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森林開拓日誌  作者: tanuki
猫目石
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七日目・完成、ユナハウス①

 昨日試作した料理を朝早くにもう一度作り、シャールの町で売却した。料理はジャム、コンポート、ポテトサラダにケーキだ。ジャムとコンポートはリリティアさんのアドバイスを取り入れて改良したものだ。ポテトサラダとケーキも、リリティアさんが改善方法を考えてブラッシュアップしたものだ。ポテトサラダはツンとした香りが鼻に抜ける野菜を加えてアクセントにしたもの、ケーキは試作段階よりも多少しっとりとして食べやすくなっていた。これは試食の後、寝る前に考えていたらしい。真面目な先輩である。

 売った相手は、ジュースを売っているおばちゃんだ。ジュースとの組み合わせがいいと、特にケーキを喜んでいた。ジャムやコンポートはその点では適さないが、味は悪くないからとOKしてもらえた。何より、ホージュの実はシャールの町の近くでは量が採れないため、ホージュの実を使った料理は量が少ないことも評価が高かった理由らしい。素人が製造する以上、競合する相手が少ないのはありがたい。

 ジャムとコンポートは1個分の分量で銅貨3枚、ポテトサラダは1人前銅貨2枚、ケーキは1つ銅貨3枚で売った。店頭で売りに出されるのは、もう少し高くなるのだろう。販売の手間も売れ残りのリスクも抱えてもらう以上、利益を乗せるのは当然のことだ。この店に継続的に卸すことができれば、販路も含めて安定する。おばちゃんとは友好的な関係を築きたいものだ。

 その後、朝市を見回って朝食に色々買って食べた。どこへ行っても、周囲の人々がリリティアさんをちらちらと見ていた。町には、暗い髪色をした人ばかりだ。特に、茶色や青みのある黒などが多い。赤系の髪色をしている人もいるが、こちらも赤褐色などの暗い色だ。だから、リリティアさんの真紅の長い髪が特に目立つのだろう。

 もっとも、整った顔立ちが一番の理由かもしれない。その証拠に、俺を見る男性の視線は若干敵意を感じる。なんでこんな野郎が、という言葉が聞こえてきそうなのは被害妄想だろうか。少々恐怖を感じないでもないが、ちょっと優越感。まあ実際はただの先輩後輩であって、恋人でもなんでもないのだが。

 その後、少々時間を潰してから猫目石に寄った。押し花の反応を聞くためというのが、表向きの目的だ。本当はただ単に、リベルさんの様子を見に来ただけだ。リリティアさんが気にしているようだったので、俺から猫目石への訪問を提案した。

 昨日あれから店内に陳列していたが、押し花に強い関心を示したお客さんはいなかったらしい。表向きの来訪の目的を達成したので、後はリリティアさんとリベルさんのガールズトークの時間になった。何の話をしているのかよくわからないが、盛り上がっているようだ。時折、リベルさんが店に並んでいる商品を手にとって説明をしている。リリティアさんはそれに対して、頷いたり質問したりと熱心に聞いている。

 その後も、俺にとっては特にやることのない時間が続いた。だが、リリティアさんとリベルさんが楽しそうに話をしているから、全く無駄な時間というわけでもなかった。可愛い女の子が楽しそうにしているのを、ただ眺めているだけでも結構癒やされるものだ。

 それに、収穫が全くなかったわけでもない。朝市で販売したものと同じものをリベルさんにも渡したところ、これがかなり喜ばれた。作ったものを美味しいと言って食べてくれるのは嬉しい。リベルさん自身はあまり料理が得意ではないらしく、『こんな美味しいものが作れるなんてすごいです』と褒めてくれた。少しはリベルさんとの距離が縮まっただろうか。自発的に悩みを相談してもらえるまでには、まだまだ時間はかかるだろう。無理に距離を詰めて怖がらせてもいけないから、焦らず気長に行こう。

 町での用が全て済み家に帰ったら、丁度昼食の時間だった。肉と野菜を煮てスープを作ったのだが、リリティアさんが作ってくれたものとは比べ物にならなかった。具材と作り方を聞いて、同じように作ったはずなのだが。今度作っているところを見せてもらうなり、一緒に作ってもらうなりしたほうがいいのかもしれない。この森の中での生活は、はっきり言って娯楽が少ない。その中で、食事は数少ない楽しみの1つだ。少しでも美味しいものを食べられるようにしていきたい。

 娯楽といえば、1つ大きな問題がある。こちらへ来てもう一週間だ。その間、テレビは当然観られていない。そうなれば当然、アニメが観られないのだ。今クールは始まったばかりだが、今季は豊作で楽しみにしていたものが何本もある。前クールから続いている2クール作品もそうだが、続きが気になるのだ。だが、こちらの世界では観ることができない。非常に残念なことだ。

 まあ観られないアニメについて考えていても仕方がない。それよりも、目の前の現実に目を向けよう。ここは異世界だ。テレビの向こう側ではなく、こちら側にある異世界。神がいて精霊がいて、いくつもの不思議な道具がある。その他にも、見たことのない草木があり食べたことのない食べ物があり、更には妖精さんまでいる。森の中の生活は不便ではあるけれど、それなりに生活基盤が整いつつある。ある程度収入にアテがあって、お金がなくても食べられる食料を採集でき、温かいお風呂にも入れる。アニメが観られないのは惜しいし、読みかけの漫画も気になるが、差し引きすればプラスといえなくもない。

 よし、今日はこれから泉に行こう。特に予定もないから、以前に約束したことを果たすことにしよう。

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