ちゃん。あっしはこれで一足先に島へ帰ぇりやすから」

「気をつけてね、ゲン爺」

「ありがとーございましたー!」


次々と出航する漁船に手を振る弾太郎とルキィ。

まだ太陽も昇らない暗い時刻に弾太郎はルキィを連れて本土に上陸していた。

ちなみに本日のルキィの装いは昔懐かしのセーラー服、やはり弾太郎の亡き母の遺品だ。

確かに可愛いことは可愛い……のだが。

作業服姿のおじさんたちが闊歩する、明け方のうす暗い漁港にはかなり不似合いな格好だ。

ゲン爺を乗せた漁船も岸を離れて、まだ暗い海へ出航していく。

朝日も昇らない早朝、於母鹿毛島の漁師たちは本土の漁港に水揚げを終えて島へ引き上げる時刻なのだ。

一方、市場へ残ってこれから漁協と交渉する島の漁師たちも弾太郎に一声かけて去っていく。


「坊ちゃん、気ぃつけて案内したげるんですよ」

「あー、わかってる」


「ルキィちゃんの服、ちゃんと選んであげなさいよ」

「わかってるよ!」


「地球の街は初めての女の子なんですから、しっかり道案内して下さい」

「わかってるってば!」


「変なとこへ連れていっちゃだめですよ」

「なんだよ!変なとこって?」


気を使っているのか、からかっているのかもわからない。

多分その両方なのだろう。

いちいち反応する弾太郎も最後には怒りだした。

それを見て年長の漁師たちがニヤニヤ笑うあたり、何か企んでるような気がして弾太郎は不安になった。


「変なトコってどこなんですか?」


隣でカツサンドをモグモグやってたルキィが今度は野菜サンドを取り出しながら、興味しんしんといった顔で聞いてくる。


「それは、その、ええと、とにかく機密事項なんだ」

「ええっ?そんなすごい場所なんですか!」


「そうだ、一般隊員がみだりに口にすることは許されない」

「了解しました!以後気をつけます」


真剣な顔で答えるルキィに背を向けて弾太郎は疲労まじりのため息をついた。

純真というか、お馬鹿さんというかとにかくルキィは人を疑うということを知らない。

地球の一般常識も全然理解できておらず、本来なら島から出したくはなかったくらいだ。


(でも、まともな洋服なんて島にはないからなー)


今までは近所のおばちゃんのお古や母の形見の衣服を着せていたのだが数が少ない。

しかも胸がきついだの、胴回りがブカブカだの、全然サイズのあう服がない。

さらに島で唯一、衣料を扱っている雑貨店には子供服と中高年向けばかりで若い女の子向きの服は在庫がない。

なにせ島にいるのは四十代以上ののおばちゃんか、ブラも必要ないガキばかりだからだ。

以上の事態に対して島民議会は満場一致で決議を採択した。

すなわち『非番の日に弾太郎と一緒にデパートで買い物してらっしゃい』である。


「僕にどうしろというんだ?自慢じゃないが女の子と買い物したことなんか一度もないぞ」


確かに自慢ではない話だ。

それどころか自分の独り言に落ちこんできた。

デートというイベントから縁遠い青春だった。

そんなナイーブな青年の心情にまったく気づかない怪獣娘は早くもウキウキワクワクの体勢に入っている。


「ねーねー、早く行きましょー!地球人の大集落を見るの、初めてだから楽しみですー!」

「まだ、早いよ。この時間じゃどの店も開店してない」


野菜サンドに続き、卵サンドに取りかかったルキィに弾太郎は静かにいった。

とたんにルキィはがっかりして、ちょっと悲しそうな顔になった。


「仕方ないですね……」

「ああ、だから開店時間までどこかで時間をつぶそう」


「それならあそこがいいです!」


ルキィの指差した先は魚市場だった。

地球人の生活の裏舞台を見学したいというのだろう。

彼女の熱心さ一生懸命さには弾太郎はいつも感心していた。


「ゲン爺さんから聞いたんですが、あそこのお寿司屋さん、午前三時から開店してるだそうです」

「え、寿司屋って?」


「はい!私、お寿司って初めてなんです。どんな食べ物なのかな?」

「あ、それはご飯の上にお刺身がのってて」


「ご飯の上にお刺身が!?楽しみです……どうしたんです、ダンタロさん。うずくまったりして」

「いや、なんでもない。なんでもないよ」


さすがに僕の感動を返してくれ、とはいえなかった。

かなり重くなった足を上げて、弾太郎は魚市場へと向かった。


「ふーん、これが地球人の街なんですか。四角い人工石の建物ばっかりなんてすごく変わってますねぇ」

「君の故郷の惑星では違うの?」


「ええ、建てるんじゃなくて岩を掘りぬいてお家とか仕事場とか作るんです。それにガラスとかもないから窓も入り口も開けっ放しですね」


日も高くなり、通勤ラッシュも過ぎた頃に弾太郎たちは繁華街近くに到着した。

あれから魚市場内の寿司屋を制覇し、駅では立ち食い蕎麦全メニュークリア、駅から出ると同時にコンビニ新着サンドイッチとファーストフードチェーンの朝定食全種類を完食した。


「ダンタロさんはもう食べないんですか?」

「ああ、その……朝はあんまり食べないんだ」


嬉しそうに地球の味覚を満喫するルキィを見ているだけで、なんだか気分が悪くなってきた。

怪獣娘は胃袋も怪獣的だった。

鯨の丸焼きとかが出ても、ルキィならたいらげるかもしれない。


「いけないですね、朝ご飯はちゃんと食べないと元気が出ませんよ」

「…………そうだね、今度からそうするよ」


心配そうに顔のぞきこむルキィに弾太郎は生返事を返した。

買い物が目的のはずだったのだが、なんだかレストラン荒しツアーに路線変更してしまっている。

これではいけない、契約者である彼はルキィの地球における保護者でもあるのだ。

その行動に責任もって厳しく接しなければならない。


「あ、あれはなんですか?」

「ん?ああ、あれはタコヤキっていう食べ物の屋台……」


「なにしてるんですか?早く買わないと売り切れちゃいますよ!」


既に十五個入りを五ケース受け取っているルキィのために、早くも心細くなってきた財布の中身を数えながら弾太郎は自分の運命を呪った。


「僕、なんでこんなことしてるんだろ?」


この時、財布の中身を数える手が止まった。ふと顔を上げ、不思議そうにあたりを見まわす。


「ダンタロさん、早く早くぅ」

「あ?うん、今すぐ行くから」


(変だな、なにか妙な気配がしたような気がしたんだけど)

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