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ベクトリアムに一輪の花を  作者: こたつの上の夏蜜柑
旅立ち編
4/5

第四話 小さき勇者とフェリンの嘘

ぐだら無いように気をつけてるけど、会話シーンをはしょりたくないからやっぱりぐだる可能盛大

まだ本編入ってないのにこのストーリー長くなりそうで怖い・・・


次回は待ちに待った初の戦闘回になるとおもう!

 水辺から先ほどの道に戻りさらに上へ目指し歩き始めた三人は、フェリンの回復を待つと同時に少し休憩していたこともあり足取りは軽く、軽快に坂を上って行くのでした。



「もう少し上ると橋が見えてきますよー 橋までは一本道なので安心してくださいねー」


「ちびべこちゃんのお陰で予定よりも早く目的地に着きそうだね」


「……アプリル」



 アルベルートは病み上がりのフェリンと手を繋ぎ、体調を気に掛けながらゆっくり歩幅を合わせて緩やかな坂を上って行きます。

 坂を上っていると坂の上から見慣れた姿の山辺娘が現れました。



「あれ~? アルベルートちゃんだ~ こんな所で会うなんて珍しいね~」


「あ! 山辺娘さんーー ちょっとお使い頼まれて山の方までアプリル取りに行くんだ」


「そうなんだね~ また迷ってこの子に助けられたのかと思ったよ~」


「大丈夫だよーー 山辺娘さんと約束したからね…… もう危ない事はしないって」


「あはは~ ちゃんと約束を守ってくれて嬉しいよ~」


「……??」


「ねぇアルベルートちゃん? その子は~?」


「あぁそうか! この子はフェリンーー 僕の幼馴染で一緒にアプリル採りに行くんだよ」


「そっか~ だからこの子が案内役で付いて来ているのね~」



 山辺娘はちびべこを見て【この子】と表現しましたが、モンスターに名前という概念は無く唯一名前を持っているナーさんもアルベルートがもっと小さい頃につけた名前なのです。

 ですが山辺娘同士は何か人間とは違う感覚があるのか、誰が誰に話し掛けているのかがすぐに分かる様で 名前が無くても困るという事は無いみたいです。

 しかも山辺娘の見た目は全員同じ顔をしていて髪の長さや体系、胸の大きさが個体別に少し違うくらいで普通の人間ではまず見分けるのは不可能です。

 ところがどうゆう分けか、アルベルートは山辺娘を個体別に見分ける事が出来るらしく今話している山辺娘も今朝に森の入り口で話した山辺娘だと理解している様です。

 とは言っても人間の言葉が流暢に話せる山辺娘は珍しく、大抵は単語を並べるように話す個体が多いのですが、アルベルートと昔から関わっているこの山辺娘は長く話している内に自然と人語を覚えて行った様です。


「ほらフェリンーー 山辺娘さんに挨拶しないと」


「……こんにちわ?」


「フェリンちゃんね~? こんにちわ~」



 相変わらずフェリンはアルベルートの後ろに隠れるように顔をひょっこり出し恐る恐る挨拶を交わすのでした。



「うーん…… あたし怖くないよ~?」


「これはいつもの事だから気にしないであげて」


「あはは~ そうなのね~」


「……食べない?」


「うーん…… 人間の生気は食べないからね~ 食べるのは自然の生気だからね~」


「フェリン? この山辺娘さんもちびべこちゃんといっしょで森の木の実とか果物なんかを食べるんだよ?」


「……アプリル?」


「甘いアプリルは大好きよ~」


「おぉー……!」



 フェリンはアルベルートの後ろから出てくると山辺娘に思いっきり抱き付いてしまいました。

 何かデジャブを感じる光景にアルベルートは先ほどのちびべことフェリンのやり取りを思い出し、つい思い出し笑いをしてしまいました。



「あらら~? これはどうゆう事かな~?」


「フェリンはアプリルが大好物だからーー アプリルって聞くとすぐ懐いちゃうみたいなんだよね」


「……アプリルー」


「そうなのね~ いきなりだったからビックリしたよ~」


「あははーー ごめんね山辺娘さん」


「大丈夫だよ~ なんか小さいころのアルベルートちゃんを思い出すな~」


「え!? 小さい頃の僕!?」


「ちっちゃい頃はフェリンちゃんみたいに良く抱き付いてきてあたしのお乳を欲しがった物よ~ お乳を飲み終わると膝の上ですやすや寝ちゃって本当に可愛かったな~」


「え!? ええ!? 僕そんなだった!?」


「そうよ~? それ見ててね~? 人間が子供を育てる母親の気持ちってこんな感じなのかなーって思ったものよ~?」



 アルベルートはその話を聞いて少しだけ小さい頃の事を思い出したようで、見る見るう内にその顔は完熟したアプリルの様に真っ赤に染まって行くのでした。



「……またお顔がアプリル」


「よ! よし!! アプリルの木まではもう少しだよ! さぁ! そろそろ行こうか!」


「あはは~ そんなに焦らなくてもいいのに~」


「アルベルートさんって結構分かりやすいんですね」


「それじゃ山辺娘さんまたね!」



 アルベルートはこれ以上顔を見られたくないのか我先にズンズンと足早に坂を上って行きます。



「気をつけていくんだよ~」


「フェリンちゃんーー 私達も行きましょう!」


「……おー!」


「ねぇ~」


「……? 何でしょうか?」


「アルベルートちゃんの事~ よろしく頼んだよ~? あの子は目を離すとすぐに無茶しちゃうから~」


「はい! 任せてください」



 山辺娘とちびべこも挨拶を交わし、ちびべこはフェリンの手を引いて先に行ってしまったアルベルートを追いかけるのでした。






 ちびべことフェリンが坂を上りきると、そこには簡易的に作られた三本の丸太が並べて置いてあるだけの距離にして5m位の橋がありました。

 橋の前では何か焦った表情であたふた動き回るアルベルートの姿がありました。



「どうしたんですか?」


「ちびべこちゃん! どうしよう…… 僕下の方に籠忘れて来たみたい」


「あぁー! 確かに言われてみればフェリンちゃんを背負うために下ろしてから取りに戻っていませんでしたねーー そんなに距離があるわけじゃありませんし私が取りに行ってきますよ」


「え? でも悪いよ」


「人間さんと違って私達は結構体力あるんですよ? それに森は私達の庭ですので慣れている私の方が適任だと思いますが?」


「うーん…… それじゃお願いしていいかな?」


「はい! 任せてください!」



 そういうとちびべこは今来た道を早々に下がっていくのでした。

 橋の前でアルベルートとフェリンは近くに転がっていた大木に腰掛けるとちびべこが戻ってくるまで少しの休憩を取ることにしました。

 フェリンは表情には出しませんが、その小さい体で慣れない森の悪路を歩いているのですから疲労も誰よりも溜まっているはずです。

 アルベルートは鞄の中から手の平サイズの小瓶を出すと、その中から赤く透き通った球体状の物を取り出しました。



「フェリンーー あーん」


「……? あー」



 あーっと開けたフェリンの口の中にそれを入れると、フェリンはゆっくりと舌の上でコロコロと転がします。



「……飴玉甘い」


「ペトラさんが作ってくれたレッドベリーのキャンディーだよーー 甘くて美味しいよね」


「……おいしいー」



 レッドベリーはルーシェの村で栽培している唯一の果物で夏場になると収穫ができ、甘味の中に程よい酸っぱさも有る事からそのまま食べてもジャムにしても美味しい万能な果物です。

 普段は家で大人しくしているか姉の後ろをくっついて歩くフェリンも、この時期になるとちょくちょくレッドベリーを見に畑に現れます。

 それは毎年の風物詩みたいになり、畑の農夫のおじさん達の間にもフェリンが畑に来るようになると夏が来たと実感するらしいです。

 収穫時期に農夫のおじさん達がフェリンにレッドベリーを沢山食べさせるせいで姉のユーミンに怒られている姿を見るのも毎年の恒例行事みたいになっているのはまた別のお話です。



「それでさ? 何で着いて来たの?」


「……?」


「確かにたまに強引な時も有るけど…… 今日はいつもとちょっと違ったよね?」


「……アプリル」


「確かにアプリルも理由かもしれないけどーー 違うよね?」


「……」



 アルベルートは違和感を感じていました。

 確かに言い出したら頑固な所が有るフェリンですが、今回は頑固というよりも強引で明らかにいつもと違う行動にアルベルートは何か確信的な物を感じていました。

 フェリンは違う事はハッキリと違うと言う子です。

 そのフェリンがこの話を振ってから沈黙を続けている事からも、付いてきた本当の理由がアプリルでは無いとアルベルートの中では確信が確定になりました。

 そこから数分が経ち、ずっと沈黙を続けていたフェリンが口を開きました。



「……嫌だから」


「え?」


「もう…… 置いて行かれるのは…… 嫌だから」


「えっと…… どうゆう事?」


「…………」



 いつも無表情のフェリンが感情を出すのはいつも怒った時や拗ねた時が多いのですが今回は今までと違ってとても辛そうで悔しそうな、それでいて何かを後ろめたそうな表情をしています。

 アルベルートはフェリンの感情の変化に内心かなり驚いていましたが、フェリンの言った置いて行かれるのは嫌という言葉の意味を考えました。

 アルベルートとフェリンは毎日一緒にいる訳ではありませんが、それでも歳が近い事も有りちょくちょく一緒に遊ぶ事も多いはずです。

 そのフェリンが孤独を感じるのは一体何故なのでしょうか。



「大丈夫だよーー 僕はどこにも行かないよ?」


「……違う」


「え?」


「私は待った…… 大して長くもない空白の200年を!!」


「!!?」



 驚きました。

 こんなに大声を出すフェリンをアルベルートは今まで見た事がありません。

 悔しそうに涙を流しながらフェリンはその思いをアルベルートにぶつけます。



「長くもない…… 私にとっては一瞬とも言える月日の移り変わり…… 私にとっての空白の200年は私から色々な物を奪っていった! 仲間も!友達も!平和も何もかもを! ………そしてあの人も」


「ちょ! ちょっと待ってよ! 一体何の話をしてるの!?」


「もう…… 離れたくないんだ…… あんな思いはしたくないんだ……」



 アルベルートはうすうすフェリンに対し何かの違和感を感じました。

 そこに確かにフェリンはいますが、まるでフェリンを感じられません。

 そして一番の違和感はアルベルートを見つめるフェリンのその瞳でした。

 その瞳は確かにアルベルートを捉えてはいますがまるで違う別の何かをアルベルートの中に重ねて見ている様に思えてならなかったのです。



「フェリ……君はーー 誰? 僕に…… 何を重ねてるの?」


「私は…… フェリンだよ? 他の誰でもない道具屋の姉妹の次女…… そうでしょ?アルベルート」



 その時フェリンは少しだけアルベルートに向けて微笑みかけました。

 その顔を見てアルベルートは一つだけ確信を得たことがあります。

 目の前の少女は確かにフェリンですが、今話しているこの少女はアルベルートの知っているフェリンでは無い別の何者かということを。

 色々考えていると、突然首筋に鈍い痛みが走りそのまま地面へ倒れてしまいます。



「アルベルート!」



 遠のく意識の中でフェリンがアルベルートの名前を必死に呼んでいる声が聞こえます。

 その他にもう一つ聞きなれた声でアルベルートに話しかける者がいるようです。



「ごめんねーー あんたにはいつか必ず話すからさ?」


(この声は…… 誰だっけ……)


「大丈夫ーー 目が覚めれば今の話はすべて忘れて何時もの平和な日常が君を迎えてくれるさ」


(思い出せ…… 僕に深く関わっている人の声だ……)


「ゆっくりおやすみーー アルベルート」



 そこでアルベルートの意識は暗い闇の中へ落ちていきました。






(…………さん)


 誰かがアルベルートを呼ぶ声が聞こえます。


(……ルートさん)


 この可愛らしい声はちびべこちゃんでしょうか。



「アルベルートさん!」


「……ふぇ?」


「やっと起きましたかアルベルートさんーー ずっと呼んでたんですよ?」


「あー…… いつの間にか寝ちゃってたのか」


「こんな短時間で寝てしまうなんてーー とても疲れていたんですねー」


「籠取りに行って貰っておいて寝ちゃうなんてーー ごめん」


「良いんですよー 私もアルベルートさんの寝顔が見れてとてもラッキーでした」


「もう! からかわないでよ! でもありがとうね」


「あははーー またまたお顔が真っ赤ですよー?」


「……アプリル」



 隣に座っていたフェリンがアルベルートの顔を覗き込むと、何時もの無表情で呟きます。



(あれ? 何だろう…… さっき何か重要な事を……)



 アルベルートは自分の中に何かの違和感を感じながらも何が違和感なのか分からなくなり考える事をやめました。



「よし! 大分体も楽になったしアプリルを採りに行こうか!」


「……おー」


「はい!」



 アルベルートはちびべこが持ってきてくれた籠を背負うとアプリルを採りに橋の先へ向かうのでした。


用語辞典


*レッドベリー(いちご)

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