七日目・完成、ユナハウス③
カタログを見ながら話し合った結果、ログハウス風の家がいいということになった。森の中にある一軒家という点から考え、一番周囲の景色と馴染むだろうという判断だ。ただ、一つ気になることは、ユナさんが強くこのログハウス風の家を推したことだ。間伐材を使いたいという言葉を受けて、なるべく木材の利用が多そうなものを選んだのだとすれば、悪いことをしたのかなと思う。
「ユナさん、本当にログハウスの方ででいいですか?この円盤みたいな不思議なのとかどうですか?」
「それも中々素敵だと思いますが、こちらがいいです」
「ならこっちの鋭角を多用した前衛的な家とかどうですか?面白くないですか?」
「確かに面白いとは思いますが・・・少々住みにくそうですね。わたくしとしては、木材の風合いを活かしたこちらが良いと思います」
「それはまあ、そうだろうな。掃除がやりにくそうな家だ。それに、居住性も悪いだろう。さっきから、思いつきで考えたとしか思えないような家ばかり挙げているが、お前はユナをそんな家に住まわせたいのか?普通に考えて、こちらの丸太を使った家でいいだろう」
リリティアさんに酷評されてしまった。まあ確かに、俺だって徹夜のテンションで設計しちゃったのかなって思ったけど。
「うーん・・・本当にこれでいいですか?間伐材なら他にいくらでも使い途があるんで、木材の利用とかは気にしなくていいですよ?」
それを聞いたユナさんは少し思案した後、微笑んだ。
「それが伝えたくて、だったんですね。ふふ、守くんは優しいですね」
「だからといって、対案のチョイスにはセンスが感じられないがな」
リリティアさんとユナさんが、お互いを見合いながら笑っている。あの尖った家に関しては、ちょっとだけアリかなと思っていたことは黙っておこう。リリティアさんの言うとおり掃除しにくそうだけど、見た目が割といいなって。振り切れたテンションでしか出せない何かがあるというか。
それを口にすると引かれそうだけど。
「ユナさんがこちらでいいのであれば、ログハウス風の家で進めようと思います。デザインが決まったので、次は・・・えっと、なんでしたっけ?」
「間取りの決定だな。リビングやキッチンなどの変更できない箇所はあるが、それ以外は自由に設計できる。2階建てや3階建てにもできるが・・・木々の高さを考えると、目立たないように平屋建ての方がいいだろう」
「そうですか?せっかく作るんだから、大きい方がいいと思うんですけど」
「いえ、平屋の方がいいです。平屋でも、わたくしには十分な広さがありますから」
「じゃあ地下室はどうですか?秘密基地っぽくていいかなって思うんですけど」
地下室ならば、軒高を気にする必要はないはずだ。
「この辺りは地下水脈があるので、あまり地面を掘るのはやめた方が良いと思います。それに、地面の下には沢山の生き物が生きておりますから・・・」
地下水脈があるなんて、どうしてわかるんだろうか。日本でも、プロが色々な機器を使って調査して、ようやくわかるものだと思うんだけど。これもウンディーネの特殊能力なのだろうか。
「それに地下階を作るのは、作業量が倍以上に増えるぞ?地面を掘って整地してから、地下室の構造を含めた魔法陣を作らなければいけない。全て神の門でできるが、作業量はかなり増える。そもそも、金属が必要になるので、町で購入する必要が出てくるかもしれないな」
「わかりました。地下室は断念します。森の守護者が、森の生物に迷惑をかけてもいけませんしね」
思いつきで言ってみただけで、どうしても作ってみたかったわけじゃない。反対意見が多いなら無理を押して作る必要はない。
「ところで、先程からやたらと色々なことを言っているが、平屋のログハウスじゃダメな理由でもあるのか?本当は他に作りたいものがあったとか、そういうことか?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど」
「あの、もし守くんが希望するものがあるならおっしゃって下さいね。建てるのは守くんなんですから、守くんが建てたいものを建てて下さい」
「特に作りたいものがあるわけじゃないんですけど、できることなら豪邸を作りたいなって。ユナさんには今まで散々協力してもらってるんで、そのお礼を兼ねてといいますか・・・」
「そんなことは・・・」
「それと、今後も色々とよろしくお願いしますという意味も込めてといいますか・・・」
「おい」
「ともかく、ユナさんが住む家を作ることができるんで、せっかくなら豪華な豪邸を作りたいって思ったんです」
「守くん・・・わたくしの方こそお二方に助けていただいてばかりなのに、大したお手伝いもできておりません。それなのに家まで建てて下さるわけですから、むしろわたくしの方こそお返ししなくてはならないのに、お役に立つことが何もできなくて申し訳有りません」
「ユナからは大量の癒やしの水と浴室を作る手伝い。それに対してこちらは、夕食2回に町で買った土産、神の門で作れるログハウスか。我々がもらったものの方が、ずっと価値が大きいと思うが」
リリティアさんが冷静に計算した。そうか、改めて考えるてみると、ユナさんに俺たちがしたことって食べ物関係だけなんだな。それも、大した量じゃない。
「俺としては、こちらの世界に来て初めて会った人がユナさんで良かったって思ってます」
「いや、人間ではなく妖精、ウンディーネなのだが」
「リリティアさん、細かいことはいいんですよ」
律儀に突っ込みを入れる二頭身先輩にクレームを付け、話を続ける。
「人形の姿のリリティアさんしかいなかったんで、ユナさんに会えて正直ほっとしました。それも込みで今までのお礼です」
「守くん、それを言ったらわたくしも同じです。100年以上の間、会話はヌシの子孫たちとだけでした。それに人間と安心してお話できる機会なんて、ほとんどありませんでした。だから、守くんとリリティアさんに出会えて、本当に良かったと思っています」
ユナさんは真剣な目をしている。妖精は人間から狙われることもあるということを思い出した。
「ユナさんがそう言ってくれるのは嬉しいです。今後もそう思ってもらえるように、いいお付き合いができたらいいなと思います。同じ森の住人として、これからもよろしくお願いします」
ずっと迷惑をかけっぱなしだと思っていたから、ユナさんが思っていることが聞けたのは幸いだった。これからはもっと関係を深めていけたらいい。忌憚なく思ってることを言い合えるくらいまで距離を縮められたら、それはとても喜ばしいことだろう。