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大怪鳥空中戦!老兵VS未熟者ふたり

(しまった、しまった、しまったしまったしまったしまったしまったぁぁぁッ!)


ルパルスは激しく後悔していた。

本来の自分なら絶対に犯さないミスだった。

あの時、ハイエンに襲われた弾太郎を助けたのは完全な失敗だった。


(くっそぉぉぉっ!ハイエンの性格はわかってたのに!)

(弾太郎さんを殺すつもりなんかない、って知ってたのに)

(あのまま無視して逃げれば!弾太郎さんを襲うのをやめて、僕を追ってきたはずなのに)

(あっさり引っかかった!なんて僕はバカなんだ!)


ハイエンとは生まれる前からの、卵の中にいる頃からの付き合いだった。

無関係な者を殺めるなどするはずがない、堅苦しいけど優しい男だと知っていた。

逆に言えばハイエンもまたルパルスを理解してる。

ただし『こんな場合は弾太郎を助けにくるだろう』ではない。

このような状況下では、ルパルスは護衛など、いや家族であったとしても見捨てて離脱する。

冷酷だの卑怯だのと思われるだろうが、生まれる前からそのように教育され訓練されているのだ。

それが何故、真逆の行動をとってしまったのか。


(ハイエンの奴、いつから気づいていたんだ?)

(僕の、いや父上の目的が……弾太郎さんだということに)


ルパルスは翼の下、自分の足の爪にしがみつく小さな人間を見た。

この事態に一番慌てているのは黒メイド姿でルパルスの足にしがみついて震えている弾太郎だろう。

危険を承知で実行したルパルスを確実に脱出させる計画が、ルパルス本人に潰されてしまったのだから。


「大丈夫ですか!弾太郎さん」

「…………!!」


弾太郎は鍵爪をよじ登り、足首の羽毛にたどり着いたところだった。

口をパクパクさせて何やら大声で返事しているつもりらしいが、風の音で全く聞こえない。


「弾太郎さん、じっとしてて!今、どこかへ降ろして……」

ビュッ!

「うわわわっ?」


ルパルスの頭ギリギリを硬く重い金属塊球が掠めていった。

吹き飛んだ数枚の羽毛が。たちまち後方へと流れていく。

首を回して背後を見ると白い翼の巨鳥が追ってくる。

獲物を狙う視線は揺るぐことなく、まるで眼力だけで脳天を撃ち抜かれているような気がする。


(妙だ、ハイエンの技量なら今ので僕を仕留めているはず……)

(攻撃は散発的だし、狙いも甘いすぎる)

(今更、僕を殺すのを躊躇っているハズもないし)

(なら、今のうちに、弾太郎さんを……いないーッ?!)


ついさっきまで足にしがみついていた弾太郎の姿がない!

どこかで落ちたのだろうか?いや、違う!

腰のあたりで小さなものがモゾモゾ動いている、くすぐったい感触があった。


「弾太郎さん、いつの間に……・」


黒メイド姿の弾太郎が、羽毛につかまってルパルスの足をよじ登ってきていた。

強烈な風に吹き飛ばされそうになりながら、羽毛をつたって腰まで登っていた。

そして背中へ這い上がり、背骨沿いにまだ上へ向かっている。


「弾太郎さん、何やってるんですか!」

「も……ちょ……待っ……」


もうちょっと待って、と言ってるらしいが、風の轟音でろくに聞き取れない。

そもそも人間の貧弱な肉体では声もろくに出ていないはずだ。

現在、ルパルスは3千メートル以上の高度を時速100キロ以上で飛行している。

怪獣の尺度でいえば失速寸前の低空ノロノロ飛行なのだが、平凡な地球人の肉体では呼吸もまともにできないだろう。

弾太郎の生命は深刻な危険に晒され続けている状態なのだ。


「これじゃ弾太郎さんが長くはもたなし、ハイエンからすれば僕は動かない標的も同然……攻撃がこないぞ?」


自由に飛び回ることのできないルパルスを落とすなど、老体とはいえハイエンには造作もない。

なのにハイエンは次の攻撃をしてこないのだ。


(どうして……あ、そうか!僕はともかく、弾太郎さんをやっぱり殺したくないんだ)


これならしばらくは時間が稼げるかもしれない、誰もがそう思うところだ。

だが安心するのは早計だった。


★☆★☆★☆★☆★

「ふむ……困ったな。このままでは、あの地球人まで殺してしまう」


ハイエンは眉間にしわを寄せた。

さっきはルパルスを引っかけるため、襲うフリをしてみたが……


「正直、うまくいくとは思っておりませんでしたが」


しかし結果はこれた。

まさかルパルスがあれほど取り乱し、こうも簡単に勝利を手放すとは……


「殿下をお育てした身としては不徳といいたいところですが……やはり、何かありますな、あの地球人は」


最初からおかしいとは思っていた。

あの陛下が、生活の9割を悪だくみで費やしているような謀略家のルントゥス王が?

『ただの挨拶』のために末席とはいえ、息子を派遣する?

相手は誰だ?引退して何の力も持たない、ただの隠者だと?

しかしルントゥス王が無意味なことをするわけがない。


「最初は父親に何かあると思っておりましたが……正解は息子と死んだ母親の方でしたな」


父親・真榊 海人は確かに経歴不明。

ルパルス王子の事前調査によれば、かつて宇宙で傭兵の真似事をやっていたらしい。

ルントゥス王と関りがあったのもその頃だという。

一方では彼の妻と息子は平凡な地球人で特に怪しいところはない、との報告だった。

だが、ハイエンはその二人の方に奇妙な違和感を感じていた。

きれいすぎる記録なのだ、まるで脚本家が書き上げた平凡な人生ような。


「なにより殿下が弾太郎様に執着しておられる。殿下ご自身も理由はご存知ないのでしょうが」


だがハイエンには関わりのないことだ。

今、彼の為すべきことは主人であるルパルスの命を奪うことだけなのだ。

腹筋を操作し胃の中に仕込んだ金属弾を喉に押し出す。

後は得意のペリット・バレットでルパルスを撃つだけだ……の、はずだったのだが。

狙いやすい胴体を撃ち抜けば、ルパルスの背中にいる弾太郎まで巻き添えになってしまう。


「得体の知れないお方でございますが、だからといって私事に巻き込むわけにも……」


結局、ペリット・バレットは発射中止にした。

だが攻撃をやめたわけではなかった。

スピードを上げて前を飛ぶルパルスにジリジリと接近する。

両足の巨大で狂暴な鉤爪を大きく広げて。


★☆★☆★☆★☆★

密林のように広がる羽毛にしがみつきながら、弾太郎はルパルスの背中を登る。

記憶に間違いなければ、探し物はこの先にあるはずだ。

息もできないほど強烈な風の中で、呼吸を止めて瞼をこじ開ける。


「…………あった!」


探し物はルパルスの肩の近く、羽ばたく翼の中間にあった。

怪鳥ルパルスの体を覆う青い羽根の中で、うすい金色に輝く2本の羽毛が風になびいている。


「クッ……あと、少し……」


非力な腕に力を込めてよじ登り、這い上がる。

自分でもじれったくなるほど遅い、そして遠い。

ゾクッとするような殺気を背後に感じ、チラッと後方を確かめる。


「ヤバイ……直接攻撃に切り替えるつもりだ」


ハイエンがジリジリと距離を詰めてきている。

ペリット・バレットによる狙撃を捨てて、鋭い爪でルパルスの急所をえぐるつもりだ。

今のルパルスでは、この攻撃を躱しきれないだろう。


「あと、あと少し……」


弾太郎は目の前の金色の羽毛に手を伸ばす。

ハイエンはもうギリギリ、背中に触れそうなところまで迫っている。

間に合うのか、いや間に合わせなければ!


★☆★☆★☆★☆★

「終わりでございます、殿下!」

「ハイエン、いつの間に?」

「右へ、ルパルス君!」


膠着状態が一気に動いた。

横からの突風に気を取られたルパルスが、ハイエンから目を離した時間は1秒に満たない。

その一瞬をハイエンは(のが)さなかった。

気づいた時には互いの体温が感じられるところまで距離を詰められていた。

鋭い爪がルパルスの後頭部、延髄を掴み捕らえて引きちぎる、だが!

ルパルスの体が大きく右へ傾き、ハイエンの爪は空を切り、二羽の怪鳥は再び離れた。


「ぬうっ、仕損じただと?」

「だ、弾太郎さん?」

「ルパルス君、そのまま直進だ!」


爪が首筋に触れる瞬間、ルパルスの背中にわずかな刺激が生じていた。

そのせいで一瞬だけ右翼が硬直し、体勢が傾いたせいだ。

その刺激を生み出したのが弾太郎だった。

弾太郎が握りしめる2本の羽毛は他の羽とは違う特徴がある。

触覚羽と呼ばれるこの羽は、湿度や微妙な風の変化を感じるための特別鋭敏な感覚を持つ羽なのだ。


「……でも何故、弾太郎さんが知ってるんですか?」

「多分、防衛警察の資料室で見かけたんだと思う。それより……また来ます!」

「……一般には知られていないはずなんですけど」


一度は後方へ下がったハイエンだが、今度は左後方斜め下から一気に加速して迫ってくる。

首筋か頭に狙いを集中し、ルパルスを落として弾太郎だけ助けるつもりなのだろう。

今度の狙いは喉笛だ、鋭い嘴で切り裂くつもりだ。

弾太郎は左右の羽毛を両方同時に引いた。


ヒュッ。

「ぬ?またしても!」


真上に急回転したルパルスがいた寸前までいた空間を、ハイエンはむなしく通過した。

それだけではない。

ハイエンが描く大きな弧の内側を小さな弧を描いたルパルスは、背後を取ることに成功していた。


バサッ!

「ウグッ、で、殿下?」


今度は白い羽毛と鮮血が空中に散る。

ハイエンの背中をルパルスの爪がえぐっていた。

痛みというより驚きにハイエンは顔をしかめ、ルパルスは何が何だかわからないうちに指導役から一本取った形となった。

再び距離をとるハイエンを警戒しながら、ルパルスは弾太郎に話しかける。


「助かりました、弾太郎さん」

「まだ助かってないよ、ルパルス君」


さっきまで風で聞き取れなかった弾太郎の声が、今ははっきりと聞こえる。

弾太郎が握る触覚羽から、骨伝導に近い形で互いの声が伝わっているのだ。

依然、ハイエンに後方を取られたまま。

今は警戒して近づいてこないが、いずれは攻撃を再開してくるだろう。


「考えるのは後だよ、ルパルス君。今は逃げ切るんだ」

「逃げるって、どこまで……」


厳しい目で、険しい表情で、弾太郎は水平線の上に浮かぶ雲を見た。

ひときわ大きな積乱雲が海面に大きな影を落としている。


「あそこまで、あの入道雲の中へ逃げ込むんだ!」

「えーっ?あの中に!」


時折、雷鳴を響かせる雲の内側は何万、何十万ボルトの自然放電が乱舞する空間。

身を隠すには決して安全とはいえない場所であった。

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