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初出動(引き渡し)

五時間後、於母鹿毛島近くの小島に弾太郎とルキィはいた。

逮捕されたポケケノは仮設の巨大檻の中で膝を抱えてうずくまっている。

本来ならば北海道にある防衛警察極東支部の留置所に送られるべきなのだが、留置所が満員なのと本人が反省していることから銀パトへの直接引き渡しになった。

書類作成の合間に弾太郎が様子を時折うかがうのだが、ポケケノはずっとうつむいたままだ。

時々グシュグシュと鼻を鳴らしているのは泣いているらしい。


「元気ないですねー、ポケケノさん」


人間形態に戻った(というかあらためて擬態した)ルキィが心配そうに耳元でささやく。

弾太郎も書類を書く手を止めてため息をついた。

一応、取調べ中なのだが、ボーッとしているかと思えばシクシク泣きだしたりでさっぱり仕事が進まない。


「それにしても犯罪者でもないのに、なんで地球にきてまで暴れたんだろう?」

「私も変だな、とは思うんですよ。今の地球にはまだ大型知的生命体の働き口はないですし」


小声でかわしたルキィとの会話が耳に入ったらしく、ポケケノがピクッと肩をふるわせた。


「……好きで来たワケじゃないッス」


半泣き声でボソボソとつぶやくポケケノ、目には一杯涙をためている。


「十年間勤めてた警備会社が倒産しちまって。社長が夜逃げしちまって退職金も出なくて。故郷に帰ろうとしてたら地球上空の中継宇宙港で置き引きにあって無一文になっちまって」

「それで、一旦地上に下ろされたのか?」


「そうッス。極東基地の収容施設へ行けっていわれたッスが、道に迷って……腹も減って……泣きたくなってきて……」

「フラフラしてるうちにアルコールの匂いに誘われて、ということですか」


ルキィの言葉にコクコクとうなずくばかりのポケケノの姿は情けないくらいに痛々しかった。

背中を丸めて泣いている怪獣というのが、これほど哀愁漂わせる生物とは弾太郎は考えたこともなかった。


「僕の知っている怪獣の姿と全然違うな」


怪獣といえば資料映像の中で街を破壊する姿しか知らなかったし、ビデオだけでなく実地研修として先輩たちが怪獣と戦う姿を後方から何度も見た。

そのいずれもが恐ろしく狂暴で圧倒的な強さを誇示し、狡猾だった。


(だからルキィに会った時はショックだったなぁ)


怪獣といえど人間と同じようにいろいろなのがいて当たり前だ。

年寄りだっていれば若いのだっているし、ヤクザまがいの狂暴なのだけじゃない。

大人しい女の子だっている。

ついでにちょっと天然系の怪獣少女ならば目の前に一匹、いや一人いるわけだ。


「何か言いました、ダンタロさん?」

「あ、いや、何でもない。それよりそろそろ迎えがくる頃じゃないかな」


つい思っていたことが口に出てしまったようだ。

弾太郎は少しあわてて、その場をごまかそうとして、わざとらしく夜空を見上げると。


「あ、着いたみたいだ」


天頂から流れ落ちる天の川の一角に小さな黒い穴があいていた。

かなりの高度に滞空する円形の物体が星の光を遮っている。当然、雲や飛行機の類ではない。


「ほんとだ。銀パトの大型貨物船ですよ、あれは」

「えーと、恒星間航行用のフレア級中型、だったっけか」


ルキィの言葉に反応して標準的な中型艦のスペックが頭に浮かぶ。

地球付近にもよく飛来するタイプなので何度か見たこともある。

護送船をよこさなかったのは重犯罪者の護送ではないためだろう。

報告のために弾太郎は通信機のスイッチを入れた。


「父さん、聞いてるかい?迎えの船がきたよ」

『ああ、こちらからも見える。引渡し手続きはわかっているな』


父の声は普段は聞かないくらいに事務的だった。

冷たさすら感じさせる口調に弾太郎は少し不快な気分になった。

そんな気持ちを見透かすように海人の言葉は続く。


『くれぐれもいっておくが。同情や深情けは禁物だからな』

「わかっています!」


確かに必要以上に感情移入してはいけないのは理解できる。

それぐらいのことはわかっているつもりだった。


『それと面会のため家族の方が乗船している。規定の面会時間は守らせるようにな』

「え?家族って……」


『連絡は以上だ。お前は職務遂行のみを考えなさい』


通信は一方的に切られた。

既に円盤は頭上に静止し、下部の搬入ハッチが開いている。


「誰か降りてきますよ」


見上げていたルキィがいうようにハッチから淡い光が降り注いでいた。

牽引ビームの一種で昇降用のエレベーター・ビームだ。

その中を降りてくるのは怪獣サイズの巨大な影と、それよりはふたまわりほど小さな影のふたつ。もっとも小さな影といっても三階建ての家よりはでかいのだが。


「銀パトの監察官さん……じゃないですよね」

「たぶん、家族の方だと思う。同じ種族みたいだし」


弾太郎が思ったとおりポケケノと同じカホライ族の怪獣だった。

小さいのは子供だろう、すると大きいほうは……。

キュリュォォッ。大きいほうがひときわ高い鳴き声を上げた。

それに従うように小さな方もキュイキュイと鳴き声を上げる。その鳴き声が伝える意味は……。


「ポケケノの家内、テフノでございます。このたびは夫がご迷惑をおかけしました」

「ええと、むすこのぱるかのです。はじめましてちきゅうのおまわりさん」


とても丁寧で礼儀正しい怪獣の親子だった。

異星人との交渉経験の少ない弾太郎には表情の変化はわからないのだが、声の調子からすると、ひどく疲れているらしいのがうかがえた。


「初めまして地球防衛警察、於母鹿毛島駐在署の真榊巡査です」

「同じくルキィです!ご主人はそちらの……?」


ご主人は檻の中で背中を丸めてうずくまっていた。

家族に顔を向けられないことをしでかしたのだから無理もないだろう。


ズズン。


足音を響かせて奥さん怪獣が檻に近寄っていった。

子供怪獣も父親の姿を見つけて、嬉しそうに駆け寄っていく。


「あ、おとーちゃんだ、おとーちゃんだ!おげんきしてたー?」


父親に抱きつこうと一生懸命なパルカノ君だが、彼の行く手を冷たい力場の檻が邪魔をする。


「?ねーねー、おとーちゃん。なんでこんなとこにはいってるの?どーしてでてこないの?」


恐らくは何も知らないであろう息子の言葉にポケケノは肩をふるわせていた。

声を出すまいとしているが泣いているのはわかっていた。

しばらく黙って睨んでいた奥さん怪獣が口を開いた。

世界中に響きそうな彼女の咆哮、だが恐るべき迫力に反して意味は極めてせせこましいものだった。


「こ・の・馬鹿亭主!いきなり失業して!いきなり失踪したあげくに!馬鹿なことしでかして!どーしてくれるのよ、この馬鹿!」

「そ……そんなに馬鹿馬鹿いわなくても……」


「馬鹿以外になんて呼べっていうの、この大馬鹿亭主!」


弱々しい声で反論するポケケノに情容赦なしの奥さんの言葉。

首を縮こまらせてまた泣き出すポケケノと怒鳴りながら泣きはじめた奥さんを交互に見上げながらオロオロしていた子供怪獣もやがて大声で泣き始めた。


「あ……あの」

弾太郎が声をかけると奥さん怪獣は振りかえり、涙を拭いつつ頭を下げた。


「申し訳ありません、取り乱してしまって。六ヶ月ぶりで会ったというのに。ほんとなさけない」


返す言葉が見つからなくて困る弾太郎だった。

その時、弾太郎の袖を引っ張る手があった。


「……ダンタロさん、ちょっと」

「ルキィさん?何か用事があるのかい?」


「いえ、その……護送中は家族といえど面会は許されないんですよね?」

「そりゃあ、そうだね。しかるべき施設に到着して手続きを踏まないうちは面会は禁止だ」


「……当分、お子さんとも会えないんですね」

「……わかってる」


弾太郎は奥さん怪獣を見上げ、出せるかぎりの大声で怒鳴った。


「すみません。我々は護送艦と打ち合わせがありますので。しばらく待っててください」


そしてルキィを連れて『うずしお丸』へと乗り込んだ。

操縦席につく同時に護送艦から通信が入った。


『状況は把握している。手続きも準備も済んだ。これ以上打ち合せの必要はないはずだが?』

「その……当方のコンピュータ不調のため手続きが遅れております。もうしばらく時間を」


通信機は十秒ほど沈黙し、やがて応答がきた。


『了解した、手続きとやらが完了したら知らせてくれ。お偉いさんには内緒にしておくよ』

「ありがとうございます」


顔も知らない、名前どころか種族さえわからない通信相手にむかって弾太郎は頭を下げた。

ちらりと外を見ると怪獣親子三匹、もとい三人は頭をつきあわせてしゃべっている。

もう子供も泣いてはおらず、ときおり笑い声さえ上げているようだ。

父親は格子状の力場の間から腕だけを出して、息子の頭をなでては何事かささやきかけ、母親は息子を長い尻尾で抱き上げる。


「ダンタロさん」

「……」


「ダンタロさん?」

「ん、あ……何?」


ぼんやり怪獣たちを見つめていた弾太郎はルキィの声で我にかえった。


「なんだか、うらやましそうですね」

「あ、いや、そんなわけじゃない……と思う」


時間が過ぎ、怪獣親子が乗りこむと護送艦は島から離れた。

星空の中に消えていく護送艦を見送りながら、ルキィがポツリとつぶやいた。


「ポケケノさん、どうなるんでしょうか?」

「懲役まではいかないと思うけど。多分、戦士登録は抹消されるだろうな」


戦士登録を抹消された怪獣戦士に未来はない。

Dランク以下では求人もないのに、抹消されたとあってはまともな職にありつけるはずもない。


「どうなっちゃうんでしょうか、あの親子……」

「僕らが口出しできることじゃない」


不服そうな瞳を避けるように弾太郎は正面に顔を向け、うずしお丸に向かって歩いて行った。

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