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大怪鳥空中戦!限界VS絶体絶命!

「よけきれません……すいません、弾太郎さん」


ルパルスの謝罪に対し弾太郎は…………無反応。

ただ背後に迫るハイエンだけを見ていた。

そのハイエンだが、2発目の重力子(グラビトン)攻撃の発射体勢に入っていた。

接触寸前まで近づいていた距離は再び離れつつあり、高度も落ちていく一方だ。

だが嘴の先にはもう、歪んだ空気球が浮かんでいる。

1発目に比べると問題にならないほど小さい。

今のハイエンのボロボロの肉体では、そのちっぽけな重力場が限界なのだろう。

だが、ルパルスと弾太郎を始末するには十分だ。


「王室の内輪揉めに巻き込んでしまいました」

「……」

「本当に、申し訳なく思っています」

「……」

「弾太郎さん?」

「…………まだ、だ……」

「?}


ルパルスの声を弾太郎は聞いていなかった。

その目は睨みつけるでもない、怯えるでもない。

静かに真剣に、自分たちの命を狙う背後の敵を見つめているだけだ。

その視線の先にいるハイエンだが、まだ重力子攻撃を撃とうとしない。

どうやら撃たないのではなく、撃てないらしい。


「いかん……目が、かすみおる。あと、あと少しだと、いうのに」


ハイエンは何度も頭を振った。

重力子攻撃は極限の精神集中を要する。

1発撃つだけでもごっそり体力を持っていかれるのに、2連射などもってのほかだ。

そのうえハイエンの老体は傷つき消耗しきっており、飛ぶのもやっとの状態。

かすむ目では照準も定まらない。


「今こそ……過去の、すべてに、決着を……」


息が上がる、苦しい。

なんとか見えていたルパルスの後ろ姿がぼやける。ぶれる。

集中しようとすればするほど、消耗が加速して意識が持っていかれそうになる。

今にも墜落してしまいそうだ。


「もう、ダメか……お?おおっ!」


白い霧におおわれていく視界の中で、輝く星のように浮かび上がってくる光があった。

目だ、ハイエンを見つめる強い視線だ。

忘れもしない、あの日もハイエンを見ていたのと同じ目だ。

敵意はなく、静かで、穏やかな、けれども。


「敵に値する、と認めてもくれんのか?カイトゥスよ……だが」


視界はぼやけたままだが、もう狙いは外さない。

この時、ハイエンは微笑みを浮かべていた。

若きの苦い敗北。

殺されるべきところを見逃されて中途半端なまま、今日まで生き延びてきた。


「その決着を、今日……今、ここで……終わらせる」


本来狙うべき目標はルパルスであることも、狙いをつけた相手が仇敵(カイトゥス)ではないことも、もう思い出せない。

いや、何も思い出す必要はなかった。

後は最後の力で創り出した重力子を撃ち出すだけなのだ。


「これで、終わり……だ」


★☆★☆★☆★☆★

「むううう、もう見ちゃおれん!」


揺れる鷲羽機の翼の下でゲン爺は拳を握りしめた。

重力子が発射されれば、間違いなく弾太郎は殺される。


(今までは弾太郎様に見られたくなかったが……仕方ない)

「テメェごときに坊ちゃんを殺させるわけにゃ、いかねェ!」


機体を蹴って跳び出しかけた、のだが。


『待て、ゲンさん。お前が出る必要はない』


スマホ経由の海人の声に止められた。

これはゲン爺にとっても想定外のことだった。

どうみても弾太郎が自力で助かる方法はない。


「ンな馬鹿な!今、助けに行かにゃ……」

『いや……弾太郎は助かる。そう決まっているのだ』


断言する海人の言葉に、ゲン爺は息を呑んだ。

込められた感情は、父親が息子に全幅の信頼を置いた……というものではなかった。

不機嫌で、認めなくないけれど渋々黙認してやる、そんな感じなのだ。


『全く子供というものは……似て欲しくないところばかりが親に似てしまう』

「海人様……もしかして『見えちまった』んですかい?」

『…………ああ。だから、お前は何もするな』


★☆★☆★☆★☆★☆★

事態の悪化に気をもんでいたのはゲン爺だけではなかった。

ゲン爺が潜む三角翼の上、パイロットの鷲羽も歯がゆい思いで目と鼻の先で行われている怪鳥同士の空中戦を見守っていた。


「チックショウ!動け、動けよ、このポンコツ!」

ダン、ダン!ガン!


焦りが高じて握り拳でディスプレイを叩く。

耐衝撃液晶でなければ壊れていたところだ。

壊れる代わりに鷲羽の手の方が血を流している。


「オレは弾太郎を助けに来たんだぞ!肝心なトコでこのザマか!ッザケんな!」

「ダメですよ、お姉様!」「隊長、もう無理です!」「このままじゃ空中分解ですぅ!」


鷲羽機は既に限界だった。

高重力に晒された機体はあちこちに致命的な歪みを生じていた。

何カ所も亀裂が入り、3基あるエンジンのうち動いているのは1機だけ。

その1基も白煙を噴き、噴射も途切れがちなのだ。

戦闘に加わるどころか、すぐにでも緊急着陸してパイロットは即時退避すべき状態だ。

そんな自分の状態よりも鷲羽はルパルスの背の弾太郎を見た。

そして恐怖に震えた。


「だ……弾太郎が、落ちたぁ―――ッ?!」


★☆★☆★☆★☆★

その時、弾太郎は静かにハイエンの、燃え上がるような輝きを放つ両眼と見つめあっていた。

それなりの距離はあるはずなのに、圧倒的な敵意と殺意に威圧される。

怖い、目を逸らしたい。

だが他ならぬハイエンの目がそれを許してくれない、目を離せない。


「負けるわけにはいかない……でも僕には何の力もないんだ」


弾太郎は弱音を吐いていた。

怪獣同士の戦いに、人間ごときが首を突っ込んでよいはずがない。

助太刀どころか踏みつぶされるか、足を引っ張るだけだ。

そんな気持ちをルパルスは、とっくに察していたのだろう。


「弾太郎さん、ごめんなさい。弾太郎さんを巻き込んだのは……間違いでした」


手綱代わりの触覚羽から伝わるルパルスの言葉に弾太郎はハッとした。

震えている、声からも手に伝わる感覚も震えが止まっていない。

そうだ、ルパルスはまだ子供だ。

地球人の何十倍も大きい体ても、名高い王家の血を引いていても、宇宙を自在に駆ける翼があっても。


(まだ幼い、僕よりも小さな子供なんだ……)


再びハイエンの視線と対決する。

今度はギッと睨み返す!

圧倒的な敵意と殺意を跳ね返す『断固として守る』強い意志を秘めた両眼で。

一瞬、敵の眼力が怯んだように感じた……だが!


「ハイエンが、発射体勢に入った!」

「何とか、躱してみます……」


重力子発射までのコンマ数秒が、果てしなく長く感じられた。

その刹那の瞬間に弾太郎は必至で考えを巡らせていた。


(あの一発を外させる方法はないか?)


一見不可能を模索するのに集中しすぎたのか?

触覚羽を握っていた手の握力が知らないうちに緩んでいた。

気がついて握り直そうとしたが、遅い。

弾太郎の手は羽をつかむことはなく、両足はルパルスの背中を離れた。


「弾太郎さん!?」


驚き叫ぶルパルスの声はもう聞こえなかった。

弾太郎は何の支えも、命綱もない空中に浮かんでいた。

最初はゆっくり、次第にスピードを増して海面へ向かって落ちていった。


「坊ちゃん!」

「弾太郎!」


鷲羽機の翼の下と操縦席で、同時に絶叫が響いた。

だが最も動揺していたのは他ならぬ、敵であるハイエンだった。

狙いを定めて重力子を放つ、まさにその瞬間に殺意を集中させていた攻撃目標が落下したのだ。


「しまった……」


本来の目的からすれば弾太郎など無視して、ルパルスだけを撃てばよかった。

そうすればルパルスは計画通り暗殺され、弾太郎は放っておいても墜落死する。

冷静な暗殺者ならば疑いもなく、そうしただろう。

だが……この時、ハイエンが殺意を集中させていたのは弾太郎の方だった。

結果、放たれた重力子はルパルスではなく、弾太郎に向かって飛んで行った。

発射の瞬間に狙いを狂わされてしまったのだ。


「まさか、私を惑わせるためだけに?飛び降りたというのか、翼なき貧弱な生き物が?」


考えられない失敗のショックで正気に戻ったハイエンは呆然としていた。

最後の力で仕掛けるはずだった攻撃を不発にされたのだ。

それも戦闘力ゼロの人間に。


★☆★☆★☆★☆★

(よかった、狙いを外してくれた)


転落した弾太郎の心に最初に浮かんだ考えはそれだった。

発射された歪んだ空気の球体はルパルスではなく、弾太郎に迫ってくる。


(といっても……僕は絶望的か。もう鷲羽さんもルパルス君も間に合いそうにないし)


正面からは高重力空間が飛んでくる。

威力は落ちてはいるが巻き込まれたら弾太郎は潰れた肉塊に。

真下には高重力で荒れ狂う海だ。

そこに落ちたら全身砕けた無残な死体に。

上空のルパルスが急降下して、後方の鷲羽機が無理矢理エンジンを吹かして、救助しようとやってくるのが見える。


(けど、間に合いそうにないね)


十数秒後には確実な死が待っているというのに、弾太郎は特に怖いとは思わなかった。

自分でも『こんなに落ち着いてるのはおかしいんじゃないか?』と思ったぐらいだ。

恐怖が麻痺してしまったのだろうか?

逆さまになっているので頭上に海が、足元にルパルスが見える。

先に弾太郎に到達するのは重力子攻撃になりそうだ。


(あ、引き寄せられている)

(スゴい、こんなに引っ張られてる)

(手も足も、引っ張られて痛い)

(服が破れそう、って もう破れてたっけ?)

(威力が落ちてるらしいけど、十分に即死だな)

(…………うん、命中すればね)


落下しながら、不思議に思って弾太郎は首を傾げた。

なぜ自分は『命中すれば』などと思ってしまったのだろう。

至近距離通過でも致命傷となるというのに?

しかし、それもあと1秒もしないうちに終わる。

覚悟した弾太郎は目を閉じた。


「…………あれ?」


1秒経過、弾太郎は目を開けた。

自分は高重力に巻き込まれて死んでいるはずだ。

だが目の前に重力子攻撃の、あの歪んだ空気球はなかった。

あったのは並行して急降下しているルパルスの顔だった。


「ルパルス君?なぜ……」


ルパルスが目配せする。

ハッとして手を伸ばす。

そこに触覚羽があった。

掴み体を引き寄せる。

途端に明瞭な声が響いてきた。


「お前を選んだのは、俺にとって“得”だった。間違いなくな」

「そーゆーギャグやってる場合なの?!」

「えっ、じゃあ……ジョー、きみはどこにおちたい?……どうです?」

「縁起でもないよッ!」


弾太郎のツッコミと同時にルパルスが強引に頭を引き起こした!

左右に高さ百メートル以上の巨大な波、いや連続する水壁が立つ。

海に突っ込む寸前に急降下から、海面スレスレ飛行へ。

というか、海面に接触して波飛沫を上げて突っ走ってる!


「一気にいきますッ!」

「行け、ルパルス君!」


そのまま数千メートルを突っ走り、目指す積乱雲の真下へ。

そして急上昇、そのまま真っ黒な雲の中へ飛び込み、姿を消した。


「逃げられた…………?」


取り残されたハイエンは、まだショックから立ち直っていなかった。

混乱していた、どうしてこうなったか理解できなかった。


(あの地球人は偶然、落ちたのか?)

(違う!)

(最後の瞬間まで奴は私から目を離さなかった)

(読んでいたのだ)

(私がルパルス殿下ではなく、無意識にお前を狙ってしまうことを!)

(誤射された重力子の重力が、落下速度を減殺することを……)


ハイエンは思い知った。

またしてもカイトゥスに負けたことを。

そして何度戦っても絶対に勝てないことを。


(ダメじゃあ、もう翼も、動かん……)


高度は海面に触れる寸前、スピードは失速寸前。

もうルパルスに追いつけそうになかった。

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