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大怪鳥空中戦!甦る心的障害(トラウマ)

「ダメだ、やっぱり近づけねぇ!くっそぉっ、なぁにが最新鋭機だ!」


狭い操縦席(コクピット)で鷲羽小隊長が怒鳴るが、その怒鳴り声を聞く者はいない。

精密機械の接近を許さない強力な妨害波は、編隊を組む部下との通信さえ許さない。

目と鼻の先で繰り広げられる怪鳥同士のドッグ・ファイトを観戦する以外は何もできない。


「このままじゃ、弾太郎のヤツが……って、意外と持ちこたえてやがんな?」


鷲羽小隊長のすぐそばで、同じくやきもきしている者がいた。

文字通り『すぐそば』というか、ほとんど密着状態で。


「弾太郎坊ちゃん、もう少しでごぜぇやす。頑張ってくだせぇ……」


鷲羽機の三角翼の下でつぶやく声がしたが、気づいた者はいない。

ヤモリのように翼の下にへばりついているのはゲン爺だ。

高度といいスピードといい、人類に耐えられる環境ではないはずなのだが。

そもそも戦闘機の三角翼にはしがみつけるような凹凸がないはずなのだが。

並行して飛んでいる僚機のパイロットが全く気づいていないのもおかしい。


「ここまできたってェのに手を出せねェとは……あの老いぼれ鳥め、坊ちゃんに万一のことがあったら……消してやる」


消してやる、という言葉の時だけゲン爺の口調から感情が消えた。

怒りが限度を超えた時、冷静さを維持するために感情のスイッチがオフになる。

『現役時代』に自らに叩きこんだ、彼の癖であった。


「とはいえ、今回もあっしの出番はねェかな」


★☆★☆★☆★☆★

「あの雷雲へ逃げ込む?!無理です!僕はともかく弾太郎さんが……」

「ルパルス君」

「死んじゃいますよ!あの放電に触れたら一発で黒焦げ……」

「…………四の五の言ってないで、さっさと飛んでください」


どう聞いても弾太郎とは思えぬ言葉と口調だった。

こんな横柄な言い方を他星の王族にすれば、本来ならば物理的に首が飛ぶ。

流石の能天気王子も驚き怒る……のではなく、黙って従った。

状況を考慮して納得した、とかではない。

恐れたのだ、幼体とはいえ巨大で圧倒的強者である怪獣のルパルスが。

何十分の一の大きさしかない非力な人間の弾太郎を。


(ほ、本当に弾太郎さんなのか?)

(それとも、これが本当の弾太郎さんなのか?)

(ど、どうしよう?雲の中に逃げたって、そこから先は?)

(で、でも他に策もないし)

(ここは弾太郎さんの言う通りに)

パンッ!


ありったけの力で両翼が大気を叩く。

巻き起こした風が推進力となってルパルスの巨体を加速する。

弾太郎は少しでも風を避けるため、腹ばいになって羽毛に半ば埋まるように身を隠す。

それでも息もできないほどの強風に晒される。


(苦しい、まともに息継ぎも……)

(くそっ、無理しすぎたかな?)

(でも。ここで踏ん張らなきゃ)

(ルパルス君が、殺されちゃう……)

「ルパルス、君……もっと、スピードを、あげて」

「でも、それじゃ弾太郎さん死んじゃいますよ!」

「急…………いで」

「……はい」


更に強い羽ばたきでルパルスは急加速する。

しかし、それでもハイエンを引き離すことはできなかった。

老兵は老いを感じさせぬ目で主人をロックオンしたまま追尾してくる。

用心深く距離を保ったまま、いや!少しずつだが詰めてきている。

後ろを気にしながら弾太郎は前方の積乱雲との距離を目測する。


(まだ遠いな。このままじゃたどり着く前に)


振り向いた弾太郎の目と追ってくるハイエンの目が、コンマ数秒だけ合った。

弾太郎からすればゾッとする瞬間だったが、ハイエンの方は違った。

視線が絡み合った一瞬で、ハイエンは何とも形容しがたい不安を感じた。


「なんだ?どうしてだ?地球人を見るのは今日が初めてだぞ?なのに見覚えがある……」


しかし戸惑ってい時間はない。

急加速、急上昇でハイエンは、あっという間にルパルスの頭上へ。

そこから目で追いきれない速さで急降下に転じ、瞬きする間に目の前に迫った。

超スピードの速攻だったが、ルパルスの緩やかな動きで躱されてしまった。


「なぜだ?」


躱せたのはルパルスの実力ではない。

ハイエンが半ば上の空で攻撃しているためだ。


「なぜ、あの地球人に。いや、あの目に覚えがあるのだ?」


ハイエンは攻撃が失敗したことにではなく、弾太郎に気を取られていた。

ルパルスを殺すことが最優先のはずなのに、そちらに心がざわつくのだ。

あの目を見ているだけで不安が高まる。

羽ばたきひとつで微塵にできる、とるに足らない人間種なのに。


「くそ!地球人がなんだというのだ……」


今度は背後から真っ直ぐに突っ込んでくる。

対するルパルスは左に身を逸らす、だがハイエンに読まれていた。

軽く身をよじるだけで死角に滑り込み、鋭い嘴がルパルスの脊髄を狙う。

だが死角からの攻撃が触れる直前、ルパルスの急停止が効いた。


バッ。


タイミングを外された嘴の切っ先がルパルスのすくめた首をかすった。

羽毛どころか血しぶきが飛び、走る痛みにルパルスの顔が引きつる。

そして弾太郎の頭の上、わずか数センチのところを巨大な爪が高速で通過する。

宇宙戦艦の装甲にも食い込む爪に少しでも触れていたら、頭蓋骨が爆散していただろう。


「助かりました、弾太郎さん!」

「まだだ、また、くるぞ……ルパルス君」


呼吸もままならない弾太郎は声もろくに出ないが、ルパルスと弾太郎の間の会話が成立していた。

これは弾太郎が掴んでいる触覚羽を通じての骨伝導による会話だからだ。

ルパルスが属する怪獣種・スターバードは過去にパートナーとなる人間種を乗せて宇宙空間を飛んでいた時代がある。

触覚羽を手綱として意思を伝えあう手法は、その時代に確立されたものだ。

航行技術が発達し、誰もが自由自在に宇宙を飛び回る現在、ほとんど知る者がいない。

ルパルス自身も歴史の豆知識(トリビア)としてしか知らなかった。


(でも弾太郎さん、僕と会話できるのに全然驚いてなかったぞ?)

(触覚羽さばきも初めてとは思えないし……)

(以前に僕とは別のスターバードに騎乗したことがあるんだろうか?)

「真下からだ!くる!」

「えっ、はい!」


強引に体を半回転させ真下からの攻撃をやり過ごす……だけではなかった。

すれ違う瞬間にルパルスの爪がハイエンの翼に刺さった。

触れていたのはコンマ1秒もない。

だが羽毛を、皮膚を貫き筋肉層まで達したのをルパルスは感じた。

数十枚の羽根が舞い散る中で、ルパルスの顔に生暖かい赤い液体が降りかかる。

血だ、それも今度はかすり傷ていどではない。

ハイエンの白い翼の一部が赤く染まっていく。


「やった、やりましたよ、弾太郎さん!」

「気を、抜くな!また、すぐ、来る」

「はい!」


そんな弾太郎たちのやり取りにも関わらず、ハイエンは攻撃をためらっていた。

完全に死角を突いたつもりだった。

なのに仕損じた上に、逆にこちらがダメージを受けてしまっている。

未熟なルパルスだったから小さなダメージで済んだが、熟練者相手であれば深手を負っていたところだ。


「これはマズイですな。こちらも時間があまりないというのに」


ハエインは焦り始めていた。

弾太郎という足枷をルパルスに背負わせることで、圧倒的有利に持ち込めたのは間違いない。

だが弾太郎が後方に注意を払うことで、攻撃できる死角が制限されてしまった。

電子機器を狂わせる妨害装置を隠し持っているおかげで邪魔は入らない。

だが小型軽量で高出力の妨害波を出せる分、バッテリー持続時間は短い。

ルパルスが逃げ込もうとしている積乱雲も近くなってきた。


「あと2分というところか。身勝手な私事で部外者を傷つけたくはなかったのだが」


暗い顔と沈んだ目でハイエンは最後の攻撃を仕掛ける決心をした。

首をすくめ身を縮こまらせ、翼を半ばたたんで力をため……その時、ルパルスの背で弾太郎が立ち上がるのが見えた。

黒のメイド服のスカートが猛風に翻って、ふともものあたりまで露わに……


「ヌッ!またしても目潰しか!そう何度も同じ手に!」


咄嗟に翼をかざして猛烈なストロボ光から目を守る、と思ったのだが。

警戒していたストロボ光が全然来ない?

ほんの数秒だが貴重な時間と間合いを大きく引き離すことができた。


「うぬぬ、フェイントか!この期に及んでハッタリをかますとは、大した胆力!!」


悔しいながらハイエンは称賛せざるを得なかった。

この時、ルパルスと弾太郎の会話を聞くことができたら、また別の感想になっていただろうが。


「なんでブラック・メイデン(黒メイドさん)フラッシュ(パンチラ目潰し)使わなかったんですか?」

「風でスカートまくれ上がったの押さえてただけだよ!」


もっとも『使いたくても使えない』というのが現実でもあった。

スカート内側に仕込まれた、莫大な光量を発するストロボLEDは消費電力も半端ない。

2回の使用で既に電力は尽きている、3回目はない。

必殺の斬撃武器・ヘッドドレスラッガーも、ハイエンに砕かれてしまっている。

前方の積乱雲を弾太郎はもう一度見た。


(あと1分あれば……そんなに甘くないか)

「来ましたよ、弾太郎さ……ヤバい、ハイエンの決め技だ!」


ハイエンは奇妙な飛び方をしていた。

ルパルスを追いながら、大きく螺旋状に回転しながらスピードを上げてきたのだ。

接近するにしたがって、回転半径を狭めながら回転の軸線上からルパルスを外さない。

いや、どう動いても、緩急をつけてもフェイントをかけても外せないのだ。

触覚羽を通じて聞こえるルパルスの声はもう、怯えを隠すことができなくなっていた。


「どどどどどどうしましょう?『螺旋回』っていうハイエンのとっとておきの空戦技です!」

「落ち着いて!どういう技なんです?」

「接近しながら回転半径を絞り込んで逃げ場を奪っていって、最後に衝突ギリギリで目標を一周しながら嘴と爪の同時攻撃です!ああ、もう来る!」


一呼吸二呼吸の間にハイエンは羽ばたきひとつ分の間合いの中に来ていた。

対策を立てる暇も、守りを固める暇ももうない。

弾太郎は触覚羽を握りしめ、考えるが何も浮かばない。


「どうすれば、いい?どうすれば……」

バン!

「終わりでございます、殿下」


ハイエンが最後の羽ばたき、最後の加速を行った。

目にも捉えきれない速さで周回しながら、真下に回り込み視界から消える。

次にハイエンが姿を現した時、ルパルスの翼はもがれ、喉笛を食い破られるだろう。


「ええい、考えるやめた!やるよ、ルパルス君!」

「えっ、弾太郎さん?何を……」

ぎゅん!


弾太郎は手綱代わりの諸角網をねじるように引いた。

ルパルスは理由(わけ)もわからないまま、反射的に翼を折りたたんだ。

ハイエンの螺旋回に合わせて、ルパルスの体が錐もみ状態に入る。


「殿下?なぜ、この手を知って……」


ハイエンが驚愕したのも無理はなかった。

この受け手は振り切るスピードを出せない場合に、螺旋回に対抗できる唯一の方法だからだ。

ルパルスに教えたこともないし、地球人が知っているはずもない。


(第一、この手で破られたのは、あの……まさか?)


お互いに考えている暇は、もうなかった。

螺旋回は極小の高速周回で敵の感覚を超える速さの全方位攻撃を加えるというものだ。

その要というべき高速旋回を、より小さな回転である錐もみ飛行が相殺した。

しかも回転半径が小さい分、回転数はルパルスの方が速くなる。


(ぬぅっ!攻撃が、回転に、弾かれる!)


鍵爪の攻撃も!嘴の刺突も!横殴りの翼に弾かれ、逸らされた。


(やむを得ん、地球人ごと()るしかない!)


両足の爪を大きく広げ、ルパルスに接近する。

切り裂くのではなく組み打ちに持ち込み、動きを止めて一撃を決める。

この乱暴なやり方では弾太郎を無傷で済ませるのは、もう無理だ。


「不運な地球人殿、恨んでいただいて構いませ……?!」


タイミングを計りルパルスが背中を見せる瞬間を狙い、つかみかかる。

その時、再び弾太郎と視線が絡み合った。


★☆★☆★☆★☆★☆★

「やっぱり攻撃パターンを切り替えてきたか……」


巨翼を開いたハイエンが迫ってくる、こっちを捕獲する気だ。

相手の旋回攻撃を相殺したまではよかったが、その先を弾太郎は考えついていなかった。

これ以上は怪獣同士の戦いに弾太郎の出る幕はない。


(ただ、見ているだけしかないのか?何かできることは……)

『困った坊やだぜ。無茶ばっかしやがって』


聞き覚えのある声が背後からした、ような気がした。

だが背後に人がいるはずはない。

だが声は続く。


「その声は、確か福 春麗(ふく しゅんれい)さん?」

『まあいい、少しばかり助けてやる』


その声はKO-HUKUブランド創始者・福 櫂緒が120歳の時に生んだ娘にして専属縫製士・福 春麗!……だが、本人ではない。

秘術・大裁縫オノゴロにより、弾太郎が着ている黒メイド服に宿った残留思念である!

ちなみに福 春麗の本体は徹夜仕事明けで本社ビルの仮眠室でぶっ倒れている。


『まず敵と向かい合うように姿勢を変えろ』

「えっと、こう……ですか?」


うつ伏せになって風を避けていた弾太郎は、体を半回転させて仰向けになった。

錐もみ飛行を続けるルパルスの背中からは青空と海原が交互に現れては去っていく。

文字通り目を回すような光景だが、見惚れる余裕はない。

その光景の中に一回転ごとに姿を見せるハイエンが、確実に近づいてきているからだ。


『そうだ、後はまず敵を真正面にきたら……俺様のいう通りに、叫べ』

「叫ぶ……?」


予感がした、嫌な予感だ。

何か大切なものが失われる、そんな気がするのだ。

しかし……その時、視界の端にハイエンの白い翼が見えた。

ためらう暇も、もうないのだ。


『いいぞ、少年!まずは力強く両腕ガッツポーズ!そして男らしく胸を張れ』

「はい!」


福春麗(残留思念バージョン)にいわれるままに、力いっぱいガッツポーズで胸を張る!

ちょっぴり男らしい……とはいかなかった。

黒メイドさん姿では、何をやっても可愛くみえてしまうのが哀しい。

だがこんなことで、めげてはいられない。

ハイエンは既に鍵爪が触れる距離にいた。


『今こそ叫べ!ブラバスト・ファイアーァァァッ!』

「ブラバスト・ファイアーァァァッ!……え?」


叫んでから弾太郎は凝固した。

熱血ヒーローの必殺技っぽいネーミングだが、それ以上にエロ成分入りすぎだったァーッ!

だが、その威力はネーミング以上の破壊力があった。

ポージングと音声入力により胸パッドに仕込まれた装置が作動、メイド服の胸が破れて赤い2枚の大型放熱板が突き出した。

同時に赤い霧が噴き出し、強風を突っ切って直進して襲い来るハイエンを包み込む。


「な、な、なに、コレ?うわっ!」

ブォン。


何が何だかわからない弾太郎を無視して放熱板が赤く輝く。

熱を帯びた光がハイエンを覆っていた赤い霧に触れた瞬間、霧が発火し燃え広がった!

うねる炎はハイエンの巨体に絡みつき、灼熱を持って怪鳥を焼いた。


ギャァ、ギャァァァッ!


悲鳴のような鳴き声をハイエンは発した。

薄い空気と強風を破って、熱気と焦げくさい匂いが押し寄せてくる。


『ふっふっふっ、胸パットに仕込んだ超発熱素材を点火したのだ!』

「なんて危険なモノ仕込んでんですかーっ?!」

『ハーハッハッハッ!ガンバレよ、少年…………』


言うだけ言って、福 春麗(の残留思念)は無責任に姿を消した。

一方、離れていくハイエンは見苦しいくらいに翼をばたつかせ、まとわりつく炎を必死に散らしていた。

あちこちに軽傷ながら火傷、想定外のダメージだった。

墜落には至らなかったが、広範囲に羽を焼かれてスピードが大幅に落ちてしまった。


(マズい……このままでは雷雲に逃げ込まれてしまう)

(雲に紛れて時間稼ぎされれば、この惑星の警察が到着する)

(どうしてだ?何を間違えた?)

(ここまで追い込まれるのは初めて……いや前にもあった)

(そうだ、あの時も。圧倒的に有利だったはずの状況で)


ハイエンの目がクワッと見開かれ、血走った眼球がグリンと回転し、離れていくルパルスの背の弾太郎を凝視した。

たじろぐほどの激情を秘めた目に、弾太郎は金縛りにあったように硬直した。

その嘴が開き、ゆっくりと、沈んだ低い声で予想外の質問をした。

猛烈な風の音で聞こえないはずのハイエンの声が、なぜかはっきりと弾太郎の耳に響いた。


「地球人よ、お前はカイトゥスの息子か?」

「えっ……」


弾太郎は戸惑った。

弾太郎の父の名は真榊 海人、発音は似てはいるがカイトゥスという名ではない。

ただ即答できなかったのは、ひとつ思い出したことがあったのだ。


(7歳くらいの時だったろうか?)

(知らない人から電話がかかってきたことがあったんだ)

(いきなり『ダンタゥロス君か。カイトゥスはご在宅か?』そういっていた)

(すぐ、言い直したんだ『いや、スマン。カイトだったな、ダンタロウ君』って)

(今まで忘れてたけど……僕の父さんは一体?)


弾太郎は今になって初めて、自分の父親の過去を何も知らないことに気づいた。

そして『知らない』という事実に、今まで何の不審も感じていなかったことにも。

一秒の何分の一の困惑の後、弾太郎は沈黙し困惑した目でハイエンを見た。

この時、弾太郎を背に乗せるルパルスも、思い出したことがあった。


(父上は海人様を時折、カイトゥスと呼び間違えていた)

(それに『アイツは宇宙傭兵出身だ』といってたけど)

(どうして元・傭兵と王族である父上が知り合いなのか、教えてくれなかった)

(父上は何を隠しているんだ?)


数秒間、静かな膠着状態が続き、そしてハイエンが均衡を破った。

ハイエンが嘴を大きく開いて、胃袋に溜めていた金属弾を撃ってきたのだ。

今までは弾太郎を巻き込むことを嫌がって使わなかった攻撃手段だった。

それも狙いを定めての狙撃ではない。


シュパッ、シュパッ、シュパッ!ヒュン、ヒュンヒュン!

「うわッ!うっわっわっわわわッ!」


弾太郎は慌てて触覚羽を引きルパルスに回避運動をとらせた。

さもなくば弾丸はルパルスの胴体を、弾太郎ごと打ち抜いていただろう。

それでも避けきれず、弾丸がかすった首筋から、翼の付け根から赤い血霧が花開く。


「だ、大丈夫?ルパルス君!」

「え、ええ、何とか……でもハイエンの奴、どうして今更」

「また撃ってくる!なんでもいいから動いて!」


シュパ、シュパシュパ!ヒュヒュヒュヒュヒュッ!


まるで自動小銃の連射、いや乱射だ。

狙いもロクにつけずに考えもなしにハイエンは、ただただ何かに駆り立てられるように、ひたすら撃ってくる。

こうなるとルパルスも、とにかく出鱈目に動き回って命中しにくくするしかない。

急所だけは逃れたものの、それでも何発かは血肉を、浅くではあるが抉っていく。

その度にルパルスのスピードと高度が少しずつ落ちていく。


「ハイエン、とうとう弾太郎さんを巻き込む覚悟を決めたのか?いや、違うぞ?」


ハイエンの目はルパルスを見ていなかった。

彼は弾太郎だけを見て闇雲な攻撃をしていたのだ。

しかもその目つきはルパルスにとって意外過ぎる感情をあらわにしていた。


「ハイエン?何を恐れている?どうして弾太郎さんに敵意を向ける?」


攻撃対象はルパルス王子ではない。

何の脅威にもならないはずの地球人の方だった。

つまりハイエンは弾太郎を殺そうとしているのだ。

この突然の狂気は弾太郎たちに危機と一緒に好機をもたらした。

突然、弾丸の発射が止まったのだ。


「ラッキー!弾切れか!」


弾太郎は一瞬、安堵したが早計だったとすぐに思い知らされた。

お互いに速さ高度ともに失いつつあったが、それでもまだハイエンが上回る。

斜め後方上空についていたハイエンは、この時、翼をたたんで急降下に入った。

先ほどの弾太郎の『ブラバスト・ファイアー』によるダメージで、羽ばたきによる加速はもうできなかったが重力加速度は別だ。

最初はゆっくりと、しかし急速に速度を増していけば、ハイエンの巨体は体重分の巨大な弾丸と化す。

ハイエンの意図に気づいた弾太郎は舌打ちした。


「体当たりするつもりか!」


その通り、ハイエンは積み重ねた戦闘技術も老練な戦術も捨てて、自滅覚悟の体当たりを仕掛けてきた。

怒号も気合も発することなく、ハイエンはただ弾太郎だけを見ている。

互いの耳に聞こえるのは、もう言葉でも声でもない。

ただ風を切る音だけがする。

しかし敵の豹変ぶりに一番うろたえているのはルパルスだろう。


「滅茶苦茶だ!僕に教えてきた戦闘技術と全然違うじゃないか!」

「ルパルス君、落ちつけ!ギリギリまで引きつけて躱すんだ」


そういったものの、それがほとんど不可能なのは弾太郎自身がわかっていた。

先ほどからルパルスも盛んに回避運動を続けているが……

ロックオンされたままだ、外せない!

距離があるうちは敵もこちらに合わせて進路調整できてしまうからだ。

こうなるとギリギリで身をひるがえすしかない。

だがハイエンの両眼に宿る気迫と集中力が、決して逃げられないことを理解させる。


(……今だ!)

(……いえ、無駄でございますぞ)


最期の一瞬を狙ってルパルスが身をひねるが、ハイエンはそれに見事に対応した。

目の前に巨大な嘴と殺意と恐怖で輝く目玉が迫る。

もう躱せない、激突する!

その時、ほんのわずかだがハイエンが怯んだ、翼が硬直した。

ハイエンの見開かれた目を弾太郎の見開かれた目が睨み返していた。


(なんだ、その目は?)

(なぜお前は敗北を認めない?)

(今度もお前が勝つ、というのか?カイトゥス!)

(だが今度は俺が勝つんだ!)


ハイエンは正常な思考を失っていた。

過去に敗北した相手と、似ても似つかぬ弾太郎を混同していた。

若き日の惨敗の記憶、その復讐戦の中に彼の精神は自分自身を閉じ込めていた。

鬼気迫るハイエンの鬼のような、悪魔のような顔!その顔を……


ブゥワッ!強烈な熱線が灼いた!


ハイエンの体の右側が連続的に爆発し、炎を上げ、火花を散らせていた。

輝くレーザー光のエネルギーがハイエンを弾き飛ばし、ルパルスへの直撃を逸らせた。

攻撃がきた方向に顔を向けた弾太郎は、頼もしい援軍の到着を見た。


「ハーハッハッハッ!騎兵隊の御到着だぜ、邪魔な妨害波がキレーさっぱり消えやがったぁ!」


新進気鋭の航空戦力、鷲羽小隊の登場だ!

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