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初出動(コンビナート上空→出撃)

「さすが、中古とはいえ宇宙船だなー。本土までジャスト五分だよ」


海岸線沿いの無機質な球形巨大タンク群が肉眼でも見える。

その間に鎮座するタンクよりもでかい怪獣の姿もだ。


「映像、出まぁす!」


ルキィが必要以上の元気でキーボードを叩くと、拡大映像がディスプレイに映った。

……ちなみにディスプレイは中古のテレビを改造したものらしく、地球の有名メーカー名入りである。

よく見ると操縦席のあちこちに地球製の中古部品が使われており、弾太郎の不安をつのらせたことはいうまでもない。


「ええと推定体長百二十メートル、体重約五万トン。随分ひょろ長い奴だな」


体格はルキィよりでかいが、思いのほかスリムな怪獣だった。

長い首に長い尻尾、手足も意外と細い。

全身を金色の長い体毛がおおっているせいか細身の犬といった外見だ。


「父さん、種族の特定はまだできないの?」

『だから『長官』と……ま、いいか。被疑者の身元はまだ照会中だが、もう少しすれば銀パト中央資料室から報告があるだろう。種族については検索に一件ヒットありだ』


通信と同時に転送されたデータが表される。


「プロキシマ系第二惑星の大型知的生命体カホライ族?なんだ、太陽系のお隣さんじゃないか」

『パワー・スピードともイマイチだし電撃やら火炎放射といった飛び道具もない。柔軟な関節と倍近くまで伸びる手足が特殊能力だが、不意打ちされなければ問題はない』


「火器厳禁のアルコール精製コンビナートというのが厄介だね」

『そういうことだ、もっともお前には関係ないことだが』


関係ない、その一言に弾太郎はムッとした。

確かに実戦経験もなく演習成績も芳しくない弾太郎だが、戦わずして逃げ出すほど臆病ではない。


「関係ない?どういうことだい、ミサイルなんかはダメでも麻痺弾とか使える武器の一つくらいは」

『その機体には武装がない。一切ない、全然ない』


海人のいう意味が一瞬、わからなかった。

この『うずしお丸』は旧式とはいえ、れっきとした銀パト正式所属の武装宇宙船のはずだ。

現に火器制御システムには多目的弾頭交換式ミサイル八発、荷電粒子砲二門、麻痺力場発生装置と牽引ビームジェネレータなどの一応の標準搭載兵器のリストが表示されている。


「そんな馬鹿な。ミサイルと粒子砲とパラライザ……」

『すまん、予算不足でなぁ、替えのエンジン以外は購入できんかったんだよ。ワハハハハハ』


笑ってごまかそうとする父親にもう返す言葉も思いつかなかった。

それに……


(考えてみれば、こんなボロ機体にまともな武器があるわけないか……)


内装もツギハギだらけだが外装もかなりすごいのだ。

遠目にはわかりにくいが、あっちこっちの補修個所は全て木材で塞がれている。

修理用の宇宙合金が入手できなかったせいだが、それを神社の修繕に使ったヒノキ材を硬化処理して直しているという。

最高級ヒノキだから絶対安心大丈夫、とゲン爺は胸を張っていたが。


「あのね!丸腰で!しかもこのポンコツで!どーやってあの怪獣と戦えって……」

『あわてるな、馬鹿息子。こんな時のために彼女と契約したんだろう』


彼女、その言葉に弾太郎は後部座席を見た。

その彼女はシートベルトを外して席から立つところだった。

そしてビシッと地球式敬礼を決めて(浴衣姿なのがどうにもしまらないのだが)、堂々たる態度で言い放った。


「ルキィ・マーキシマス巡査(見習)、ただちに出動します!」

「大丈夫かい、相手は一匹だけだけど……」


うずしお丸を自動操縦に切り替えてコンビナート上空で静止状態に入ると、二人は機体中央の機材格納庫の搭乗口に来た。

高度千五百メートルから降下し犯人を確保するのだが……


「へーきですよ!実戦は初めてですけど、養成所じゃ『不敗小町』って呼ばれてたんですよぉ!」


ルキィは気合を入れるかのように例の変身ステッキ(正確には擬態解除キーアイテム)をブンブンと振りまわした。

妙にいきいきしているのは根っからの戦士だからだろう。久々に体を動かせる機会に興奮気味なのだ。


「それから『一匹』じゃなくて『一人』って数えなきゃダメですよ」

「あ……、そうだった。ごめん、つい癖で」


怪獣となると誰しも一匹ニ匹と数えてしまいがちだが、相手が高い知性を持っていれば立派な差別発言となる。

『匹』またはそれに相当する単語を言語を解するレベルの知性相手に使用すると名誉毀損で訴えられる場合もあるのだ。


「では降下準備します!」

「ちょっと待って。パラシュートを……」

「必要ないですよ、この位の高度なら。全然余裕です!」


弾太郎が壁にかけられたパラシュートを取りに背を向けたとたんに、ルキィはちょっと自慢げに返事を返してきた。


「え、でも……!」


振りかえった弾太郎は驚きのあまり凝固した。


「お忘れですか?私も怪獣なんですよ!こんな高度くらい階段を降りるのと大差ないです」

「……あ、う……」


威勢のいい彼女の言葉も既に耳に入らなかった。

余裕がないのは弾太郎の方だった。


「それよりコレ、預かっててくださいな。着たままで擬態解除したら破けちゃいますから」


差し出された浴衣を弾太郎は反射的に受け取った。

確かに服を着たまま巨大な怪獣の姿に戻れば破ける、どころかバラバラになってしまうだろう。

服を脱ぐのは当然の処置だ。一瞬で弾太郎の顔は真っ赤に染まった。


「ダンタロさんのお母様の形見の品、借りてるだけなんだから破れたりしちゃ申し訳ないですよね。あ、これもよろしくお願いします」


キチンとたたまれた浴衣の上にルキィは下着も置いた。確かに下着だって破れては困るだろう。

『よろしくお願い』された弾太郎の顔色は赤を通り越してレッドゾーンに突入した。

鼻の穴からツーと流れた一筋の赤にルキィは気づかず、搭乗口を開けた。

強烈な風が吹き込み、もう少しで弾太郎は浴衣を吹き飛ばされるところだった。


「ではルキィ巡査、これより出動します。後方支援、よろしく!」


少女は見事な赤髪を風に翻らせ、元気で朗らかな声を残して床を蹴り、均整のとれたしなやかな裸身を空中へ投げ出した。

後には鼻血を押さえてる情けない姿の弾太郎が残された。


「コマンド入力・擬態解除です!」


全身を叩く真下からの烈風に晒されながら、ルキィは口元にステッキを当ててささやいた。


―コマンド・変身解除。パスワードを入力してください―


「銀河パトロールの名のもとに、愛と正義と平和のために宣言する……我を戦いの姿に!」


―パスワード確認しました。擬態解除促進波動放射します―


ステッキから青と赤の光のリボンが飛び出した。

二本のリボンは幾重にも重なりルキィを包みこむ、同時に落下速度はゆるやかになり瞬間的に停止状態になる。

赤青二色の重なりあいによって生まれた複雑な色の光球の中で、ルキィの豊かなプロポーションの影が跳ね、回転し、優雅な舞いを見せる。


「なんなんだよ、あの過剰な演出効果は」


上空から見守っていた弾太郎も呆れるくらい乙女チックな変身シーンだ。

それこそ箒にまたがる魔法少女が飛び出してきても不思議ではないくらいのサービス過剰ぶりだ。

ちなみにのこのシーンは於母鹿毛神社の司令室にも中継されていた。

司令室といっても本当はただの居間にパソコンと通信機を持ちこんだだけなのだが。

その自称司令室でテレビの画面を静かに見つめていた海人は満足げな笑みを浮かべて、こうつぶやいた。


「我ながら良くできている。魔法少女変身シーン用の3D映像を組みこんでおいてよかった」

「海人様、あれには何か意味でも?例えば……威嚇とか、敵の意表をつくとか」


「ふむ、意味か………」


ゲン爺の質問に海人は感慨深げに天を仰いだ。

目を閉じ静かに語る言葉はいにしえの哲人のようだ。


「愛らしい少女の変身には華やかな演出が必要なのだ。そうは思わないか?」


哲人にはほど遠い言葉が誇らしげに語られた。


「さようでごぜぇますか」


納得したのか、それともただあきれたのか。ゲン爺の仏頂面からは何も読み取れなかった。


ドン!


光球が弾けて七色の雨となって降り注ぎ、超重量級の落下音が大地を揺るがした。

大質量の落下の衝撃は近くの建物のガラスを全て叩き割り、地震のようにコンビナート一帯を揺さぶった。

そして落下地点にうずくまる巨大な体躯。

舗装された地面に膝までめり込んだ足を引きぬきながら巨大な獣は地表に降りたった。

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