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掃除人  作者: 黒田純能介
3/3

増援、そして

『7班到着』

「了解」


後輩警官が無線に応答する。


「これで我々以外現場到着しました」

「…分かった」


短く返すと、もう間近に迫ったランドマークの影に目をやる。

夕暮れが迫りつつあるその影は、いつもの喧騒を湛えた姿とは打って変わって見えた。


(やはり嫌な予感がする)


焦りを押し殺すようにアクセルを踏んだ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


バタンッ。


パトカーのドアを閉めると、周囲を見回した。

あまりにも不気味な風景に、女性警官が狼狽する。

人がいないのだ。平日、休日問わず人がごった返すランドマークに人っ子1人見当たらない。

合流した警官達も同様のようで、狼狽を隠せないようだ。


「静かすぎますね…」


思わず口をついて出た言葉だったが、誰からともなく頷く。


「よし、ひとまず1班と4班の捜索に当たろう」


合流した3つの班の内、巡査長の警官が指示を出す。


「5班は東側、6班は西側から向かってくれ。俺達7班は北側から向かう」


「「「「了解」」」」


5班6班がそれぞれの指示に従い動き出す。


「私達も行きましょう」

「ああ」


巡査長は頷くと、先を歩き始めた女性警官の後を追っていった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「…マズいな」


4班の警官が呟く。

2人がゾンビの襲撃から逃れるのは容易かった。だが、逃げ回るにつれその数を増やすゾンビ達に、徐々に逃げ場を失っていた。


2人は売店の厨房から外の様子を伺っていたが、見える範囲でも表通りには10体以上のゾンビが闊歩していた。


「ど、どうするよ?」


いくらか落ち着きを取り戻した相方が問う。


「気付かれてないなら下手に動かない方が良いだろ、あいつら動きは鈍くても馬鹿力だ。さっきはうまく切り抜けられたが次はどうなるか分かんね」


と、包帯を巻いた左腕を相方に見せる。


「あ、ああ…」

「とはいえ、いつまでもここには居られなさそうだけどな」


表を闊歩するゾンビ達を盗み見ながら呟く。

増え続けるゾンビ、自らの負傷、暮れ行く太陽。状況は刻一刻と悪化しているのは明白だった。

警官の増援は見込めるものの、自分達の現在地を知らせるどころか自らも何処にいるかが分かっていない以上、脱出を優先させるべきであった。


「おい、奴らの動き見とけよ。少しでも逃げられそうな隙間出来たら一目散だ」

「わ、分かった」

「ったく、夕方で上がりだったってのにツイてねぇ。早く帰ってビールでも…」


ズキリ。


不意に痛み出した左腕に軽口が遮られる。


「おい、大丈夫か?」


急に押し黙った同僚に問いかける。


「あ?あぁ、大丈夫だ」


(中二病患者じゃあるまいし、何だってんだ)


包帯を巻いた左腕に手をやる。


「…ッ」


熱い。傷口が焼けるような熱を持っている。


(何なんだこレ?)


「…本当に大丈夫か?」

「大丈夫って言っただロ…」

「おい…顔色がどんどん悪くなってるぞ…?」


うずくまる警官を前に、相方の額から冷たい汗が流れる。


「いいかラ、早ク、脱出しようゼ…」


呼吸が乱れ始めているのか、息も絶え絶えに警官が答える。


「あ、ああ、ちょっと裏口見てくる」


同僚は踵を返すと、音を立てないように裏口へと向かう。


(…熱イ)


警官が左腕に目を落とす。

血のにじみ始めた包帯の下は、やはり焼けるように熱かった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「何ですか、これ…うっ」


目の前の惨状に、女性警官が吐き気をこらえる。


「…っ」


返す言葉が見当たらない巡査長は、ただ黙っていることしかできなかった。

目の前には血の海、所々に肉塊の様なモノが転がっている。その異常な光景から漂う臭気に顔をしかめた。


「い…1班と4班は何処にいるんでしょう…」


つい先程4班のパトカーが放置されているのを発見はしていたが、到着した時と同様人っ子一人見当たらない状況に、7班の2人は周囲を検索していた。そこで血の海を目撃したのである。


「分からん。無事でいてくれれば良いのだが…ともあれ探すしかないな。その前に」


巡査長が顔をしかめながら答える。


「パトカーへ一旦戻るぞ、巡査部長に状況を報告する」

「あっはい!」


引き返す巡査長の背を追い、女性警官が歩を進めていった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


『―――以上が7班現状の報告です』

「…分かった。5班と6班からの報告は?」

『現状ありません』

「了解、5班と6班とで連携しつつ引き続き検索を行ってくれ。警戒を怠るな。状況により即時後退しても構わない。こちらももう到着する」

『了解』


無線が切れると、車内はエンジンの音だけとなった。


「…これって」


後輩が呟く。


「無駄口は要らん。本部へ連絡を入れろ。場合によっては機動隊も必要になりそうだ」


思わず巡査部長が嘆息する。


(犯行声明もなし、血の海と散乱した肉塊、単なる暴動やテロではないな)


ランドマークはもう目の前だった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



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