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掃除人  作者: 黒田純能介
2/3

パニック


キィィィィィィィンンンンン…


「ん?戦闘機?」


甲高い音に顔を上げたサラリーマンが呟く。

と同時に、あっという間に頭上を戦闘機が飛び去る。

高度はあった為か、地上には僅かな突風が吹いただけで済んだようだ。


「街の上を飛ぶなんて国際問題になるんじゃねーか?」


サラリーマンが懐から端末を取り出し、ニュースを検索するがまだ報道は出ていないようだ。


「あー、写真撮っときゃよかった…けほっ」


2、3咳き込むと、サラリーマンは職場へと歩みを始めた。



数日後。


「第一班!応答しろ!」


警官の一人が、パトカーの無線に怒鳴る。

しかし返ってくるのはノイズばかりで声は無い。


「くそっ」


警官は忌々し気に無線を叩きつけると、エンジンをかける。


「先輩!用意できました!」


若い警官がパトカーに駆け寄り助手席に乗り込む。


「4班から7班までも現場に向かっています。急ぎましょう!」

「分かってる!飛ばすぞ!」


乱暴にギアを入れると、アクセルを踏み込む。

弾かれた様にパトカーが飛び出し路面を駆けていった。



「止まりなさい!」


リボルバーを構えたまま目の前のモノに静止の声を上げた。

だが相手は聞いていないのか、ジリジリとにじり寄る。それに伴い、耐え難い腐臭が強くなる。


「止まりなさい!!」


語気を荒げもう一度静止の声を上げる。

ガチリ。撃鉄を起こした。


目の前のモノは歩みを止めない。


「…………っ」


パンッ


乾いた銃声が広がり、にじり寄るモノの太ももから赤いものが弾け飛ぶ。

思わず歩みが止まるが、すぐにまた歩き出す。


「な、何で…」


相方の警官が声を震わす。


「応援は呼んだのかっ」


既に恐慌状態に陥っている相方を、叱咤するように問いただす。


「は、はひっ」


相方もリボルバーを構えているが、銃口がぶれてしまっている。


ヴォォォォォォ…


目の前のモノが唸り声を上げながらゆっくりと迫ってきている。もう数メートルもない。


「やむを得ん、制圧するぞ」


リボルバーを右手に警棒を抜く。


(動きは遅い。引き倒して拘束か)


警官はもう眼前に迫ってきている、文字通り腐った人間に警棒を構えた。


「でりゃあぁっ!」


気合と共に相手の首筋へと警棒を振り下ろす。半分溶けかけた肉のような手ごたえが手に伝わってくる。


「!?」


気付いた時には遅かった。

首を傾げたような状態のまま、その両手が警棒を持った腕に絡みつく。


ガブリ


「っぐああああああ!?」


次の瞬間には手首の一部が噛み千切ぎられていた。


「離せぇぇぇぇぇっ!」


リボルバーで無茶苦茶に殴りつける。


「っおい手伝え!」


後ろにいるはずの相方を怒鳴りつけるが返事がない。

目の前のモノにリボルバーを思いっきり叩きつけた所で、掴む手の力が緩んだ。強引に振りほどき数歩下がると振り返る。


「っおいっ!どうし…」


ぐちゃ、ぐちゃっ


相方は倒れていて、その上に人が覆いかぶさっていた。


ぐちゃ。ぶしゅっ


相方の首筋から鮮血が噴き出す。

覆いかぶさった人の口元からは、血の滴る肉がぶら下がっていた。

濁った眼がこちらを見据える。


「な…!」


驚愕の声を上げようとした瞬間、耳元に生暖かい空気が触れた。



『4班現場付近到着』


無線から音声が流れてくる。


「了解」


後輩警官が応答する。


「しかし暴動だなんて、一体何が起きてるんですかね?」


後輩警官が首をかしげる。


「しかも人が人に噛み付くって」

「お喋りはやめておけ。1班から応答が無い時点で何かが起きている。現場からの通報も途絶えた」


後輩をたしなめると、不自然に通りの少なくなった道路の先を見据える。

東京都、湾岸区域。埋め立てて形作られたこの区域はランドマーク、テレビ局、そしていくつかの大企業ビルが軒を連ねている。

とあるランドマークからの初期通報、『人が突然暴れだして見境なく噛みついている』から15分。たまたま周辺を警邏していた1班へ対応に向かわせる指示をしたものの、現場到着と同時に応援要請の無線を最後に連絡が途絶えていた。


(…まさか、陳腐な映画じゃあるまいし)


暫くして、その思いは現実のものとなる。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「何なんだあいつら!」


全力疾走しながら、警官の一人が忌々し気に怒鳴る。


「そんなの俺が知るか!」


同僚が並走しながら怒鳴り返す。


彼ら4班の2人は、現場到着後徒歩で検索を開始したものの、先行した1班の惨状とその周囲を取り巻く状況に退避を選んだ。

血の海に沈む同僚2人、それに群がる人々。

ただ群がっていたわけではない。文字通り喰らっていた。野犬が仕留めた獲物を貪り食うように。

腕が、脚が、顔が欠損し、徐々に原型を留めなくなっていく同僚達の姿に、4班の警官達は一時茫然自失していた。

だが、群がっていた人々の1人が2人に気付き、ゆっくりと顔を上げた時に警官達は戦慄する。

血に濡れた口元、濁った眼、そして顔を覆う崩れた皮膚。顔だけではなく、よくよく見れば腕や脚の皮膚も崩れており、そこからドス黒くなった筋肉組織が覗いていた。


ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛…


獣のようなうめき声を上げながらゆっくりと迫る様は、まるでさながら映画に出てくるゾンビのような風貌であった。

4班は一瞬にして恐慌状態に陥り、脱兎のごとく駆け出し難を逃れたのである。


「おい、どうする!」

「どうするも何も増援待つしかねぇだろ!」


相方の問いかけに怒鳴り返す。


「もうすぐ5班以降と巡査部長が来るはずだ!それから…」


警官が言葉を途切れさせる。


「それから!?」


息も絶え絶えに相方が返す。


「わっかんねえよ!」


かくして2人は自らが乗ってきたパトカーに辿り着く。

荒い息を整えながら各々の装備を確認する。とはいえ手元の装備はリボルバー1丁づつと特殊警棒のみ。

頼りない装備に2人は嘆息するが、無いよりは遥かにマシだった。


「…くっそ、まだ来ないのかよ…」


苛立ちを隠そうともせず呟く。


がさっ。


不意に聞こえた物音に2人が振り返る。


「「…!」」


同時に2人の背筋に冷たいものが走る。

物音の主。案の定の姿だった。


ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛…


植え込みをかき分ける腐った姿。2人の脳裏に先程の光景がフラッシュバックする。


「ひっ」


相方が短く悲鳴を上げる。


「くそっ」


恐慌状態に陥っている相方を尻目に、もう1人がリボルバーを構える。


「止まれ!」


制止の声を上げるが止まらない。やがて無理矢理植え込みを乗り越えてきたゾンビがゆっくりと歩み始める。


「聞こえないのか止まれ!」


再度制止の声を上げるが、まるで意に解していないのかそのまま歩を進める。

にじり寄る異形に、警官2人はジリジリと後退していく。


「お、おい、発砲許可も出てないだろ!?」

「今更何言ってやがんだ!さっきのを見ただろうが!」


この状況下でのたまう相方に苛立ちを覚えつつ、目の前の異形から目は離さない。


(くそっ)


舌打ちをしつつ後退する。パトカーからはだいぶ距離ができてしまっていた。そこで無線を入れていなかった事に気付き狼狽する。


「う、うわっ!」


相方が再度悲鳴を上げる。何事かと横目で見ると、別の方向からにじり寄る異形が見えた。


「くそっ」


ここへ来てもう何度目かになるであろう悪態をつくと、ゾンビの見当たらない方角に顎をしゃくる。


「あっちだ!ひとまず逃げるぞ!」


相方に怒鳴ると駆けだす。


「お、おい待てって!」


悲鳴にも似た声を上げながら相方が続く。



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