七日目・完成、ユナハウス②
泉に向かって大声で呼ぶと、ユナさんが泉の中から出てきた。
「こんにちは、ユナさん」
「こんにちは、守くん。それに、リリティアさんも。お二方ともどうされました?水を汲みに来たわけではないようですが」
ユナさんは不思議そうな顔をしている。水汲みではないと思ったのは、タルを持たずに来ているからだろう。今回は他の荷物が多くなったので、水汲みを諦めたのだ。もっとも、ユナさんが運んでくれた水がまだまだ残っているというのもあるが。一昨日汲んだ水を常温保存しておいて大丈夫なのか不安に感じたが、泉に湧いているのも、タルに入っているのも大した違いはないだろう。沸騰させれば多分大丈夫だ。
「ええ、今日は小屋の家具を作りに来ました。以前お約束してた件ですけど、忙しくて延び延びになってしまってましたから」
「え?お約束・・・?」
「あれ?俺、言ってませんでしたっけ?」
「なんだ?約束したんじゃなかったのか?」
「言おうとしたけど、いつ行けるかわからなかったから黙ってたんだったかな?・・・まあいいや。とにかく、折角泉の近くに小屋があるので、ユナさんに住んでもらえるように家具を作ろうと思って来ました。人間と同じ暮らしをするウンディーネもいるって話だったんで、ユナさんもどうかなと思いまして」
ユナさんが野宿をしていることが、どうしても気にかかっていたのだ。そういう種族だということをわかってはいるけれど、これは俺の気分の問題だ。知り合いが野宿をしていて、コストがかからず家を提供できる道具がある。それなら住める場所を提供しようと思うのは当然だろう。気に入らなければ、泉で生活してもらえばいい。その時の気分で選んでもらっても当然構わない。
「家具まで作っていただく必要はありません。小屋を使わせていただくだけで十分ですから・・・」
「何もないただの小屋じゃ住めませんよ。折角なら、人間らしい生活を体験してもらおうと思います。まあ、俺が思う人間らしい生活なんで、この世界の暮らしとは少々違うかもしれませんが」
なおも遠慮するユナさんを押し切って話を進めた。家具を作ってプレゼント、なんて言われたら誰だって遠慮するだろう。最悪、重いとか下心があるんじゃないかとか思われても仕方ない。だが、材料を集めて魔法陣みたいなものを描いたら一瞬だ。それを見てもらえば、変な誤解があっても解けるだろう。
さて、何から作ろうか。神の門のカタログを開いて家具一覧の中から候補を探す。使える材料は木材と土、植物くらいか。後は家に帰れば、鉄とスズは持ってこられるな。これらを使って、物置小屋を快適な住居に変身させる必要がある。
いや、ちょっと待てよ。わざわざ物置小屋を住居にするよりも、一から家を作ったほうが良くないか?自分たちだけ立派な家に住んでいて、ユナさんは小さな小屋というのも気が引けるしな。よし、折角だからちゃんとした家を新しく作ろう。
目次を確認して、木造建築物一覧のページを開く。沢山ある候補の中から選ぶのは大変だ。ここは実際に住むことになるユナさんに選んでもらうか。
「ユナさんちょっといいですか?ユナさんが住む家についてなんですが、候補が結構あるんで選んでもらってもいいですか?」
「え?えっと、家ですか?家具を作るという話ではなかったのですか?」
「最初はそう考えてたんですけど、あんな小さな小屋ではなんですから。一から家を作ったほうがいいかなと思いました。あ、泉の周りに家があるとまずいですか?もし迷惑ならやめますけど・・・」
泉の周りに建造物があることが問題なのであれば、小屋の撤去も考えなければいけない。
「いえ、それは決して問題ではないのですが・・・」
「なら人間が住むような家を、新しく作ってもOKですね」
小屋に住む人間はそうはいないだろう。生活に困ってやむを得ずに馬小屋に寝泊まりするのは、ファンタジーによくある展開ではあるが、そんな生活をユナさんがする必要はない。
「あの、いいか悪いかということではなく、家を建てるという大掛かりなことをしていただくわけにはいきません。とても沢山の時間と労力が必要となりますから」
「そんな遠慮しないでくださいよ。俺とユナさんの仲じゃないですか」
「どんな仲なのかはともかく、こいつの言う通り遠慮する必要はないぞ。一昨日使った神の門を使えばすぐに作れてしまうからな。それに、ある程度木を間引く必要があるから材料は大量に手に入る。ただ、木造建築になってしまうことは我慢してくれ」
「あの道具で家まで建てられるんですか?一昨日の時も大変驚きましたが、まさか家までなんて・・・」
浴室を作った時のことかな。神の門が放つ光に驚いていたユナさんは、とても可愛かった。
「そういうことなんで、新しく家を作らせてください。間伐材は利用しないと溢れてしまいますから」
ユナさんにカタログページを見てもらい、気に入った家を選んでもらった。家の制作は今までとは少々異なるため複雑になるが、3人いればなんとかなるだろう。
ユナさんの家、ユナハウスの制作開始だ。