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10分で胸キュン恋愛短編集

夏の終わり、花火大会、二人の淡い思いで。(2)

作者: ニコ・タケナカ

夏休みの最終日。私はドキドキしていた。

この日は地元の夏祭りが開かれる。そこに中学の頃から密かに想っていた彼がやってくるのだ。

この日の為に浴衣を買い、夕方から始まる打ち上げ花火に合わせ、朝から髪を整え、昼には母に手伝ってもらって浴衣を着付けてもらった。

夏休みも終わり、明日からはまた学校が始まるというのに、浮かれっぱなしだ。


そんな弾んだ気分も遠くから祭りばやしが聞こえてくると、徐々に緊張へと変わった。


待ち合わせの場所で彼の姿を見つけ、胸が高まった!

「や~っ!カッコイイじゃん!!」

友達がはしゃいだ声を出した。それもそのはず、彼だけが浴衣姿で居たのだ。

(かっこいい・・・・・・)

久しぶりに見る彼は何だか大人びた印象になっていた。それは浴衣姿だったからだけではない。たった半年会わなかっただけなのに、垢ぬけた印象になっていた。男子はいつの間にか大人になっている。


私は彼の姿にトキメキながらも、少し焦った。彼はこの半年間どんな高校生活を送ってきたのだろう?私だけがあの頃のまま時が止まっているような気がする。

(何もしなければ変わらない!)

中学を卒業してこの半年、私が痛感した事だった。彼の事を想っているだけでは、それだけで終わってしまう。


しかし、いざ彼を目の前にすると、緊張で喋りかける事も出来ない。

(昔はどうやって喋っていたんだろう?)

「ほらっ!アンタも一緒に撮らせてもらいなよ」

そんな様子を見兼ねたのか、友達が背中を押してくれた。


「あ、」

履きなれない下駄につまづきよろけると、彼が背中を支えてくれた。

「大丈夫?」

「うん、ゴメン」

彼の大きな手を背中に感じる。私は本当に何も言えなくなってしまった。


「え?なに?この甘酸っぱいオーラ。ひと夏の恋始まっちゃったの?もう夏も終わるのに!?」

周りが冷やかす。

(ひと夏どころじゃないよ!私はずっと想い続けてきたんだから!)


今回の花火大会の集まりは私の想いを知った友達が、中学の同級生にに呼びかけてくれたのだ。疎遠になってしまった彼でも友達の集まりなら参加しやすいだろうと。

「ねえ!なんか買って食べない?」

ふざけ合う男士達を引き連れていく友達の方を見ると、小さく手を振ってくれた。

(ナイスだよ!)

私も手を小さく振り返した。


「オレらも行こうか」

「うん、」

揃って浴衣を着て、二人で歩いているとまるでお祭りデートをしている恋人同士の様だ。

私はこういう未来を夢見ていた・・・・・・


彼がどうやら私の事が好きだと知ったのは卒業式の後だった。

私も何となしに彼の気持ちには気付いていた。彼は私に対してとても優しいから。

それは周りにも気付かれていたことで、「てっきり卒業式の日に告白されるものだと思ってた」と友達に言われた。

私も彼から告白されるのをずっと待っていた。結局、何もないままだったのはきっとお互い子供だったのだ。


待っているだけでは何も変わらない。

私は友達にお膳立てしてもらってでも、彼と恋人同士になれる様にと決心してきた。


ブーッ、ブーッ、


その友達から通知が入った。

携帯の画面を覗くと、さっき彼が背中を支えてくれた時の写真が送られて来ていた。

(フフッ、どうやって撮ったの?)

写真には彼が私の事を抱き寄せている様に写っていて、私は完全に乙女の顔で彼の事を見つめている。


メッセージには一言『がんばれ!』と添えられていた。

私は素早く『ありがと』と返した。

「誰から?もしかして彼氏?」

「え?そ、そんなんじゃないよっ!彼氏なんて・・・・・・いないし」

彼氏にしたい人なら今、目の前にいる。


ブーッ、ブーッ、


また携帯が鳴った。

『うちらの事は気にしなくていいよ。なるべく男士達を引き付けておくから、河原の方には降りて来ない様に!』

なにから何までありがたい。やはり持つべきものは友達だ。


彼は先を歩いて行く友達を気にして目で追っていたので、私は声をかけた。

「ゴメン。ちょっと待ってて」

「ああ、いいよ」

せっかく二人きりになれる様に友達が気を利かせてくれたのだ。こんなチャンスを無駄にしてはいけない。私はゆっくり文字を打ち込んで時間稼ぎをした。


『どうしよう、緊張しすぎて何話していいのか分からない!』

『無理しなくていい。向こうも同じだから。とりあえずこれ以上携帯見るの禁止!彼が放っておかれたと思っちゃうよ?』

私は忠告通り携帯を見るのをやめた。

「行こっか」

「ぁ、あぁ・・・・・・」

私が顔を上げると彼は言葉を濁して返事した。どうやら向こうも緊張しているのは本当らしい。


彼は二人でいるのを恥ずかしがったのか、スタスタと歩き出した。

(あ、ダメ)

私は彼の浴衣の裾を思わず掴んだ。こんな積極的になっている自分に、自分で驚く。

「ちょっと、つかまらせてもらっていい?下駄だと歩きにくくて、」

「あ、ゴメン!気が利かなくて。ゆっくり行こうか」


ゆっくり歩いているうちに友達たちは人混みに紛れ見えなくなった・・・・・・二人きりになれたところで私は言った。

「浴衣、似合ってるね。カッコイイ」

「キミも浴衣、可愛いよ」

「フフッ、”浴衣が”カワイイの?」

「あ、いや、違うよ!キミの事が・・・・・・」

「フフフッ」

彼は照れながらも笑顔を見せてくれた。ようやくあの頃の様に話せた気がする。


彼は照れ隠しのつもりなのか、私に聞く。

「何か飲む?オレ買ってくるよ」

走り出そうとする彼を、呼び止めた。

「待って!混雑してるからはぐれるかもしれないし・・・・・・ねえ、もしもの時の為に交換しよ?」

彼は私に対して一生懸命なのだ。ジュースやたこ焼きにと、何かと気を遣ってくれるその行動から分かる。

まだ私の事を想っていてくれるらしい。


(交換も出来たし、ここまでは計画通り。後は・・・・・・)


彼に買ってもらったリンゴ飴を舐めながら、私はいつ告白されるのだろうとドキドキしながら待った。

先程からずっと彼の熱い視線を感じる。

「あのさっ!」

(きたっ!)

ひゅ~~~・・・・・・パーン!

彼の意を決した声は花火の音にかき消された。

(も~っ!)

花火大会なのに、今はその花火が恨めしい。


屋台で賑わっていた人達が河原の方へと移動していく。

私は友達たちと再会しないよう彼を誘った。

「みんなとはぐれちゃったね。ここで見る?」

「あ、あぁ・・・・・・そうだな。そこに座ろうか」


ここで誰かが来たらすべて台無しだ。誰も来ない事を祈りつつ彼の言葉を待つ。

しかし、一度話の腰を折られたためか、彼はまた黙ってしまった。

(何もしなければ変わらない!)

私は彼に話を促した。

「それで、何?」

「ん?」

「さっき何か言いかけたでしょ?」

「ああ、その・・・・・・」

沈黙が続く。


私は彼の気持ちを知っておきながら、告白されるのを待つばかりでずるいのかもしれない。

(変わらなきゃ!)


また花火が上がった。

ひゅ~~~・・・・・・パーン!

花火の光に照らされ、彼の口が動くのが見えた。しかし、花火と観客の歓声で何も聞こえない。

私はそれでも言わずにはいられなかった!


ひゅう!

「私っ!」

ひゅう!

「あなたの事っ!」

ひゅ~~~バーン、バン、バ―――ン!!

「ずっと、好きでしたっ!」


彼の口がまた動いた。

「なにっ?」

私は彼に体を寄せ、耳元に口を近づけた。

「来年もまた一緒に来ようね」

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