七日目・完成、ユナハウス④
俺が色々言ったことで少々回り道をしてしまった感があるが、作る家はログハウス風の平屋建てということになった。無駄に豪勢にはせず、居住性を最優先に考えた結果だ。
「さて、次は間取りを決めるわけだが、ユナは何か欲しい設備などはあるか?」
「いえ、特にはありません。わたくしは、人間の住む家に関してはあまり知識がないのです。どんなものがあるのか、あったほうが良いのか、わたくしにはわかりません。ですので、お二方のご判断にお任せします」
「うーん、そうは言っても、実際に住むのはユナさんですからね。何が欲しいか、何が要らないかは俺たちには決められないですよ」
「生活様式が異なる以上、何が必要なのかは種族によって異なるからな。私でも何が必要なのかはわからないな。よし、作れる設備を全部見てから、どうするか考えるとするか。ここまで決まってしまえば、後は自由にできる部分はそれほど多くはないからな」
リリティアさんの提案に従い、自由に設計できる部分を全て確認することになった。カタログページの画像には、家の間取りが描かれている。玄関入って左手側にトイレと洗面所、浴室がある。その奥にキッチンがあり、仕切りがなくリビングとなっている。そして、玄関の右手側には物置のような小さなスペースが一つと2部屋が並んでいる。1つ気になるのは、玄関のすぐ左側にある小さなスペースだ。ここは独立したスペースで、家の中とはつながっていないようだ。
「それにはまず、変更できない部分を説明しようか。設計変更できない箇所はキッチン、トイレ、それと浴室だ。水回りは配管の都合上、サイズや場所が固定されている。それに伴って、トイレと浴槽もあらかじめ決められた製品が設置される。だが、キッチンのコンロだけはいくつかの選択肢の中から選ぶことができる」
「配水管があるんですか?水を引いてくる場所も、排水する場所もないと思うんですが、どうするんですか?」
そういえば、今住んでいる家の排水はどうなってるんだろう?給水する場所はないが、シンクや洗面所は排水されているはずだ。
「給排水は外から外へということになるな。まあここには上下水道があるわけではないので、給水はできないし排水は外に出すだけとなってしまうが」
「それでは生活排水がそのまま流れてしまうんですか?」
それでは環境問題が心配だ。この世界の、それもウンディーネのユナさんが使用した水だから、それほど環境への影響はなさそうだけれど。
「きちんと分解して安全な状態で排水するので問題ない。原子の状態にまで分解する技術で純水にしてから排水する。これは金属元素分離測定器にも利用されているものだな。ただ、自然界に存在しないものだけはゴミとして残ってしまうので、これだけは後で廃棄する必要がある。それに関しては当然神の門で対応できるので、全く問題はない」
「なるほど、じゃあこの小さなスペースは給排水用のパイプスペースだったんですね。うちも同じ仕組みなんですか?」
「ああ。もっとも、アイリアが用意した家の方は、残ったゴミは神の門ではなくてアイリア経由で担当部署が引き取ることになる。この辺りは職務上のルールだが」
神の門で作る場合とは別のルールで廃棄するということか。家庭ごみと産業廃棄物の違いみたいなものかな。
「それにしても、何で給水管や排水管があるんでしょうね。こういう家は確か、旅先で利用するためのものでしたよね?」
「確かに、元々は人間世界など未開の地へ旅行する際に、宿泊できる場所を作るためだった。しかし、建て替えの際や工事現場などで使う仮住居としての需要が多くなったんだ。それで、上下排水や電線などのインフラと接続できるように再設計されたらしい」
「神様の世界にも電気があるんですね。なんか意外です」
「主要なエネルギーの1つだからな。社会インフラを支えるエネルギー資源は1つに依存しすぎない方がいい。だから我々の世界では、様々な方法でエネルギー供給がなされているんだ。電気は特に利用も発電も容易なので、盛んに利用されている」
神様たちのイメージがどんどん崩れていくなぁ。もっとも、神様たちが普段どんな生活をしているのか、インフラや建築物はどんなものか、なんて考えたことすらなかったけれど。雲の上に神殿があって、泉に地上を映して眺めているイメージしかない。
ふと気が付いて横を見た。さっきからユナさんがほとんど会話に参加していない。
「あ、ごめんなさい。ユナさん置き去りにしちゃってますね」
もう少し神様の世界の話も聞きたいが、リリティアさんと二人の時に改めて聞くことにしよう。