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初出動(後日談)

「おーい、弾太郎!火星基地から報告がはいってるぞ。先日の酔っ払いの件だ」


縁側でゲン爺相手に将棋を打っていた海人が、ふいに声をかけてきた。

昼飯を食い終わって駐在署へ戻ろうとしていた時だった。


海人の手には一枚のパネル、そこに火星から転送された報告が表示されている。


「あのぅ、ポケケノさんの処分、決まったんですか?」


ルキィが五杯目のどんぶり大盛りご飯をかきこんでいた手をとめて、聞き返してきた。


「そのようだ、弾太郎も気になってただろう?」

「いや、別に……仕事だっただけだよ」


気のない返事をしてはいるが、目はチラチラと海人の手元を気にしている。


「ふふん?まあ、よかろう。……ランクC3からD1へ降格、火星基地にて地球時間二年間ちょっとのボランティア従事だそうだ」

「え?ランク剥奪も懲役もなしなんですか」


驚いたルキィがつい大声になる。

飛び散った米粒が弾太郎の顔面にべっとりくっついた。


「ふふふ、あれから何度も嘆願書を送った者がいたらしい。なあ、弾太郎?」

「……誰だか知らないけど、奇特な人もいるんだね」


米粒だらけの顔を仏頂面でふきつつ、興味なさそうに弾太郎は畳の上に立った。

ルキィの方はどんぶりの底に残ったご飯をあわててかきこみ、ちょっとむせてから、ふと手をとめた。


「でもそれだと二年間、家族離ればなれに……」

「心配ねぇですよ」


駒をつまんで思案していたゲン爺が口を開いた。


「なんでも火星で仕事の口が見つかったてぇ話で。空港の警備の仕事らしいですが、家族も一緒に暮らすそうでやんす」

「ほんとー?よかったですね、ダンタロさん!」


「僕らには関係ないよ。さ、巡回に戻んなきゃ」


表面上、無関心を装う弾太郎はちゃぶ台をさっさと離れて玄関で靴を履いて外へ出た。

帽子を深めにかぶり自転車にまたがる時、口元が少しだけ笑っていたのは誰も知らない。


「あー、待ってくださいよぉ」


おいてきぼりをくいかけたルキィは炊飯器の残りの飯を一気にかきこんだ。

おかずの干物を平らげ、漬物をヤカンのお茶で流しこんで「ごちそうさま」もいわずに飛び出していく。

走り出した自転車とそれを追う浴衣姿の少女を見送ってから、海人は小さくため息をついた。


「やれやれ、甘い甘い。こんなことでは先が思いやられるな……」

「坊ちゃんが甘ぇのは父親似だからしょーがねぇですよ」


盤上を睨みながらゲン爺がボソリとつぶやいた。

海人は少しムッとしたようで、不機嫌そうに顔をしかめた。


「私は馬鹿息子ほど甘くはないつもりだが」

「警備員の仕事を斡旋したのは旦那でしょ?随分、あっちこっちに頼み込んでたようで……」


「ああ?あれはだな……」


海人は何かいいかけたが、結局何も言い返せず、そっぽをむいて黙りこんでしまった。

そしてゲン爺は次の一手をさした。


「これで詰みでごぜぇますよ」

「え?あ……しまった」


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