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初出動(於母鹿毛島地下格納庫)

「遅いぞ、一分一秒を争う事態だというのに」


息を切らしてひっくりかえってる弾太郎に海人は無情な言葉をかけた。

公民館兼用の駐在署から自転車を飛ばしまくって、急勾配の八百段の石段を駆け上がって、鳥居から本殿前まで全力疾走。

おかげで弾太郎はほとんど力尽きてその場にぶっ倒れてしまった。


「あ、あのな、防衛警察の訓練でもこんな……ゲホッ」


「大丈夫ですかー、ダンタロさん」


追走してきたルキィが心配そうにのぞきこんでいる。

息一つ乱さずないあたりは流石に怪獣的スタミナということらしい。


「でも、意外と体力ないんですねー。このくらいで倒れるなんて」


「うむ、全くだ。都会へ出て弱くなって帰ってきよった」


心配そうに見下ろすルキィと呆れ顔で見下ろす海人。

言い返したくても呼吸もままならない。


「しかし時間もない、まず状況を説明しよう。極東エリア三ヶ所に怪獣が出現した」


「と、父さ……ゲホッ、ゲホッ」


「二ヶ所は既に鎮圧されつつある。問題は三つ目だ、出動可能な部隊が残っていない」


「父さん……う、うぐ……」


「しかも場所は燃料用アルコール精製コンビナートだ。ビーム兵器もミサイルも火器と名のつく武器は一切使えん」


「父さん……ハァ、ハァッ」


「弾太郎、ルキィ両名は直ちに出動。怪獣の鎮圧・確保にあたれ」


「了解しました、海人おじさん!」


「無理に決まってるだろ、父さん!」


地球式の敬礼をするルキィの横で、ようやく起き上がった弾太郎は猛然と抗議した。


「この島から本土まで何時間かかると思ってるのさ?ヘリでも三時間はかかるんだよ。しかもこの島から出る交通機関は漁船だけ。到着する頃には手遅れもいいトコだよ」


言い返された海人はしばらく弾太郎の顔を見つめて何か考えていたが、いきなりポンと手を打った。


「そうそう、そういえばお前にアレを見せるのを忘れておったな」


「アレって、一体なんのこと?」


「うむ、ついてきなさい」


ついてこいとはいうものの数歩、歩いただけで海人は立ち止まった。

本殿の正面、賽銭箱の前だ。神妙な顔で拝礼し、拍手を打つ。


「於母鹿毛島を守護し給える天の美那多津田姫、我に道を示したまえ」


「なに、それ?」


「これがここのパスワードだ。弾太郎、しっかり覚えておけよ」


「パスワード?なんのための……」


何のためのパスワードかは、すぐにわかった。

賽銭箱がガクンと揺れて、真中に一筋の線が入った。

その線を境目に真っ二つになった賽銭箱が左右に広がり、地下へと続く階段があらわれた。


「と、父さん?これなに?こんなものいつの間にウチの神社に……」


「いつ作られたか正確なことはわからん。古文書によれば……いや、説明は後にしよう。二人ともついてきなさい」


振りかえりもせず海人は階段を下りた。

ルキィもためらわず後に続き、ちんぷんかんぷんの弾太郎もとにかく従った。

一行が薄暗い地下へ姿を消して数秒後、賽銭箱は元通りにつながり神社は静寂を取り戻し……


「ルキィ君、そこは滑りやすい、気をつけて……」

「きゃあッ?」


「わーっ、そんなトコつかまないでーッ!」

「あ、こらッ、弾太郎!私まで巻き添えになるじゃないかぁぁぁッ――?」


ガタン、ズテン、バタン。


ほんの少しだけ騒がしくなってから、再び静寂を取り戻した。


「ったく、父さん。照明くらいちゃんと取り付けといてよ」

「すまんなかった。急に使うことになったものだから、まだ蛍光灯の替えを買っとらんのだ」


「ごめんなさい、ダンタロさん。怪我なかったですか?」

「……ないよ、別に」


心配そうに顔をのぞきこむルキィに素っ気ない態度を弾太郎は取ってしまった。

別に怒っているのではない。

まともに彼女を見ることができないのだ。

さっき転んだときに浴衣が乱れて、胸のあたりや太股がチラチラと……。


「父さん、ここはどこなの?神社の地下にこんな場所があるなんて」


階段を降り切ったところで広々とした空洞に出た。

向こうの端まで懐中電灯の光も届かないくらい広い。

生まれてからずっと暮らしていた神社に秘密の地下室があったなど夢にも思わなかった。


「古文書によれば昔の銀パト基地の一部だったそうでごぜぇますよ、坊ちゃん。なんでも『むー大陸』時代の基地だとか」


「え、ゲン爺?どうしてここに?」


声の主はゲン爺だった。

作業着姿で頭にはねじり鉢巻、手には金槌と釘を持ってる。

一応、ゲン爺の本職は大工なので格好としてはおかしくはない。

だが、こんな不気味な地下の大空洞で普通の大工仕事があるとは思えない。


「お待ちしておりやした。坊ちゃんのために念入りに整備しておきやした」


ニコニコと上機嫌で笑うゲン爺。

子供の頃から弾太郎のためにと神社の修繕から木の玩具まで何でも作ってくれた老人だ。

だが、今回はスケールが違った。

彼の背後には鯨を思わせるゆるやかな曲線美を持つ巨大な機体がライトアップされているのだ。

左右に申し訳程度の小さな翼と底部と後尾に並ぶ多数の噴射管の列、なによりその巨大さは明らかに地球で開発された航空機ではない。


「ゲン爺ちゃん……なんなの、その宇宙船?」

「へぃ!プロミネンス級星系内輸送艇『うずしお丸』でごぜえやす。準備万端、すぐにでも飛べますよ」


弾太郎一人が冷たい床の上にコケた。

プロミネンス級輸送艇というところまでで高まった緊張感が『うずしお丸』で一気に消し飛んだ。


「銀パト基地がなぜここにあったか?とか、宇宙船がどうしてここにとか、色々あるけどさ」

「なんでごぜぇやすか?」


「なんで、名前が『うずしお丸』なんだ?普通はもっと横文字系の名前つけないか?」

「だって、あっしは横文字はちょっと苦手で……」


照れくさそうに頭を掻いてるゲン爺を相手に、もはやつっこむ気力も絶え果てた。


「ま、よいではないか。こうして移動手段も確保できたことだし。まずは出動だ」


海人に背中を押されて弾太郎は乗船させられた。

後ろからはルキィもついてくる。


「わー、とってもキレイですねー」


操縦席を前にしてのルキィの第一声がそれだった。

的確な表現ではあった。

清掃も行き届いていて、スクリーンも計器もピカピカに磨き上げられている。

それでも。


「また、頭、痛くなってきたよ」


それでも弾太郎は落ち込んできた。

メーターの間にはウサギさんやらキツネさんやら象さんやらのかわいい動物さんシールが貼られている。

天井には交通安全のお守りが千羽鶴みたいに沢山吊り下げられている。

極めつけは操縦席だろう。

レバー類には小さなマスコット人形がつけられ、座席はアニメキャラをちりばめた、少女趣味を極めた手作りパッチワークだ。


「内装もゲン爺がやったの?」


疲れた声で通信機に話しかける弾太郎。発進前に気合を使い果たしたような気がする。


『いいえ、内装はあっしじゃねぇっす』

『内装は近所のおばちゃんたちに手伝ってもらったのだ。お前の好きなアイテムを揃えたとか言っていたが、何か不都合があったか?』


「すごぉくいい感じだと思います!こんなきれいなの、初めて見ました」


海人の答えに弾太郎は肩を落とした。

それにルキィが追い討ちをかけてくれた。


(そりゃ、子供の頃はアニメ大好きっ子だったけどさ。この年齢でこれはないよなぁ)


「いや、なんでもない。直ちに発進します。父さん、ゲート開いて」

『了解!フォースゲート、オープン』


「ルキィさん、席について」

「了解!」


二人が席につきベルトを締めると、機体がガクンと揺れた。

続いてエレベータが上昇する時のような加重感。

開かれた天井から青い空が見え、機体はその勇姿を陽光の下にあらわした。


「ここは神社の境内じゃないか?ここから発進するのか」

『急ぎなさい、弾太郎。事態は急を要するぞ』


「ああ、わかってるよ。父さん。直ちに発進……」

『ひとつだけ頼みたいことがある、これだけは聞いて欲しい』


「なんだい、父さん」

『出動時は『父さん』ではなく『長官』と呼んでくれないか?』


「……発進します、父さん」

『あ?おい、だから『長官』って……呼んでよ』


こうして『長官』のささやかなな願いは機体の発する轟音の前に虚しくかき消された。

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